壊れた兄弟関係
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:死にたがりのラート
実験と模擬戦に向けた訓練を終えて船に戻ると、ヴィオラが紙を持ってきた。
子供達を手招きし、紙を渡そうとしているようだ。
「は~い、今日は皆にちょっとしたプレゼントがあります」
「プレゼント?」
「技術少尉から電子手紙出す許可が出たので、この紙に下書きを書きましょう。打ち込み作業は私がするから――」
フェルグス達が歓声を上げ、紙を受け取っていく。
久しぶりに家族と連絡取れる。それが嬉しくてたまらないらしく、紙を受け取ると、もうその場で下書きを書き始めた。
「こらこら、格納庫のド真ん中で書き始めるな。せめて端っこいけ、端っこ」
床に座り始めるフェルグスとグローニャを脇に抱え、格納庫の隅に運ぶ。
その後、ヴィオラと一緒に整備長達のところに行き、「ちょっと端っこ貸してください」と頼み込んだ。
嬉しげなフェルグス達の様子を見て和んでいると、ヴィオラが申し訳無さそうに見上げてきた。
「あの、ラートさん、私――」
「ああ、行ってきな。アイツらのことは俺が見てるから」
「すみません、いつも」
「いいってことよ! こういう事ぐらいしか出来ねえから、任せてくれや」
まだ仕事が残っているヴィオラを行かせる。
アイツらの栄養補給の準備もあるから、ヴィオラは大忙しだ。
こっちはこっちで機兵のチェックしつつ子供達を見守っていると、表情を強張らせたバレットがコソコソと近づいてきた。
「あの、軍曹……。あの子達、いつまで格納庫にいるんですか?」
「ああ、スマン。隅っこで大人しくしてるから勘弁してくれ」
アイツら、久しぶりに家族に手紙を出せるんだ。
その喜びに水を差したくないから、許してくれ――と頼む。
バレットは困り顔を浮かべているが――子供達が邪魔で作業できないってほどではないので――何とか認めてくれた。
「……やっと電子手紙出せるようになったのは良いことでしょうけど、それって技術少尉の許可ありきの話なんですよね?」
「そうなんだよなぁ……」
技術少尉の機嫌次第では、再び禁止になる可能性もある。
俺達みたいに頻繁に出せるわけじゃない。
「技術少尉は何で許可出したんですかね。急に……」
「そりゃあ……ヤドリギのおかげじゃね? ヤドリギは他の実験部隊にはないし、それのレポートまとめるだけでもそこそこの成果になるだろ。ヤドリギ作ったのはヴィオラの成果だけどさ」
「なるほど……?」
技術少尉とはケナフの一件で、もう歩み寄る事は不可能だと思っていた。
態度は相変わらずだが、ヤドリギという技術は技術少尉にとって「お宝」なんだろう。実験の進捗確認もよくやってるみたいだ。
「俺達も作戦内容や作戦区域次第では、自由時間に家族と連絡取れなくなることもあるが……アイツらは俺達と比べ物にならないほど拘束キツいからな。俺だったら家族に連絡取れなかったらキレて暴れるぞ」
「軍曹、弟バカだから弟のことよく話してますもんね」
「なんだとぅ。その通りだよぅ」
前は弟にも母ちゃんにも、手紙出せる日は毎日送ってた。
最近は……手紙書こうとすると、どうにも手が止まる日が多いけど……。
「…………」
「軍曹? どうかしましたか?」
「あぁ、いや……。そういえばアレ、どうなった? 出来たか?」
声を潜めて話しかけると、同じく小声になってくれたバレットが「トイドローンですね?」と言ってくれた。
「最終調整中です。明日には渡せるかと」
「おぉっ……! 悪いな、マジで助かる。金は――」
「お金は結構です。副業になっちゃいますし。ドローンは何とかしてみせますが、ぬいぐるみの方はどうしますか……?」
「どうって?」
「レンズ軍曹とケンカ中でしょ、貴方」
肘で軽く小突かれ、言葉で痛いとこを突かれた。
そうだ、レンズ……。巫術師による機兵運用の件以来、口も聞いてくれないんだ。あそこまでキレるのは初めてだ。
キレる理由も、一応、わかるけど――。
「……どうすればいいと思う? 土下座か?」
