過去:あの日、ネウロンであったこと
■title:<目黒基地>にて
■from:黒水守・石守睦月
「っ…………?!!」
油断していた。
ラート軍曹に腹を撃たれた。
撃ったラート軍曹自身が、驚いた顔をしている。
そういう顔するんだ。
私を撃っておいて、そんな――。
「あぁ…………」
「痛い。痛いなぁ! あぁ、そうか、キミは――」
そういう事するんだね!
「俺に、刃向かうんだな……!?」
■title:<目黒基地>地上部にて
■from:玉帝近衛兵隊<燭光衆>
「黒水守!」
逃げ遅れた脱走兵の追撃を勝手にやっている黒水守を追う。
発砲音が聞こえてきた後、地中から「ゴゴゴゴ……」と地鳴りのような音が聞こえてきた。大地が揺れ、そこら中から水が噴き出してくる。
水に脚を取られ、地割れに巻き込まれる――と思ったが、そうはならなかった。
周囲の水が我々を支えてくれた。地割れに落ちないよう支えてくれた。
「これは、黒水守の神器の……!」
地下水を神器で集め、操っているらしい。
その神器の主である黒水守が、水で出来た大蛇に乗り、地上に出てきた。我々をもう少し安全な場所に運びつつ、地上に出てきた。
「黒水守、勝手は困りま――――くっ、黒水守!?」
「あはは……。ちょっと、油断したうえに……カッとなっちゃいました!」
腹を押さえた黒水守が、苦笑しながらこちらへやってきた。
彼が伴っている水の大蛇を警戒しつつ、近づく。
黒水守は腹を撃たれたらしい。マズい……玉帝に任された神器使いが、こんなつまらない事で負傷して死亡したら大失態だ。
そう恐れていたが、黒水守は苦笑を微笑に変え、「まあ、これぐらいなら何とか出来ます。ご心配なく」と言ってきた。
「腐っても神器使いなので。身体は少しだけ丈夫なんです」
「……手当しましょう。一度、方舟に戻って――」
「その前に、この脱走兵はどうしましょう?」
黒水守が伴っている水の大蛇が、何かを丸呑みにしている。
オークだ。
水の中で血を流しつつ、ぐったりとしている。
どうやらコイツが逃げ遅れた脱走兵らしい。
黒水守はこの脱走兵を捕まえようとしたところ、油断して発砲されたらしい。……間抜けなところもあると聞いていたが、こんな相手に怪我させられるなど……。意外と大したことがないな。
「まだ生きているのですか?」
「ええ。といっても、痛めつけてあげたので……大分弱ってますよ?」
水の大蛇が、腹に抱えていたオークを吐き出した。
ずぶ濡れのオークが地面に転がり、「ゲホゲホッ」と咳き込んでいる。
確かに生きているようだが、瀕死のようだ。
部下に目配せし、確保するように促す。
「こちらで引き取ります。ご協力、感謝いたします」
「いえいえ」
「ですが、勝手は控えてください……! 今回、あなたが玉帝に与えられた仕事は死体処理です。それを忘れないでください」
神器使いだから、強いから――と出しゃばるから負傷するんだ。間抜けめ。
そう思いつつ、黒水守を睨む。
黒水守はまた苦笑を浮かべ、頭を掻きながら「申し訳ない」と言っている。あまりにも間抜けな姿で……部下達も随分と呆れ――。
「わッ!? なっ、お前……!!」
「――――」
部下の1人が誰かに蹴られ、吹き飛んだ。
別の部下がその「誰か」に銃を奪われ、脚を撃たれた。
悲鳴が上がる。仲間の悲鳴が――。
「貴様っ……!!」
黒水守が連れてきたオークが、飛び起きて抵抗してきた!
もう、立つ力もないと思ったのに――。
「殺せ! 仕留めろ!!」
部下達と共に発砲する。
身体中を撃たれたオークが、弾丸を受けるたびに跳ねた。
だが、まだ生きている。
暗い瞳をギラつかせながら、抵抗を――。
「危ないですよ。退いてください」
黒水守が私を押しのけつつ、前に出てきた。
水の大蛇が、水の大剣に姿を変える。
その大剣が、オークに向けて振るわれて――――。
■title:<目黒基地>にて
■from:防人・ラート
死にたくねえ。
生きたい。
もっと、皆と一緒に……生きたい。
死にたくねえよ。
ヴィオラに、会いた――――。
■title:<目黒基地>地上部にて
■from:黒水守・石守睦月
「――――」
水の刃を振るい、銃を奪って暴れる相手に振るう。
銃身を切断。さらに相手の首に刃を通す。
切り飛ばし、無力化する。
狼藉者は濁った血を吹き出しながら倒れていった。
切り飛ばされた首が飛んできたので、「よっ」と軽く飛んで掴む。
掴んだ生首を監視の人達に見せつける。
もう安心ですよ! と誇ったものの、ちょっと引かれてしまった。
「すみません。殺してしまいましたが……まあ、私だけの落ち度ではないので……勘弁してもらっても……いい、ですよね?」
これで丸く収めてもらえないかな……と思いつつ、周囲に微笑む。
代わりに斬り倒してこの場を収めたのに、周囲の軍人さん達は引いている。……もうちょっと穏便なやり方にした方が良かったかな? 全身串刺しとか……。
生首、いりますか? と聞いたけど、首を横に振られた。「ですよね」と言いつつ首を放り投げ、水の刃を宙に走らせ、生首をバラバラにする。
赤い液体と肉片が大地に落ちていき、赤い染みになった。
首から下の方も、ずりずりと斜面を滑り、地の底へ落ちていった。掃除しておこう、と思いつつ……まだ地下で暴れている水に押し流させておく。
「敵の生存者は、これで全部ですか?」
「……おそらく」
「何でしたら、私も界外に逃げた脱走兵の追跡に回りましょうか? 混沌の海を逃げた相手を追うの、私は結構得意ですよ」
「結構です……! これ以上、出しゃばらずに……まずは手当をしてください」
残念、と思いながら監視の軍人さんの指示に従う。
とりあえず……ラート軍曹達の処理は完了した。
もう、彼らから私の情報が漏れる事はない。
けど、問題はヴァイオレットさん達だよね~。
アダムの情報だと、彼らは私の情報を星屑隊隊員に話していないらしいけど……少なくともヴァイオレットさんとフェルグス君は「私が脱走の手引きをしようとした」って話を知っている。
そこが玉帝にバレた時、ちょっと困るなぁ。
そこから色々と咎められて、今までの計画がパァになったらどうしよう。
まあ……パアにならないよう、祈ろう。
欲しかったものは既に手に入れた。しばらくは大人しくしつつ……ヴァイオレットさん達の無事を祈っておこう。
彼女達が捕まると、少々……都合が悪い。
私達の計画はまだ始まったばかりだ。
こんなところで終わってしまったら……今までの犠牲が全て無駄になる。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
俺は、必ず……交国を変えてみせる。
さらに多くの血を流してでも、必ず計画を成功に導いてみせる。
それが俺の復讐であり……私の責務だ。




