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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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ドルイドお断り



■title:交国領<ネウロン>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「おぉ……。もっと汚いとこで寝泊まりすることになると思ったけど、ここってガチの豪邸じゃ~ん」


「はいはい、騒ぐな騒ぐな。目立たないようにパパッと中に入ろうな」


 総長に促され、「屋敷」という形容が似合う場所に入っていく。


 豪奢な門から敷地内に入ると、黒水で見た黒水守の屋敷とはまったく違う様式の屋敷が待っていた。交国風ではなく、ネウロン風の屋敷だ。


 庭に関してはまだ作りかけらしく、土が剥きだしになっているところが多い。ただ、大抵の場所にフカフカの土が運び込まれている。そう遠くないうちに立派な庭が出来上がりそうだ。


 前に繊十三号(ケナフ)に来た時、こんな建物はなかった。ここ最近作られたもののようだけど――。


「総長。こんなとこ、よく確保できましたね」


「まあ、ちょっと脅迫をな」


「きょ、脅迫……!?」


 総長曰く、この屋敷は交国の上流階級の人間が作ったものらしい。


 その人が不正を働いていた証拠を見つけたので、「それを交国政府に提出されたくないなら協力しろ」と脅したらしい。


 さすがに驚いていると、ジト目を浮かべたヴィオラ姉さんが「またろくでもないことを……」と呟いた。


 総長はヴィオラ姉さんの呟きに笑顔を浮かべ、「悪いのは不正した奴だ」と言い、肩をすくめた。


「屋敷の使用人達は、俺達を『主人の知り合いの旅行者』だと思っている」


 ネウロンでは<丹国>が建国されようとしている。


 交国政府も後押ししているため、建国記念祭が華々しく行われる予定らしい。その記念祭に参加するためにやってきた「旅行者」という体で振る舞えと言われた。


「だから、使用人達の前では下手なことを言わないようにな」


「了解です」


「ほいほい」


 総長は慣れた様子で使用人の人達をあしらった後、僕らにウインクしながら注意事項を教えてくれた。


 屋敷の主人を……脅迫によって従わせているとしても、使用人全員に口裏を合わせてもらうのは不可能なんだろう。使っている手段に心苦しさを感じるけど、僕らは人連基準だと「テロリスト」だから気をつけないとな……。


 案内された部屋に入ると、総長はコートも帽子も脱がず、「ふぅ」と言いながらソファに腰掛けた。深く深く腰掛けた。


 何でもなさそうな顔をしているけど、よく見ると顔に疲労の色が出ている。……神器を失って以降、体が弱っていく一方だから実際に疲れているんだろう。


 ソファに腰掛けていた総長の背後に回り、コートを脱がせ、帽子も預かった。


 使用人さんに何か飲み物を貰えないか頼みに行こうとしていると、屋敷の中に入った時点で別行動していたヴィオラ姉さんとタマが、全員分の飲み物を貰ってきてくれた。ポットからお茶を注いでもらい、給仕だけでも手伝う。


「俺達以外にも、もう1組やってくる予定なんだが――」


 総長がそう呟くと、スペーサーさんがやってきた。


 少し……険しい顔をしている。


 総長が「もう1組はちゃんとネウロンに到着したのか?」と聞くと、スペーサーさんは不機嫌そうな表情で頷いた。


 その表情に、少し嫌なものを感じていると――。


「おい……カトー。そのガキ共は巫術師(ドルイド)だったのか?」


 スペーサーさんは、港で会った時はもう少し友好的に見えた。


 けど、今は拳銃に手をかけそうになっている。


 タマはスペーサーさんが部屋に入ってきた時点でそれに気づいていたのか、ヴィオラ姉さんを避難させつつ、アラシア隊長に目配せをしていた。


 アラシア隊長は何気ない様子で構えつつ、ソファでくつろいでいる総長をいつでも庇えるように動こうとしていたけど――。


「ああ、そうだ。紹介が遅れたな。ウチ(エデン)の巫術師だ」


 総長は鷹揚に構えつつ、アラシア隊長を手で制していた。


 そしてスペーサーさんに対して微笑み、「そんなに苛立つなよ」と言った。


この子(アル)達は交国と戦う同志だ。エデンのエース機兵乗り達だよ」


「ふっ、ふざけるなッ……! 巫術師など、信用できるものか!」


 スペーサーさんは吐き捨てるように言い、僕らを睨んできた。


 7年前のブロセリアンド解放軍の蜂起。


 その直前、繊一号で起きた騒動で、スペーサーさんの親友が巫術師に殺害されたらしい。……スペーサーさんの親友以外にも、それなりの数の解放軍兵士や交国軍人があの騒動で命を落としている。


