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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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救出作戦



■title:交国領<ネウロン>近海にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「少しでも異変を感じたら、直ぐに戻ってきてね」


『大丈夫。任せて』


「…………」


 心配そうなヴィオラ姉さんと別れ、混沌の海に飛び出る。


 繊三号基地から脱出し、エデンの後続部隊に急ぎ拾ってもらった後、ヴィオラ姉さん達と混沌の海で合流することになった。


 レンズ達を助けるため、急遽、救出作戦を行うことにした。


 流体甲冑を身に纏い、混沌の海移動用の形態に変化させ、泳いで進む。


 暗い混沌の海では、自分がちゃんと前に進めているのかすらあやふやになる。……暗すぎて強い恐怖も抱くけど、幸い、僕は1人じゃない。


 ひとまず出番はないけど、エレインが常に傍にいてくれるし……エレイン以外にも頼りになる味方が傍にいてくれる。


『バレット、ドローンの状態は?』


『大丈夫だ。方舟(ふね)のヤドリギもしっかり機能している』


 僕の手が掴んでいる金属球が――ちょこんとついている六つ足の1つを掲げ――応答してくれた。


 この球型のドローンに、バレットが憑依している。


 バレットの本体もヴィオラ姉さん達のいる方舟にいるけど、ヤドリギによる遠隔操作でドローンを操り、今回の作戦についてきてくれている。


 予定地点に移動し、2人で待機していると……僕らの視線の先にポツポツと魂の光が観えてきた。複数の魂がこちらに近づいてくる。


『ヴィオラ姉さんの航路計算通りだ』


『アレにレンズが乗ってるといいんだが……』


 僕らは犬塚特佐に捕まった「決起集会参加者の生き残り」を助けるため、混沌の海で護送船を襲うことにした。


 時間がなかったからかなりバタついたけど、ヴィオラ姉さんに頼み込んで交国軍の護送船の航路を予測してもらい、そこで待ち構える。


 護送船を襲撃するのは僕とバレットだけ。


 バレットに護送船の掌握を頼み、僕は流体甲冑を使って船内の敵を制圧していく。大半の敵はバレットが方舟の設備を使って無力化してくれる予定だけど、全てが思惑通りに進むとも限らない。


 次善策を用意しつつ、僕とバレットが2人で襲撃をかけることにした。


 今日は混沌の海の流れも安定している。このまま待ち構えていれば、護送船に張り付いて乗り込むことが出来るはず――。


『まったく関係ない方舟じゃ無いといいな』


『方舟に憑依したら直ぐわかるよ』


 間違っていたら、こっそり離れればいい。


 襲撃を仕掛けるといっても、派手に攻撃を仕掛けるわけじゃない。巫術で方舟を掌握してしまえば、戦闘らしい戦闘を一切せずに皆を救えるかもしれない。


 ネウロンは丹国独立のために界外から大量の物資が運び込まれているけど、使われている航路は限られている。ヴィオラ姉さんの計算だと、今日ここを通る方舟は交国軍の艦艇しかいないはずだ。


 近づいてくる方舟は、おそらく3隻。


 肉眼では確認できないけど、巫術の眼で観た魂の位置から察するに3隻は方舟がいる。……中央の方舟に、特に多くの魂が観える。


 おそらく、あの方舟に皆が囚われている。


 大人数のわりに狭い場所に押し込められているのか、魂と魂の間隔が近い。……固まって閉じ込められているようだ。


 あの方舟を最初に狙おう、とバレットと話し合い、待ち構える。


 待ち構えていたものの……僕らは海流で少し流されていたらしい。相手の方舟はヴィオラ姉さんの航路計算通りに航行している様子だったけど、僕らがいつの間にかそこから少しズレた場所にいた。


