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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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遠い大団円



■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


「マジで勝っちまった……」


 繊一号基地のあちこちから勝ちどきが聞こえてくる。


 バフォメットとタルタリカ、そして白瑛を奪ったアルが繊一号基地の交国軍をほぼ制圧しちまった。様子をうかがっていた解放軍兵士も慌てて動き出し、便乗の勝ちどきを上げているらしい。


 まだ繊一号基地を制圧しただけ。でも、ネウロンで一番厄介な犬塚特佐は捕虜に取れたし、バフォメットがいるならネウロン解放も夢じゃないだろう。


 アルはまだ投降していない交国軍人の説得に行っちまったけど、繊一号基地制圧の立役者の1人であるバフォメットは戻ってきた。


『久しいな、ヴァイオレット。そして巫術師』


「お久しぶりです。生きてらっしゃったんですねっ……?」


 ヴィオラ姉と――ついでにオレに――挨拶してきたバフォメットを、ヴィオラ姉が心配そうに見上げている。


 7年前、バフォメットはブロセリアンド解放軍側について交国軍と戦い、混沌の海で行方不明になったはずだったが生きていたらしい。


 ただ、無傷だったわけではなく、重傷を負ったまま混沌の海に潜伏して療養生活を送っていたようだ。


 その療養生活中に、ウチの総長がバフォメットを見つけて連絡を取ったらしい。交国軍とやり合うために力を貸してくれ、と――。


「ヴィオラ姉も聞いてなかったんだな」


「うん……。さっき知ったばっかり。……総長が教えてくれないから」


 ヴィオラ姉が少しムッとしながら視線を動かした先には、箱の上に座って手当を受けている総長の姿があった。


 総長は若干気まずそうに笑いつつ、「情報漏洩対策だよ」と言った。


 ネウロン解放を狙う反交国勢力の決起集会の情報が交国軍に漏れていた以上、どこかに内通者がいる。


 総長は前々から「内通者がいてもおかしくない」と考え、対策として重要な情報はオレ達にも伏せていたらしい。


「お前らは味方だとわかっているが、どこから情報が漏れるかわからんからな。これに関しては勘弁してくれ。おかげで交国軍の裏をかけたろ?」


「確かに。まあ、結果良ければ全て良しってことでいいんじゃねえの?」


 ムクれてるヴィオラ姉をなだめていると、総長は左の手のひらを右の拳で叩き、「今日はオレ達の勝ちだ」と言った。


「このまま勢いで、ネウロンを解放する。犬塚銀を捕虜にし、白瑛も手に入れ、バフォメットが味方についてくれた以上……交国のネウロン駐留軍は恐るるに足らん。数日中にネウロンの戦いは決着をつけるぞ」


 総長は立ち上がりつつ、さらに言葉を続けた。


「オレは解放軍の下っ端達に発破をかけてくる。解放軍の代表と幹部達は死んだが、解放軍兵士はまだまだいる。そいつらにも手を貸してもらう」


 静観していた解放軍兵士も、今日の勝利で動いてくれるはずだ。


 繊一号は交国のネウロン駐留軍最大の拠点で、犬塚銀と白瑛までいた。


 それを制圧した以上、様子を窺っていた解放軍兵士も立ち上がってくれるだろう――と総長は言った。実際、繊一号に潜伏していた奴らも動き出しているようだし、ネウロン解放は何とかなるだろう。


