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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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夢:自慢の兄



□title:府月・遺都<サングリア>8丁目

□from:兄が大好きなスアルタウ


 今日も夢を見ている。


 魔神が出てくる夢を見ている。


 魔神のお姉さんと初めて会った場所で、「また夢の中の世界(ここ)に来ちゃった……」と思っていると、ご機嫌なお姉さんがやってきた。


「スアルタウく~ん!」


 なんて言いながら、両手を振りつつやってきた。


 逃げても追いつかれそうなので、仕方なく近づいていく。


「こんにちはこんにちは。また会えて嬉しいわ」


「拉致してるから絶対会うんでしょ……」


「ふふっ。アタリ」


 くすくす笑うお姉さんに「何でこんなヒドいことするんですか」と言おうと思ったけど、ちょっと引っかかったのでやめる。


 今のところ、ヒドいことはされていない。


 実害もないし、皆みたいに夢を楽しめば楽しいだけなのかもしれない。そんな考えが過ぎっちゃって、頭を横に振る。油断しちゃダメ~……!


「どうしたの? 頭を振って。そういう遊び?」


「違いますっ。……ボク、まだあなたのこと疑ってますからっ。ボクらのこと、ここで溶かしちゃう気じゃないかって……」


 そう言うと、大仰な動作で「そんなぁ、誤解よぉ~」と言われた。


「本気で溶かす気なら、皆をずっと夢の中に閉じ込めるでしょう? それも出来るけど、やってないでしょ? 夢から現にちゃんと戻れてるでしょ?」


「それはそうなんですけど……。ボクが現実と思っているものが夢だったら、現実に戻れてないですよね?」


 この魔神さんは、人が見聞きしたり、感じるものを操れる。


 だからにいちゃん達は楽しそうに夢を見続けている。


 ホントは、ボクもずっと弄ばれているだけかも……。


「そんな玉帝ちゃんみたいなことしないわ。信用ないのねぇ……。いや、確かに魔神(わたし)達は信用するべきじゃないけどね」


 子供を叱る親みたいな仕草で「魔神なんかに近づいちゃダメよっ」と言われた。ボクも近づきたくないけど、あなたが誘拐してるんでしょ!


「この間、人は溶かしてたでしょ。ボク達は……溶かさないんですか?」


「ああ、あの子ね。あの子は私の敵(プレイヤー)だから」


「…………」


「今の貴方達は私の敵じゃない。だから安心してくつろいでね」


 お姉さんはニコニコと笑顔を浮かべている。その笑顔だけ見たら「信じていいかも」と思っちゃうけど……信じたら危ないよね。


 今日も、にいちゃん達の姿が見えない。


 多分、どこかの水たまりに囚われてるんだろうけど……。


 笑顔で話しかけてくるお姉さんの言葉を適当に返しつつ、周りをキョロキョロ見渡し、にいちゃん達がいる水たまりを探す。


「とにかく、いまは楽しみましょ。今日はどんな遊びがしたい? 現で一番人気の遊びでもしちゃう?」


「一番人気の遊び?」


「これよ! じゃ~ん☆ ソシャゲガチャ~!」


 魔神のお姉さんは携帯端末を取り出し、その画面を見せてきた。


 心なしか得意げだ。「私だって最近の流行りは取り入れてるんだから~」と言い、胸を張っている。


「これが多次元世界で一番お金が使われてる遊びなの。だから大人気」


「そんな事より、にいちゃんと会いたいです。にいちゃんとお話したい……」


 にいちゃんなら――夢から醒めてくれれば――今の状況を何とかしてくれるはず。にいちゃんは強いから魔神だって……いや、さすがに勝てないだろうけど、それでも何とかしてくれるはず。


 だって、にいちゃんは強いんだ。


 ボクよりずっと――。


「フェルグス君か~……。うーん……今は、どうかしらねぇ……」


「にいちゃんをどこに隠したの!」


「隠してない隠してないっ! こっちよこっち」


 お姉さんはボクの手を引き、少し離れたところにあった水たまりまで連れてきた。そして、その水たまりを指差してきた。


「フェルグス君はここよ。ここで楽しい夢を見てるの」


「…………? 機兵しか映ってないけど……」


 水たまりの中では、交国軍の機兵<逆鱗>が暴れ回っている。


 とても楽しそうだけど、にいちゃんの姿は見えない。


「フェルグス君は機兵に憑依している夢を見ているの。機兵を操るの、とっても楽しかったみたいで……」


「あ、なるほど……」


「レンズ君と模擬戦するんでしょ? でも、機兵の操作練習する時間は限られてる。本人が『楽しい』みたいだし、夢の中でも訓練させてあげよっかな~……って。これはあくまで遊びで、肩入れしてるわけじゃないからね?」


 お姉さんが人差し指同士をツンツンしつつ、何か言い訳している。


 練習止めてでもお話したいなら、止めるけど――と言われたので、「やっぱりいいです。ごめんなさい」と言い、水たまりの前で三角座りする。


 にいちゃんの様子が、ちゃんと見えるように。


 ホントは止めないとダメかもだけど……今は、やめておこう。


「…………」


 にいちゃん、夢の中でも頑張ってるんだ。


 やっぱり、すごいなぁ……。


「ホントに止めなくていいの?」


「にいちゃんのジャマ、したくないから……」


「そっか」


 お姉さんもボクの隣に座った。そして頭を撫でてきた。


「お兄ちゃんが大好きなのね~」


「うんっ」


 大好き。


 ずっと好き。


 ずっと一緒にいるって約束したんだ。


「にいちゃんは強くて、カッコよくて、ボクの自慢なの」


 そう言うと、お姉さんは微笑ましそうに目を細めた。


 ちょっと恥ずかしいけど……にいちゃん大好きなのはホントの気持ち。


 ボクのにいちゃん、スゴいんだ。


 だからきっと……模擬戦でも、ぜったい負けない。


 にいちゃんなら、ぜったい負けない。




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