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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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天使達の秘め事



■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:史書官ラプラスの護衛


「…………」


「同胞を……アザゼルさんを助けたいんですか?」


 格納庫に置かれた<白瑛(びゃくえい)>を見つめていると、ラプラスがそんな事を聞いてきた。


「そういうわけではない。今のワタシは史書官(おまえ)の護衛だからな」


 護衛としての職務を放り出し、白瑛内部に囚われているアザゼルを救うために動くつもりはない。ただ、思うところがあっただけだ――と言っておく。


「お前が手出ししていいと言うなら、話は別だが――」


「もちろん駄目ですよ」


「わかっている」


 <雪の眼>の史書官は路傍の小石。あるいはカメラだ。


 小石やカメラが自我を持って暴れ、歴史を変えてしまったらそれは観測者たり得ない。だから滅多なことはしてはならない――と言われている。


 雪の眼の信条や都合など、個人的にはどうでもいいが……救世神(マスター)を探すためには、雪の眼の力を借りる必要がある。契約内容を守って、史書官の護衛らしく動かなければならない。


 護衛として、史書官の身を守るために動く事はあるが、今はそういう状況でもない。ワタシはアザゼルに対し、何もしてやれない。


 だがそれでも眺めるぐらいはいいだろうと聞く。ラプラスが笑顔で頷いてくれたのを見た後、再び白瑛を静かに見つめていると――。


「雪の眼を優先するなんて、戦友(アザゼル)相手に冷たいですね。死司天閣下」


 1人の女が話しかけてきた。


 <エデン>に潜入したプレーローマ工作員が話しかけてきた。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:プレーローマの工作員


「ワタシは死司天ではない。エノクだ」


 そう訂正してきた死司天閣下に対し、「皆が勝利に浮かれているので、私達の内緒話なんて聞かれてませんよ」と言っておく。


 すると、閣下の隣にいたチビ史書官が抗議をしてきた。「ここにいるのは死司天・サリエルではなく、私の護衛のエノクです」と抗議してきた。


「エノクが雪の眼(ウチ)の護衛として働いているのは、プレーローマ上層部も認めていることです。エノクの素性がバレると調査が面倒になりかねないので、契約破りに繋がりかねない事はやめてくださいな」


「はい、はい。わかっておりますとも」


 チビ史書官を適当にあしらう。


 しかし、何がプレーローマ上層部も認めている、だ。


 死司天閣下が勝手に雪の眼と契約を結んで、閣下の姉君に事後承諾させただけの話でしょう。救世神の捜索という馬鹿げた話、いい加減諦めて、プレーローマの天使としての職務に励むべきだと思うけどね。


 救世神などという邪神(・・)が復活してしまったら、人類の次に困るのは天使だ。それなのに死司天閣下は救世神を探し続けている。


 正直、「狂っている」と言いたくなる。


「某氏にエノクの正体が知られたら、大変な事になっちゃいます。それは工作員(あなた)にとっても都合が悪いでしょう?」


「ええ、まあ……。カトー総長にとって、閣下は姉や仲間の仇ですからね。大分、馬鹿――もとい、頭が弱っているから気づいていないようですけど」


「本当に気づいてないんですか?」


「気づいていたら、カトー総長は後先考えずに動くと思いますよ」


 今でこそ「有能な総長」のような顔をしているけど、彼の本性は狂犬だ。


 先代総長時代のように、後先考えずに戦闘を始めてもおかしくない。


 今は構成員という荷物を背負っているおかげで自重している事が多いけど、ついカッとなって何かやらかす可能性はある。


 こうやって「有能風無能」のカトー総長について話していると、本人がくしゃみしているかもしれないな――と思っていると、黙って白瑛を見つめていた死司天閣下がこちらを見つめてきた。