「バフォメット、今後も手伝いを頼めるか?」


『承知した。しかし、約束(・・)は守ってもらうぞ』


 総長に対してそう言ったバフォメットは、オレ達に向けて言葉を続けた。


『お前達は休んでいろ。ネウロン解放程度なら、私が直ぐ終わらせてやる』


「さすが最強の巫術師だな! 頼りになる~」


『……後で色々と話がある。こちらの仕事が一段落したら時間を作ってくれ』


 そう言ったバフォメットは、タルタリカを引き連れて行ってしまった。


 7年前に大怪我を負ったらしいけど、その後遺症も無さそうに見えるし……バフォメットは宣言通りにネウロンを解放してくれるだろう。


 やり過ぎないか心配だから、その辺は見張っておくべきだと思うけど……今は先にやるべきことがあるよな。


「タマ、ヴィオラ姉の護衛頼む。あとはお前だけでいけるだろ?」


「はいはい。問題ないですよ」


「ヴィオラ姉、オレもアルやアラシア隊長達と一緒にレンズ探しに行ってくるから、ヴィオラ姉はタマと一緒に休んでてくれ」


「こっちも一段落したから、捜索手伝うよ」


 犬塚銀との戦いには勝ったが、交国軍に捕まったレンズは未だ行方不明。


 わざと捕まったアルも、レンズを見つけられていないらしいが……レンズはきっとどこかで生きているはずだ。早く助けてやらねえと……。


「……ラート達も、見つけ出してやらねえと」


 ラート達がいるとしたら、ネウロンの可能性が高い。


 あいつらもきっと、どこかで生きているはずだ。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『捕虜は丁重に扱ってくださいね!』


 方舟に立てこもっていた交国軍人を<白瑛>の防御能力と巫術のゴリ押しで止めて、解放軍の人達に託し、人捜しに戻る。


 レンズがいない。


 捕虜にした犬塚特佐はだんまりを決め込んでいるから、自分で探して回っているけど……なかなか見つからない。


 アラシア隊長達が交国軍の記録を漁って調べてくれているはずだけど、レンズの消息は未だ不明。……蟲兵の中にもいなかった。


 レンズだけじゃなくて、あの人も――。


『あ、いた! ラフマ隊長っ!!』


 基地内の建物の屋上にラフマ隊長の姿があった。


 煙草を吸ってくつろいでいる。自分で手当をしたみたいだけど、怪我人なんだからちゃんとしたとこで休んでてください! と叫ぶと、機兵のスピーカーで話しかけた影響もあってか、ラフマ隊長が両耳を塞いでうるさそうにしている。


 大丈夫大丈夫と言って手を振り、煙草を吸いつつ、言葉を返してくれた。


『犬塚銀を生け捕りにして、白瑛も奪ってみせるとは……。予想以上の戦果ね。ここまで上手くいくとは思わなかった』


『当初の作戦は失敗しましたけどね……』


 護送船からレンズ達を救おうとして、それは失敗した。


 失敗した時に備えて代用義体(スペアボディ)で乗り込んで、ラフマ隊長に助けてもらったけど……その後にやろうとしていた「白瑛強奪計画」は失敗した。


 総長が立て直してくれた計画で、何とかなった。「白瑛を奪えたのは、総長とラフマ隊長とヴィオラ姉さん達のおかげです」と言うと、ラフマ隊長は笑った。


『あなたの手柄でしょ。謙遜しなくてよろしい』


『僕だけじゃ不可能でした』


 皆が力を貸してくれたから、何とか勝てた。


 ……弱っているエレインに無理させずに済んだ。


 僕だけじゃボロ負けしてただろう。実際、護送船では生身の特佐相手に負けたし……繊一号基地(ここ)でも終始圧倒されてしまった。


 7年前より強くなったつもりだったんだけどなぁ~……。エレインは「確かに強くなっている。瞬殺されなかっただろう」と言ってくれたけども。


『ともかく、ラフマ隊長はちゃんとしたとこで休んでください。頭を怪我したんだから、自分が思っている以上に重傷かもしれませんし……!』


『ヨモギ達に――ウチの部下共に「迎えに来て」って伝えているから、大丈夫。キミは自分のやるべき事をやりなさい。レンズちゃん、見つかってないんでしょ?』


 この程度じゃ死なないから安心して――と言うラフマ隊長に追い払われてしまった。後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、捜索活動に戻る。


 犬塚特佐に勝てたとはいえ、レンズは見つかっていないし……決起集会に参加していた人達は蟲兵にされてしまった。


『敵を倒して大団円(ハッピーエンド)とは、なかなかいかないな……』




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:エデン実働部隊<ラフマ隊>隊長のラフマ


「…………」


 勢いつけて飛んで行った白瑛の起こした風が、紫煙を飛ばしていく。


 その紫煙越しに白瑛を――スアルタウ君を見つめる。


 彼1人では犬塚銀には勝てなかったけど……あの犬塚銀相手に現地調達した機兵で食い下がった戦闘技術は本物だ。


 単なる機兵馬鹿ではなく、巫術という面白い術式(ちから)も使える。


「……なかなか見所がありそうね。気に入った」


 ガキだろうと、利用価値のある駒なら大好きよ。


 役に立つなら……彼ごと、こっちの計画に巻き込んじゃおう。





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