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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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前哨戦



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 模擬戦まで残り1週間。


 ヤドリギの存在により、巫術師による機兵運用は上手くいっている。


 もっと手こずると思ったが、フェルグスの操作能力は予想以上に高い。


 初日で操作の基本は覚え、どんどんコツを掴んでいっている。


 ヤドリギでは解決できない「問題」も見つかっているが、そこは……訓練で何とかしていくしかない。模擬戦まで時間ないのが困ったところだが――。


 フェルグスに出来るだけ訓練させつつ、「どうやって模擬戦に勝つか」の考えを巡らせていると、「タルタリカの群れを発見した」という報告が来た。


 見つけたのは偵察ドローンだが、発見の功労者はスアルタウだった。


「へぇ、アルの巫術が活躍したんですか」


「そうそう。コイツが怪しいとこ見つけてくれてさ。ヤドリギじゃ憑依を維持できない場所だったから、最後はドローンで見つけたんだが……発見できたのは、この子の観察眼のおかげだよ」


 発見した時のことを教えてくれたドローンのオペレーターが、隣に立っていたアルの頭を撫でつつ教えてくれた。


 アルは恥ずかしそうにしつつ、俺と目が合うと笑顔を見せてくれた。


 最初、アルが「動物達の動きがおかしいです」と報告してきたらしい。


 陸地にいる動物達の魂が、ある地点から真っ直ぐ遠ざかっている。その地点に――内陸の森の中にいる「何か」を恐れて遠ざかっている。


 その報告を受けたオペレーターがドローンを飛ばし、よく調べたところ、目星をつけた森の中にタルタリカの群れを見つけたそうだ。


「お手柄だったな、アル!」


「そ、そんなことないですよっ……」


「謙遜するな。今日の発見はお前さんの活躍ありきのものだ」


 オペレーター達も巫術師の実力を認め始めたらしく、アルのことを皆で褒めてくれた。アルは顔を赤くしつつも、ちょっと嬉しそうにしている。


 この調子で、皆に巫術を認めてもらいたいな。


「じゃあ、俺も出撃してくるよ。フェルグスに機兵操作してもらってな」


「はいっ! お気をつけて!」


 アルに見送られ、格納庫に入る。


 ここしばらく、大きな群れには出会えなかったから、久しぶりに機兵対応班全員で戦闘ができる。……フェルグスに実戦経験を積ませてやれる。


 機兵に近づいていくと、嬉しそうにふんぞり返っているフェルグスの姿があった。緊張している様子はない。良い雰囲気だ。


「ついに、オレ様が機兵で出撃できるのか」


「乗るのは俺だけど、操作は頼んだぜ。相棒」


「ケッ! 誰が相棒だよ!」


 ご機嫌だが、俺の事は認めてくれないらしい。


 デュクシデュクシ、と言いながらパンチしてくる威勢の良さを笑いつつ、パンチを手のひらで受けてやる。


 その後、機兵に触って憑依してもらうと――フェルグスの身体から力が失われ、倒れそうになった。魂が機兵に移り、身体は抜け殻になった。


「今更だけど……これって大丈夫なのか?」


「大丈夫とは?」


 ヴィオラにフェルグスの身体を預けつつ、聞いてみる。


「いま、フェルグスの魂は機兵に入っている。その間、生身の身体の生命維持はどうなるんだ? 魂なくても、内臓とか動くのか?」


「ああ、それは大丈夫ですよ。身体だけ眠っているような状態なので。ほら、ちゃんと呼吸もしているでしょう?」


「おっ、ホントだ」


『お、おいッ! 人の身体にベタベタ触ってんじゃねー!』


 機兵のスピーカー越しに聞こえるフェルグスの怒り声を聞き、手を引っ込める。


『出撃するぞ! クソオーク! オレ様の機兵に乗りやがれ!』


「はいはい、仰せのままに」


 こっちが指図するより早く、機兵の流体装甲が展開していく。


 差し伸べられた手に乗り、操縦席に運んでもらう。自分で操作していた時とはまったく違う感覚だ。これはこれで面白い。


「フェルグス。今日はいつもの鎮静剤じゃなくて、かなり軽めのモンを打ってもらってんだよな? 頭が痛くなったら無理せず、自分の身体に戻れよ」


『へーきだっつーの。ヴィオラ姉もテメーも心配しすぎだ』


 巫術師の弱点――巫術で「死」を感じ取った時の頭痛。


