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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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反逆者狩り



■title:交国領<ネウロン>にて

■from:エデン総長・カトー


「別の倉庫で捕り物中か」


 倉庫内に隠れつつ、外の様子を探る。


 念のため、スアルタウ達に周辺の魂の動きも把握させておく。……こっちにも密かに兵士が派遣されていてもおかしくない。


 だが、それはさすがに懸念で終わった。


 少し離れたところにある倉庫周辺で、交国軍の機兵が流体装甲を展開して巨大な障壁(バリケード)を築いている。包囲している倉庫から誰も出て行けないように取り囲み始めた。


 障壁が築かれた後、歩兵達が倉庫内へと送り込まれていったようだ。解放軍のスペーサーが仲間と連絡を取り合った結果、交国軍が包囲している倉庫内には解放軍の人間は誰もいないようだが――。


「アイツら、軍事委員会の憲兵じゃねえな」


「ああ。犬塚銀は『憲兵は頼りにならない』と言って、独自に警邏部隊を作っている。そいつらが無茶な捜査を繰り返しているんだ」


 毒殺事件以降、犬塚銀は本性を現して苛烈な『反逆者狩り』を行っている。


 警邏部隊を派遣し、特佐の権限を乱用して強制捜査を行っているらしい。


 ただ、警邏部隊は新造のため、本物の反逆者は大して捕まえられていないのが現状らしい。……死んだ部下共ほど、今の警邏部隊は頼りにならないだろう。


 それでも数打ちゃ当たるとばかりに警邏部隊を派遣し、ネウロンにいる人間が次々と捕らえられているそうだ。数打った中で解放軍兵士等の反交国組織の人間も何人か捕まったようだ。


「界外から運ばれてきた荷物も、たびたび抜き打ちで検査しているから……界内の物資不足まで促進させている。あの特佐(クズ)のメンツのために、皆が迷惑している」


 オレ達もスペーサー達の手引きがなければ見つかっていたかもしれない。


 犬塚銀は相当おかんむりのようだ。


「警邏部隊は『疑わしきは罰せよ』とばかりに、何人も拷問にかけて殺している」


「そんな事をしていたら、さすがの軍事委員会でも黙ってないんじゃないんですか? 警邏部隊の方をしょっぴきそうですけど……」


 アルがそう言うと、スペーサーは「警邏部隊の上にいる人間が問題なんだ」とこぼした。


「あの警邏部隊を取り仕切っているのは、犬塚特佐(・・)だ。特佐の権限は委員会の憲兵をも凌駕している。憲兵共ですら下手に手を出せんのだ」


「なるほど。…………でも、そもそも何で犬塚特佐ほどの人が、ネウロンの総督を務めているんですか? 実力者なんだから最前線にいそうなものですけど」


「丹国独立のためだよ」


 犬塚銀は特佐だけではなく、<交国兄弟団>の代表も務めている。


 交国政府に不満を抱くオーク達を率い、政府と交渉している立場だから丹国独立にも密接に関わっている。……ガス抜きのために作られる丹国は交国政府にとってそれなりに重要な公共事業ってことだ。


