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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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エデンの立場



■title:交国領<ネウロン>の繊三号基地にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「ここが決起集会の会場か……」


「ネウロン界内だったね~」


 輸送船から下り、港に降り立つ。


 潮の香りがするけど、セーフハウスのあった繊十三号(ケナフ)とは違う場所だ。まあ、それは当然だろうけど。


「…………?」


「てか、ここ、なんか見覚えがな~い?」


「そう、だな……?」


 レンズの言葉を聞きつつ、辺りを見回す。


 確かに見覚えがある。


 僕らが立っているのは海上に建設された交国軍の基地のようだ。……少し離れたところにある陸地には、町が広がっている。


 こんなところに来た覚えない。


 ないのに、どこか見覚えが――。


「あっ! そうか……! ここ、繊三号だよ」


「繊三号って、バフォメットと初遭遇したとこ?」


「そうそう。前は海上移動都市だった場所だよ。ほら、あそことか――」


 バフォメットとの戦闘で破損した繊三号があの後、どうなったか謎だったけど……どうやら復興したらしい。


 復興したとはいえ、海上移動機能は失ったらしい。繊三号全体が浅瀬に移動している。前は浮かんでいたから僅かに揺れる感覚があったけど、今は揺れていない。


 総長に聞くと、繊三号は海上移動都市としての役割を終え、大陸の傍で固定基地として改修されたらしい。


 交国軍の基地としての役目も果たしつつ――今はタルタリカと戦う必要もないから――海門を開くための港の役目をこなしているらしい。


繊三号(ここ)から周辺の開拓街に荷物を運ばせたり、逆に開拓街で取れたものを繊三号経由で界外に運んでいるんだとよ」


「へぇ~……」


 大陸側にはそれなりの数の開拓街が作られ、数十万の人間が入植して来ているそうだ。その人達にとって、繊三号は重要な中核(ハブ)港となっているようだ。


「……ネウロンは、本当に復興しつつあるんですね」


「といっても、交国の都合の良い形に……だけどな」


 繊三号から大陸側に広がる町並みを見つつ、話をする。


 総長はしばし、「だからこそネウロンを解放しなきゃならないんだ」と熱弁を振るってくれた。レンズはあまり熱心に聞いていない様子だったけど……。


「……そういえば、繊三号(ここ)は総長と初めて会った場所ですね。あの時、総長が来てくれなかったら……ラート達は危ないところでした」


「あぁ……。そんな事もあったなぁ……」


「ここって一応、交国軍の基地っしょ? まさかとは思うけど、こんなところで決起集会するわけじゃないよね……?」


 レンズが「さすがにこの外でやるんだよね?」と聞くと、総長は笑みを浮かべて「繊三号の地下でやるんだよ」と言った。


 総長曰く、繊三号基地は解放軍が密かに掌握しているらしい。基地司令も基地にいる交国軍人の多くも解放軍の人間のようだ。


「解放軍兵士は、今も交国軍に所属している奴が多い。解放軍の主立った面々が集まって決起集会するなら、交国軍基地を使った方が集まりやすいんだよ」


「だとしても、そもそも集まる必要あんの?」


 レンズが「決起集会自体、やる意味あるの?」と問いかける。


 それは確かにそうかも。総長の言う通り、集まりやすい場所でも……交国軍に反交国組織の尻尾を掴ませかねない行動かもしれない。


 総長は「その辺は大丈夫だ」と言ったものの、どう大丈夫かに関しては教えてくれなかった。


「決起集会は開かなきゃいけないんだよ。ここでネウロン解放の大義名分……メラ殿下のお披露目をして、解放軍の奴らの尻を叩かなきゃならん。殿下の戴冠式もここでやる事になる」


「ふーん……?」


「今回、解放軍及び関係組織の代表や幹部も御忍びやってくる。だから……お前らは滅多な事をしてくれるなよ。そいつらとこじれたら、ネウロン解放そのものが怪しくなってくるから……」


 そういう事情もあるから、一層お前達を連れてきたくなかったんだ――と総長は言ったものの、レンズは軽い調子で「気をつけま~す」と返した。


 優しい総長もレンズの振る舞いが目に余るのか、「お前はもうちょっとエデンの一員として自覚を――」と説教し始めた。


「…………」


 総長がエデンの理念を改めてレンズに説いているのを見つつ、少し、考える。


 ラフマ隊長の言葉を思い出す。……総長がラフマ隊長達の恩人である「カトーさん」を殺害したという話を思い出す。


 アレは本当なんだろうか……?


