復讐者:犬塚銀
■title:交国領<ネウロン>の繊三号基地にて
■from:狙撃手のレンズ
「くっそー…………。ガッチガチに拘束してくれちゃって……」
身じろぎすらまともに出来ないほど拘束された状況にため息をつきつつ、何とか脱出する方法を考える。
考えようと思ったけど、殴られて腫れた頬がヒリヒリして考えがまとまらない。……あと、交国軍に捕まったっていう状況が怖くて震えそうになる。
泣いて震えている姿を見られるのは嫌だから、交国軍人に見られてもキュッと唇結んで耐えている。けど、この虚勢もいつまで張ってられるかわからない。
拘束具に憑依したところで、拘束具自体には操作できるものが無いから無意味。
巫術師なら、憑依するだけで自動ドアは動かせる。何故なら動かすための動力があるから。でも、ただの扉には動力ないから動かせない。巫術も万能じゃない。
拘束具を経由して別のものに憑依できたらいいんだけど、交国の人達に警戒されていて難しそう。方舟辺りで護送される時、無理矢理方舟を乗っ取りにかかればいけるかもだけど……向こうも警戒してるだろうなぁ。
麻酔打たれた状態で運ばれたら、さすがにどうしようもない――なんて考えていると、敵の親玉が牢屋に入ってきた。
「犬塚銀……!」
「こんなガキもテロリストに仕立て上げるとは、お前達の大将はろくでもないな」
「交国の人がそれ言う?」
巫術師は年齢問わず、冤罪で特別行動兵として戦わされていたんだよ――と嫌味を言ってやる。
犬塚銀はあたしの嫌味を無視し、睨みながら語りかけてきた。
もうちょっと近づいてこ~い……!
玉帝の子は人造人間なんだから巫術で乗っ取ることも出来るはず。犬塚銀を人質に取れば逃げられる可能性も――。
「お前は7年前、第8巫術師実験部隊にいたガキだな? 星屑隊と行動を共にし、彼らを犠牲にして逃げた一味の1人だな?」
「…………」
「そうやって睨み付けてくるということは、やはり正解か。オーク達の犠牲で繋いだ命をわざわざ捨てに来るとは……。愚かな奴らだ」
「アンタなんかに言われたくない。それに、私は命を捨てに来たわけじゃない」
命を守りに来たんだ。
負けて捕まっちゃったけど……メラちゃんは、アルに託した。アルなら絶対、メラちゃんを守って逃げ切ってくれたはず……。
今のところアルの姿は見かけてない。決起集会に参加していた人達の生き残りは大半捕まったっぽいけど、アルや総長の姿は見かけてない。
皆は、何とか逃げ切ってくれたはず……。
「…………。それで? 拷問でもする? あたしから情報を引き出すために」
何されても喋る気はないけどね、と宣言してやる。
けど、犬塚銀は昏い瞳でこちらを見ながら薄く笑った。「声が震えているぞ」と指摘してきた。わかってるけど指摘しないでよ、ちくしょ~……!
「拷問か。とてもいい考えだ。お前には――」
「特佐、本土から通信です」
犬塚特佐があたしを睨んだまま舌打ちした。
話しかけてきた部下に対し、「誰からの連絡だ」と聞いた。
「妹様から…………石守素子様からです」
「またアイツか……! 用件は何だ!?」
「それが、その、ネウロンの報道を見た、と――」
犬塚銀があたしに背中を向けた。部下の方を見た。
脚が動けば背中を蹴って憑依できるかもだけど、指しか動かせない……! 目と鼻の先に交国の要人がいるのに~……!!
