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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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上の上



■title:交国領<ネウロン>にて

■from:狙撃手のレンズ


 ネウロンに戻ってきて4日経った。


 その間、ず~っと屋敷の中に隠れていたけど、やっと外に出る機会が来た。


 といっても、エデンの先遣隊で出かけるのは総長だけ。


「メラ殿下とピースメーカーと一緒に、決起集会に行ってくる」


 決起集会(そこ)に解放軍や、それ以外の反交国組織の主立った面々が来るらしい。そこでネウロン解放の大義名分――メラ王女様を紹介するらしい。


 あたし達もついていきた~い、と言ったけど、総長は同行を許してくれなかった。集会には解放軍兵士が大勢参加するから、巫術師がいると揉めるらしい。


 アラシア隊長が「じゃあ、オレが行くよ」と言ったけど、総長は首を振って「お前もダメだ」と言った。


「アラシアはアラシアで、解放軍から脱走した身だろ? 知ってる奴がいたらお前はお前で揉めるから駄目だ。最悪、撃たれるぞ」


「だが、総長だけで行くのは危険だろ」


「エデン側から行くのはオレだけじゃねえよ。……あぁ、ちょうどアイツが来た」


 そう言った総長の視線の先を追うと、屋敷に誰か来たのが見えた。


 筋肉質でエキゾチックな美人のお姉さんだ!


 あんまり話したことないけど、知ってる人だった。


「ラフマ隊長じゃん。おひさ~!」


「久しぶり。元気にしてた?」


 やってきたのは独立傭兵部隊<犬除(けんじょ)>のラフマ隊長。


 7年前、混沌の海で交国軍に追いつかれたあたし達を、総長と一緒に助けてくれたお姉さん。傭兵だったけど、今はエデンの一員になってくれている。


 ネウロン解放作戦にも参加すると小耳に挟んでいたけど、今日から合流するらしい。主に総長直属部隊として動くっぽい。


「ネウロンに来て早々、総長の護衛(しごと)なんて大変だねぇ」


「まったくね。人使いの荒い総長(ひと)で困るわぁ~」


 ラフマ隊長がビミョーに嫌味っぽく言うと、総長は憮然とした様子で「仕事だから仕方ないだろ」と返した。ビミョーに塩対応だ。


 ともかく、決起集会にエデン側から参加するのは総長とラフマ隊長と、その部下さん達だけっぽいけど――。


「…………。ねえねえ総長。やっぱあたしも連れてってよ~」


「駄目だ。遊びに行くんじゃないんだぞ?」


「わかってるよ。でも……」


 決起集会に参加するために、部屋から出てきたメラ王女を見る。


 王女様はずーっと、表情を硬くしている。


 あたしの視線に気づくと、微笑んで軽く会釈してきたけど……ずっと身体を硬くしている。アレは単に緊張しているだけじゃないよ。


 色々と背負わされて、それに押しつぶされそうになっているんだ。しかも、それは決起集会が終わった後もずっと続く。


 王女様が苦しいのは、王女様のことあんまり知らないあたしの目から見ても明らかなのに……護衛の人達(ピースメーカー)は知らんぷりだ。


 王女様を背中に庇い、護衛の役目は果たしているけど……でも、王女様と視線を合わせたり、気遣っている様子がまるでない。


 人として見ている感じがない。


 ゲームの駒として見てるって感じだ。


 あんな人達とずっと一緒にいたら、王女様も精神的にキツいだろうし――。


「ピースメーカーの人達って、男ばっかりじゃん。女のあたしが一緒にいた方が、キッチリ護衛できると思うんだよ~」


 護衛を口実に、総長に決起集会への参加許可をねだる。


 総長は困った顔して「一理あるが……」と言った。そんで、「確かに、女がいた方が何かと助かるが――」と言ったけど……隣のラフマ隊長が咳払いをした。


 自分の存在を思い出させるように、わざとらしい咳払いをした。


「いや、女いるわ。……ラフマって一応、女だったな。忘れそうになるが」


「…………」


 ラフマ隊長はニッコリと微笑み、総長の横腹を全力で摘まんだ。


 女性とはいえ筋肉ムキムキのラフマ隊長の力は相当らしく、総長が「ぐおおおぉぉお……!」と唸りながら身をよじっている。


 総長とラフマ隊長がじゃれていると、ピースメーカーの代表っぽい人が「何を遊んでいる」と言いながらツカツカと歩いてきた。


 総長に言ってもダメっぽいから、この人に頼んでみよう。


「ピースメーカーのオジさん! あたしも連れてって! 王女様守るから!」


「殿下の護衛は私達がいる。女子供の手は不要だ」


 ピースメーカーの人はラフマ隊長と総長を見つつ、「殿下のことでエデンの手を借りる予定はない」とキッパリ言った。……あたしの事は一切見てこない。


「護衛は多い方がいいはずです。僕も連れていってもらえませんか?」


「アル~……」


 アルも王女様が心配なのか、ピースメーカーの人に同行すると言ってくれた。


 けど、向こうはもう無視し始めた。貴様らの助けなど不要だ、って言いたげに。


 総長も「お前らは待機だ」と重ねて言ってきた。


 くそー……。こうなったら、こっそりついていくしかないかぁ~……?