 それは遠隔操作によって一応、解決している。


 巫術師の魂が機兵の中にあろうと、痛みを感じる頭が――本体が遠くにあれば、痛みを回避できるらしい。


 もちろん本体と死の距離が近いと危ういが、そこは距離を上手く管理していけばいい。念のため軽めの鎮痛剤は打ってもらったが――。


『ヴィオラ姉の作ったヤドリギはカンペキだ。オレ様は無敵だ』


「頼むから無茶してくれるなよ?」


『テメーはオレの活躍を黙って見てな。特等席で』


「いや、黙ってられるかよ。指示は聞いてくれ」


『ふん。気が向いたらな』


 相変わらずツンケンしているフェルグスに苦笑していると、通信が入った。


 機兵に乗り込もうとしている副長が、通信機でこっちの会話に割り込んできた。


『フェルグス特別行動兵。色々と思うところがあるだろうが、軍属である以上、上官の命令は絶対だ。ラート軍曹が甘い顔しているからといって、舐めた口を利いていると、第8巫術師実験部隊全員に責を問うからな』


『な……なんだよ。オレ様は脅しなんかに屈しねえぞ!』


『脅しじゃない。忠告だ』


 副長の声は珍しく冷たいものだった。


 ここからだと表情は良く見えないが、淡々と言葉を紡いでいる。


『ラート軍曹への態度も、いい加減改めろ。軍曹はお前達のために骨を折ってくれているのに、その事に対する恩義を感じないのか?』


『ハァ? 頼んでねーし……』


『軍曹がお前達のために努力している事を理解しろ。犬のように従えとは言わん。だが、無駄に喧嘩腰で接するな。ガキのお遊戯会じゃねえんだぞ』


『…………』


『ラート軍曹まで敵に回したら、お前達は元の生活に逆戻りだ。明星隊での生活がそんなに懐かしいのか? お前の一挙手一投足は、お前の弟やヴァイオレット特別行動兵にも影響する。自覚しろ。ここは戦場なんだ』


『…………』


『わかったら返事をしろ』


 副長が少し声を張って言った言葉に対し、フェルグスは「うっす……」と小声で返した。通信機越しだから、もっと大声で喋れるはずだが――。


『――ふてくされた返事をするなッ! 歯切れよく、「了解」と言え!』


『りょ、了解……』


『もっと大声で!!』


『了解っ!』


 フェルグスの応答に納得してくれたのか、副長が通信を切り、機兵に乗り込んでいく。フェルグスはしばし、無言だった。


 少しすると内部スピーカー使って、俺だけに聞こえる声で話しかけてきた。


『な、なあ……。あの副長、厳しすぎねえ?』


「いや、大分優しいと思うぞ。他の隊みたいに鉄拳制裁とか無いし」


 ウチの隊はかなり優しい方だろう。


 隊長も副長も、殴ってくること無いからな。レンズも口は悪くても手を出すことはそう無いし、出しても胸ぐら掴むぐらいかなぁ。


 でも、今のは……俺の所為かもな。


 フェルグスに対して甘い顔を見せているのは確かだ。締めるべきとこは締めないと、フェルグスが俺以外にも調子乗る可能性もある。少しは気をつけなきゃ……。


「よし、気を取り直して出撃準備しよう。フェルグス、出撃前のチェックだ」


『うーい……』


「返事が元気ないぞ~?」


『了解っ! くっ……これで満足かよぉ~……』


「うんうん。良い返事だ! その調子で頼むぜ」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


 戦闘準備を整えた機兵が甲板に上がり、射撃武器を生成していく。


 ドローンによって上手く誘導されたタルタリカが海岸に姿を現し、沖合いにいるこちらに気づき始めた。


 巫術師に配慮した距離は確保できている。射撃を許可し、戦闘を開始する。こちらが海にいるため、タルタリカは距離を詰めてこれない。良い的だ。


「巫術師達の様子は? 問題ないか?」


 医務室で子供達の様子をモニタリングしているヴァイオレット特別行動兵に聞く。海岸との距離は十分あるので、今のところ誰も痛みを感じていないらしい。


『脳波も安定しています。この距離を維持していただければ問題ないかと』


「わかった。異常があれば伝えろ」


 医務室との通信を繋いだまま、指揮所のモニターを見る。


 船上で絶え間なく発砲を続けている機兵と、海岸で肉片になっていくタルタリカの様子が写し出されている。


 こちらが海から射撃しているため、一方的な戦いになっている。


 いつもこれぐらい楽ならいいが、久常中佐は「一刻も早いタルタリカ殲滅」を希望しているため、タルタリカの群れを海岸まで引っ張ってこれない場合は危険を冒して陸地で戦闘する必要がある。


