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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.2章:雪に埋もれた真実【新暦1240-1243年】
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手紙:灯台



■投函場所:ゲットー

 私は全然大丈夫だよ。皆と離れて暮らしていても、同じゲットーにいるんだから永遠の別れってわけじゃないよ。


 私が選ばれたってことは、それだけ頼りにしてもらっているんだと思う。子供なのにオジさんに恥ずかしくない働きが出来ていると考えたら誇らしいです。


 いや、そもそも私、そこまで子供じゃないからね? 確かに10歳ちょっとの小娘だけど、年の割にはしっかりしてるから! 自分で言うことじゃないけど!


 とにかく、私は大丈夫。


 新しい農場にいる人達も良い人達ばかりだから、心配しないで。


 ゲットーにいる殆どの人達は異世界から来た人達ばかりで、流民の私達の事も受け入れてくれている。同じく異世界から来た者同士、仲良くしてくれている。


 レオ君っていう男の子がいてね。その子と仲良くなれたよ。レオ君のお母さんにもよくしてもらっていて、「自分の母親のように頼って」と言われちゃった。気恥ずかしさもあったけど、嬉しかった。


 私、1人じゃないよ。


 まあ、レオ君と仲良くなったといっても、初めて会った時より「仲良くなれたかな?」ってぐらいなんだけどね。


 レオ君とそのお母さんのレミさんは、ネウロンってところからゲットーに移住してきたんだけど、レオ君は故郷を離れて寂しいのか、よく塞ぎ込んでいるの。


 レオ君ぐらいの年頃なら、近い歳の子達と一緒に遊びたいのかなーと思って、色々遊びに誘っています。他の子も誘って皆で一緒に遊ぼうとしたけど、人がいっぱいいるのは好きじゃないみたいだから、2人きりで遊ぶようにしています。


 最近ちょっとだけ笑顔を見せてくれるようになったけど、まだ完全に元気になってくれたわけではないようです。


 オジさんがエデンで保護した流民の皆を元気づけていたように、私もレオ君の事を元気づけてあげたいと思っています。


 私に出来るかな?




■投函場所:不明

 ちゃらんぽらんなオレでも出来るんだ。ナルジスなら楽勝だよ。


 そもそも、オレなんかよりナルジスの方が皆を元気づけていたんだぞ。エデン時代からずっと、お前はオレや皆の光だった。


 暗い方舟の中でも、お前がいてくれるだけで空気が明るくなっていた。苦しい状況でもお前が待っていると考えたら踏ん張る事が出来た。


 お前はオレの光だ。


 オレの帰り道を教えてくれる灯台だ。


 レオって子の光にも、きっとなれるさ。


 でも、頼むから無理しないでくれよ? お前は子供なのに大人以上に無理をするから、無理しすぎて倒れないか心配だ。




■投函場所:ゲットー

 無理なんてしてないよ。新しい農場での暮らしにも大分慣れたから。


 レオ君とも仲良くなれてきたと思う。


 仲良くなっていくうちにわかってきたんだけど、レオ君、お父さんを亡くしたみたい。何か、ひどい事が起きたみたい。具体的に何があったかはわからないけど。


 私もお父さんいなくて、生みのお母さんも育てのお母さんもいなくなった事を話すと、レオ君は前より心を開いてくれるようになった気がする。


 まあ、私は実の親がいなくても、育ての親のニュクスお母さんと、オジさんやエデンの皆がいたけどね。皆がいたから私は恵まれている方だよ。


 私は十分過ぎるほど幸せだから、この幸せをレオ君にも分けてあげたい。


 昨日はレオ君のお母さんのレミさんが不在だから、私がレオ君の寝かしつけとかしたんだよ。お喋りしながら添い寝したんだ。




■投函場所:不明

 コラコラコラコラ、嫁入り前の娘がその辺の男と添い寝するんじゃない!


 相手は年下のガキとはいえ、もう少し距離感に気をつけるように。


 お前にはウザがられるかもしれないが、「添い寝」って文言を見た瞬間、心臓を鷲づかみされた気分になった。娘を持つ男親ってこんな感じなんだろうな。


 そのレオって子は、本当に良い子なんだよな? ナルジスの見立てが間違っているとは思えないが、無理矢理、手を繋がれたりとかしてないか?


 ナルジスはとても魅力的な女の子なんだから、その事を自覚しなさい。自分の可愛さをよく理解したうえで、男と接する時は10メートルぐらい距離を取って話をしてくれ。年下だろうが男は男なんだから。


 とにかく添い寝はダメ! オジさんは反対です。


 そのレオってガキが大きくなったら結婚してとかずうずうしい事を言ってきたら、絶対に断るんだぞ。結婚も婚約も早すぎる! 他の男にも近づかないように!




■投函場所:ゲットー

 オジさん心配しすぎ!


 レオ君と手を繋いだことはあるけど、私から繋いだだけだよ。


 大きくなったら結婚しよ~とは言われてないけど、私とレオ君が仲良く遊んでいると、レオ君のお母さんが「ナルジスちゃんがこの子のお嫁さんになってくれたら、何も心配しなくてよさそう」と言ってくれた事はあったよ~。


 レオ君は恥ずかしかったのか、顔真っ赤にして黙ってたけどね。


 とにかく、レオ君は可愛い男の子で、弟みたいなものだよ。オジさんが心配しているような事は何もないから安心して!


 子供は皆で守るべき存在。レオ君も守るべき存在。


 私はエデンで教わった事を、キチンと守っているだけだよ?


 ところでオジさん、ネウロンって世界のこと知らない? 何か事件が起こってない? レオ君とレミさんの故郷なんだけど、何か起きてない?