 以前の犬塚はオーク達から絶大な支持を集めていたため、丹国にオーク達を集める広告塔として大いに活躍していた。


 だが、丹国独立に向けて行っていた業務が上手く行かず、果てには毒殺事件まで起きて、ネウロンで厳しい圧政を敷き始めた。


「こっちは問題ないとしても、とばっちりを食らう可能性もある。移動しよう」


 皆にそう促したものの、スペーサーはジッと捕り物を見守っていた。


 連行されていく人間の中には、スペーサーと同じオークの姿もあった。それを見ながら、「また、無実のオークが裁かれようとしている……」と悔しげに声を漏らしている。


 その肩を叩き、「その怒りは別の場所で費やすべきだ」と諭す。


「ネウロンもオーク達も解放してみせる。そのためにオレ達(エデン)が来たんだ。……ひとまず、この場を切り抜けよう」




■title:交国領<ネウロン>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


 総長に促され、港から密かに脱出して市街地に入る。


 そこでようやく気づいた。僕らがどこに立っているかを。


「ここって、ケナフだったのか……!」


 随分と様変わりしているから、少し驚いた。


 昔は小さな市街地と農園ぐらいしか無かったけど、市街地は昔の4、5倍ほどの大きさになっている。それに伴って農園も港も大きくなっている。


 バレットとレンズは直ぐに気づけなかったようだけど、「ほら、ラートとヴィオラ姉さんが初めてタルタリカの墓作りを手伝ってくれたところだよ」と話すとわかってもらえた。


「交国に支配されてからは<繊十三号>って名前になっていたけど……。前に来た時と全然違う町になっちゃったな……」


「それだけ復興が進んでるってことかな~?」


「それだけ、交国の支配が進んでしまっている……とも言えるな」


 7年前に解放軍が倒れた後、ネウロンでは交国軍によるタルタリカ殲滅作戦が本格的に進んだ。それは<ネウロン旅団>が活動していた時とは段違いの速さで進んでいった。


 結果、ネウロンにタルタリカはいなくなった――と言われている。


 タルタリカがいなくなったことで、人や町が襲われることも無くなったけど……ケナフ周辺には新しい防壁が築かれていた。


 タルタリカ用の防壁はもう必要ないはずだ。仮にどこかの軍隊が攻めてきたところで、機兵を擁する部隊ならあんな防壁、何の役にも立たないだろう。


「……監獄みたいだな」


 そびえ立つ壁を見ていると、ついそんな感想を呟いてしまった。


 ネウロンに暮らす人々を、交国が支配した町に閉じ込めるための壁。


 タルタリカという危険が無くなったとしても、この大地に暮らす人々が救われたわけじゃない。町中の雰囲気も活気があるとは言いがたい。どこか暗いものだ。


 けど――。


「僕らは、ネウロンに帰ってきたんだな」


「だね。ちょっと重苦しさもあるけど、この瑞々しい空気はネウロンのものだ」


 微笑んだレンズが両手を広げ、胸いっぱいに空気を吸った。


 バレットも道端にしゃがみ、舗装されていない大地を指でなぞり、ネウロンの土の感触を確かめている。


「ここってさ。星屑隊の皆と来た時、最初は町に入れてもらえなかったじゃん?」


「そういう事もあったなぁ。ラートやアラシア隊長達が町の人達を説得してくれたから、町に入れてもらえたんだよな。歓迎の宴も開いてもらったり……」


 バレットの言葉を聞きつつ、3人でアラシア隊長に視線を送る。


 隊長は耳を掻きつつ、「オレは何にもしてねえよ」なんて嘘をついた。


「奔走していたのはラート達だし……町の人達が受け入れてくれたのは、お前ら自身の力だ。命がけで住民を守ってただろ?」


「あの時、僕らを受け入れてくれた人達は……今もこの町にいるのかな?」


「どうだろうな。……前よりさらに、異世界人が増えたみたいだが……」


 町中を歩く人々をそれとなく見ても、ネウロン人らしき人はいない。


 植毛を切って、パッと見はネウロン人に見えないよう装っている人はいるかもしれないけど……交国がネウロンに来る前のように、堂々と植毛を晒している人達の姿はなかった。


 ネウロンは変わった。


 交国が来て変わって、魔物事件が起きて変わって……今また変わってしまった。


 そのうち、完全に原形を失ってしまうのかもしれない。完全に元通りにするのは不可能だとしても……それはちょっと寂しいな、と思った。


「前にお前らを歓迎してくれた人達がいたとしても、いま探しに行くのは勘弁してくれ。交国軍に見つかる可能性もある」


「はい。気をつけます」


「は~い」


「探しに行くとしても、ネウロン解放した後の楽しみだな」


 アラシア隊長は曖昧な笑みを浮かべ、「本当に解放出来たら、好きなところに行けばいいさ」と言った。


「ちなみに、一番最初に行きたいところはどこだ?」


「基地ですね」


「基地だよねぇ……」


「……うん」


「お前ら、そこは故郷じゃねえのかよ」


 隊長が苦笑する中、総長と話をしていたヴィオラ姉さんが戻ってきた。


 姉さんは僕らの会話が聞こえていたのか、「ネウロンから脱出する時にいた地下基地だよね」と補足してくれた。


 僕らは頷き、「ちゃんとお墓を作りたい」と言った。アラシア隊長も僕らの言いたい事に気づいてくれたのか、ハッとした表情を浮かべた。


「あぁ、そうか……。星屑隊の皆が、そこで――」


「はい。……逃げ切れなかった人達も、大勢いたので……」


 それだけじゃない。僕らがネウロンから脱出するために戦っていた時、タルタリカも交国軍と戦ってくれていた。


 僕らを助けようという明確な意志を持っていたわけではないだろうけど、彼らが交国軍の一部を引きつけてくれたのは助かった。


 全員分のお墓を作るのは難しくても……ちょっとした葬儀ぐらいはあげたい。


「それに、まだ無事かもしれない皆の手がかりもあるかもですから……」


 僕がそう言うと、バレットが「星屑隊の全員と再会する機会は、もうない」とこぼした。そしてさらに言葉を続けた。


「けど、まだ生きている奴は絶対いる。ラートやレンズ、隊長や……交国軍に戻ったパイプも、絶対に生きている」


 バレットの言葉に頷き、「その通りだ」と告げる。


「パイプはともかく、ラート達はまだネウロンにいるかもしれない。ひょっとしたら……ネウロンの大地のどこかに潜伏しているかもしれない」


「隠れてるラートちゃんとレンズちゃんをネジ隊長が率いているとしたら、重苦しい空気が流れてそ~。ネジ隊長、冗談言うのとか苦手そうだしぃ」


「いや、案外、連日のように禿頭太鼓を叩いて楽しくやってるかもしれんぞ」


 アラシア隊長がおかしな事を言うから、ついつい笑ってしまった。


 僕らが少し騒いでいたから、総長が咎めるように咳払いをしてきた。慌てて姿勢を正すと、総長が苦笑しながら「思い出話は、もう少し後でな」と言った。


「この先に、当面の間使うセーフハウスを用意している。そこなら人目を気にする必要ないから、ひとまずそこに行こうや」


「はいっ」


「は~い」


「了解」


 ネウロンには犬塚特佐という強敵がいる。


 けど、犬塚特佐さえ何とかしたら……一気に戦況が覆る。総長はそう読んでいるし、そのための「仕込み」も色々とやっているらしい。


 ラート達と再会するためにも、勝たないと。


 勝って……胸を張ってラート達のところへ行こう。


 どこにいるかわからないから、まずは探さなきゃいけないけど――。





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