英雄の死角
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:整備士兼機兵乗りのバレット
『バレット! 呆けるな!!』
無差別通信で飛んできた総長の通信を聞きつつ、機兵を動かす。
犬塚銀の白瑛が斬りかかってくる。盾で攻撃を受けたものの、思い切り蹴飛ばされた。なんとかやられずに済んだけど――。
『けど総長、アルが……!』
総長に対し、こっちも無差別通信で応じる。
こっちの主力のアルがやられた。この状況からどうするんだ――という事を、敵に聞こえるのも構わず叫ぶ。
『応戦しろ! お前まで殺されるぞ!!』
『っ…………!!』
白瑛はオレに追撃してくる――ように見えたが、空中でくるりと反転し、総長の機兵に向けて射撃した。
正確な射撃が総長が持っている狙撃銃の銃口に滑り込み、爆発が起きた。総長は無事だが、武器を破壊されて無防備な状態に追い込まれた。
時間さえあれば流体装甲で新しい武器を生成できるが――。
『総長!!』
徒手空拳の機兵に対し、白瑛が鷹のように襲いかかった。
空を軽やかに飛び、飛行の勢いのまま総長の機兵に斬りかかった。
総長は狙撃銃の残骸を白瑛に投げつけつつ、新しく生成した剣を振りながら後退しようとしたが、その剣は白瑛の脚剣に叩き切られた。
『こんにゃろっ……!!』
追い詰められた総長を助けるため、持って来ていた秘策を使う。
白瑛は2種類の攻撃を無効化してくる。
おそらく今は「巫術」と「通常兵器」による攻撃を無力化している。
機兵の攻撃じゃ有効打は与えられない。
ただ、相手がやっているのはあくまで「無効化」だ。
攻撃そのものを消しているわけじゃない。
だから――
『拘束は無効化できねえだろッ!?』
ワイヤーネットを射撃し、白瑛を拘束しにかかる。
ダメージが通らなくても、拘束は通るはずなんだが――敵は空中で駒のように回った。オレの機兵が放ったワイヤーを、蜘蛛の糸みたいに容易く立ち斬った。
全身に流体の刃を生やしている。
生半可なワイヤーじゃ、拘束できない。巨大な建造物で押しつぶせば動きを止められるかもしれないけど、そんなもの普通の機兵じゃ用意できない。
『お友達の後を追いたいのか?』
『げっ……!!』
白瑛は総長の機兵を足場にしつつ飛び上がり、今度はこっちを襲ってきた。
斧で迎撃しようとしたが、オレの操縦技術じゃ無理だった。
白瑛が空中で回避行動を取ったことで、斧は空振り――逆に向こうの斬撃がこちらを捉えてきた。
両腕がスパッと立ちきられた。混沌機関はやられずに済んだが、白瑛が次に放ってくる攻撃で……カカト落としと共にやってくる斬撃で機兵が真っ二つに――。
『バレット!!』
『――――』
総長が狙撃銃を使い、オレを撃った。
撃たれた衝撃で押され、回避行動がギリギリ間に合った。
胴体装甲を大きく切り裂かれたものの、後ろに退くのが間に合った。
『すまん! 痛かったか!?』
『痛くはないけど、おかげで回避は間に合いましたよ!!』
必死に逃げ回りつつ、壊れた腕部に新しいワイヤーフレームを送り込む。
ワイヤーフレーム構造の<ウィッカーマン>は、<逆鱗>と違って骨格を破壊されようとその場で補修出来る。だからしぶとい。
しぶといけど……この場はしぶとさだけじゃ勝てねえよな……!
『くそッ!! やっぱその防御能力、インチキすぎるだろ!?』
『当ててから言え』
苦し紛れに機関砲を撃ってみたが、スルッと回避された。
舐められてる。
向こうは機関砲程度、<権能>で弾けるはずだ。それなのにわざわざ避けられ、実力差を見せつけられた。
総長と2人がかりでも、まったく有効打を与えられない。
攻撃は通らない。当てる以前に回避される。対応される。
総長とオレだけで勝てる相手じゃねえ。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:肉嫌いのチェーン
総長達に機兵戦を任せ、狙撃地点につく。
生身だろうが機兵だろうが、犬塚銀には当てられる気がしない。
アレは本物の英雄だ。オレ如きじゃ叶わないだろう。
だが、やれる事はある。
「――――」
狙撃銃を構える。
十字の先に、機兵が立つのを待つ。
英雄の死角に潜み、その時を待つ。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:エデン総長・カトー
バレットの援護と犬塚銀の気まぐれで何とか命を繋げた。
ヴァイオレット達がドローンで繊一号基地を引っかき回してくれているおかげで、こっちに飛んでくる砲撃は殆どなくなった。
だが、実質2対1で犬塚銀の相手をするのはキツい……!