「うーん……。とりあえず、そっとしておくしかないんじゃ……? 模擬戦の件が片付かないことには、どうにも……」
「それでいいのかなぁ……?」
「ほとぼり冷めた後に聞いた方がいいですよ。ドローンもぬいぐるみもナマモノじゃないんですから、多少眠らせてても腐りませんって」
「うーん…………」
「ラートさ~ん! ちょっといいですか~っ?」
「おう! ちょっと待ってろ、直ぐ行くから」
バレットに「悪い」と言いつつ、アルのところへ走る。
手紙を書くうえでわからない字があるから、携帯端末で調べさせてほしいと言ってきた。それぐらいお安い御用だ。
しかし、皆結構、字が書けるんだな。
ネウロンの識字率、悪くないのか……なんて思いながら下書きをチラ見していると、未だ真っ白の奴がいる事に気づいた。
何も書いてないどころか――俺の視線が気になったのか――立ち上がって「部屋に戻って寝る」と言い出した。下書きの紙を置いて。
「おい、待てよロッカ。せめて紙持って帰りな?」
「いらねえ」
「おいおい……」
ロッカが置きっぱなしにしている白紙の紙を拾い上げ、追いかける。
この手紙は技術少尉の許可がないと出せない。あの人がまた機嫌を損ねたら、次はもういつ出せるかわからないんだ。
だから、「せめて部屋で書きな?」と言って渡そうとしたら――。
「いらねえ。オレには書く相手いねーんだよ」
「いや、でもさぁ……」
「お前みたいなクソ軍人にはわかんねえ話だろうけど――」
「待て。じゃあ話を聞かせてくれ――」
「触んなっ!!」
紙を渡そうとした手を叩かれた。
びっくりして紙を手放してしまうと、紙が風に流され、海に向かって飛び始めた。大焦りしながら追いかけ、飛びついて何とかキャッチ。
キャッチした時にはもう、ロッカは格納庫を出てしまっていた。
「ああ~! もう……。アイツ、どうしたんだよ~……」
とりあえず、追いかけて話を聞いて、この紙を渡そう。
手紙を出すチャンスを逃すのは危険だ。だから――。
「ラート軍曹。どこ行くんですか?」
「いや、ロッカと話をしに……」
バレットが俺の腕を掴み、呼び止めてきた。
俺が行こうとする「子供達、放置して行くつもりですか」と言ってきた。確かにアイツら置いていくのはマズいかもだけど、でもロッカが――。
「……貸してください」
「あっ」
バレットが俺の手からロッカ用の紙を奪う。
「これは、自分が届けてきます。あの子に」
「いや、でも、お前……いいのか?」
ネウロン人、苦手なんだろ?
そう言おうとしたが、バレットは直ぐに格納庫から出て行った。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:不能のバレット
心臓がバクバクと鳴っている。
ネウロン人と話したくない。顔も合わせたくない。
けど――。
「こっちか……?」
軽い足音が聞こえる。子供の足音が聞こえる。
音の聞こえる方に向け、少し急いで走る。……走っていただけど、音の主に近づくに連れ、足はどうしても重くなっていった。
「…………」
それでも進み、廊下の隅っこに隠れていた男の子に声をかける。
「キミ。……ええっと……ロッカ君?」
三角座りし、膝に顔を埋めていた男の子が肩を震わせる。
巫術使って周りを警戒するのを忘れ、俺の存在にも気づけなかったらしい。
「これ……。キミ達にとっては貴重なものだろ」
少し離れた場所から紙を見せる。
白紙だけど、これが家族との繋がりを守る大事な紙のはずだ。
「いらねえよ……」
「勿体ないから持っておきなさい。ねっ?」
「うっせーな……!」
睨んでくる。その視線に心臓がキュッと絞られる。
死にたくない。殺されたくない。
そんな思いが俺の心臓を撫でてくる。
直ぐにでもこの場を離れてしまいたかったが――。
「……ラート軍曹と話すの、正直ちょっと疲れるよな……。あの人、結構、遠慮なくズカズカと踏み込んでくるしさ……。人の心に……」
正直な気持ちを話す。
俺も、軍曹の振る舞いには辟易とする事もある。