 今回は射撃だけで終わらせていいが、フェルグス特別行動兵の動きを見たい。


 ある程度片付けたら陸地で戦わせるとしよう。


「…………」


 フェルグス特別行動兵が操作する機兵は、一見、何の問題もない。


 機兵に乗り始めて1週間であれだけ動かせるのは驚異的だ。機兵の操縦技能だけ考えれば、あの犬塚銀を凌ぐ才能と言ってもいいだろう。


 だが、無駄が多すぎる。


『ダスト3! 無駄玉が多いぞ! お前が撃ってるとこ、敵に当たってねえどころか砂埃が舞い上がってる! 戦場全体が見づらくなるだろうが!』


『当たりゃいいんじゃねえのかよ……!?』


『当ててから言え!!』


 フェルグス特別行動兵の射撃技能は、素人よりはマシだ。


 1週間であれだけ動かせれば大したものだ。


 ただ、無駄玉が多い。ろくに命中していない。


 発砲回数は部隊トップだが、数十発に1発しか当たっていない。


 砂浜の土を巻き上げ、味方の邪魔をしている。


『機兵の武器って、混沌ってヤツでいくらでも作れるんだろ? その混沌もオレらの感情から出来てるなら、いくら撃っても別にいいだろっ?』


『混沌機関への充填作業(チャージ)は時間がかかるんだ。無駄玉で混沌(エネルギー)を消費していると、直ぐに戦えなくなる。よ~く狙って撃て』


『え~……』


『上官の命令が不服か?』


『ねえよ! ねえですっ!』


 副長の言葉を聞き、フェルグス特別行動兵の発砲量が減った。


 ようやく狙い撃ち始めたが、今度は1発も当たらなくなった。先程までは数でカバーしていたが、その数が減った事でまぐれ当たりもなくなった。


 機兵搭乗歴1週間にしては大したものだが、「一人前の機兵乗り」を基準にすると「機兵から降りろ」と言われかねない射撃技能だ。


 いや、技能とすら言えまい。


 アレはただ撃っているだけだ。


 巫術は確かに驚異的な潜在能力を持っている。


 しかし、射撃能力まで保証する力ではない。


 巫術によって「機兵を生身感覚で動かせる」と言えば聞こえはいいが、それは「生身で出来ない事は出来ない」という意味にもなる。


 まともな射撃訓練すら積んでいない素人では、あんなものだろう。


 巫術は確かなポテンシャルを持っているため、経験を積ませていけば改善するはずだが……模擬戦までに改善するのは不可能だろうな。


「スアルタウ君の兄貴、苦戦してますねぇ……」


「…………」


 彼には技能が無い。そして、状況も悪い。


 揺れる船上から2キロ以上先を射撃する以上、タルタリカ程度の大きさの的を狙い撃つのは正規の機兵乗りでも百発百中は難しい。


 それをやっている者が傍にいるが、同じ水準を求めるのは酷だろう。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