<玉帝の子>に憑依出来ることは、バフォメットが証明してくれた。
普通、巫術師は人間には憑依できない。けど、玉帝の子やヴィオラ姉みたいな人造人間相手なら巫術憑依も出来る。上手くやれば本人のフリをする事も出来る。
さすがに犬塚特佐を乗っ取ったら速攻でバレるだろうけど――。
「報道の件で話があるそうで……」
「後にしろ! どうせまた、くだらん話に決まっている」
「特佐がそう仰るだろうから、取り合わない場合、こちらにも考えがあるぞ――と言っていました。どういう考えかはわかりませんか……」
「貴様は誰の部下だ! 素子の部下か!? 俺の部下か!? 俺の部下なら、俺の命令だけ聞いていればいいんだ!!」
犬塚特佐が怒鳴るから、部下の人は怯えてそそくさと逃げていった。
特佐はしばらく肩を怒らせていたけど、うんざりした様子で振り返りながら「待たせたな」と言ってきた。
「拷問の話だったな? よし、お前には特別な拷問をしてやろう」
「お……教えてあげるけど、あたしは大したこと知らないから。あと、あたしを餌をするのも無駄だからね……!」
「それはどうかな? 救えそうなら動くんじゃないか」
犬塚特佐は持って来ていた鞄を机に置き、そこから何かを取り出し始めた。
「世間には、お前達を繊一号に護送して処刑すると発表している。その情報に釣られて、貴様の仲間が助けに来るかもしれないな」
「…………」
「ただ、奴らには伝えていない情報もある」
犬塚銀が鞄から取り出したのは注射器だった。
注射器の中は、珈琲みたいな黒い液体で満たされていた。
自白剤か何か……?
それで無理矢理情報を引き出したところで、ヤバい情報は無い……はず。エデン本隊の現在位置なんてあたしは知らない。
ヴィオラ姉達がいるセーフハウスの場所は吐いちゃうかも。けど、そこはあたしが情報漏らす可能性を考えて、引き払ってくれている事を祈るしかない。
犬塚銀はその注射器を部下に渡し、あたしに打たせた。黒色の何かが身体の中に入ってくる不快感に鳥肌が立つ。
「っ…………。こ……こんなの打たれたところで、アンタらの思い通りになんてならないんだから……」
「どうかな。……お前は、この薬を打たれた人間を知っているんじゃないか?」
「何のこと……?」
注射を打たれたところが、ぞわぞわする。
肌の内側で、何か……虫みたいなものが蠢いている感覚がする。
「7年前、お前達がネウロンから逃げ出す時……見たんじゃないのか? 本人の意志を奪って、どんな命令でも聞く兵士を見たことがあるんじゃないか?」
「……まさか、アンタ……!」
ぞわぞわした感覚が、頭まで登ってきた。
脳の中に、ムカデみたいな虫が這っている感触が……!
「虫のように動く解放軍の兵士が、お前達を襲ってきたんじゃないか?」
「あっ、あたしを、あの人達みたいにするつもり!?」
「貴様らが見たのは<蟲兵>という存在だ。この薬は、その蟲兵を作る薬らしい」
人間に打てば、その人間から自我を奪う。
命令に服従する人形に変えてしまう薬。
それが、あたしに打たれて――。
「お前のような反抗的な奴でも、簡単に従えられる薬らしい。その点だけ見れば便利だが、欠陥も多いそうだ。蟲兵になったモノは、命じられないと自分で排泄行為も出来ない木偶になるそうだ。そして、もう二度と元に戻れない」
「――――!!」
吐き気がこみ上げてくる。
体内を動き回る虫に、身体を……無茶苦茶にされている感覚が――。
「や、めッ……!! たす、け――――」
「……悪事の報いを受けろ、テロリスト」
■title:交国領<ネウロン>の繊三号基地にて
■from:血塗れの英雄・犬塚
「――――!!」
少女テロリストが、絶叫しながらのたうち回っている。
だが、拘束具の影響でその行動すら制限されている。
お前達は、まだ生かしておいてやる。
だが、自我を失って木偶になったら、「生きている」とは言えんだろうな。
「カペルを害したお前達には、似合いの結末だ……」
お前達の苦しみが長く続くよう、祈らせてくれ。
心配するな。お前達の仲間も、後を追わせてやる。