 あの一件に関しては、解放軍上層部とバフォメットが話し合って手打ちにしていたけど、スペーサーさんは納得していないそうだ。


「前の上層部は勝手に手打ちにしたが、現場の人間は誰1人として巫術師(おまえたち)を許していない。俺もその1人だ」


「あの……この子達は当時の戦いには加担していません。むしろ――」


 ヴィオラ姉さんが擁護してくれようとしたけど、スペーサーさんは「黙れッ! 人の形をしたバケモノ共が……!」と怒鳴った。


 その顔は、犬塚特佐に対して怒っていた時の顔に似ている。矛先が僕らに向けられている事もあり、前に見た時より強い圧を感じた。


「疫病神共め。また俺達から奪うつもりなんだろう? 殺すだけでは飽き足らず、俺達をタルタリカなんてバケモノにするつもりじゃないだろうな?」


魔物(タルタリカ)化は巫術師の所為で起こったものではありません! アレは完全に冤罪で――」


「ヴァイオレット。アル達を連れて別室で待機しててくれ」


「でも――」


「総長命令だ」


 総長は片目を閉じつつそう言い、スペーサーさんに座るよう促した。


 座ってよく話し合おう、と言った。


「仲間同士で争う必要はない。話し合いで解決できる問題だ」


 ヴィオラ姉さんと僕らが別室に移動していく中、総長は僕らの方を見て、「悪いな」と言うように軽く片手を挙げた。


 そしてスペーサーさんとの話し合いを……いや、説得を始めていった。


「……こういう扱い、久しぶりだなぁ」


「だな。懐かしさすら感じるよ」


 バレットに話しかけると、バレットも似たような感じ方をしたらしい。


 交国がネウロンにやってきて、魔物事件が起こって以降……巫術師は多くの人々から嫌われるようになった。


 交国政府の発表の影響もあり、巫術師は「魔物事件を起こした原因の1つ」として嫌われていった。


 バフォメットの話によると、魔物事件を起こしたのは交国人みたいだから……冤罪のはずだけど……巫術師が嫌われる原因となった事件は1つだけじゃない。


 スペーサーさんが親友を失った事件もある。そちらに関しては……バフォメットに扇動された影響があったとしても、冤罪事件とは言いがたいだろう。


 殺意をぶつけられながら怒鳴られた事に対し、少し傷つきはしたけど……懐かしさを感じてしまった。


「半分ぐらいは『あんな言い方しなくてもいいじゃん』とは思うけど……さっきの解放軍の人だって、被害者なんだよね」


 レンズが複雑な表情を浮かべつつこぼした言葉に同意する。


 ヴィオラ姉さんは「キミ達は怒っていいんだよ」と言い、僕らの分まで怒ってくれている。それをなだめ、感謝もする。……ヴィオラ姉さんは昔からずっと、僕らのために怒ってくれている。


