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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
584/875

復讐者:■■■■



■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:血塗れの英雄・犬塚


「誰が撮った映像だと聞いているんだ! 答えろッ!!」


 カトーは笑ったまま、何も答えない。


 そうこうしているうちに、動画はどんどん先に進んでいった。


 そして、ついに、幸せな光景が終わっていった。


 最初にカペルが咳き込んだ。自分の口元を押さえていた手に、血がついているのを驚いた様子で見つめていたが、直ぐにその場に倒れていった。


 皆が血相を変えて駆け寄っていったが、直ぐに皆も咳き込み始めた。カペルを抱き留めた伴侶も、俺の妻である千歌音も、部下達も咳き込み始めた。


 皆がバタバタと倒れていき、呻き声が聞こえてきた。


 人が折り重なって倒れていく。


 俺の……俺の大事な奴らが――。


「カトー……! お前っ……!! 貴様ァッ!!」


「アンタが見られなかった『幸せな結婚式』だ。しっかり、じっくり、最後の最期まで見届けてやれよ。見届けられて良かったなぁ」


 皆が倒れていく中、変わらないものがある。


 カトーの携帯端末に映っている動画の視点が変わらない。


 一切ブレないまま、皆が苦しみ、倒れていく光景を映し続けている。


 ……有り得ない。


 あの場にいた者は全員、死んだはずだ。


 俺が把握している範囲では、動画を撮っている奴も全員倒れたはずだ!


 毒に倒れずにいる撮影者なんて、誰もいなかったはずだ! 黒水守からの連絡が来て、偶然、席を外していた俺以外は全員、死んで――。


「誰だ。誰がこの映像を撮っている!?」


「…………ははっ」


「こいつが……この撮影者が、カペル達を殺した毒殺犯(・・・)だな!?」


 カトーは答えない。


 携帯端末の向こうで笑っている。


 半端な内容の喜劇を見守っているように、乾いた笑いを漏らしている。


「お前か。お前が!! 千歌音を! カペル達を、殺したんだな!?」


オレじゃないよ(・・・・・・・)オレには(・・・・)透明人間のように姿を消す芸当はできない。テロリスト憎しで誰も彼も疑うなよ」


「お前が、殺し屋を手配したんだな!?」


「さあ、どうだろうなぁ。オレは交国に神器を奪われ、口先ぐらいしか武器のなくなった男だからさぁ……。交国軍の警備網をスルリとくぐり抜け、アンタの大事な家族と部下を毒殺するなんて真似、できねえ。残念ながら」


「お前は何を知っている!? この視点の動画を、どこで手に入れた!?」


 カトーが笑いながら席を立った。


「犬塚銀。お前は偽善者だ」


 俺の後ろに回ってきた。


「オーク達に同情する素振りを見せつつ、玉帝の意向に従って動く偽善者だ。交国兄弟団なんてくだらん組織を作り、ガス抜きのために丹国なんてものを作ろうとした。交国のために作ろうとした」


「違う! オレは、アイツら(オーク)のことも考えて――」


「オマケにお前は、神器使い・カペルに命じてブロセリアンド解放軍の奴らを神器で操らせていた。奴らが滅多なことをしないよう、神器で洗脳していた」


「違う! オレは――――」


 後頭部を拳銃のようなもので叩かれた。


 脳が揺れ、頭蓋が嫌な音を立てた。


「けど、神器で洗脳してくれたおかげで(・・・・)、オレ達も助かったよ!!」


「ぐ…………」


「神器使い・カペルは、神器によって鎮圧した解放軍の奴らと『親友』になっていた。神器を使うことで、馬鹿な解放軍兵士共の『大事な存在』になっていた」


「…………」


「親兄弟のいないオーク達にとっては、唯一無二の『親友』の存在は連帯を促した。そのおかげで7年前の解放軍鎮圧は上手くいったが、『親友(カペル)』の死は馬鹿共を再び交国への反抗に駆り立てた!!」


 やはり。


 やはりか。


 やはりテロリストが、扇動を上手く進めるためにカペルを殺して……!