少し……ほんの少し気を抜いたところで、一気に倒される状況だ。
『エデンの総長。俺に匹敵する機兵操縦技術は、いつ見せてくれるんだ?』
「ははっ……。い、いま見せようとしているところだよ……! ようやく身体が温まってきたところだ」
犬塚銀もオレも、神経接続で機兵を操作している。だが、操縦技能で犬塚銀に圧倒されちまっている。機体性能以前に技術で負けている。
オレもそれなりに出来る自信はあったんだが、機兵乗りとして名を馳せた犬塚銀相手では子供と大人に近い差があるようだ。
……あの防御さえ何とか出来たら、多少はマシな状況になるんだが……。
「くそったれ……。ラフマ、そっちはまだなのか……!?」
繊一号基地に潜り込み、工作活動をしているラフマからの連絡がない。
予定では、アイツが繊一号の設備を乗っ取って<海門>を開くはずだった。それを使って一気に仕留めにかかるはずだった。
だが、仕掛けのタイミングをミスったのか、海門はまだ開かない。……そもそもあの女狐を信じたのが間違いだったのか……?
そう思い、歯噛みしていた時だった。
『カトー君、お待たせ。こっちは準備出来たから、合図を頂戴』
「…………! バレット、聞いたな?」
無差別通信ではなく、秘匿回線でラフマとバレットと通信する。
「チャンスは一度切りだ。しくじるなよ」
『プレッシャーかけないでくださいよ……! オレ、そういうの弱いんだから!』
「お前なら出来るさ。――ラフマ、開け!!」
『はいはい』
合図を送る。
すると、ラフマが動いてくれた。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:血塗れの英雄・犬塚
「海門だと……! 警備の奴らは何をやっていた!?」
基地上空の空間が割れ、海門が開いた。
基地の海門発生装置によって海門が開かれた。装置の設置場所の警備は厳重にしておいたはずだが、警備担当者達と連絡が取れない。
裏切った? あるいは、敵に片付けられたのか?
その答えを確かめるより先に、海門から方舟が落ちてきた。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:整備士兼機兵乗りのバレット
『バレット! 行けッ!!』
総長の言葉に従い、強奪弾を撃つ。
狙うは海門を通り、界外から来た方舟。
界外に控えさせていた無人かつ自動操縦の方舟に憑依し、ヴィオラ姉製の航行補助機構の力を借りつつ操縦し、方舟を白瑛に向けて突撃させる。
『機兵が通用しないなら、もっと強いもんをブツけてやればいいんだろ!?』
あえて無差別通信を使い、犬塚銀相手に叫びつつ方舟を突貫させる。
突貫させつつ、巫術で混沌機関の暴走を開始させる。
白瑛はいま、「対巫術防御」と「対通常兵器防御」を行っている。その2つは権能の防御に阻まれ、通用しなくなっている。
だったら、それ以外の攻撃手段を用意すればいい。
通常兵器の枠組みの外にある攻撃手段をブツければいい!
『貴様、まさか――』
『方舟の自爆特攻! 防げるもんなら防いでみやがれッ!!』
こっちの狙いを知った犬塚銀が、距離を取ろうとしてきた。
だが、総長の狙撃が白瑛に突き刺さった。
権能によって無効化されたが、足止めにはなった。
稼げた時間は一瞬。ほんの一瞬だが――。
『…………ッ!!』
白瑛に方舟の全砲門を開いて砲撃しつつ、足止めする。
もう少し。
もう少し近づいて、自爆で吹っ飛ばしてやる!!