『機兵対応班。射撃停止』


 海岸に現れた群れはあらかた倒した。


 まだ生き残りがいるが、それを海岸で待たせながら隊長がフェルグスに話しかけてきた。


『良い情報を教えてやる。フェルグス特別行動兵、貴様の発砲数は部隊1位だが、撃破数は4体のみの最下位だ』


『う、ウソだろ……!? オレ様、操縦うまいんじゃねえのかよ……!』


 上手い。確かに上手い。搭乗歴1週間にしては、本当に上手い。


 けど、射撃は正直、下手くそだ。


 憑依した人工物を自分の身体のように扱えるのが巫術師の良いところだが、生身の射撃経験もほぼ皆無だから巫術の良さを有効活用出来てない。


 この1週間、フェルグスみたいな子供でも撃てる銃を用意して発砲訓練もさせてきたんだが……さすがに射撃の上達速度は人並み程度だ。


 ……模擬戦までに仕上げるのは無理だな、やっぱり。


『オレが4位なら、1位は誰だよ!?』


『ダスト2。レンズ軍曹だ。発砲数26で全て命中している』


『はあああ……!?』


 まあ、そうなるよなぁ。


 機兵は流体装甲によって現場で装備換装が出来る。


 だから「オールラウンダーになれ」と色々叩き込まれる。レンズも大抵何でもできるが、射撃は突出して上手い。実戦でも訓練でも抜群の成績を残している。


 レンズは星屑隊のエースだ。


 レンズ1人で敵の半数を片付けてしまう事も珍しくない。


 出会って間もない頃は「オレの方が狩ったぞ」とよく言われていたが、圧倒的な差があるからそのうち言われなくなった。


 フェルグス達はレンズを凌ぐ機兵乗りになるポテンシャルを持っている。巫術師と非巫術師の間には、越えられない壁があるからな。


 けど、レンズより強くなるのは、かなり先の話だろう。


 少なくとも模擬戦までに仕上げるのは無理だ。


『残るタルタリカを全て狩っても、この順位は覆らん。フェルグス特別行動兵、負けを認めるか?』


『認めるわけねえだろ! 残りは全部、オレが狩ってやんよ!』


『わかった。ダスト3以外はダスト3が窮地に陥った時の援護だけ行え。ダスト3、上陸して敵を殲滅しろ』


 差は覆らないが、これはチャンスだ。


 タルタリカには悪いが、フェルグスに少しでも多く実戦経験を積ませたい。射撃が下手なら、近接戦闘で挽回を――。


『援護なんていらねー! テメーらはここで指咥えて見てるんだなっ!』


 フェルグスが機兵を動かし始める。


 甲板上で軽く助走をつけ、思い切り飛んだ(・・・・・・・)




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:狙撃手のレンズ


「…………ありえん」


 ダスト3が飛行(・・)している。


 そう思うほどの挙動だった。


 助走をつけ、甲板の端から飛び上がったダスト3は――機兵の巨体で――500メートル以上先の海に着水してみせた。


 それだけの大跳躍の影響で、隕鉄(ふね)が大きく揺れる。


 海が酷く荒れた時でもお目にかかれない揺れが船を襲う。


 船内からの通信で罵声が聞こえてきた。バランス崩したダスト4が海に落ちそうになっていたので、こっちの手足を吸着モードに変え、助けてやる。


『バッ……! 馬鹿野郎! 上陸するにしても突出しすぎだ!』


 ダスト1が焦り声で叫び、ダスト3を追って海に飛び込む。


 ダスト3はそれに構わず、凄まじい勢いで上陸し、タルタリカを狩り始めた。




■title:砂浜にて

■from:死にたがりのラート


「っ、おぉ……?!」


 機兵は乗り心地の良い乗り物じゃない。


 交国の<逆鱗>なんて、性能は良いんだが良すぎて乗り心地が犠牲になり、「カクテルシェイカー」なんて悪名で呼ばれているほどだ。


 それに耐えれるだけの訓練を積んできたから、交国の機兵乗りにとって逆鱗の乗り心地は揺りかごみたいなものだが――。


『おりゃあッ!!』


「ッ――――!?」


 天地がひっくり返る。


 タルタリカの突撃に対し、フェルグスが跳躍しながら無駄に縦回転入れて回避し、空中から斧を振り下ろして敵を殺した。


 次の瞬間には再び飛び上がり、こっちを見失っていたタルタリカを踏みつけて殺してみせた。それで一旦打ち止めかと思いきや、着地と同時に斧を投擲した。


 投げられた斧がタルタリカの身体を真っ二つにする。新手のタルタリカが襲いかかってくるが――。


『武器はまだまだあるんだぜっ!?』


 フェルグスは突っ込んでくるタルタリカに向け、蹴りを放った。


 脚が届く間合いじゃない。


 空振った。


 そう思った次の瞬間、タルタリカの首が飛んだ、


「脚から、刃を生やしやがったのか……!?」


 機兵の脚から、流体装甲の刃が生えている。


 流体装甲ならそんな真似も出来る。出来るが、それは形成する物体のデータがプログラミングされている場合だ。


 フェルグスは巫術を使うことで、頭で考えるだけで(・・・・・・・・)プログラミングされていない武器も生成してみせた。


 それを一瞬でやってのけた。


 俺達には出来ない離れ業だ。


 巫術師なら俺達が出来ないことをやってのける。巫術を使えば流体装甲を現場でこねて、普通の機兵乗り以上に機兵をフル活用してみせる。


 それはわかっていた。流体甲冑で似たようなことやっていたフェルグス達なら、それぐらいは出来ると思っていたが――。


「ぐおぉっ……!!」


 機兵が突進する。


 俺と同じ機兵を使っているとは思えないほどの急加速。


 フェルグスは新しい斧を生成し、それを敵に振り下ろした。


 この機兵に、逆鱗にここまでの動きが出来るなんて……!