 慌てて泳ぎ、待機場所を変えていく。


『急げ急げ! 速度は向こうの方が上なんだ! すれ違いざまの一瞬で接触できなかったら、もう機会はないぞ……!』


『わ、わかってる……!』


 急ぎ、泳ぐ。


 魂が近づいてくる。このままじゃギリギリ届かない。


 バレットに「投げろ!」と言われ、狙っていた方舟に向けてバレットの憑依したドローンを投げる。バレットと方舟を接触させ、憑依してもらう。


 バレットが方舟の制御を乗っ取り、速度を緩めてくれたおかげでギリギリ乗り込む事が出来た。けど、急な減速で搭乗している人達に異常を察知されたかも。


『ごめん。今ので気づかれたかも――』


『どっちにしろ問題ねえよ! 憑依は成功している! 敵さん、巫術師連れてきて防御したりもしてねえみたいだ。いけるぞ』


 バレットが方舟の隔壁を操作し、侵入路を作ってくれた。


 そこを使って船内に入り込む。内部の様子を探ってくれていたバレットが、「間違いない。交国軍の軍艦だ!」と通信で教えてくれた。


 けど、その言葉が右から左へ通り抜けていった。


 僕はバレットの声とは別のものに気を取られていた。


『――――』


『おい、アル? 聞いてんのか!?』


『あっ……。ご、ごめん。ちょっと、変なものが観えて――』


『しっかりしてくれ。作戦中なんだぞ……!?』


 方舟に乗り込んだ時、巫術の眼が妙なもの捉えた。


 離れた場所に――世界(ネウロン)の外殻に、びっしりと魂が観えた。一瞬、ほんの一瞬しか観えなかったけど……おびただしい数の魂が観えた。


 いや、観えた気がした(・・・・)だけで、見間違いかも。


 方舟が航行中だから、観えた場所からも直ぐ離れてしまった。無数の魂が観えた気がした場所は、もう僕の巫術の観測範囲外になっている。


 あんなところに大量の魂がいるなんて、さすがにおかしい。


 とんでもない大軍が世界の外殻に張り付いていない限り、あんな光景は観えない。……交国軍が作戦行動をしているとしても、場所がおかしいし……。


 一瞬呆けてしまったことをバレットに謝り、船内の状況を詳しく教えてもらう。


 僕らが乗り込んだのは交国軍の軍艦で間違いないみたいだけど、レンズ達がこの方舟にいるか否かはまだ確認が取れないらしい。


『今のところ、艦橋の奴らは異常に気づいてないっぽい。船内の監視カメラの映像を覗き見して、内部の様子をさらに探るから少し待ってくれ』


『了解』


 しっかりしないと。バレットの言う通り、今は作戦中なんだ。


 バレットの報告を待ちつつ、流体甲冑の形を白兵戦用のものに変えていく。


 ここからが、救出作戦の本番だ。




■title:交国領<ネウロン>近海にて

■from:


『…………』


 世界の外殻部を密かに移動していると、視線を感じた。


 交国軍に気づかれたか? 世界の外殻に設置された感知器の類いは制圧済みのため、誤魔化せているはずだが……何故か視線を感じた。


 仮に気づかれていたとしても、ひとまず移動を優先する。多少の損害が出たところで、問題はないだろう。


『征くぞ。貴様ら』




■title:交国領<ネウロン>近海にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『監視カメラがついてねえ区画がある。多分、牢屋のはずなんだが』


『直接確認してくる』


 僕らが乗り込んだのは交国軍の軍艦で、明らかに人が密集している場所がある。交国軍人が乗っているにしては、おかしな場所がある。


 そこに決起集会の生き残りが――レンズ達がいるはずだけど、バレットの方では確認出来ないらしい。


 バレットに通路の監視カメラを誤魔化してもらいつつ、その区画に進んでいく。


 ……嫌な予感がする。


 決起集会の生き残りを集めているってことは牢屋か、それに相当する部屋のはずだけど……監視カメラの1つもつけられていないのはおかしい。


 その予感は当たった。


 異常に魂が密集している区画に到達すると、そこに交国軍人がいた。


 牢屋らしき場所の前で、椅子に座った犬塚銀の姿があった。


『――バレット、罠だ。船をこのまま離脱させてくれ!』


 通信機を使ってバレットに訴えたが、返事はなかった。


 方舟に憑依していたバレットの魂が、急に姿を消した。


 消えたバレットの代わりに、犬塚特佐が「無駄だ」と言って笑った。


「お前のお仲間は、尻尾を巻いて帰っていったよ」




■title:交国領<ネウロン>近海にて

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


「んなっ……!?」


 生身の身体で飛び起きる。


 傍にいたヴィオラ姉さんがビクッと震えている。


 ヴィオラ姉さんがいるってことは、ここ、エデンの方舟だよな!?


「バレット君、何かあったの!?」


「敵の方舟から追い出された!!」


 それも、いきなり追い出された。


 敵の巫術で追い出された感触とは違った。本当に、急に憑依が剥がされた。


 オレは直ぐ帰ってこれたけど――。


「アルがヤバい!」


 アイツは、敵の方舟に取り残されている。




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