大親友(カペル)の死に憤った馬鹿共は、直ぐに反交国のために動いてくれたぞ!! 解放軍同士の結束が強くなりすぎて、掌握に手こずったが……それも遠からず終わる! もうすぐ、解放軍はオレのモノ(・・・・・)になる!!」


「貴様か……! 決起集会にいた反交国組織の重要人物達を殺したのは!」


 繊三号で行われた決起集会。


 そこに参加していた解放軍の代表や幹部達は、繊三号で殺されていた。


 俺が連れてきた交国軍人達が先走っただけじゃない。奴らには確保を命じていたのに、それが出来なかっただけじゃない。


 俺達が動いたの乗じて、解放軍の代表達を殺した奴がいたんだ。


 俺達に罪をなすりつけて、解放軍を手に入れるために!


 コイツは、解放軍を乗っ取って「戦力」を手に入れるために意図的に――。


お前か(・・・)! メラ・メリヤスを殺害したのは!!」


「馬鹿が! なぁにを言ってんだよ……王女様は、死んでない(・・・・・)だろぉ?」


 何を言っている。


 スアルタウの反応や当時の状況を考えると、王女はもう死んでいるはずだ。


 狙撃によって、致命傷を負って――。


「まあともかく、アンタらのおかげでもあるんだよ!! 神器を使って『カペルの信奉者』を大量に作ってくれたおかげで、『カペルを毒殺したのは犬塚銀だ』と吹聴するだけで…………馬鹿共が! 一斉に!! 反交国に動き出したからなぁ!」


「貴様……!! 貴様ッ!! キサマァアアアァァァァァッ!!」


 コイツは、間違いなく毒殺犯の正体を知っている。


 毒殺犯から犯行時の動画(スナッフムービー)まで手に入れている。


 つまり、コイツが、全ての黒幕(・・・・・)――。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:復讐者・■■■■(カトー)


 玉帝と犬塚銀によるオーク達の統制は、それなりに上手くいっていた。


 交国の英雄である犬塚銀が玉帝の罪を告発する。


 犬塚銀は戦場だけではなく、オーク達の対交国政府交渉の最前線に立つ事で、被害者(オーク)達に大人気の存在になっていた。絶大な信頼を寄せられていた。


 だから、本来ならネウロンでの蜂起はほぼ不可能だった。


 元解放軍の奴らがいるとはいえ、そいつらですら、「犬塚特佐なら玉帝相手に渡り合ってくれる」「俺達(オーク)のために動いてくれる」と信じていた。


 馬鹿共を動かすには、土台をブッ壊す必要があった。


 犬塚銀の信用を失墜させる必要があった。


 犬塚銀の配下にいた「神器使い・カペル」が神器を使って多くの解放軍兵士を鎮圧したおかげで、解放軍兵士(バカ)は「大親友(カペル)」に対しても狂信的な信頼を寄せていた。


 そんなカペルを、「犬塚銀が毒殺した」という偽情報(デマ)を流す。


 毒殺の真犯人の証拠を掴ませないことで、結婚式で唯一生き残っていた犬塚特佐が犯人だという偽情報を流していった。


 当然、偽情報に踊らされない奴もいた。


 だが、神器によって頭をイジられた奴らは――神器の影響もあって正常な判断が出来ず――狂信的に「カペルの仇を取らねば」と考えるようになった。


「アンタらのおかげで、メチャクチャ扇動しやすかったぜ!!」


 おかげで「ネウロン解放」は大成功に終わりそうだ。


 アル達が先走って繊一号基地に仕掛けたって聞いた時はヒヤヒヤしたが、結果的には上手くいった!! ネウロン駐留軍に大打撃を与える事ができた!


