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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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TIPS:少年兵とゴブリン



【TIPS:少年兵とゴブリン】

■概要

 多次元世界の少年兵に使われる名称の1つ。オークを「大苦」と書く者がいるように、「餓鬼(ゴブリン)」と表記する者もいる。


 少年兵を指して「ゴブリン」と呼ぶことは蔑称にあたるうえに、人類種の1つとして<ゴブリン>が存在するため先進世界の公の場では使われない名称である。ただし、公の場以外では使う者も少なくない。



■人類連盟と少年兵達

 人類連盟の定義では18歳未満が「児童」のため、人連の創設当初は例外なく児童の軍隊参加が条約で禁じられていた。


 だが、人連創設者の死後、「本人の意志や止むなき事情がある場合は参加可能とする」という条約に変えられ、少年兵普及に歯止めがかからなくなった。


 先進世界でも少年兵が使われている事もある。代表例としては交国のオークが挙げられる。交国はオークだけではなく、後進世界の孤児等を育成し、戦場に投入している。


 交国に倣って少年兵を積極的に使い始めた国家も少なくないが、成年兵並みに活躍できる少年兵は非常に少ない。


 少年兵は地雷除去や偵察、挙げ句の果てには特攻任務を与えられ、消耗品として戦場に投入される事が多い。そのため数多くの少年兵が無惨に命を散らしている。



■少年兵が生まれる背景

 多くの少年兵は成年兵より弱い。弱いからこそ調達が容易なため、多くの国家・組織が彼らを「使い捨ての道具」として戦場に投入している。


 成年兵より弱いとはいえ、扱いやすい小火器を与えれば肉体が成熟していない子供でも、ある程度の戦力になる。


 特に銃火器のない後進世界では小銃で武装した少年兵でも大きな脅威となるため、異世界侵略では幅広く使われている。


 少年兵に苦しめられた後進世界の住人達が――痩せこけ、薄汚れてしまっている――少年兵を「ゴブリン」と呼び出したのが、その呼称の始まりとされている。



■安価な生体兵器

 少年兵は調達が容易なだけではなく、維持コストが安いという利点もある。


 大抵の少年兵は無給で戦わされており、最低限の食事だけで命懸けで戦っている。戦況次第ではその最低限の食事すら与えられない事もある。


 それでも彼らは戦う。指揮官を務める大人に「戦わないと殺す」と脅されているという事情もあるが、戦場から逃げようにも「逃げ場」が存在しないため、少年兵部隊で戦わざるを得ないという事情もある。


 異世界の戦場に投入されてしまえば故郷に帰るアテすら失う事になる。参加している部隊以外、居場所がない以上、踏みとどまって戦うしかなくなる。


 少年兵を使う組織の中には、調達の際に故郷の人間を――例えば親を――殺させたり、手足を切り落とさせて精神的にも「逃げ場」を奪う者もいる。


 成年兵より弱かろうと「言う事を聞かせやすい」という理由で少年兵を使う者達は少なくない。少年兵を使って「安く」異世界侵略を行い、現地の児童を調達して戦力を補充している者達も多く存在している。


 児童の兵士利用に歯止めをかけるべき人類連盟は腐敗しており、犯罪組織に限らず国家すら好き勝手に少年兵を使っている。



■言語の問題

 少年兵は主に後進世界で調達されているが、彼らを兵士として使うためには共通の言語を理解してもらう必要がある。


 ただ、多次元世界はプレーローマの影響で<和語>が広く普及しているため、言語の違いによる問題は発生しづらくなっている。


 そのため和語が使われている後進世界の住民が最も少年兵として狙われやすい。中には少年兵の安定調達のために現地住民と結託し、児童の買い取りを行っている組織もある。


 小銃より安い値段で買い取られた児童達は訓練キャンプに送られ、最低限の戦闘訓練を受けた後に異世界の戦場に投入されている。


 他、訓練と調達を兼ねたキャンプが作られている場所もある。そこには生まれた瞬間から少年兵になる事を義務づけられた赤児もいる。



■セーフティネットとしての少年兵

 少年兵の中には「誘拐」や「脅迫」によって少年兵に仕立て上げられた者が多く存在するが、自ら望んで少年兵になった者達もいる。


 例えばストリートチルドレン。彼らは生きる糧と居場所を得るために少年兵になる事も珍しくない。少年兵になったところで幸せになれるわけではないが、行き場もなく飢え苦しんでいる彼らの数少ない選択肢として、「少年兵として戦う」というものもある。