あの人は無邪気な善人だ。良くも悪くも――。
「本人に悪気がないから、怒りづらくて困る時がある……」
「……オレ、アイツ嫌いだ」
巫術師の少年がポツリと呟いた。
俯いていて、声は小さいが、言葉は次々と湧き出てきた。
「ホント、能天気なクソ野郎で、ズカズカ踏み込んできて……人が触れてほしくないとこ、ベタベタ触ってくる。善人面しながら……」
「本人は良いことしているつもりなんだ。なんというか……陽キャで善人なんだ」
あれを有り難いと思う人も大勢いるんだろう。
実際に行動を起こして、親身になれる人だ。悪い人ではない。
ただ、俺達みたいなのは「そっとしておいてほしい」と思う時もある。軍曹が悪気なくても……正面から付き合ってると……疲れる。
「幸せなヤツだから、幸せの押し売りしてくるんだ」
巫術師の少年は鬱陶しそうな表情を浮かべ、そう吐き捨てた。
「皆が皆、手紙を出す家族がいるって思ってる。……当たり前みたいに……」
表情に苛立ちの色が浮かんでいるが、瞳は少し潤んでいるように見える。
ネウロン人を直視したくない。
ネウロン人と話もしたくない。
けど、俺は……。
「……キミ、家族は?」
「んだよ……! てめえには関係ねーだろっ……!」
軍曹みたいに踏み込む。
荒い声を聞き、動悸が激しくなる。苦しくなる。
やっぱり俺なんかじゃダメか、と思ったが――。
「……1人は生き残ってる。父さんと母さんは、死んだ」
表情はまだ険しいが、涙声で教えてくれた。
本人も声が震えている自覚があるらしく、顔を拭い、呼吸で息を整えている。怒りに満ちた声色で言葉を続けてきた。
「アイツはオレと違って、いつでも家に帰れるし、帰ったら父さんも母さんもいるんだろ? あと、弟がいるんだっけか。隙あらば自慢してくるんだ、鬱陶しい」
「軍曹も、オヤジさんはいないよ」
「えっ……」
少年が困惑し、「でも、だって、アイツ、自分の父親自慢してきたことあるぞ」と言ってきた。
「優秀な軍人だって……」
「けど、もういないんだ。軍曹のオヤジさんも戦死してるから」
俺と軍曹は星屑隊に配属されて以降の仲だ。
だから詳しく知っているわけじゃないが、ラート軍曹のオヤジさんが戦死している事や、レンズ軍曹が家族と血の繋がりがない事ぐらいは聞いている。チラッと。
ただ、家族を失っているなんてこと、俺達にはよくある話だ。大抵、父親も軍人やってるから……戦場で果てるなんて、よくある話だ。
「オヤジさんいないからこそ、軍曹は『長男の俺が頑張らなきゃ』って張り切ってるんだ。給金も殆ど実家に送ってるはずだよ」
「…………」
「軍曹はちょっと無神経なとこあるけど、悪人ではないから……嫌いにならないであげてほしい。ベタベタと距離詰められるの嫌だって伝えたら、ちゃんと控えてくれるようになるから……」
「…………」
「恩を着せるつもりはないけど、あの人はあの人でキミ達のことを想って行動してるんだ。不器用な人だけど……その……許してあげてほしい」
「…………」
「軍曹にだって、『当たり前に』家族がいるわけじゃないんだ」
緊張しつつ近づき、白紙の紙を渡す。
渡すべきものは渡した。
無神経だけど優しい軍曹の弁護もした。
上手く話せたとは思えないけど……格納庫に戻ろう。
「……キミには、まだ家族がいるんだろう?」
もう話すべきことはない。
そう思うのに、そうするべきなのに、言葉が溢れ出てくる。
やめろ。言うな。
言えば後悔する。
……そう思ってもなお、言葉が喉奥から這い出てくる。
「弟か? 妹か? どっちにしろ、まだいるなら手紙を――」
「…………」
「あっ……」
巫術師の少年が泣いていた。
ボロボロと大粒の涙を出し始め、声を押し殺して泣き始めた。
やばい。どうしよう。
泣かせてしまった。そんなつもりじゃなかったのに。
焦り、浮足立っていると、ラート軍曹や子供達の声が聞こえてきた。この子の名前を呼んでいる。どうやら、皆で探しに来たらしい。
「こ、こっちだ……!」
少年の手を引き、逃げる。
こんなところを見られるのはマズい。
何とか……何とか隠さないと……!
