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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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交国の英雄



■title:交国領<ネウロン>近海にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『……そうか、<白瑛(びゃくえい)>を使ったんですね?』


 バレットの魂が消えた。


 おそらく、方舟から強制退去させられた。


 その原因に思い当たることがあったから試しに言ってみたら、犬塚特佐は肯定するように薄い笑みを浮かべた。


 ヴィオラ姉さん曰く、白瑛には権能持ちの天使が搭載されている。その天使が持っている権能を使うことで、白瑛は強力な防御能力を行使できる。


 その防御能力(ちから)は巫術憑依だろうと跳ね飛ばす。天使の権能を機兵に適応出来るってことは、方舟にもその防御能力を使わせる事も不可能じゃないんだろう。


 白瑛を方舟に接続し、バレットの憑依を一瞬で剥がしたんだ。


「テロリストのガキのくせに、多少は頭が回るようだな」


 犬塚特佐は椅子に座ったまま、無骨な大口径の拳銃を弄んでいる。


 ゆるりと座っているから隙だらけに見えるけど、容易には手出しできない威圧感を感じる。……こちらが下手に動けば、即座に発砲してきそうだ。


『…………』


 こっちは流体甲冑を着込んでいる。


 大口径のものとはいえ、弾丸の1発や2発ぐらいは無理矢理突破できるはずだ。撃たれても無理矢理距離を詰めて取り押さえれば勝てる……はず。


 そのはずなのに、実際にそれが出来る自信がまるで湧いてこない。


「貴様は、白瑛がどういうものかわかっているようだな。エデンのガキ」


『エデン? 何のことですか?』


「しらばっくれるな。少し前からエデンの構成員として、巫術師が暴れているって情報は聞いているんだ。交国(ウチ)から奪った流体甲冑技術まで使って、あちこちで悪さをしているようだな」


『……貴方が捕まえた人達を返してください』


 決起集会の生き残りの姿は見えない。


 けど、犬塚特佐の後ろに無数の魂が観える。……壁が邪魔で目視確認できないけど、壁の向こう側に皆がいるはず……。


「俺が素直に応じると思うか?」


『応じないと、貴方が死にますよ』


 流体甲冑から双剣を作り出し、構える。


 犬塚特佐は敵だ。……けど、出来れば捕虜にしたい。聞きたいことがある。


 交国の英雄とはいえ、流体甲冑を装備した状態なら勝てる……はずだ。生身の人間がたった1人で流体甲冑に勝てるとは思えない。


 7年前に戦った権能持ちの奴らみたいに、特殊な力を持っていない限り……この場の勝負は僕の方が圧倒的に優勢のはず……。


 そのはずなのに、犬塚特佐は椅子に座ったまま余裕の態度を崩さない。これが特佐の用意した罠なんだろうけど、なんでそこまで余裕なんだ……?


「流体甲冑なら、生身の人間の1人ぐらいは楽に勝てると驕っているのか?」


『……そうですよ。その証明、今直ぐやっても――』


「――――」


 咄嗟に、流体甲冑の前面装甲を全力で強化した。


 犬塚特佐が発砲した。だから、甲冑で弾丸を受けようとしたけど――。


『ッ……?!!』


 甲冑では殺し切れない衝撃が襲ってきた。


 しかも、弾丸が当たったのは背中(・・)だった。


 犬塚特佐は正面にいる。


 気怠げな姿勢で椅子に座ったまま、発砲した。


 背後には誰もいないのに、後ろから弾丸が飛んできて――。


『跳弾……!?』


「俺が、白瑛がないと何も出来ない人造人間(にんげん)だと思ったのか?」


 犬塚特佐がまた発砲した。


 今度は正面から弾丸が襲ってきた。


 エレインに促され、上体を反らしたのが功を奏した。


 正面から顔面に飛んできた弾丸を、額の部分の甲冑で逸らすことに成功した。衝撃は完全には殺し切れず、首の辺りが「ミシミシ」と音を立てる。


『ッ…………!!』


 右手の剣を変形させ、盾に変える。


 相手は犬塚特佐。<玉帝の子>として作られた人造人間の1人。


 久常中佐をバフォメットが巫術で乗っ取れたように、触れることさえ出来れば憑依で勝てる。剣による脅しが通用しないなら、ここは盾でいい!


 その盾で顔面を守りつつ、犬塚特佐に向けて突進しようとしたけど――今度は側方から弾丸が襲ってきた。壁を蹴って飛んできた弾が肩に着弾した。


 犬塚特佐は、跳弾を計算に入れて攻撃してきている。


 こちらの防御を掻い潜ってくる弾丸が、次々と甲冑に包まれた身体を捉えてくる。何とか貫通はしないものの、衝撃を殺し切れない……!