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:エデン総長・カトー
『カトー総長、自爆に巻き込まれないように離脱してください!』
「まだだ」
ヴァイオレットに離脱を促されたものの、まだ踏みとどまる。
方舟の自爆の影響範囲は事前に計算済み。いまオレが立っている場所は、自爆に巻き込まれるか否かのギリギリの場所だ。……下手したら死ぬかもな。
だが、相手は犬塚銀だ。
命懸けで挑まないと勝てない相手だ。
「――アラシア!」
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:肉嫌いのチェーン
『――アラシア!』
「――――」
総長の合図に合わせ、狙撃する。
放った弾丸の先には機兵がいる。
狙撃銃を構えた機兵がいる。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:エデン総長・カトー
「――――」
方舟に激突されようとしている白瑛に向け、射撃する。
当たったが、ダメージは通っていない。まだ権能で防御されている。
「ここで俺が退いたら、権能の防御対象を変えられかねん……!」
2種類の防御を……「巫術」と「通常兵器」の防御を使い切らせないと、「方舟の自爆」という攻撃手段を通せなくなる。
ここでオレが死ぬとしても、ギリギリまで攻撃を続けてやる。
「勝負だ。犬塚銀」
狙撃銃の弾頭を変更し、狙い撃つ。
オレの狙撃が命中した次の瞬間、バレットが操縦する方舟が弾けた。
混沌機関の暴走により発生した自爆が、白瑛を飲み込んだ。
「――――」
その爆発は、オレの方までやってきて――。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号の郊外にて
■from:整備士兼機兵乗りのバレット
「っ……!!」
寝台から飛び起きる。身体に戻ってきた。
方舟による自爆は成功した。
白瑛に逃げ切られる前に、方舟の自爆に巻き込んでやった!
身体が震えている。……7年前の自爆を思い出して、身体が震える。けど、今度は、あの時みたいな結果にならない。
これで勝ったはず――――。
「ヴィオラ姉! 白瑛は!?」
オレの自爆が当たったはずだ。
結果を確かめるために問いかけたものの、端末を操作していたヴィオラ姉は……表情を強張らせていた。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:エデン総長・カトー
「っ…………」
方舟に自爆にギリギリ巻き込まれ、吹っ飛ばされた。
機兵の計器が警告音を上げている。
この機兵はもう、使えそうにない。
壊れかけの機外カメラを使い、方舟の爆心地を見つめる。
すると、そこにいた。
無傷の白瑛が、悠々と宙に浮いていた。
「…………自爆の瞬間、権能の防御対象を切り替えやがったな」
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:血塗れの英雄・犬塚
「惜しかったな、テロリスト共」
狙いは悪くない。
白瑛に搭載された天使の権能は、2種類の攻撃を指定して無効化できる。
無効化する定義を広げれば広げるほど、防御性能が低下する。だから「通常兵器の防御」では、方舟の自爆は防ぎきれない。
こっちの防御指定の穴を掻い潜らない限り、白瑛に攻撃を通すのは不可能だ。あるいは「3種類の攻撃で同時攻撃」したら、いずれかの攻撃は通るがな。
テロリスト共は「巫術による乗っ取り」と「狙撃による通常兵器攻撃」と「方舟による自爆」という3種類の攻撃を用意してみせた。
だが、3種同時攻撃は出来ていない。
肉体を失って、惨めに死んでいったテロリストがいれば3種同時攻撃が出来ていたんだろうが……奴はもういない。
「そっちが自爆狙いってわかった時点で、『対巫術』に割いていた権能を、『対爆発』に切り替えるだけでいいんだよ」
カトーはギリギリまで狙撃を続けていたが、3種目の攻撃が足りなかった。
さっきのガキがまだ生きていたら、それが出来たのにしくじった。……仲間のテロリストを奪還するためとはいえ、1人で乗り込んでこなければ勝ち目はあったかもしれないのにしくじった。
敵の同時攻撃は凌いだ。
もう同じ手は使えないが……厄介な相手がやってきた。
カトー達はもう敵ではないが――。