 総長のコードネームが「カトー」なのは、そのカトーさんが由来だと思うんだけど……名を継がせてもらった相手を殺すなんて、有り得るだろうか。


 さすがにアレは嘘だと…………思いたい。


 あるいは、何か事情があったんだと――。


「お前だって交国の蛮行の被害者で…………。アル? どうした?」


「あ……いえ……」


 総長の横顔をまじまじと見ていたら、総長に不思議そうな顔で見られた。


 総長を……疑うような考えを抱いているのが後ろめたくて、「何でもありません」と誤魔化す。


 レンズは総長が自分から視線を切った隙に、コソコソと王女様の方へと行ってしまった。総長は「話はまだ終わってないぞ!」と言ったものの、それ以上の話は出来なかった。


「カトー。お前達以外は地下の集会場に到着している」


 スペーサーさんがやってきて、僕らに「早く地下に迎え」と促してきた。


「巫術師と雑談する暇があるなら、王女を連れてさっさと行け」


「まだ着いたばっかりだっていうのに……。もうちょっと余裕のある予定にしておいてくれよ。スペーサー」


「我々は観光に来たわけじゃないんだ」


 スペーサーさんはそう言った後、僕を一瞥して舌打ちしながら地下に向かっていった。直ぐにはわかりあえそうにないかもな~……。


 総長は僕を慰めるように肩を叩き、「行くぞ」と言って歩き出した。レンズも王女様とピースメーカーの人達と一緒に地下に向かいだした。


 ただ、ラフマ隊長達は地下の集会場に来ないらしい。


「私達は外の警備に加わってくるわ」


 そう言い、フラリと繊三号基地の物陰に消えていった。


 ラフマ隊長の部下の人達も、いつも間にか姿を消している。あの人達にも7年前お世話になったから改めてお礼を言いたかったんだけど……まあ、後で会えるか。


「アルとレンズは、俺の傍にいろ。何があっても離れるなよ」


「わかりました」


「あたしはメラちゃんの傍で良くな~い?」


「駄目に決まってんだろ……。解放軍兵士が巫術師をよく思っていないのは、スペーサー達の反応でわかっただろ? そんなお前が殿下の傍に着きっきりだったら、解放軍の奴らは面白く思わないはずだ」


 レンズは面白くなさそうにしていたけど、王女様の邪魔はしたくないからガマンしてくれるようだ。


「お前ら、ヴァイオレットが用意した装備、ちゃんと持ってるよな?」


「もちろん」


 入念に練られた決起集会計画だから、荒事になることはまず無いだろうけど……戦闘用の装備は念のため持ってきている。


 ヴィオラ姉さんが作ってくれた小型の流体甲冑発生装置も、肌身離さず持っている。これのおかげで僕らはそれなり以上に白兵戦もこなせる。


 使わずに済むのが一番だけど――。


「……来たぞ」


「アレが例のエデンと……巫術師か」


「人の皮を被ったバケモノ共が……」


「「…………」」


 繊三号の地下区画に入ると、解放軍兵士らしき人が沢山いた。


 数十人はいるようだ。解放軍の代表や幹部の人達もいるって話だけど、その護衛や集会場周辺の警備を務める人達もいるんだろう。


 向こうにも「エデンに巫術師がいる」って話は伝わっているらしく、周囲の視線が突き刺さってきた。


 中には僕らに近づいてきて、「お前らの所為でネウロンはメチャクチャだ」と言って凄むオークの解放軍兵士の姿もあった。


 総長が割って入ってくれたから、何とか喧嘩にはならずに済んだけど……。


「気分悪いと思うが、耐えてくれ」


 総長にそう言われ、頷く。


 解放軍の人達に敵意を向けられるのは覚悟していた。


 周囲の解放軍兵士らしき人達は、巫術師(ぼくら)の陰口だけではなく、エデンの事も悪くいってきた。


 その事で総長に謝ると、総長は「お前らの責任じゃない」と言ってくれた。


「それに、どっちにしろエデンは舐められているんだよ」


「そうなんですか……?」


「ネウロン解放の大義名分は、殿下が担うものだ。解放軍兵士は解放のための主戦力を担う事になる。……エデンにもそれなりの数の戦闘員はいるが、ネウロンに来てもらうエデン戦闘員の数は、解放軍兵士の数に劣るんだよ」


