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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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肉体の死



■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『機兵を……!』


 白瑛強奪作戦は失敗した。


 白瑛にはもう、犬塚特佐が搭乗している。権能によって憑依を防いでくる以上、対巫術防御していない時(・・・・・・)でないと憑依は通らない。


 こっちには流体甲冑があるとはいえ、これだけで白瑛に挑むのは無謀だ。せめて、機兵を手に入れなきゃいけないのに――。


『くそっ! 白瑛以外の機兵は出していないのか……!?』


 機兵は白瑛以外に見当たらない。歩兵や装甲車は多数出ているようだけど、機兵に関してはろくに見かけない。こちらを追ってくる白瑛しかいない!


 向こうも巫術を警戒しているらしい。下手に機兵を出せば僕が乗っ取るのがわかっているんだろう。


 わざわざ機兵を出さずとも、僕の鎮圧は不可能じゃない。基地内で騒ぎを起こしてくれている解放軍の人達も、現状では歩兵で制圧出来る程度でしかない。


『退いてくださいっ!』


 突っ込んできた装甲車を力業でひっくり返す。


 車内から交国軍の人を引きずり出し、拳銃を1つ拝借し、再び逃げる。


 急いで機兵を確保する必要があるけど、一体どこに――。


『…………!!』


 基地内を見渡すために高所に登ろうとしたところ、機関砲の弾丸が飛んできた。


 回避しきれず、左腕を持っていかれた。


 義体の中を駆け巡っている代用血液が噴き出す。まだまだ動けるけど、放置はできない。流体甲冑で強引に傷跡を塞ぎ、代わりの腕を流体で生成する。


 今の攻撃、犬塚特佐の白瑛からだったな。……どうやら手加減せずに殺しにかかってきているらしい。特佐の立場ならそうするだろうけど、容赦ないな!


 けど、危険を冒したおかげで――。


『あそこか……!』


 機兵を見つけた。


 格納庫ではなく、倉庫に一時的に移していたらしい。


 倉庫内に隠された機兵に向け、全力疾走で近づこうとしたけど――。


「撃てぇっ!!」


『…………!!』


 倉庫の周囲に交国軍人が隠れていた。


 シートをかけて隠していた重機関銃の弾丸が複数襲ってきた。左腕どころではなく、身体に被弾していく。


 生身ではないとはいえ、こんなに食らったら――。


『巫術師は面倒な力を持っているが、所詮は人間だ』


 側方に白瑛が着地してきた。犬塚特佐の声が聞こえる。


 地面に倒れ伏したまま、特佐の白瑛を見上げる。


 ……右手は何とか動くけど、下半身が動かない。機関銃の弾丸に下半身が吹っ飛ばされた。もう、走って逃げるのは難しい。


 代用血液によって、地面が赤々と汚れていく。


『お前はここで死ぬ。何か言い残すことはあるか?』


『……貴方は、本当に自分の部下を毒殺していないんですか?』


『当たり前だ。俺に、犬塚隊(あいつら)を殺す動機などない』


 犬塚特佐は堂々とした声色でそう言った。


 特佐にとって、直属の部下達は手足のような存在だった。


 無くてはならない存在だった。……殺す理由など存在しなかった。


『奴らは長年、俺に付き従ってくれていた。オークの真実を知った後も、俺を信じてついてきてくれていた』


『…………』


『そんな奴らを毒殺する上官がいると思うか? 俺が最愛の妻を、義娘(カペル)を! 毒殺する狂人に見えるのか!?』


 小声で「見えませんね」と返す。


 本人の言う通り、犬塚特佐は毒殺事件なんて起こしていないんだろう。


 ひょっとしたら、犬塚特佐自身が毒殺されかけたのかもしれない。偶然(・・)、呼び出されていなければ特佐もこの世を去っていたのかもしれない。


『俺は必ず、家族と部下の仇を取ってみせる! 薄汚いテロリスト共など皆殺しにしてやる!! 貴様らの野心の所為で、皆が不幸になる前にな』


『僕らは野心で動いているわけじゃありません!』


 僕らは、平和を守ろうとしているんです。


 犬塚特佐は毒殺犯じゃないんだろう。


 ただ、交国政府の共犯ではある。


 交国の尖兵として、平和を壊している人だ。


 僕らを批判する前に、交国(じぶんたち)の大義に正義が伴っているか見直すべきだ。


『僕らエデンは、因果応報の代行者です! 貴方達、交国が横暴を働き……誰にも罰せられずにいるから、僕らが貴方達を、倒す!!』


 交国軍から奪った拳銃を使う。


 標的に銃を向ける。


 その瞬間、近づいてきていた白瑛の脚が――――。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:血塗れの英雄・犬塚