「言葉を重ねても無理なら、行動で示していくしかない」


 僕らの同胞が……巫術師がスペーサーさんの親友に牙を剥いたのは事実だ。


 それは僕ら自身がやった事じゃなくても、あの人にとって「巫術師」というくくりを許せないのは覆しがたい事実だ。


「……行動で示したところで、理解してもらえるかね?」


 バレットがそうこぼすから、「やってみよう」と言って言葉を重ねる。


「例えば僕なんかは、『交国軍人』ってくくりで交国の人達を全員嫌っていた。けど……その認識をラート達が……星屑隊の皆が正してくれた」


「「…………」」


「僕も星屑隊の皆を見習って、頑張ってみるよ」


 多分、信頼を得るのに時間がかかるだろう。


 沢山、努力する必要があるだろう。


 けどきっと、不可能ではないはずだ。


 僕らとスペーサーさん達は、敵同士じゃない。……手を取り合えるはずだ。




■title:交国領<ネウロン>にて

■from:エデン総長・カトー


「巫術師など、いま直ぐ殺してやりたいが……カトー(おまえ)の顔を立ててやる」


「そいつはドーモ」


 スペーサーには「アル達を恨むのはお門違いだ」と丁寧に説明したが、まったく受け入れてくれなかった。頑なに憎しみを吐き続けている。


 アル達の方が随分と大人の反応をしていた気がする。まったく……どっちがガキかわからねえなぁ。


 まあ、不用意に引き合わせてしまったオレのミスでもあるか。


 スペーサーは「お前の顔を立ててやる」とか言いつつ、巫術師には厳しい行動制限をかけろ――なんて言ってきた。


「奴らが動く時は、俺に連絡しろ。また(・・)巫術師の所為で負けるなんて俺は御免だ。お前だって、あんなバケモノ共に足を引っ張られたくないだろう?」


「…………」


 スペーサーの言葉を半笑いで受け流す。


 何が「また巫術師の所為で負ける」だ。


 解放軍は負けるべくして負けたヘボ組織だろうに。……お前らは玉帝の手のひらから抜け出せなかったから負けたんだよ。


 何を言っても無駄だろうが、アル達は頼りになるよ――と擁護しておく。年若くても修羅場をくぐってきたウチのエースだよ、ともう一度言っておく。


 スペーサーは鼻を鳴らし、オレの言葉を受け流したように見えたが――。


「……待てよ? あの巫術師達は、エデンと共に界外から来たんだったな?」


「ああ、そうだが?」


「奴ら、例の脱走兵か! ……まさか、ネウロンにいた解放軍の敗北の原因を作った元凶共そのものだったとは。まったく……どのツラを下げて帰ってきたんだか」


「…………」


 ブロセリアンド解放軍は交国軍に負けた。


 だが、犬塚銀が解放軍の兵士達を擁護した事で、多くの兵士が生き残った。交国の厳しい監視下に置かれつつも、何とか生き残った。


 生き残った解放軍兵士の中には、「7年前は巫術師の所為で負けた」という話が蔓延している。特にネウロンから逃げた巫術師――アル達が糾弾されている。


 アル達が解放軍から逃げたのは、些細な話だ。そもそもあの時点でブロセリアンド解放軍の敗北は決定的だった。


 だが、残党共は「自分達(オーク)の所為で負けたわけじゃない」と現実逃避し、巫術師達に責任を被せている。……そんなだから負けたんだよ、お前らは。


 犬塚銀の部下(カペル)が使った神器で頭をイジられて投降して……今もイジられっぱなしでいいように(・・・・・)使われている(・・・・・・)分際で……よくもまあエラそうに出来る。オレがお前らの立場なら憤死してるよ。


「奴らが怪しい素振りを見せたら、即刻始末させてもらうぞ」


「やめろ。未遂になったとしても、お前らとの協力関係を打ち切らせてもらうぞ」


 ウチは別に、絶対にブロセリアンド解放軍と手を組みたいわけじゃない。


 確かに解放軍残党の数は魅力的だ。


 だが、オレにとってはアル達の方が大事だ。


 解放軍の方が数で勝っていようと……アル達の方が大事だよ。


 いや、今のアル達なら解放軍の残党共より遙かに頼りになるか……。精神的にも戦力的にも、アル達の方が遙かに信頼できる。


「あの子達は、ウチのエースだ。戦闘能力は神器を失ったオレの数倍も頼りになる。あの子達を害するつもりなら全力で止めさせてもらう」


「奴らは交国軍からも、解放軍からも逃げた敗北者だ。あんなものを頼りにしているとなると、エデンの程度も知れるな」


「おっ、ケンカするか~? オレら、もうネウロンから手を引いていいのか?」


 そう言って脅すと、スペーサーは仏頂面を浮かべて黙った。


 コイツも解放軍残党(バカ)の一員だが、他のバカより多少はマシだ。


「あの子達は、お前さんの認識を変える働きをしてくれるよ」


 期待しておいてくれ、と言ったが、スペーサーは不機嫌そうに黙ったままだった。……最悪、コイツに裏切られる危険性も考慮しなきゃだな。


 ただ、出来れば手を結びたい。


 解放軍はバカの集まりだが、それでも数だけは立派なものだ。構成員の大半が軍人として訓練を積んできたってところも魅力的だ。


 無駄にプライド高いから中々手綱を握らせてくれないが……その状況も直ぐ変わる。オレ達が正しいと結果が証明してくれるだろう。


 解放軍残党も、遠からず理解する。


 楽しみだよ、スペーサー。


 お前達が、エデンのエース(スアルタウ)達に泣いて懇願する日がな。





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