 解放軍兵士の人達は、ネウロン解放の主力を担う自分達の影響力――あるいは戦力の方を強く考えているらしい。まあ、当然の計算なのかも……。


 自分達より弱いもの(エデン)を、ネウロン解放の「おこぼれに与ろうとしている存在」として見ているようだ。


「要は『ケッ! エデンなんていなくても、ネウロン解放なんてラクショーだぜぇ』って思われてるってこと?」


 レンズが頬に人差し指を当てつつ呟くと、総長は「そういうこった」と言った。


「まあ、結果を残していけば、奴らのオレ達を見る目にも変化が生まれるさ」


「うん……。ですよね」


「でも、ぶっちゃけウザいね」


「あのっ、エデンの皆さん、わたくしの後ろにいてください」


 そう提案してくれたのはメラ王女だった。


 胸に手を当てつつ、硬い表情で僕やレンズを庇う位置に立ってくれた。


 さすがに解放軍の人達も、王女様相手に食ってかかる事はないらしい。視線は相変わらず飛んでくるけど、食ってかかってくる人はいなくなった。


 総長は遠慮していたけど、レンズは「メラちゃんありがと~!」と言って王女様に抱きついている。ピースメーカーの人は「無礼だぞ」と少し怒ってきたけど、王女様が苦笑しながらなだめてくれた。


「ありがとうございます。王女様」


「いえ。むしろ、わたくしの方が迷惑をかけていく事になると思うので、せめてこれぐらいはさせてください……」


 そんな話をしていると、集会場に辿り着いた。


 解放軍兵士が先に入っていき、王女様も――皆の前で演説をしなければいけないから――僕らから離れて、集会場の演壇へ向かっていった。


 レンズもそそくさと王女様についていこうとしたけど、総長に首根っこを掴まれ、「オレの傍にいろ」と叱られた。


「あたしはメラちゃんの護衛でついてきたのに~……」


「おいおい……。お前はエデンの人間なんだから、総長(オレ)を優先してくれ」


 レンズが不服そうに口を尖らせる中、演壇にオークが上がった。


 どうやら、あの人がブロセリアンド解放軍の現代表らしい。


 7年前の蜂起より前から解放軍兵士だったけど、7年前の蜂起で解放軍の主立った面々が捕まったため、自分が解放軍を引き継ぎ、立て直した――と語っている。


 解放軍の現代表は少し演説をした後、メラ王女を紹介し始めた。


 皆に対し、「ネウロン解放の大義名分を担う御方だ」と紹介した。


 解放軍の現代表と一緒に演壇に上がった王女様は――少し緊張した面持ちだったけど――皆に対し、ゆっくりと語りかけ始めた。


 時折、声が震えたりうわずったりしている。それでも胸を張って反交国勢力の皆に呼びかけ続けた。


「ネウロン解放のために、皆さんの力を貸してください」


 その対価として、ネウロンに皆様の国家を作る支援も後押しも行う。メリヤス王家は恩義を忘れない。絶対、皆様を後悔させません――と語った。


 王女様の演説が終わると、迎えられた時よりも大きな拍手が響いた。解放軍兵士からの反応は良好なようで、薄暗い会場のそこら中から「ようやく、真の自由が手に入る」「俺達の時代が来たんだ」といった話し声が聞こえてきた。


 王女様のネウロン帰還後最初の仕事が終わった。


 相当、緊張していた様子だったけど……しっかりとこなしてくれた。


 あの人も戦っている。


 今度は、王女様の頑張りと期待に僕らが応える番だろう。


『素晴らしい演説だな。臆病者のメリヤス王家って立場で台無しになっているが』


「――――」


 急に、会場にスピーカー越しの声が響いた。


 演壇に再び立った解放軍代表の声じゃない。


 あの人も、マイクを持ったまま困惑した表情を浮かべている。


 誰の声だ?


 どこかで……聞いた覚えがあるような……?


『何が「ネウロン解放」だ。貴様らが起こそうとしているのは、交国に対する反抗作戦ですらない。テロリスト共が手を結んで、治安を乱そうとしているだけだ』


「…………」


 レンズが王女様の方へ走ろうとしたけど、総長がその腕を掴んで止めた。


 総長はスピーカーを睨み、厳しい顔つきを浮かべている。


 まるで、仇敵を睨むような顔つきだった。


『お前達は、完全に包囲されている。俺はネウロン総督の犬塚銀だ。……犬塚特佐(・・・・)と言った方がわかりやすいか?』


「なっ……!」


『繊三号基地にいる総員に告ぐ。くだらん火遊びはやめて、ただちに降伏しろ』





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