 解放軍兵士と揉めるとしても、そんなのは……何とかするとして! 誰か、王女様の傍にいてあげるべきだって!


 単純な護衛じゃなくて、「仲間」として!


 どうやってついていくか考えていると、ピースメーカーの人が「失礼」と言いながら懐から通信機を取り出した。


 どこからか通信が来たらしい。あたし達から離れて、誰かと話をしているようだったけど……表情が困惑顔に変わっていく。


 かと思えば、通信を終えて戻ってきて――。


「……同行を許可する」


「「ハァ!?」」


 急に許可してくれるから、ビックリ。


 総長とラフマ隊長はあたし達以上にビックリしたのか、声を上げちゃった。


 驚いたけど「やったぜ~」と思いながら手をグッと握っていると、ピースメーカーの人は――すごく嫌そうな顔をしつつ――言葉を続けてきた。


「今回の決起集会は……とても重要な集会だ。殿下に可能な限りリラックスして参加してもらうには……ネウロン人がいた方がいいだろう」


「あたし、ついていってもいいんだね?」


「チッ……。そういう事だ」


 ピースメーカーの人、あたしがついてくるの嫌そうだし、妙に歯切れが悪い。


 まあ、連れて行ってくれるならいいけどさ。


 バレットがノソノソと「仕方ない。オレもついていってやるよ」と言いながらやってきたけど、ピースメーカーの人は「3人も来なくて良い」と言った。


お前(レンズ)と……それと、お前が来い」


「わかりました」


 追加の護衛としてついていくのは、あたしとアル!


 バレットはノソノソやってきたものの、すごすごと離れていっちゃった。まあまあ、バレットの出番もそのうちあるよ!


「ちょっと待ってくれ。勝手に決めるな。エデンの総長はオレだぞ……!?」


「こちらの要請に応えられないなら、協力関係にヒビが入る覚悟をしてくれ」


 総長は反対っぽいけど、ピースメーカーの人がピシャリと言うと、困惑しながら「何で急に……」とボヤいた。未だに反対っぽいけど――。


「…………。まあ、先方の要望なら仕方ない。レンズちゃん、スアルタウ君。支度してきなさい。壱式装備でいいから」


「は~い! ちょっと待っててね~!」


「おっ、おいっ。オレはまだ納得したわけじゃ……」


 ラフマ隊長が背中を押してくれたから、止めようとしてくれる総長は無視! アルを連れ、一度部屋に戻ろうとすると――。


「2人共……」


「大丈夫だよ、ヴィオラ姉。……王女様が心配だから、ここは行かせて」


 心配そうなヴィオラ姉が立ち尽くしていたけど、ギュッとして説得する。


 ヴィオラ姉の傍にいたタマちゃんとアラシア隊長に、「あたし達がいない間、ヴィオラ姉達のことよろしくねん」と頼んでおく。


 急いで装備を取ってきて、王女様に近づき、「ついていって良いって!」と伝えると、王女様がパッと表情を明るくしてくれた。


 けど、直ぐに表情を曇らせた。


「わたくしに同行すると、危険や不愉快になる出来事があると思うのですが……」


「それは王女様も同じっしょ? 王女様だけで背負う必要ないよ」


 あたし達も手伝うし、守るよ。


 同じネウロン人のよしみで仲良くしよう。そんで、一緒に頑張ろ~!




■title:交国領<ネウロン>にて

■from:エデン総長・カトー


「…………」


 呑気に騒ぐレンズと、それを鬱陶しそうに見ているピースメーカーを見つつ、考える。……なんで奴らは急に、レンズ達の同行を許可してきたんだ?


