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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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天使搭載型機兵



■title:エデン所有戦闘艦<メテオール>にて

■from:狙撃手のレンズ


「『けんのう』ってなんだっけ?」


 隣にいたアルを肘で突きつつ、小声で問いかける。


 アルは呆れ顔を浮かべて「前にヴィオラ姉さんが教えてくれただろ」と言った。覚えがない。ぬいぐるみ作るのに夜更かししすぎて、目を開いて寝てたかも。


 あたし達がコソコソと話していると、総長が咳払いをして「権能について知らない者もいるだろうから、改めて説明しておこう」と言った。


「<権能>というのは、超能力の一種だ」


 源の魔神(アイオーン)が世界を鋳つぶして造ったとされる特殊な力。


 源の魔神はその力を配下の天使達に与え、人類を管理あるいは虐げることに利用した。その権能(ちから)は源の魔神死後も残り、今も人類を苦しめている。


 様々な権能があって、透視能力を持つ権能があれば、筋力を爆発的に強化する権能もある。炎を自在に操ったり……条件付きで光速移動する権能もある。


 そんな説明を聞いていると、ほんのりと思い出してきた。


 ヴィオラ姉さんの話だと、ネジ隊長が「条件付きで光速移動する権能」を持っていたんだっけ?


 隊長はオークだから、フツーとは違う経緯で権能を手に入れたっぽいけど――。


「多くの権能は一点物。例外もあるが、基本的に同じものは2つとない」


 総長の背後にあるモニターに、プレーローマの天使が権能を使って戦っている映像が映された。


 天使は一見、あたし達のような人間と大差ないものに見えるけど……生身で機兵を屠る天使の姿も映し出されている。


「権能の強さも玉石混交だ。このように機兵を楽に屠れる権能使いもいれば、対人戦に特化した権能使いもいれば、戦闘には不向きな権能もある」


 ただ、モニターに映っている天使達の権能は「まだ弱い方」らしい。


 普通の人間と大差無い大きさの存在が、機兵をちぎっては投げ、ちぎっては投げしているのに……コレで弱い方なんだ。


「高位の権能を持つ天使達は、単騎で国や世界を滅ぼせる力を持つ。その最たる例は『睨むだけで人を殺せる権能』……プレーローマ最強の殺し屋、<死司天>が振るう権能(ザラキエル)だ」