『ぐッ……?!!』


 みぞおちに激突した弾丸に突進を止められる。


 踏み出そうとした右脚に弾丸を食らい、体勢を崩される。


 気づけば犬塚特佐は2丁目の拳銃を取り出していた。2丁の拳銃で間髪おかず弾丸を放ち続けている。けど、未だに椅子に座った姿勢を崩さずにいる。


 こっちは軽く触れるだけで勝てる。


 犬塚特佐の傍に白瑛はない。犬塚特佐さえ巫術で掌握してしまえば勝てるのに、指の一本すら届かない……!!


『がッ!?』


『兄弟!!』


 床を跳ねた弾丸が、こちらのアゴをアッパーのように捉えた。


 エレインが助けようとしてきたが、その手を拒む。


 今、エレインに無理させたくない。


 弾丸は何とか甲冑で止めたものの、止めきれなかった衝撃に頭を揺らされ、思わず膝をついてしまった。その瞬間、ガラ空きの脳天に弾丸が飛んできた。


 跳弾無し(ストレート)で飛んできた弾丸に押され、背後に吹っ飛ばされた。


 衝撃で身体が痺れる。手足が、上手く動かない。


「俺も舐められたもんだな」


 犬塚特佐が吐き捨てるようにそう言った後、弾丸は飛んで来なくなった。


 絶え間なく飛んできていた弾丸の雨が、一時止んだ。


 弾切れには見えない。特佐は気怠げな様子のまま、椅子に座り続けているけど……2丁拳銃はしっかり手に握っている。いつでも僕を撃てるはずだろうけど、撃ってこない。


「さすがにコレでは殺せないようだが……このまま撃ち続けていたら、どうかな? お前も流体甲冑を維持しきれなくなるんじゃないか?」


『そちらの弾切れの方が……先に来るはずです』


「腰砕けの姿勢で強がりやがる。この場で殺してやってもいいが――」


 犬塚特佐が拳銃1丁をホルスターに収め、代わりに通信機を手にした。それに向け、「出てこい」と言葉を発した。


 すると、特佐の背後にあった扉が開き、人がゾロゾロと出てきた。


 捕らえられていた決起集会の生き残りに見える。


 皆、拘束されていない。


 皆、何故か瞳が虚ろだ。


『――アンタ、まさか……!!』


 生気のない捕虜の姿を見て、血の気が引く。


 この光景に見覚えがある。


 虚ろな瞳の人々と似たものを、僕は7年前も見た。


 ネウロンから逃げる時、玉帝の部下が操っていた解放軍の兵士と同じ……!


「お前が助けたがっていた奴らは、全員、<蟲兵>にしてやった」


『全員!? アンタ、それ、女の子(レンズ)相手にも使ったのか!?』


 レンズの姿は見えない。


 見えないけど、全員に使ったってことは――。


「お前の仲間だな。もちろん、使ったとも!」


『…………!!』


 怒りに突き動かされ、飛び起きたものの――犬塚特佐を庇うように立ちはだかってきた虚ろな瞳の兵士達に阻まれた。


 焦点の合っていない目で――虫のような目で、皆が僕を見つめてくる。人形のように立ち尽くしている群衆の中で、犬塚特佐が笑みを浮かべている。


「ほら、お前の仲間だろう? 仲良くしてやれよ。流体甲冑で引き裂いて殺すか? お前に、それが出来るのか?」


『くそっ……!! アンタ……!! よくも!!』


蟲兵共(そいつら)は、殺さない限り止まらないぞ。お前に殺せるのか?」


 犬塚特佐が「取り押さえろ」と命じると、皆が殺到してきた。


 部屋を埋め尽くす勢いで皆が迫ってくる。交国に反抗するために集った人達が、交国の犬(いぬづか)に操られて殺到してきて――。




■title:交国領<ネウロン>の繊一号にて

■from:エデン実働部隊<ラフマ隊>隊長のラフマ


「隊長。混沌の海で動いていた部隊から連絡が来ました……!」


 繊一号にあるセーフハウスでくつろいでいると、部下が別働隊の動きを知らせてきた。スアルタウ君達の動向を知らせに来てくれた。


「スアルタウは交国軍の方舟(ふね)に乗り込んだものの、捕まったようです」


「他は?」


「他は捕まってません」


「そう。なら予定通り(・・・・)ね」


 おそらく、犬塚銀が直々に罠を張っていたんでしょう。


 向こうはこちらが混沌の海で襲撃を仕掛けてくることなんて、予想済み。


 当然、こちらも予想済み。予想されて対策されているなんてわかりきっている。


 だから、この一手が活きてくる。


「ここからは、私の出番(ターン)ね」


「マジでアレ使う気ですか……。下手したら死にますよ」


「大丈夫よ。今回の作戦には、切り札を切るだけの価値がある」


 行ってくるわ、と言ってセーフハウスを出る。


 これが上手く行けば、一気に楽できる。


 あの子(スアルタウ)の立てた作戦に賭けてみましょう。




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