 この御方の持っている権能の事を考えると、眼帯越しに見つめられるだけでも少々落ち着かなくなるけど……努めて冷静に「何か?」と聞く。


「キミは、白瑛に囚われたアザゼルの救出を行わないのか?」


「はい。アザゼル様はさておき、権能の回収は命じられているのですが――」


 アザゼル様の生死は、上も重要視していない。


 そもそも、アザゼル様はプレーローマの裏切り者だ。


「今のところは……エデンに預けておきます。権能も白瑛も」


「…………」


「閣下がエデンの神器使いを殺してくれたおかげで、エデンは大いに弱体化しました。ただ、それでもまだ利用価値があるので、『権能(アザゼル)を使わせてやれ』というのが上の判断です」


 エデンもブロセリアンド解放軍も、まだ使える。


 どちらも出がらしのような存在だけど、利用価値がある。


 ただ、エデンにかけている労力を他にかけた方が効率的とも言える。それでも上の御歴々は――自分達に噛みついてきたエデンをさらに踏みにじるために――エデンを使う決定を下した。くだらない感情に押され、やや非効率な方を選んだ。


 エデンを活躍(・・)させるためにも、交国に奪われていたアザゼル様をエデンに貸し与えるおつもりらしい。


 アザゼル様の権能を回収するのは、いよいよ危うくなった時でいいそうだ。回収するだけの暇があればいいんだけど――。


「ともかく、白瑛は当分の間、エデンに使ってもらう予定です。なので、閣下にも横槍を入れないように頼みにきたのですが……それは不要だったようですね」


 かつての戦友とのひとときをお楽しみください、と言いつつ礼をして、死司天閣下の前から去る。


 出来れば彼にも今回の計画に協力して欲しかったが、でも、さすがに無理そうだ。極めて強力な殺傷権能を持つ死司天閣下だけど、性格に難があるから扱いづらい。邪魔してくる様子がないだけ有り難いと思うべきかもしれない。


 閣下と別れ、格納庫を出ると、物陰から1人のドワーフが話しかけてきた。


 泥縄商事に出向し、間接的にブロセリアンド解放軍の支援を行っていた工作員の1人が話しかけてきた。


「イヌガラシ。あなた達もネウロンに来ていたの?」


「はい。あなた様達の支援のため派遣されました。泥縄商事(ごきぶり)共も引き連れてきたので、補給や諸々の支援をさせていただきます」


 揉み手しているドワーフはそう言い、さらに恩着せがましく「これからの戦いを続けるためにも、わたくしの力が必要でしょう?」と言ってきた。


 正直コイツの事は嫌いだけど、力は必要だ。


 しばらくの間は頼りにさせてもらおう。


「ところで、マーレハイトの方でも動きがありました。あなた様の情報のおかげでマーレハイト亡命政府旗艦の場所を掴めたので、ガイエル様達が接触しました」


「そう」


「あのメフィストフェレスも、マーレハイト亡命政府に身を寄せていたようです」


「…………」


 数年前からマーレハイト亡命政府は躍進していた。


 あくまで裏社会での躍進だけど、その裏には強力な違法薬物を作り出した技術者の存在がチラついていた。それはやはりあのメフィストフェレスだったらしい。


 メフィストフェレスはマーレハイト亡命政府に潜伏し、匿ってもらっている対価に自身が開発した薬物を提供していたようだ。


「で、そのメフィストフェレスは拘束できたの?」


「それが、どうもガイエル様達がしくじったようで」


「何故?」


 マーレハイト亡命政府だけならともかく、メフィストフェレスが関わっている可能性があった以上、抜かりなく準備していたはずだ。


 それなのに取り逃したらしい。


「どうも横槍が入ったようです。ガイエル様達はその乱入者との戦闘で鏖殺されたと聞いています。残機があったので何とか生き残ったようですが――」


 何もかも予定通りにはいかないらしい。


 メフィストフェレスは、とても厄介な存在だ。


 本人の戦闘能力は大したことないけど、彼あるいは彼女は今まで複数の世界を滅ぼし、プレーローマと人類の両方に大打撃を与えてきた。


 そんな存在を取り逃した事が、後に響かなければいいんだけど――。





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