 犬塚銀は――信頼していた部下を亡くした所為か――冷静さを失っていた。精神的に万全の状態だったら、おそらくオレ達が負けていただろう。


 犬塚隊の奴らは――犬塚銀には劣るものの――優秀で忠誠心の厚い軍人だったからなァ…………可愛がっていた特別行動兵(カペル)の結婚式で浮かれていたおかげで、処分しやすくて助かったよ!! 奴らも邪魔だったんだ!!


「白瑛も無傷でいただけた! おかげで、エデンは神器並みの力を手に入れた!! 英雄・犬塚を倒したという大手柄付きだ!! オレ達の評価はうなぎ登りだ!」


 これで解放軍の兵士だけではなく、他の組織もオレ達に一目置き始めるだろう。


 これで、弱者(バカ)共をまとめ上げやすくなる!!


 これで、交国を倒しやすくなる!!


 これで…………皆の復讐もしやすくなるぞ!!


「アンタの敗北のおかげで、反交国勢力は一気に勢いづくぞ! アンタらが埋めて、オレが育ててやった反乱の火種は交国全土を包む大火に成長するだろうよ」


「外道が!! 恥を知――――」


 もう一発、後頭部を思い切り叩いてやる。


 けど、手加減してやらないとな。


 まだ殺しちゃ駄目だ。


 どっちにしろラフマに怒られそうだが、知ったことか。


 犬塚銀の証言だけでオレの冤罪は晴れないだろうし、コイツを使っても交国政府は大して追い詰められないだろう。


「外道は交国だろ。俺は正当な復讐をしているだけだ。……貴様ら外道が<ゲットー>でやった虐殺の報いを与えてやる」


「げ…………ゲットーの、ことは、エデンが反乱を扇動して――――」


「エデンが!! 穏やかな生活を望んでいた非戦闘員(みんな)が!! 反乱の扇動とかやるわけがねえだろうが!!」


 裏切ったのは、お前らだ。


 ゲットーでエデンを裏切り、さらに全ての罪をオレに着せた。


 何の罪もないナルジスを殺しておきながら、全てオレの所為にした!!


 お前ら交国が人連を変えなかったから……エデンは孤立を深め、姉貴が死んだ。


 交国の所為で、皆が不幸になったんだ。


「お前が死ぬのは、お前自身の所為だ。全部、交国(おまえら)が悪いんだ」


 血を流して床に倒れ込んだ犬塚銀に馬乗りになる。


 そして、わざわざ用意してやった「食事」を食わせてやる。


 本当は犬のように食わせてやりたかったが、手をつけないなら仕方ない! オレ自ら食わせてやる!! お前の歯を砕いてでも食わせてやる!!


「ほら、上等な食事だぞ!! 木の根や粘土じゃねえ、まっとうな食事だ!! エデンの皆が……望んでも得られなかった食い物だぞ!!」


 けど、ただの食事じゃない。


 お前が喜ぶ味付けにしてやった。


「味付けは、お前の義娘(ガキ)の結婚式と同じもんだ」


 食え! 報いを受けろ!


 苦しんで死ね! 交国人……!!




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:エデン実働部隊<ラフマ隊>隊長のラフマ


「た、隊長っ! 隊長ーーーーっ!!」


「……………………」


 ウチの副官(ヨモギ)が血相変えてやってきた時点で、嫌な予感がしていた。


 いや、予感を抱くにしても遅すぎか。


「カトーの野郎が、やらかしましたっ……!!」


「…………あぁ……」


 最近大人しいと思ったら、やらかしやがった。


 そうだそうだ。彼の本質は狂犬だった。


 何もかも上手く行くはずがない。


 下等生物(バカ)を信じた――いや、甘く見た私が馬鹿だった。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:ヴァイオレットの助手兼護衛のタマ


「はぁ? 犬塚特佐が殺された!?」


 ラフマ達の皆さんと警備の打合せをしていると、そんな報が届いた。


 ど……どーしましょ……!? 計画の練り直しが必要に――。





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