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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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成り上がった流民



■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:血塗れの英雄・犬塚


『何故、レンズには薬が効かなかったんですか?』


「俺が知るかよ……。あの蟲兵化薬(くすり)についても、俺は詳しい話は知らねえんだ。俺は薬を使ってた近衛兵(やつ)からぶんどっただけだ」


 玉帝から正式に譲り受けたもんじゃない。


 玉帝の近衛兵が――<戈影衆>の奴らが妙な薬を使って、オーク達を<蟲兵>なんて存在にしているのを知ったから、薬を奪ったんだ。


 蟲兵にされたオーク達を元に戻す方法を玉帝に問いただしたものの、教えてもらえなかったから……薬を手に入れて、自分のツテで調べていたんだ。


 そう話すと、巫術師テロリストは――スアルタウは食いついてきた。詳しい話を教えてください、と聞いてきた。


『蟲兵になった人達は、治せるんですか!?』


「玉帝は『不可能』と言っていた」


 俺の方でも調べてみたが、玉帝の答え以上の事はわからなかった。


 自我を奪われたオーク達を助けるために調査を続けていたんだが……そうこうしている時に、妻とカペル達が毒殺された。


 俺は……テロリストが犯人だと決めつけ……憎しみを抑えきれず、救うために奪った薬を悪用した。テロリスト達に対し、薬を使わせた。


 俺は復讐心に負けた。


 このガキは、交国(おれたち)への復讐心があるはずだ。それなのに……復讐心の手綱をしっかり握ったまま、真実の追求を優先してみせた。


 俺より弱い機兵乗りのくせに、人間としては……俺に勝ってやがる。それを見せつけられたことで、改めて負けを認識せざるを得なかった。


 ……まあ、俺より弱い機兵乗りといっても、かなり筋が良いと思うけどな。繊一号で戦った時のラート並みか、それ以上と言っていいだろう。


「お前の仲間のガキ(レンズ)に蟲兵化薬が効かなかったって事は……アイツは耐性(・・)みたいなものがあったのかもしれん。それを解き明かせば、あるいは……蟲兵になっちまった奴も救えたのかもしれんが……」


 俺は、それをろくに調べようと思わなかった。


 もう、どうでも良かった。


 復讐に取り憑かれ、すっかり初心を忘れてしまっていた。


『耐性に個人差があるような薬なんですか?』


「さあな。俺が見た感じ、効かなかったのはあのガキだけだ」


 他の奴らは直ぐに蟲兵になった。


 泣きわめいていたが、段々と感情が希薄になっていった。


 そして、機器を通して指示したら言う事を聞くようになった。


「アイツは巫術師なんだろ? って事は……巫術師だから効かなかったんじゃないのか? あるいはネウロン人だからか?」


『どう……なんでしょう? 巫術師にしろネウロン人にしろ、薬に耐性があるような話は、初めて聞いたんですけど……』


 スアルタウはしばし考え込んでいたが、ハッとしながら問いかけてきた。


『とにかく、レンズは無事なんですね!?』


「蟲兵にはなってないし、生きているはずだ」


『レンズはいまどこにいるんですか!?』


黒水(・・)に送った」


 交国本土。


 黒水守の領地に送ったよ、と教えてやる。


 どうせ大した情報じゃないしな。


 今から奪還に行くのも難しいだろう。


「テメエらが繊三号でやってた決起集会を襲撃した後、黒水守……というか、ウチの妹から連絡があったんだよ」


 エデンの巫術師を捕まえたら、黒水(こっち)に送ってくれ。


 そう言われたから送ったんだ。


「黒水守には借りがあったからな。蟲兵化薬も効かなかったし、方舟に乗せて追い出した。巫術で悪さできないように眠らせて送り出した」


『だから、牢屋で「黒水守に感謝するんだな」って言ったんですか?』


「そうだ。お前もエデンの巫術師だろ?」


 お前も軽く尋問した後、黒水に送る予定だったんだ。


 生け捕りにして送ってくれって頼まれていたからな。


 黒水に直接送ったりせず、海中拠点(アイランド)で黒水守の手配した人間に引き渡す予定だった。だから本当に黒水に行ったかは知らん。


 スアルタウは「テロリストを勝手に引き渡していいんですか?」なんて聞いてきやがった。テロリストのくせに正論ぶつけてきやがる。


「黒水守に借り(・・)があるし……あの時は、『どうでもいい』と思ったんだよ。お前らは、大した情報を持ってないようだったからな」


『交国の英雄が悪い事をしてる。ちょっとしたスキャンダルでは?』


「うるせえ。好きに報道しやがれ」


『でも……黒水守は何故、エデンの巫術師(ぼくら)を送るよう言ったんですか?』


「知らん」


 興味ないし、聞かなかった。


 黒水守達が何を考えているのかなんて、俺の知ったことではない。


 そう返すと、スアルタウは呆れた様子で「特佐なのに、いまいち事情を把握してないんですね」なんて言ってきやがった。一々うるさいガキだなぁ……!!


