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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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袋の鼠達



■title:交国領<ネウロン>の繊三号基地にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「アル! レンズ! 鎮痛剤はちゃんと打ったんだろうな!?」


「打ってます!」


「大丈夫~!」


 実際は打つフリをしただけ。僕らは巫術による観測可能圏内で誰か死んでも頭痛を感じないよう、ヴィオラ姉さんに「枷」を解いてもらっている。


 だから、昔より死に鈍感になったけど……誰かが死んでいくのはわかる。巫術の眼で繊三号基地の地上部を観ると、魂が消えていくのが観えた。


 戦闘が始まっている。


 交国軍と解放軍が衝突している。多分、機兵まで出撃する騒ぎになっている。


 交国軍は宣言通り、しっかりこちらを包囲しているらしい。四方八方から急速に敵集団が近づいてくる。それだけではなく、基地内にも多数の敵が現れ、基地の重要設備を次々と押さえているらしい。


 直ぐ近くでも戦闘の音が聞こえる。銃撃戦が直ぐ近くで発生している。


 索敵をしつつ、総長に「僕も応戦してきます」と言ったものの……総長は許可してくれなかった。


「落ち着け。いまお前が出て行っても、やれる事は大してない」


「総長と王女様達が逃げる隙ぐらい作ってみせます」


「駄目だ。お前ら2人共、オレの傍にいろ! これは総長命令だ」


 かなりマズい状況だと思うけど、総長は落ち着いた様子だ。大声を上げているものの、それは銃撃戦の音に負けないように声を張り上げているだけ。


 集会場の中に飛び込んで来た敵兵に発砲し、倒す余裕すらあるようだった。解放軍の兵士ですら右往左往しているのに……。


「オレ達はここで待機だ。下手に動くと、ラフマ隊と合流できなくなる」


「ラフマ隊長達はどこに――」


「アイツらには、いざという時の退路を確保しておいてくれと命じている。この状況は、ラフマ達が何とかしてくれる予定だ」


 ラフマ隊長達の位置、巫術でよく確認しておけば良かった。


 無事なんだろうか? 基地についた後、一度町の方に向かったようだからその後の足取りがわからないんだけど……総長はラフマ隊長達と通信しているようだ。向こうも無事らしい。


 むしろ、こっちの方がマズいかもしれない。


 敵兵がさらに攻勢を強めてきた。


 強化外骨格(パワードアーマー)に身を包んだ交国軍の歩兵が一気に突っ込んできた。


 総長は「下がれ!」と言い、僕らを庇う形で立って敵に向けて発砲した。弾丸は敵の装甲に弾かれたものの、密かに放られた手榴弾が敵兵を下から突き上げた。


 それで敵全員を倒す事は出来なかった。総長の顔を弾丸がかすめるのが見えた。


「総長!」


「かすり傷だ。問題ねえよ! それより一度下がるぞ!」


 強化外骨格に身を包んだ兵士達がやってきて以降、地下の解放軍は押されっぱなしのようだった。魂が次々と消えていくのが観える。


 このままじゃ、全員やられる。


 ネウロンを、交国から解放する事が出来なく――。


「レンズ! アレを使うぞ!」


混沌(エネルギー)切れ怖いけど、温存は無理っぽいもんね~……!」


 ヴィオラ姉さんが作ってくれた携帯型の流体甲冑発生装置を使う。


 2人で流体甲冑に身を包み、総長が制止するのも聞かず突撃する。


 強化外骨格の兵士がこちらに発砲してきたけど、前衛に立ってくれたレンズが盾を作って攻撃を防いでくれている。


 その盾に守ってもらいつつ敵に近づき、流体甲冑を使った間接技や打撃で敵を無力化していく。強化外骨格の動力部を破壊し、外骨格をただの重りに変えておく。


 集会場に踏み込んできた敵は制圧できたけど、敵はまだいる。


『アル。盾役変わって~!』


『了解』


 レンズが使っていた流体甲冑の盾を貰いつつ、レンズの前に立つ。


 レンズは流体甲冑で狙撃銃を作り上げ、僕の陰から通路の先にいる敵兵を撃ち始めた。遮蔽物が多いから敵の位置の目視確認が困難だけど、僕らには巫術の眼がある。壁越しだろうと敵の位置は把握できる。


『総長。僕らが弾除けになります! ついてきてください!』


「無茶しやがる……! 流体甲冑(それ)はそこまで長持ちしねえから、使いどころを間違えるなって口酸っぱく言ってるだろ~……!?」


『今が使いどころです!』


『ささっと逃げないと、皆死んじゃうって!』


 流体甲冑(ぼくら)が敵を押し返すと、集会場にいた解放軍兵士やそれ以外の反交国組織の人達も息を吹き返した。


 というか、僕らが切り拓いた道から次々と逃げ出し始めた。皆も混乱しているから、組織的な反攻は不可能みたいだ。


 それどころか――。


『…………! 総長!!』


「うおっ……?!!」


 総長の盾になる。後ろから飛んできた弾丸を弾き、発砲した人を殴り倒す。


 後ろには味方しかいないと思ったけど、解放軍兵士らしき人が僕らを撃ってきた。交国軍側の人が紛れ込んでいたって事だろうか……?