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:不能のバレット
巫術師相手に人間を隠し切るのは不可能だ。
死体なら話は別なんだろうけど、魂ある人間を隠し切るのは不可能だ。
だから部屋の鍵を閉め、何とかやり過ごす。
幸い、向こうの子達はこっちの魂を正確に追っていなかったらしい。この子を呼ぶ声は聞こえるが、こっちに気づいた様子はない。
「…………」
ネウロン人を触った恐怖で震える手を撫で、落ち着かせる。
巫術師の少年はまだ泣いている。けど、それも段々と収まってきた。
「……落ち着いたか?」
「…………」
泣き止んだのを見計らい、声をかける。
返事はなかった。だが、闇の中で「こくん」と頷くのが見えた。
「その……お兄さんと何かあったのか?」
「お前には、関係な――」
膝に顔を埋めていた少年が、少し驚いた顔をしながら頭を上げた。
「なんで、オレに兄ちゃんいるって知ってるんだ?」
「ああ、いや、カマかけただけだよ。消去法でさ……」
そう言うと、少年は不審げに俺を睨んできた。
けど、自分の目元が涙で濡れているのが気になったのか、ゴシゴシと拭った後に「オレが泣いたこと、他の奴らにいったらブッ殺す」と言ってきた。
「い、言わないよ……」
「ホントかよ……」
「絶対、言わない。……けど、代わりに教えてくれないか?」
少年は相変わらず不機嫌そうだが、嫌とは言わなかった。
「……お兄さんと何かあったのか? 生きているなら……手紙、出せば……」
「……アンタ、嫌いなヤツから手紙もらったら、どう思う?」
戸惑う俺の返事を待たず、少年は「嫌な気分になるだろ」と言ってきた。
どこか苦しそうな表情で言ってきた。
「アニキはオレのこと、嫌いなんだ。嫌いなヤツから手紙が届いたら、嫌だろ」
「そんなはず……。兄弟仲、悪いわけが……」
「兄弟なら『当たり前のように』仲が良いって思ってんのか? フェルグスやスアルタウみたいに、『当たり前のように』仲が良いって本気で思ってんのか?」
「違う。そうじゃなくて……」
少年が俯く。俺を睨んでいた視線が外れる。
「オレだって、昔は仲良かったよ……。けど、父さんと母さんが死んだ時のことで、オレ……アニキに嫌われてんだよ……」
「……ひょっとして、お父さんとお母さんは……交国軍に?」
あり得る。
交国軍なら、そういう事を平気でやる。
そう思いながら問いかけると、「違う」と言われた。
「父さんと母さんは、オレが殺したんだ」
「えっ?」
「オレがもっとガキの頃、大雨が降ったんだ」
その前から、少年は両親と川遊びをする約束をしていた。
けど、大雨で川が危険な状態だから、「遊ぶのはまた今度にしよう」と言われた。少年は兄にもなだめられたが納得できず、1人で川に遊びに行った。
「1人で拗ねて遊んでたら、足を滑らせて……川に落ちて……」
「…………」
「オレなんて、そのまま死ねば良かったんだ。それなのに――」
助かった。
助けてもらった。
我が子を心配して探しに来た両親が、この子を救った。
「父さんと母さんはオレを助けてくれた。でも……2人は……汚れた水に飲まれて、そのまま……」
この子が巫術師として覚醒したのは、その日だったらしい。
ただ、巫術の力は家族を救ってくれなかった。
「オレ1人、川の傍でゲホゲホ吐いてた時、アニキも走って来てくれた」
「…………」
「アニキは、『大丈夫。父ちゃんも母ちゃんも、きっと無事だ』って言ってくれた。……そう言ってくれた後、オレは気絶した」
「…………」
「2人分の痛みが、襲ってきて……。頭、いたくて……気絶した」
しばらく後、川下で2人分の死体が見つかった。
「アニキはもう、『大丈夫だ』って言ってくれなくなった」
「…………」
「お前のせいだって、言って……」
「それは違う。キミの所為じゃ――」
「違うっ! 父さんと母さんは、オレが殺したんだっ!」
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:水が怖いロッカ