「けど、そうだな…………」


『おっ! 心当たりがあるんですか?』


「お前、<北辰隊(・・・)>って知ってるか?」


 そう問いかけると、スアルタウは少し驚いた様子を見せつつ、「知ってます。戦った事があるので」と言った。


『巫術師で構成された機兵部隊ですよね? 炎寂って特佐さんが率いている……』


「北辰隊そのものは、北辰隊の隊長が率いている。炎寂は北辰隊隊長(それ)のさらに上にいて、北辰隊に色々と指示してる小娘だよ」


『確か、北辰隊の設立には黒水守が関わって――あっ!』


「そこまで知ってるなら、話が早いな」


 北辰隊――巫術師機兵部隊の設立には、黒水守も関わっている。


 黒水守がどこからか連れてきた巫術師達が炎寂の小娘に――炎寂特佐に預けられ、特佐麾下の機兵部隊が作られる事になった。


 炎寂本家は保守的だが、炎寂の小娘は新しいもの好きだからな。


『黒水守は、僕らを北辰隊に入れようとしたって事ですか?』


「あるいは、まったく別の巫術師部隊を作ろうとしたかだな」


 エデンの巫術師共は、7年前から巫術で機兵を操っている。


 大昔はともかく、現代に生きている巫術師の中ではバフォメットに次ぐほどの実戦経験の持ち主だろう。実際、腕も立つ。即戦力になるのは間違いない。


 黒水守は北辰隊以外にも巫術師部隊の設立に関わったり、巫術を活かした作戦行動を検討している会議の相談役も務めている。


 実戦経験豊富なお前らを自分の手駒として抱き込もうとしていた……と考えてもおかしくはないだろう。


「炎寂特佐は、黒水守の妻……石守素子の友人でな。その縁で黒水守と知り合って、私事以外でもアレコレと手を結んでいるみたいなんだよ」


『石守素子さんって、犬塚特佐のご家族でしたっけ?』


「おう、妹だ。血は繋がっていないがな」


 アイツも<玉帝の子>として作られた人造人間だ。


 石守回路の後継者候補の1人として育てられ、姓は受け継いだものの「失敗作」と判定された子だ。


 素子ほどの才の持ち主を「失敗作」呼ばわりする玉帝は、要求が厳しすぎると思うがな。まあ、回路の兄貴が素子以上の傑物(バケモノ)だったのは認めるが。


「まあともかく、お前らを交国軍に勧誘するために『連れてきてください』と言ってきたのかもしれん。黒水には巫術の研究施設もあるし……」


『僕が交国からの勧誘に応じると思いますか?』


「そんなこと、俺が知るかよ」


 ただ、条件次第では応じるんじゃねえのか。


 コイツはテロリストのわりに、意外と冷静だ。「交国憎し」で瞳を曇らせることは無いかもしれん。……黒水守の「真実」を知らなければ。


「それに、黒水守の動きは、どうも…………」


『…………どうも? なんです?』


「……ちと、喋りすぎたな」


 随分と軽くなっちまった自分の口に対し、舌打ちする。


 テロリスト相手にペラペラと話をしすぎた。国家機密と言えるほどの話ではないが、素子と炎寂の小娘の関係とか話したのは余計だったな……。


 敵に何もかも教えてやるかよ――と言うと、スアルタウは小さく唸り、言葉を投げてきた。


『僕は敵である犬塚特佐の命を助けましたよ? 間一髪で!』


「恩着せがましいガキだなぁ~……!!」


 軽くイラッとしたものの、「まあ、このぐらいは言っていいか」と思い直す。


 数年前ならともかく、今じゃ「杞憂」で終わった話だしな――。


「……黒水守の動きが、どうにも怪しかった時期があったんだよ」


『怪しい?』


国家転覆(クーデター)を起こす疑いがあったんだ」




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