「す、すまん。アル……」


『誰が敵で、誰が味方かの見分けがつきづらいですね……!』


エデンの人間(おれたち)以外、全員敵だと思え。逃げるのを諦めてオレの首を手土産に投降するヤツも出てくる。さっきみたいにな」


『そんな……』


『ってことは、メラちゃんも危ないじゃんっ……!!』


 レンズの言う通り、王女様も危うい。


 エデンの長である総長が狙われたって事は、ネウロン解放においては総長以上の重要人物であるメラ王女もかなり危うい立場だ。


 味方の裏切りなどなくても、交国軍の襲撃だけで十分危ういけど――。


『総長、メラちゃんを助けに行こうよ!』


「……駄目だ」


『はあ!? なんで?!』


「他人の命を守っている余裕なんてない。王女は(・・・)諦めろ(・・・)


 諦めろ?


 いや、何を言って……。


「向こうは向こうで何とかする。ピースメーカーに任せておけ。保険(こども)がいるとはいえ、奴らも王女を死なせたりしないはずだ」


『けど、この状況でピースメーカーの人達は逃げられるんですか?』


「奴らの事だ。何とかするさ」


『何とかって……』


 メラ王女はネウロン解放の要のはずだ。


 それ以前に……彼女は、味方らしい味方がろくにいない状態でネウロンに戻ってきた。王女としてならともかく、一個人としての味方は殆どいない人だ。


 解放軍の人達が我先にと逃げて行く中、王女様を守れるのはピースメーカーの人達と僕らしかいないはずだ。それなのに――。


「そんな事より、今は自分達の身を最優先で――――おい! レンズ!?」


 レンズが突然走り出した。


 総長の制止を無視し、流体甲冑を纏ったまま、どこかへ走っていった。追いかけようと思ったものの、横合いの通路から来た敵に対応していると置いて行かれた。


「クソッ……! こういう事がありそうだから、連れて来たくなかったんだよ!」


 総長は通信機越しにレンズに呼びかけていたけど、レンズは応答しなかった。


 多分、王女様を助けに行ったんだろう。


『総長。こうなったら僕らも助けに行きましょう』


「馬鹿言うな」


『僕らはヤドリギも持って来ています。機兵を奪って戦う事も可能です』


「そのヤドリギは小型化したものだから、有効範囲も狭いだろうが」


『僕ら自身が機兵に乗り込めば、その辺の弱点は何とかなります』


「そんじょそこらの機兵乗りならお前らで蹴散らせるが、向こうには犬塚銀も来ているんだ! 今はさすがに退くしか――っと……!!」


 さらに新手の交国軍兵士がやってきた。


 総長と一緒に応戦していると――通路先の兵士がバタバタと倒れていった。


 誰かに背後から撃たれたようだったけど――。


「いたいた! カトー総長、困りますよ! 勝手に移動されたら……!」


 やってきたのはラフマ隊の人達だった。


 僕らを助けるために来てくれたらしい。


 退路を確保したから逃げよう――と言ってきたものの、総長は僕をラフマ隊の人達の方に押しつつ、自分は「まだやることがある」と言いだした。


「アルを頼む。オレはレンズを連れ戻してくる」


『ちょっ……! 総長!?』


「先に逃げてろ! 後で必ず追いつく!!」


 そう言った総長の後を、ラフマ隊の人が3人ついていった。


 残ったラフマ隊の人達がため息をつきつつ、「子連れだと大変だな」と呟いた。そして僕の背中を叩いてきた。


「とりあえず逃げるか。スアルタウ君よ」


『僕も行きます。総長達だけじゃなくて、皆が逃げる時間を稼がないと……!』


「いやいや、馬鹿なことを言ってんじゃ――――あっ! おいっ! 待てコラッ! お前も行ったらオレらが総長にドヤされるだろっ……!?」


 総長達を追う。


 レンズは迷い無く地上へと向かって行ったようだ。


 おそらく、レンズの向かう先に王女様がいる。


 多分、王女様の魂の位置を把握し続けていたんだろう。


『全員で逃げないと――』


 レンズ達を連れ戻す過程で、交国軍を蹴散らしていくしかない。


 蹴散らしていけば、敵の勢いも削げるはずだ。


 向こうにあの犬塚特佐がいる以上、そう簡単にはいかないだろうけど――。





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