オレが拗ねて遊びに行かなきゃ、あんなことにはならなかった。
父さんと母さんを殺したのは、オレだ。
アニキがオレを憎み始めたのは……当たり前のことだ。
それなのに、目の前のオークは――。
「キミが殺したわけじゃない。……不幸な事故だったんだ」
「違う」
「親御さんは、キミを守るために戦ったんだ」
「…………」
「大事な子供を守るために、命がけで戦ったんだ」
「…………」
「そして立派に守りきった。……キミが殺したわけじゃない」
コイツは何もわかってない。
わかってなさすぎて、イライラする。
「アニキが正しいんだ。全部オレの所為なんだ」
「違うよ……」
「赤の他人のお前の言葉なんかより、オレはアニキの言葉を信じる」
あれ以来、水が怖い。
川どころか海も怖い。
こうして船旅を続けているだけで、頭がおかしくなりそうになる。
でもこれは罰なんだ。仕方ないんだ。全部オレの所為なんだから。
……あれから、アニキとは会ってない。
オレは巫術師になったから、シオン教団の保護院で暮らし始めた。アニキとは別の場所で暮らし始めたから、もう会うこともなくなった。
何度も「ごめんなさい」って手紙を出した。アニキに会いたいって泣き言を書いた。でも、返事はなかった。……当然の話だろう。
交国軍がネウロンにやってきて、ネウロンが無茶苦茶になって……アニキがどうなったか心配でたまらなかった。
「アニキは生きてる。収容所にいた交国の軍人がそう教えてくれた」
「――――」
「だから『手紙でも出したらどうだ』って言われた。けど……なんて書けばいいんだよ。保護院にいる時、一度も返事くれなかったのに……」
もう、何を書けばいいのかわからない。
会うのも怖い。
また、あんな目で睨まれたらと思うと、怖くてたまらなくなる。
……オレに出来ることはもう、タルタリカを殺すことだけだ。
殺して、殺して、罪を背負って……ネウロンをキレイにしたら、アニキ達はタルタリカに怯えず暮らすことができる。それぐらいしかしてやれない。
アルは「叡智神様なら、ボク達を救ってくれる」と言う。
叡智神なら死者蘇生できるって――。
オレは、アルほど神を信じることが出来ない。
ホントにスゴい神様なら、父さんと母さんが死ぬ前に助けてくれよ。
助けてくれなかったってことは、助ける価値もないって思われてたんだろ。オレがバカだったから……バカの所為で死んじまったから……。
「手紙は……無理して書かなくてもいいさ」
何もかもわかったような顔してるオークが何か言ってくる。
何も知らねえくせに、訳知り顔で話しかけてくる。
「でも、『嫌われてる』ってのは間違いだ。絶対に。俺にはわかる」
「わかるかよ。他人のアンタに、オレ達の何がわかるって言うんだ」
「そ、それは……」
「嫌われてなきゃいいって、オレも思うよ。でも無理だろ」
父さんと母さんが死んだのはオレの所為。
それは覆しようのない事実なんだ。
もし、本当に、叡智神が戻ってきても、オレは救われないだろう。
オレは悪い子だ。
フェルグス達と違って、ずっと前から悪い子なんだ。
それでも出来ることはある。タルタリカを殺せる。ネウロンの仲間達をあの肉の檻から解放して、楽にしてやって……ネウロンに平和を取り戻す。
そしたら、アニキも――。
……いや、それでも許してもらえないだろうけど、オレにはもう戦う道しか残ってないんだ。それ以外の選択肢なんて無い。
「頼むから、もう1人にしてくれ」
オークの整備士にあっちに行ってもらう。
いま、部屋には戻れない。戻りたくない。
フェルグスやヴィオラ姉達に、こんなとこ見られたら……余計にキツくなる。
■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて
■from:不能のバレット
「…………」
部屋から出て、扉を閉じる。
中の音は聞こえて来ない。
聞こえないはずなのに、耳の奥にすすり泣く声がこびりついている。
あの子は、間違いなく愛されていた。
けど、それを伝える言葉も勇気も、俺の中から出てこなかった。