 これは巫術師だから出来るってレベルの話じゃねえ!


 巫術によって流体装甲を柔軟に制御しているんだろうが、それだけじゃない。


『おい! これで全部か!?』


 この近接戦闘能力は、おそらく、フェルグス自身の才能だ。


 生身でもここまでは出来ないだろうに、想像力と巫術だけでよくここまでの動きが出来るよ。これは嬉しい誤算だ。


「さすがだ、フェルグス。お前、この間乗った時より上手くなってるな!?」


『当たり前だろ。何度か使ってりゃ、コツもわかってくるっつーの!』


 その調子で射撃能力も上達してほしいが、そこまで求めるのは高望みか。


 少なくともこの近接戦闘能力は大きな武器になる。


 陸まで一気に上陸してみせた機動力も、普通の機兵乗りにはない力だ。


 これで射撃もこなせれば、勝ち筋が見えてくるんだが……。


『タルタリカ殲滅を確認。機兵対応班、帰投してください』


 偵察ドローンの方でも付近のタルタリカ殲滅が確認できたらしく、帰投するように指示が飛んできた。フェルグスを褒めつつ、帰るように促したが――。


『ちょっと待ってくれ! まだ生きてるタルタリカがいるかもしれねえ!』


 フェルグスはそう言い、砂浜をドカドカと走ってタルタリカの死体をイジり始めた。巫術師なら敵の生死は直ぐわかりそうなもんだが――。


「フェルグス、なにやってんだ。死んだかどうかは直ぐわかるだろ、お前らなら」


『ちょっと待ってくれよ……! 死体、このまま置きっぱなしはヒドいだろ。機兵の手なら直ぐに埋めれるからさ……!』


 どうやら弔ってやりたいらしい。


 流体装甲で即席のスコップを作り、タルタリカの死体を埋め始めた。


 話を合わせてやり、フェルグスの好きにさせる。これは……甘い顔を見せてるわけじゃない。俺もフェルグス達のやりたい事はわかる。


 俺自身が賛成してやらせてる事だから、これは俺の責任だ。




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:星屑隊隊長


「隊長、アイツらなにしてるんですかね? 砂遊びに見えますが……」


「想定より早く戦闘が終わった。時間はある。まだ好きにさせておけ」


 タルタリカを弔っているダスト3から視線を切り、先程の戦闘の映像を見る。


 射撃性能はお世辞にも良いと言えないが、近接戦闘能力と機動力には目を見張るものがある。


 神経接続操作なら同等水準の事ができるだろうが、通常の操作方法ではあそこまでの動き、今の機兵には難しい。


 脚からブレードを生やした動作。あれは神経接続でも再現は困難だろう。巫術師だからこそ出来た荒業だ。


 荒業といえば、最初の跳躍もその部類だ。


「…………」


 見返すと、跳躍の瞬間に爆発(・・)が起こっている。


 跳躍と同時に脚部の装甲を爆発させたのだろう。巫術で念じることで爆発させ、跳躍能力を向上させたのだろう。


 帰ってきたら「二度と船上でやるな」と注意せねばならんが、あの技を直感的にやってのけたのだとしたら、末恐ろしい少年だ。


 だが、今の彼ではレンズ軍曹には勝てまい。


 高度な近接戦闘能力を持っていようが、近づけないと宝の持ち腐れだ。


 機動力が優れていようと、弾丸の方が遥かに速い。初見で対応するのは難しいが、先の戦闘でレンズ軍曹は学習した。必ず対応してくるだろう。


 平均的な射撃能力があれば戦術の幅が広がり、勝ち目も見えてくる。


 だが、フェルグス特別行動兵には射撃能力(それ)が無い。


 武器になるのは「巫術」「近接戦闘能力」「機動力」の3つだけ。


 真っ当な手段で、フェルグス特別行動兵が勝つのは難しいだろう。


 どうする、ラート軍曹。


 指示(ことば)だけで、その子を勝利に導けるのか?




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