 そんな子供達が生まれないよう、国家による福祉政策を充実させるべきなのかもしれないが、そんな余裕はない国家も珍しくない。


 かくして少年兵というセーフティネットに頼る子供達が生まれる。ただ、彼らが戦場で救われる保証はない。何とか生き残ったとしても、身体に障害が残る可能性もある。


 少年兵をより「使い勝手のいい兵士」にするために、食事に薬物を混ぜてくる組織も少なくないため、薬物中毒になってしまう少年兵も珍しくない。


 何とか戦場から逃れる事が出来ても、戦場での体験が影のように付き纏う事になる。戦場では当たり前だった暴力を、ふとした拍子に日常でも振るってしまう元少年兵もいる。


 戦場以外の生き方を学んでこなかった結果、どこにも馴染めず戦場に戻っていかざるを得ない子も多い。そんな子供達の社会復帰を支援する組織や施設もあるが、経済や環境の問題で十分な支援が行えているとは言えないのが現状だ。


 そもそも、少年兵が生まれ続けている以上、どれだけ支援が充実しても根っこの問題は解決したとは言いがたいのだろう。



■少年兵の積極利用

 泥縄商事は少年兵の「調達容易で低コスト利用可能」という利点から、彼らをよく利用している。泥縄商事に限らず、少年兵は安く酷使されているが、あえてその「逆」を行っている者達もいる。


 例えば民間軍事会社<ハーメルン・グループ>は「児童に対する職業訓練・職業斡旋」と称し、行き場のない子供を積極的に勧誘している。


 ハーメルン・グループの少年兵達は訓練施設で軍事訓練だけではなく、一般教養も学んだ後、戦場に派遣される。あるいは少年の風貌を活かした警備・護衛任務を任されている。


 一般的な少年兵と違い、ハーメルンの少年兵達はよく鍛えられたうえで仕事を任されているため、少年兵らしからぬ戦果を残している。


 ハーメルン・グループを経由し、先進世界の正規軍に勧誘された少年兵もいる。


 ハーメルンの経営陣も「質の高い少年兵」を積極的に先進国に紹介している。単に訓練した人材を紹介するだけではなく、異世界侵略を行う侵略国家の需要を鑑み、侵略地で勧誘しておいた少年兵を育成し、紹介している。


 訓練済みの現地人を採用しておいた方が、「統治後に現地人との問題(トラブル)が起きづらい」と売り込んでいる。


 また、発展途上の後進世界にも自社の少年兵育成実績を売り込み、現地政府の支援を受けて訓練所を開設している。そこで現地の孤児等を育て――先進国の技術もある程度扱える――兵士として提供している。


 舵取りを誤れば犯罪組織として多方から追われかねない業務を行っているが、ハーメルン・グループは人類連盟の常任理事国にも取り入り、上手く立ち回っている。


 交国もハーメルン・グループを使い、少年兵育成を行う事がある。近年ではネウロンの巫術師育成のためにハーメルンの教官らを呼び、訓練を任せていた。<北辰隊>もその訓練に参加している。



■ハーメルン・グループと少年兵

 ただ、ハーメルン・グループは勧誘した児童にもそれなりの給与を支払っているため、少年兵の「低コスト」という利点はほぼ潰してしまっている。


 それでも各国政府に上手く取り入り、政府の仕事を受ける事で多数の少年兵を雇用し続けている。


 例えば「行き場のない孤児を放置していると、犯罪組織が少年兵として使い始め、治安が悪化しますよ」と「助言」を行う。


 ここは福祉政策の一環として、先手を打って少年兵を育成しませんか? 育成のノウハウなら弊社が持っています。育成した少年兵は国の未来を担う軍人にして良し。警察組織に配置して良しですよ――などと吹き込み、資金を引き出す。


 そうする事で行き場のない子供達の雇用を生み出し、職業訓練によって手に職もつけさせている。やり方は「真っ当」とは言いがたいが。


 ハーメルンの少年兵達は質の良さと作戦方針の関係から生き残り続け、大人になった後もグループで働き続ける者も少なくない。


 その手の元少年兵らは少年兵達の指揮官として戦場に赴き、あるいは教官として訓練所で働いている。少年兵時代に稼いだ貯蓄を使って戦場から離れ、新しい仕事を始める者や、一般的な少年兵の社会復帰支援を手伝う者もいる。


 ハーメルン・グループは各国政府も巻き込み、支援を引き出す事で「セーフティネット」を作りあげている事例となっている。


 だが少年兵は少年兵に変わりが無く、「他に選択肢のない子供達を安く買いたたいている」という批判がないわけではない。


 昔の<エデン>は<ハーメルン・グループ>のやり方を批判し、ハーメルンの幹部を襲撃した事もある。ただ、その<エデン>にも少年兵は在籍している。今も昔も、<エデン>にも少年兵は存在する。



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