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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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過去:あの日、ネウロンであったこと



■title:<目黒基地>にて

■from:黒水守・石守睦月


「っ…………?!!」


 油断していた。


 ラート軍曹に腹を撃たれた。


 撃ったラート軍曹自身が、驚いた顔をしている。


 そういう顔するんだ。


 私を撃っておいて、そんな――。


「あぁ…………」


「痛い。痛いなぁ! あぁ、そうか、キミは――」


 そういう事するんだね!


俺に(・・)、刃向かうんだな……!?」




■title:<目黒基地>地上部にて

■from:玉帝近衛兵隊<燭光衆>


「黒水守!」


 逃げ遅れた脱走兵の追撃を勝手にやっている黒水守を追う。


 発砲音が聞こえてきた後、地中から「ゴゴゴゴ……」と地鳴りのような音が聞こえてきた。大地が揺れ、そこら中から水が噴き出してくる。


 水に脚を取られ、地割れに巻き込まれる――と思ったが、そうはならなかった。


 周囲の水が我々を支えてくれた。地割れに落ちないよう支えてくれた。


「これは、黒水守の神器(ヤーヌス)の……!」


 地下水を神器で集め、操っているらしい。


 その神器の主である黒水守が、水で出来た大蛇に乗り、地上に出てきた。我々をもう少し安全な場所に運びつつ、地上に出てきた。


「黒水守、勝手は困りま――――くっ、黒水守!?」


「あはは……。ちょっと、油断したうえに……カッとなっちゃいました!」


 腹を押さえた黒水守が、苦笑しながらこちらへやってきた。


 彼が伴っている水の大蛇を警戒しつつ、近づく。


 黒水守は腹を撃たれたらしい。マズい……玉帝に任された神器使いが、こんなつまらない事で負傷して死亡したら大失態だ。


 そう恐れていたが、黒水守は苦笑を微笑に変え、「まあ、これぐらいなら何とか出来ます。ご心配なく」と言ってきた。


「腐っても神器使い(メサイア)なので。身体は少しだけ丈夫なんです」


「……手当しましょう。一度、方舟に戻って――」


「その前に、この脱走兵はどうしましょう?」


 黒水守が伴っている水の大蛇が、何かを丸呑みにしている。


 オークだ。


 水の中で血を流しつつ、ぐったりとしている。


 どうやらコイツが逃げ遅れた脱走兵らしい。


 黒水守はこの脱走兵を捕まえようとしたところ、油断して発砲されたらしい。……間抜けなところもあると聞いていたが、こんな相手に怪我させられるなど……。意外と大したことがないな。


「まだ生きているのですか?」


「ええ。といっても、痛めつけてあげたので……大分弱ってますよ?」


 水の大蛇が、腹に抱えていたオークを吐き出した。


 ずぶ濡れのオークが地面に転がり、「ゲホゲホッ」と咳き込んでいる。


 確かに生きているようだが、瀕死のようだ。


 部下に目配せし、確保するように促す。


「こちらで引き取ります。ご協力、感謝いたします」


「いえいえ」


「ですが、勝手は控えてください……! 今回、あなたが玉帝に与えられた仕事は死体処理です。それを忘れないでください」


 神器使いだから、強いから――と出しゃばるから負傷するんだ。間抜けめ。


 そう思いつつ、黒水守を睨む。


 黒水守はまた苦笑を浮かべ、頭を掻きながら「申し訳ない」と言っている。あまりにも間抜けな姿で……部下達も随分と呆れ――。


「わッ!? なっ、お前……!!」


「――――」


 部下の1人が誰かに蹴られ、吹き飛んだ。


 別の部下がその「誰か」に銃を奪われ、脚を撃たれた。


 悲鳴が上がる。仲間の悲鳴が――。


「貴様っ……!!」


 黒水守が連れてきたオークが、飛び起きて抵抗してきた!


 もう、立つ力もないと思ったのに――。


「殺せ! 仕留めろ!!」


 部下達と共に発砲する。


 身体中を撃たれたオークが、弾丸を受けるたびに跳ねた。


 だが、まだ生きている。


 暗い瞳をギラつかせながら、抵抗を――。


「危ないですよ。退いてください」


 黒水守が私を押しのけつつ、前に出てきた。


 水の大蛇が、水の大剣に姿を変える。


 その大剣が、オークに向けて振るわれて――――。




■title:<目黒基地>にて

■from:防人・ラート


 死にたくねえ。


 生きたい。


 もっと、皆と一緒に……生きたい。


 死にたくねえよ。


 ヴィオラに、会いた――――。




■title:<目黒基地>地上部にて

■from:黒水守・石守睦月


「――――」


 水の刃を振るい、銃を奪って暴れる相手に振るう。


 銃身を切断。さらに相手の首に刃を通す。


 切り飛ばし、無力化する。


 狼藉者は濁った血を吹き出しながら倒れていった。


 切り飛ばされた首が飛んできたので、「よっ」と軽く飛んで掴む。


 掴んだ生首を監視の人達に見せつける。


 もう安心ですよ! と誇ったものの、ちょっと引かれてしまった。


「すみません。殺してしまいましたが……まあ、私だけの落ち度ではないので……勘弁してもらっても……いい、ですよね?」


 これで丸く収めてもらえないかな……と思いつつ、周囲に微笑む。


 代わりに斬り倒してこの場を収めたのに、周囲の軍人さん達は引いている。……もうちょっと穏便なやり方にした方が良かったかな? 全身串刺しとか……。


 生首(これ)、いりますか? と聞いたけど、首を横に振られた。「ですよね」と言いつつ首を放り投げ、水の刃を宙に走らせ、生首をバラバラにする。


 赤い液体と肉片が大地に落ちていき、赤い染みになった。


 首から下の方も、ずりずりと斜面を滑り、地の底へ落ちていった。掃除しておこう、と思いつつ……まだ地下で暴れている水に押し流させておく。


「敵の生存者は、これで全部ですか?」


「……おそらく」


「何でしたら、私も界外に逃げた脱走兵の追跡に回りましょうか? 混沌の海を逃げた相手を追うの、私は結構得意ですよ」


「結構です……! これ以上、出しゃばらずに……まずは手当をしてください」


 残念、と思いながら監視の軍人さんの指示に従う。


 とりあえず……ラート軍曹達の処理(・・)は完了した。


 もう、彼らから私の情報が漏れる事はない。


 けど、問題はヴァイオレットさん達だよね~。


 アダムの情報だと、彼らは私の情報を星屑隊隊員に話していないらしいけど……少なくともヴァイオレットさんとフェルグス君は「私が脱走の手引きをしようとした」って話を知っている。


 そこが玉帝にバレた時、ちょっと困るなぁ。


 そこから色々と咎められて、今までの計画がパァになったらどうしよう。


 まあ……パアにならないよう、祈ろう。


 欲しかったものは既に手に入れた。しばらくは大人しくしつつ……ヴァイオレットさん達の無事を祈っておこう。


 彼女達が捕まると、少々……都合が悪い。


 私達の計画はまだ始まったばかりだ。


 こんなところで終わってしまったら……今までの犠牲が全て無駄になる。


 それは嫌だ。絶対に嫌だ。


 俺は、必ず……交国を変えてみせる。


 さらに多くの血を流してでも、必ず計画を成功に導いてみせる。


 それが俺の復讐であり……私の責務だ。





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