「死体は見つかっていないと聞いていたが……」
まだ閉じていない海門を見上げる。
そこから、黒い羊のようなバケモノがワラワラと落ちてきた。
そいつらを従えた輩が――俺に匹敵する戦闘能力の持ち主がやってきた。
「生きてやがったのか、バフォメット」
■title:交国領<ネウロン>の繊一号の郊外にて
■from:整備士兼機兵乗りのバレット
「バフォメット……! 無事だったのか!」
海門から大量のタルタリカと共に、バフォメットが降り立った。
数十……いや、数百以上のタルタリカが繊一号基地に下りたってくる。下りたってきて、直ぐに基地内を走り回り始めた。交国軍の制圧を開始した。
ヴィオラ姉もタルタリカやバフォメットの件は聞いていなかったのか、驚いている。けど、総長はバフォメットが生きていた件を知っていたらしい。
『黙ってて悪い。切り札として用意しておいたんだよ』
オレ達の攻撃が失敗していたとしても、まだバフォメットがいる。
バフォメットが生きていた。
アイツなら……犬塚特佐相手だって、勝てるかもしれない。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:血塗れの英雄・犬塚
「黒水守に負けて、尻尾を巻いて逃げていたんだな」
今更になって現れたか――と言うと、相手は素直な言葉を返してきた。
『耳が痛いな。確かに、私は交国の神器使いに敗北した』
「生きていたなら、そのまま逃げていれば良かったものの」
7年前に黒水守が勝った相手とはいえ、真白の魔神の使徒は強敵だ。
だが、こっちは未だ無傷。テロリスト共を軽く蹴散らして、使徒も殺し、バケモノ共も直ぐに始末してやろう。
「俺が引導を渡してやる。今度は逃がさん」
『その必要はない』
バフォメットは杖のようなものを弄びつつ、淡々と言葉を続けてきた。
『私の仕事は、大して残っていない。あとは基地を制圧して終いだ』
「基地制圧がしたいなら、俺を倒してから――」
『貴様はもう負けている』
「…………なんだと?」
『まだ気づいていないのか。お前の機兵が「3人乗り」になっている事を』
「――――」
いつものように念じた。機兵を動かそうとした。
だが、ピクリとも動かなかった。俺の操作を受け付けない。
操縦どころか、権能の防御対象指定すら出来なくなっている。
『すみません、犬塚特佐。貴方の機兵は僕が貰います』
「その声は……!」
『そういえば、まだキチンと自己紹介してませんでしたね』
外部の声じゃない。
俺の機兵から、誰かが喋っている。
『僕はスアルタウ。エデンの一員であり、ネウロンの巫術師です』
■title:交国領<ネウロン>の繊一号の郊外にて
■from:整備士兼機兵乗りのバレット
「せ……成功してんじゃねえか! ヒヤっとさせやがって……」
ヴィオラ姉達と一緒に、無傷の白瑛を画面越しに見る。
無傷だが、白瑛はもうオレ達のもんだ。
その証拠に、真っ白い機体の一部がベットリと赤く汚れている。
総長が当てた狙撃が――強奪弾の跡が、ベットリと残っている。
『ゴメンゴメン。白瑛の掌握に集中してた』
アルが軽い様子で通信してきたので、肩の力が抜けた。
『バレット達のおかげで、何とか乗っ取れたよ』
「へへっ……。なかなかの名演だったろ?」
アルが死んで狼狽えているフリは、なかなか難しかった。
アルが死んでないの知ってるから苦労したぜ……。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号の郊外にて
■from:死にたがりのスアルタウ
『何故、お前が生きている!? お前は死んだはずだ!!』
犬塚特佐が白瑛の操縦席内で叫んでいる。
まだ生きていたとしても、壊れた機兵の残骸に魂が憑いているはず。
そこにお前らの仲間が接触することもなかったはずだ、と言っている。
残骸には誰も接触していない。ただ、ちょっとしたズルはさせてもらった。
『僕は自分の身体に戻った後、隙を見て総長の機兵に憑依したんです。そして……総長が放った強奪弾で白瑛を奪っただけです』
『身体に戻っただと? お前の身体は、地面の染みと化しただろうが!』
『犬塚特佐が潰したのは、本物そっくりに作られた代用義体です』
ヴィオラ姉さんが作ってくれた予備の身体だ。
最初からヤドリギ経由で遠隔操作していたものだ。
特佐達の目を誤魔化せるか少し不安だったけど、ヴィオラ姉さんの技術は特佐達を騙し抜いた。交国軍の軍医の検査もくぐり抜けるほど精巧な義体だった。