 当初の予定だと、エデン側でついていくのはオレとラフマの部隊だけだった。それなのに急にレンズとアルまでつれていくと言い始めた。


「どういう意図だと思う?」


「さてね。通信が来て直ぐに手のひら返ししたって事は、向こうの上役からの命令なんでしょうけど――」


 ピースメーカーの意図がわからず、ラフマに問いかけたが答えはわからなかった。ラフマも首を傾げているが……。


「……お前が何かしたんじゃねえだろうな?」


「そんなわけないでしょ?」


 腰に手を当てたラフマを疑うと、ジト目と共に否定の言葉が返ってきた。


「私が、大事な決起集会に面倒事を持ち込むと思う?」


「…………。妙にタイミングが良かったのが気になるな」


「ヨモギ達に周辺警戒任せてるけど、今のところ異常はない。けど……何らかの手段でピースメーカーの上役に見張られてるのかもね」


 その可能性はゼロじゃない。


 ピースメーカーが急に意見を変えたのは、嫌な予感がする。現場の代行者(にんげん)がレンズ達を迷惑そうに見ているって事は、アイツらも連れて行きたくないんだろう。……上に言われて仕方なく、って感じに見える。


 アイツらの上にいるのは、マーレハイト亡命政府だ。


 奴ら、何を考えているんだ?


「無事じゃなくても、予定通りに終わればいいが……」


「そう簡単には行かないでしょうね」


 珍しくラフマと意見が合ってしまったので、思わず顔をしかめる。


 面倒事が増えそうだ……。




■title:マーレハイト亡命政府・旗艦<ピラー・デイツ>にて

■from:マーレハイト亡命政府・外務大臣


『外務大臣。ピースメーカーとの連絡が取れました。追加指示を伝えたところ、そのように取り計らうと……』


「そうか。ご苦労だった」


 部下からの報告を聞き、通信を切ろうとすると、部下が「あのっ」と言って問いかけてきた。今回の指示の意図を聞きたいらしい。


『何故、ネウロン人の同行を……? それも特定のネウロン人を……』


「…………」


『まさか、ドクターがまた何か言い始めたのですか?』


「お前達が知る必要はない」


 そう告げ、通信を切る。


 指示の意図など、私も知らん(・・・・・)


 私自身、「指示をしろ」と言われただけなのだから――。


「貴方の指示を伝えておきました」


 私に妙な指示をしてきた人物に報告する。


 その人物は部屋のソファに座ったまま、「いやぁ、助かりましたぁ!」と明るい声を漏らした。明るいが、妙な胡散臭さを感じる声だ。


 そもそも、風体からして胡散臭いが――。


「いやいや、ホントに助かりますよぅ。スミマセンねぇ、急な話で!」


「いえ……。貴方は彼女を……ドクターを我がマーレハイトに紹介していいただいた大恩があります。この程度、お安いご用ですよ」


 確かに急な話だが、大した話ではない。


 ネウロンで行われる反交国組織の決起集会にメラ王女を参加させるに当たって、エデンに所属しているネウロン人も参加させろと言われただけだ。


 現地にいるピースメーカーの代行者達も出発前だったから、何とか指示を伝えられた。奴らは指示通りに動いてくれるだろう。だが、しかし――。


「差し支えがなければ、お教えいただきたいのですが……。何故、エデンにいるネウロン人を決起集会に参加させろと仰ったのですか?」




■title:マーレハイト亡命政府・旗艦<ピラー・デイツ>にて

■from:【占星術師】


交国計画(けいかく)の邪魔だからですよ。あの少年は」


「計画……ですか? それは、何の――」


「まあ、彼程度は放っておいても大きな支障はないのですが……なかなかにしぶとい虫けらでしてねぇ……! この機会を活かそうと思っただけです」


 困惑しているマーレハイトの外務大臣に、「まあまあ気にしないでください」と語りかける。語りかけつつ、机に置いた土産を手で示す。


「そんな事より、土産を食べてください! 交国製のフルーツ缶ですよ! 非常に美味ですよぉ~!」


「あぁ、ありがとうございます。ですが、それは後で――」


「ほう? ボクの土産なんて口に出来ないって事ですか?」


 軽く威圧すると、外務大臣は慌てた様子で近づいてきた。


 缶詰を食べてくれるようだ。俺の言葉に従わないとどうなるか、ちゃんとわかっているようだ。いいぞいいぞ。……玉帝もこうだったら良かったのに!!


 だが、こうして土産を渡すのも交国のためなのだ! 俺は交国のためにこれほど献身しているのに、玉帝は俺を軽んじてきた。


 お前が今も生きているのは、実質、俺のおかげなのに……!


 フェルグス・マクロイヒ。貴様も許さん。


 何度も何度も何度も何度も俺の仕掛けた罠を踏み越えてきて……未だしぶとく生き残っている。両手両脚どころか身体の大部分を失って、未だに生き残っている。


 頼むからいい加減、死んでくれ。


 虫けらの分際で……これ以上、俺の手を煩わせるな。





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