 レオ君もレミさんも、ネウロンで何があったか聞いても言いたく無さそうにしているの。それとなく聞いているだけで、ハッキリ聞いたわけじゃないけど。


 私が根掘り葉掘り聞く権利はないかもだけど、レオ君に寄り添うためには事情を知っていた方がいいかと思って。レミさんも、ネウロンの話になると様子がおかしくなるし、真実を知りたいの。


 何か知っていたら教えてください。




■投函場所:不明

 確かに子供は守るべきだ。お前は姉貴達の教えをキチンと守っている。


 それはそれとして、ほどほどの距離感を守ってくれよな? 頼むから。


 さて、ネウロンについてだな。


 ネウロンは最近、交国が保護した世界みたいだが、現地人によるテロが起こったらしい。テロリストのせいで大惨事が起きたみたいだ。


 かなりデリケートな問題みたいだから、下手につつかない方がいい。


 その問題は、レオって子やその母親にとって大きな傷跡になっているかもしれない。傷跡を不用意に突くべきじゃない。


 真実なんて知らなくても、寄り添うことはできる。ナルジスほど優しくかしこい子ならそれが出来るってオレは信じているよ。


 お前という光が、その子の未来を優しく照らすと信じている。




■投函場所:ゲットー

 ありがとう、オジさん。


 オジさんの言う通りだと思う。私、このまま頑張ってみる。


 レオ君は少しずつ、元気になってくれている。


 つらい思い出は簡単に忘れられないと思うけど、未来に嬉しいことが沢山待っているって信じられるようになれば、きっともっと元気になってくれると思う。


 私は光なんてスゴいものじゃないけど、オジさんみたいに頑張ってみる。


 私にとっては、オジさんこそが光だよ。




■投函場所:ゲットー

 オジさんに相談があります。


 私、交国軍の軍人を目指しちゃダメかな?


 レオ君のこともあるから直ぐじゃないんだけど、将来的に軍人になりたいって考えています。私も、オジさんみたいに皆を守るために戦いたいの。


 私はニュクスお母さんと血が繋がっていないから、お母さんの神器を使うことはできない。お母さんみたいに戦うことはできない。


 でも、交国の軍学校に通っていっぱい勉強したら、何かできることがあるんじゃないかな? レオ君みたいに大変な事件に巻き込まれる子を救ってあげられるんじゃないかな? オジさんみたいに、皆を救えるんじゃないかな?


 皆を助けたいのは本心だけど、他にも理由があります。


 これは呆れられるかもしれないけど、私、オジさんと一緒にいたいの。


 オジさんがゲットーで暮らすの難しいなら、私がゲットーから飛び出して交国軍の軍人になれば、いっしょに戦えるんじゃないかな?


 私だって、今よりもっと頑張ればオジさんや皆の力になれるんじゃないのかな。


 守られっぱなしは嫌なの。


 追伸。お母さんの命日が近いけど、ちゃんと戻ってこれそう?




■投函場所:不明

 お前が軍人になるのは全力で反対する。絶対にダメだ。


 オレは姉貴からお前を与った身だ。お前を危険から遠ざけるのがオレの役目だ。


 お前が皆のために頑張ろうとしているのは嬉しい。オレだって大事な姪っ子と離ればなれの生活は寂しいし不安だよ。


 でも、お前を戦場に連れて行くわけにはいかない。オレは大丈夫でも、お前が戦場に来るのは絶対にダメだ。軍人になったら自分の意志とは関係無く、命令で動くことになる。危険な環境にお前を置くわけにはいかない。


 農場以外で働きたいなら、軍人以外の仕事にしてくれ。いや、少しでも危険がある仕事はダメだ。危ないことをしようとするなら、特佐権限で絶対に止める。


 今はとりあえずゲットーで安全に暮らしていてくれ。


 いずれ必ず、お前をゲットーよりさらに安全な世界に移す。


 直ぐに功績を上げて、そういう要望を通してもらいやすくするから待っていてくれ。お前が軍人になるのを許してしまったら、姉貴に顔向け出来ないよ。


 オレのワガママかもしれないが、これだけは聞いてくれ。頼む。


 あと、命日前には必ず戻る。




■投函場所:不明

 久しぶりの手紙になる。本当にスマン。


 姉貴の命日に帰れなかった事も、悪かった。休暇の希望は出していたんだが、急ぎで長期の作戦行動に参加せざるを得なかったから、ゲットーに行けなかった。


 早めにそれを連絡したかったんだが、作戦内容が漏れる危険があったから、連絡するのを止められていた。オレが書いた手紙を副官に捨てられたんだ。


 副官や作戦に阻まれたとはいえ、命日までには戻るって伝えておいて約束破ったのはオレだ。本当にごめん。


 軍人になるの反対って件も納得できないかもしれないが、許してくれ。


 お前まで失っちまったら、オレはもうどうすればいいのかわからなくなる。


 ナルジス。お前がオレの最後の家族なんだ。


 お前に幸せになってほしい。健康でいてほしい。


 それなのに約束を守れなくてごめん。




■投函場所:ゲットー

 私の方がごめんなさい。


 軍人を目指す件、オジさんに反対されて、拗ねて、手紙も出さずにごめんなさい。いっぱい頑張っているオジさんの気持ちも考えず、ごめんなさい。


 手紙を送ってくれただけでも嬉しい。私が聞き分けのない子だから、オジさん怒って連絡くれなくなったのかと思っちゃった。


 こうして手紙のやりとり出来るだけでも嬉しい。命日に戻って来られなかったのは仕方ないよ。オジさんは皆のために戦っているんだから。


 でもいつか、いつでもいいから帰ってきて。


 交国軍人になりたいなんてワガママ、もう言わないから。


 絶対に生きて帰ってきて。




■投函場所:ゲットー

 オジさん、助けて。


 帰ってきて。


 ゲットーがおかしいの。




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