 テロリスト(スアルタウ)を白瑛に踏み潰す。


 念入りに踏みにじって脚を退けると、そこには人間だったものが転がっていた。


 くだけた流体甲冑と、人間の血肉が汚らしく混ざったものが転がっていた。


 事前に軍医に調べさせておいたが、コイツは生身の人間(・・・・・)だ。


 巫術以外には特別な力のない無力な人間だ。


 7年前に脱走した巫術師の中には、義手義足のガキもいたはずだ。こいつは両手両脚が生身(・・・・・・・)だったから、まだ見つかっていないもう1人が義手義足のガキなんだろう。……そいつも遠からず後を追わせてやろう。


 あの世か、あるいは黒水に――。


「…………」


 潰れた挽肉の傍に、壊れた拳銃が転がっている。


 コイツは、潰される直前に発砲していた。


 その弾丸は交国軍人の誰かに向かったかと思いきや、誰も死んでいない。


 銃口が向けられた先にいたのは、人間じゃなかった。


 こいつ、まさか――。


「総員、この場から離れろ」


 機兵を囮とし、待ち伏せさせていた歩兵達に告げる。


 囮にしていた機兵が起動している。


 流体装甲を纏い、倉庫を壊しながら動き出した。


「……死ぬ直前、弾丸経由で(・・・・・)機兵を乗っ取ったのか」


 コイツが最後に放った弾丸は、機兵を狙ったものだったんだろう。


 肉体が死を迎える直前に、自分の魂だけ機兵に送り届けたようだ。


 ただの拳銃弾だと、憑依の機会はほんの一瞬だろうが――。


「大したもんだが、お前の本体(からだ)は地面の染みになったぞ」


 動き出した機兵に向け、告げる。


 本体を潰されてもなお、魂だけは生きている。


 だが、その生命活動も直ぐに終わる。


「巫術師といえど、肉体の死から逃れることはできない」


 肉体が死を迎えれば、魂も1時間とかからないうちに消滅する。


 お前はもう死ぬしかないんだよ、と告げたが――敵が操る機兵から返ってきたのは「それぐらい知ってますよ」という平坦な言葉だった。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:死にたがりのスアルタウ


(オレ)は、アンタより……それをよく知っている』


 弟がそうだった。


 アイツは……僕らを守るために命を賭けた。自分の身体を捨てた。


 自分の身体が死んでもなお、機兵に憑依して戦い続けた。


 そして死んでいった。肉体の死に引っ張られ、死んでいった。


 けど、僕はまだ生きている。


 身体を潰されようと、まだ戦える。……アルのように戦える。


『僕もいつか死ぬんでしょう。けど、それは今じゃない』


 流体装甲で作った剣を白瑛に向けつつ、言葉を続ける。


『死ぬ前に貴方を倒し、ネウロンを解放してみせます』


『……やってみろ』


 白瑛がぬるりと動いた。生身の人間のように素早く動いた。


 相手が振るった剣を受け流しつつ、膝蹴りを放つ。


 回避され、さらにはこちらが蹴り飛ばされた。


 相手に蹴られた勢いを使って、側転して距離を取り、敵を見据える。


 勝ち筋は見えている。


 ここまでは概ね予定通り(・・・・)


 犬塚特佐は強い。僕が戦ってきた機兵乗りの中で一番強い相手だろう。


 身体(いのち)を賭けなければ勝てない相手だ。


 それで勝てるなら、いくらでも賭けてやるさ。


『命懸けで勝たせてもらいます……。犬塚特佐!』


『ハッ……。薄汚えテロリスト如きが、俺に勝てるわけねえだろッ!!』





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