繊十三号の戦い
■title:交国領<ネウロン>にて
■from:交国軍事委員会の憲兵
『中尉! 敵がこちらの包囲網を突破しました!』
「かぁ~っ……!! 見失うなよ!? 出来れば町中で仕留めろ! 防壁あるから出られる場所も限られるし、簡単だろ?」
『は、はいっ……。何とかしてみます!』
「一応、機兵部隊も出す! だが、あくまでそれは保険だからな?」
繊十三号に潜んでいるテロリストを倒すだけの楽な仕事のはずが、差し向けた部隊が蹴散らされたらしい。
敵はセーフハウスに使っていた屋敷から脱出し、車を使って逃走中。車は敵が逃走に使う可能性が高いから爆弾も仕掛けておいたのに、解除されたらしい。
屋敷から飛び出した車両は、妙に防弾性能が高いらしく包囲網を突破された。一応、こうなる可能性も考慮して機兵部隊を待機させておいたが……さすがに町中でホイホイと機兵は動かせん。
機兵をブツけるのは、敵が町中から脱出した後。
出来れば、その前に始末したいが――。
「絶対に取り逃すな! 取り逃したら、犬塚特佐に『テロリストと通じている疑いがある』なんて在らぬ疑いをかけられるぞ……!」
あの人は変わっちまった。
味方の交国軍人すら疑い、拷問にかけてくる狂人になっちまった。
まるで何かに取り憑かれたように、別人のようになっちまった。
ネウロンでの捕り物に失敗したら、犬塚特佐が特佐権限を使って委員会の仕事にすら口出ししてくる可能性がある。絶対に敵を倒さないと……。
出来れば生け捕り。だが最悪皆殺しでいい。特佐に疑われるよりマシだ……!
『ちゅっ、中尉っ! 敵が防壁を突破しそうです!』
「どうやって!? お前らが封鎖しているはずじゃ――」
『それが、敵の車が流体装甲のようなものを吐いて、防壁に道を建設しながら飛び越えていこうとしていますっ!』
「そんなバカな芸当、できるはずが――――」
防壁の一角に視線を向ける。
すると、部下が言っている通りの光景が見えた。
テロリスト共が乗った車が、防壁に道路を作りながら飛び越えていき、町の外に下りていくための道路を作って下りていく。完全に突破されてる……!
こうなったら機兵を動かすしかない! 敵が町の外に出たなら、機兵でも遠慮なく暴れられる。そのはずだったんだが――。
「機兵部隊はまだか!? 出撃、遅いぞっ!」
『報告です! 機兵乗りが全員、やられています』
「なっ……何だと?」
『何者かに首を掻ききられて――』
通信が途絶える。
こちらに報告していた部下の声が聞こえなくなる。
敵は全員、町の外に逃げたものと思っていたが……まだ町中に敵が潜んでいるのか? 敵の別働隊でもいるのか?
敵の車両は防壁を完全に突破し、町の外を爆走して逃げて行く。追跡中の偵察用ドローンも撃ち落とされた。……このままだと取り逃しかねない。
「おいっ、誰か…………」
気づけば、周りに人がいなくなっている。
全員、怖じ気づいて逃げた? ……そんな馬鹿な話があるか。
……闇の中に何かが潜んでいる?
「勘弁してくれっ……!」
寒気に押され、装甲車に乗り込む。
直ぐに発進し、まだ無事な部下を探そうとしていると――。
「――――」
トン、と音を鳴らし、誰かが車両前部に飛び降りてきた。
小柄な人影。
逆光で顔が見えない。
影が、俺の身体を黒く染めて――。
■title:交国領<ネウロン>にて
■from:
「権能起動」
走行中の車両の助手席にスルリと入り込み、運転手さんに拳銃を突きつけ、「はい止まってください。路肩でいいんでゆっくりと」とお願いする。
声を震わせている運転手さんにいくつか質問し、所属と目的を明らかにさせる。……この人達は私達の正体も重要性もろくに知らないようだ。
ため息つきつつ発砲して射殺し、通信機を渡してもらう。変声機を使い、運転手さんの声を真似、運転手さんの部下達に「体勢を立て直す。総員、方舟まで一時撤退」と命じておく。
車から下り、トコトコ走って脱出用に二輪車に向かう。
「ハァ~……! マジで無意味な戦いっ……!」
こういう無駄な荒事は勘弁してほしい……!
これならまだ、ガキ共の子守りの方がマシですよ……!!
しかし時間かけすぎた。早くあの人のとこに戻らないと――。
あの人、す~~~~ぐ他人のこと心配し始めるんですからぁ……!
隊長さん達に噛みついて、町に戻れ~とか言い出しかねません。
さっさと合流して、安心させてあげましょ。……手のかかる護衛対象だこと!
「あっ……。あぁ~っ…………」
窓ガラスに映った自分の姿を見て、呻く。
服に血がついている。返り血だけではなく、私自身もちょっと怪我している。
制限付きで戦っていたから――って言ったら言い訳か。くそぅ……なんかちょっと痛いな、って気はしてたんですよっ……!
「さいあく……。ヴィオラ様に貰った服、汚しちゃったじゃないですかっ……!」