 視線だけで大軍を瞬殺する権能。


 見られるだけで即死。弾丸より速い致死性の高い力。


 確か……先代総長(ニュクス)が率いていた頃のエデンは、<死司天>に負けたんだっけ。何人も神器使いがいても勝てなかったんだっけか。


 視線だけで人を殺してくる相手なんて、どれだけ強い個人でも大軍でもフツーは勝てないよね……。対策でもあれば話は別なんだろうけど。


「で、話は戻るが……犬塚銀の<白瑛(びゃくえい)>にも高位の権能が搭載されている可能性が高い」


「防御能力に特化した権能ですか?」


「そうだ。白瑛はプレーローマ艦隊や要塞の砲撃を受けようが、混沌の海で大きな時化に巻き込まれようが、搭乗者共々ピンピンしていたそうだからな」


「しかし、権能はプレーローマの力でしょう? 何で交国軍に権能が……」


「交国はプレーローマの捕虜から権能を抽出……あるいは捕虜をそのまま使って、自国の戦力としている可能性があります」


 ヴィオラ姉さんがそう言うと、皆が懐疑的っぽい反応を返した。


 けど、一部の交国の人が権能を使っているのは本当っぽいからな~……。あたし達がネウロンから逃げる時も、ネジ隊長と同じ力を使ってる人いたし。


「白瑛の場合は、権能持ちの天使を搭載(・・)している可能性があります。あくまで可能性の話ですが……」


「搭載?」


「はい。7年前、ネウロンでフェルグ……こほん。スアルタウ君達が、犬塚特佐の白瑛と遭遇した時の事なんですが――」


 ヴィオラ姉さんはアルの事を見つめ、問いかけてきた。


「3人は、白瑛の中に『2つの魂が観えた』んだったよね?」


 あたし達を代表して、アルが「観えた」と言った。


 アルは白瑛に対して巫術憑依を仕掛けたけど、失敗した。


 それは白瑛に巫術師を憑依させ、巫術への対抗手段を用意してきたのかと思ったけど……ヴィオラ姉さんの見立てでは違うらしい。


 実際に憑依を仕掛けたアルも、「巫術師に弾かれた感触じゃなかった」と言い、ヴィオラ姉さんの見立てを支持している。


「スアルタウ君達が観た2つの魂。1つは犬塚特佐のものでしょうけど、もう1つは機兵に搭載された『権能持ちの天使』だと思います」


「天使を載せることで、その権能で機兵を守っているってことか?」


「おそらく……」


「搭載って言い方、物騒だな。まるで部品(・・)にされているみたいじゃないか」


 元ベルベスト連合の軍人さんがそう言うと、他の人が茶化すように「まさか手足を切り落として載せているとか?」と言った。


 ヴィオラ姉さんは真顔で「もっと酷い状態の可能性があります」と言うと、茶化していた人達が黙った。


「実際にどんな状態かは、ここで論ずるのはやめておきましょう……」


「重要なのは、白瑛が権能を使っているということだ」


 白瑛は高位の権能が「搭載」されているから、とても硬い。


 生半可な攻撃は通用しない。


 というか……どんな攻撃も(・・・・・・)通用しない(・・・・・)可能性すらあるっぽい。


 そんなのどう倒せと?


 会議室にいる人の中には、「優れた防御性能を持っていたとしても、こちらには無敵の矛がありますよ」と言って巫術師(あたし)達を見てきた。


「スアルタウ達の憑依強奪なら、勝機は十分ある」


「白瑛に憑依強奪を仕掛けたことはありますが、失敗しました。あの機兵の防御性能は憑依強奪すら弾けるようです」


「無敵の盾すぎるな……」


「無敵じゃないさ」


 そう言ったのは総長だった。


 いつもの不敵な笑みを浮かべ、「それはプレーローマが(・・・・・・・)証明してくれている」と言った。


 白瑛は確かに強い。今まで傷一つ負ったことがないと言われている。


 一見、「無敵の盾」と言いたくなる性能だけど――。


「本当に無敵なら、プレーローマは滅ぼされている」


「けど、実際にはそうなっていない」


「ああ。だから『無敵の盾』にも弱点があるってことだろう」


 その弱点については、ヴィオラ姉さんがアタリをつけてくれたらしい。


 ただ、ヴィオラ姉さんは困り顔を浮かべ、「弱点ってほどのものじゃないんですけどね……」と言いながら説明してくれた。


「白瑛が使っている力は、<アザゼル>という天使が使っていた権能に似ているんです。おそらく、交国軍はこの天使を捕虜にして部品にしたんだと思います」


 もう何年も目撃されていない天使らしい。


 そして、行方不明になってしばらく経った後、犬塚銀が駆る白瑛が戦場で活躍し始めた。その白瑛の中に、アザゼルって天使さんがいる可能性がある。


「天使・アザゼルの権能は『攻撃の無効化』です。具体的には『指定した種別の攻撃』が命中しても、無傷で弾きます」


 例えば「銃火器による攻撃」を指定すると、通常戦力ではほぼ歯が立たなくなるらしい。極端な話、神器とかぐらいにならないと攻撃が通らないらしい。


「彼の天使は毒ガスどころか、核爆発どころか無効化した記録があります」


「そんな馬鹿げた権能持ちが搭載されているなら、そりゃあ犬塚特佐も無傷で帰ってくるわけだ……」


「自分だけそんなインチキ機兵に乗っているなら、戦場なんて怖く無いだろうな」


「で、弱点というのは――」


「権能起動前なら、攻撃が通ります」


 盾を構えていない時なら倒せますよ、って話らしい。


 つまり犬塚特佐が機兵に乗る前に倒せ、ってことかな?