精密検査されていたら、さすがにバレただろうけど――。
『本物そっくりの義体だったとしても、いつ、入れ替わった!?』
『護送船を襲った時から、代用義体を遠隔操作していただけです』
救出作戦が始まった当初から、僕は代用義体を遠隔操作していた。
途中で入れ替わったわけではない。
『ヤドリギとやらにも遠隔操作可能な範囲の制限があるはずだ! 海門を潜って界内に戻ってきた時に継続して操作できるはずがない!』
『タイミングを合わせて、本体も界内に戻ってきたんですよ』
言うは易しだけど、かなり難しかった。
最終的にヴィオラ姉さんが何とかしてくれた。僕が操作する代用義体が乗った護送船が界内に戻るのと同時に、僕の本体が乗っているエデンの方舟が同時に界内に戻ってきたことで遠隔操作が途切れることなく続けることが出来た。
交国人でも見抜けない精巧な義体技術と、諸々の調整をやってのけてくれたヴィオラ姉さんのおかげで……無傷の白瑛を奪う事が出来た。
『死んだフリをして貴方の意識の外に逃げて、狙撃の弾丸経由で白瑛を奪わせてもらいました。……総長の狙撃とバレットの自爆への防御で、対巫術防御を一時的に切ってくれたおかげで何とかなりました』
あの一瞬の隙がなければ、白瑛を乗っ取ることは出来なかった。
レンズ達を救出して、起動前の白瑛を乗っ取る作戦は失敗したけど……総長が作戦を立て直してくれたおかげで、何とか勝つ事が出来た。
一瞬の勝機を掴む事が出来た。……皆のおかげで。
『アル、よくやった! そのまま繊一号基地の制圧に動いてくれ!』
『了解!』
壊れた機兵の操縦席から出てきた総長の命令を聞き、白瑛を動かす。
犬塚特佐ほど上手く動かせないけど、バフォメットとタルタリカも駆けつけてくれたし……ここの制圧は何とかなるだろう。
大勢は決した。
犬塚特佐は、白瑛の操縦席に閉じ込めた。捕虜に出来た。
……殺さずに済んで良かった。
『今回は貴方の負けです。犬塚特佐』
操縦席の特佐にそう告げると、「糞っ垂れがッ!!」という声が返ってきた。
だが、さすがの犬塚特佐も、この状況はひっくり返せないらしい。
操縦席内に流体装甲を送り込み、拘束させてもらった。
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:肉嫌いのチェーン
『隊長、アルが上手くやった! 成功だ!!』
「…………」
バレットからの通信を聞くと、安堵のため息が漏れた。
オレが持たされたワイヤーの先には、アルの本体。死んだふりして本体に避難したアルは、ワイヤー経由でオレのところまでやってきた後、オレが総長の機兵の強奪弾の狙撃を放つ事でさらに移動。
そっから総長の狙撃でアルの魂を白瑛に届け、乗っ取りに成功。さすがの英雄様も、こっちの連携には対応しきれなかったようだ。
『直ぐに迎えに行くから、隠れて待っててくれ!』
「舐めんな。オレなら1人で帰れるさ。先に総長の回収に行け」
匍匐前進しつつ、コソコソと撤退する。
また死に損なった。まあ、まだまだ死ぬ気はなかったけどな。
……アイツらなら上手くやってくれると信じていた。
もうオレ無しでもやっていけそうだが――。
「アイツらだけじゃ危なっかしいし、もうちょっと見守ってやるべきか……」
■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて
■from:エデン総長・カトー
『総長! 怪我してないのか!?』
「おう、大丈夫だ」
流体甲冑で迎えに来てくれたバレットに対し、片手上げつつ返事をする。
機兵は大破。下手したら死ぬとこだったが、勝てたから良し。
交国の英雄を捕虜に取り、白瑛の鹵獲にも成功。悪くない戦果だ。
「……これで、日和見を決め込んでた解放軍兵士も動くだろう」
繊一号基地の制圧も直ぐ終わるだろう。こっちにはバフォメットが率いるタルタリカの軍団もいる。形勢逆転だ。
「ヴァイオレット、降伏勧告がしたい。まだ生きているドローンの中に、スピーカーついてるやつはあるか?」
『それなら基地の通信をハッキングしたので、それ使ってください!』
「お前、マジで色々出来るな……」
ヴァイオレットに通信を繋いでもらい、基地にいる交国軍人に降伏勧告を行っていく。従わない奴もいるだろうが、今日のところはオレ達の勝ちだ。
……この勢いで、ネウロン全土を解放させてもらう。