「あるいは、権能の連続使用限界まで攻撃を続ける……とかですかね」


「何分ぐらいで限界が来るんですか?」


「天使・アザゼルの過去の戦闘記録を踏まえて考えると、10時間は持ちこたえたようですね。限界はあるはずですが……具体的にどの程度かは……」


「限界を狙うのは現実的じゃないか」


「ふん縛って混沌の海に放り込んで、爆弾投下し続けたらあるいは――」


「ヴァイオレット女史。もっとマシな弱点はないのか?」


「無効化を指定されて(・・・・・)いない攻撃(・・・・・)を与える、とかですね」


 ヴィオラ姉さんが「天使・アザゼル」を知っているのは、「スミレさん」から受け継いだ記憶があるかららしい。


 真白の魔神が率いていた頃の<エデン>がアザゼルと戦った記録があるらしい。その時、エデンはアザゼルをボコった(・・・・)んだとか。


「アザゼルは、神器使い・丘崎獅真との戦いで両腕をへし折られ、撤退に追い込まれました。強力な防御権能を持っているのに、攻撃が通ったんです」


「関節技が弱点ってことか?」


「丘崎さんの見立てだと、『アザゼルは同時に2種類の攻撃しか防げない』とのことです」


 丘崎さんの場合、最初は「神器」と「斬撃」の2種類の攻撃を使っていたけど、それが相手の権能で防がれた。


 けど、神器と斬撃の2種類で攻撃しつつ、一瞬の隙をついて間接技を繰り出したら通ったらしい。相手がしぶといから倒し切れなかったそうだけど。


「白瑛がアザゼルと同じ権能を使っている可能性が高い以上、アザゼルと同じ弱点を持っている可能性が高いってことだ」


「弱点というか、隙というか……」


「無効化の指定は切り替えられるみたいだけど、切り替えまでかかる時間は――」


「一瞬だと思ってください。おそらく、『この攻撃を防ぎたい』と念じた瞬間に無効化の指定が完了します」


「つまり、無効化指定を切り替えまくれば実質無敵ってことじゃな~い?」


 防げる攻撃、2種類どころじゃないじゃん。


 すると総長が「だが、同時に防げるのが2種類ってのは大きな隙だ」と言った。


「要するに、同時に3種類の攻撃を行えば、どれか通るんだよ」


「言うは易しって話じゃない?」


「難易度高いのは攻撃側だけじゃない。攻撃を受ける犬塚銀側も、常に『どの攻撃を防ぐか』の選択をし続けることになる。複数の攻撃で責め立て続ければ、奴はどこかでボロを出すさ」


「なるほどぉ……?」


 向こうが有利な気がするけど、無敵ではない。


 向こうも防御に専念していたら勝てない。防御の指定を行いつつ、攻撃もしないといけない。確かに面倒かもしれない。……いや、戦闘ってフツーそうだよね?


 やっぱり、「バ~リア! その攻撃は効きませぇ~ん!」って出来るのはズルいって。一瞬で展開できる超絶カチカチ盾を使えるってことっしょ?


「狙撃と斬撃と~……あと、地雷でも踏ませる同時攻撃しろってことだよね?」


「うん。でも、半端な攻撃は全部無効化されるはず」


「え? なんで?」


「例えば、防御指定を『通常兵器による攻撃は全て無効』にされた場合、1種類で狙撃・斬撃・爆発の全てを無効化される可能性が高いの」


「なにそれ、ズルい」


 やっぱやりたい放題じゃん!


 ちょっと戯けつつ、「そんな相手に攻撃を通すの無理じゃな~い?」と言う。


 総長は少し顔をしかめて「真面目にやれ」と言ったけど、皆も同じようなことを思ってるでしょ? それをわかりやすく表現しただけなのに~。


「そこまで出来るなら、『全ての攻撃無効』って指定も出来るんじゃない?」


「それは無理。うーん……例えば、この紙を権能による『防御指定』だと考えて」


 ヴィオラ姉さんが1枚の紙を掲げた。


 A3サイズの紙がペラッと広がっている。ヴィオラ姉の顔を隠している。


「この紙を広げた状態を、『攻撃は全て無効』に指定していると考えてください。広く指定しているので、防御出来る攻撃の種類は多くなります」


 その状態だと色んな攻撃を防げる。


 けど、範囲が広すぎて1つ1つの耐性(・・・・・・・)は弱い。


「この状態だと、消しゴムを投げられた程度なら弾けます。しかし、よく尖ったペンを投げられたらどうなると思いますか?」


「簡単に貫けそう。ぺらぺらの紙だし」


「その通り。では、紙をたくさん折りたたむと――」


 ヴィオラ姉さんがせっせと手を動かし、紙を小さく折りたたんだ。


「ここまで折りたためば、ペンで貫けるでしょうか?」


「簡単には……貫けなさそう。なるほど、広い範囲の防御指定の方が多種多様な攻撃を防げるけど、強い攻撃には弱くなるんだね」


「逆に強い攻撃に対する防御指定を行うと、広い範囲の防御は出来なくなるの」


 白瑛の防御は、「メチャクチャ硬くなる」ってものじゃない。


 あくまで「指定した種類の攻撃を無効化する」ってものだ。


 その無効化にも限度がある。


 攻撃の「定義」を狭めていけば、より強固な防御に出来るけど……その分、弱点が出来やすくなるって感じか。


「要するに、メチャクチャ強い攻撃を3種類用意したら良いってこと?」


「うんうん。良いまとめだね」


 ヴィオラ姉さんは笑顔で拍手してくれたけど、総長は「その『メチャクチャ強い攻撃』を3種類用意するのが大変なんだけどな」と言ってきた。


「用意する3種の攻撃のうち、1種は『通常兵器』で十分だろう」


「例えば、機兵による狙撃?」


「その通り。レンズか総長(オレ)の狙撃とかだな」


 相手が機兵である以上、最低限、機兵の装甲を抜ける攻撃は必要。


 となると、こっちも機兵なり方舟なりで攻撃する必要がある。


「2種類目に関しては、『巫術(イド)』がいいだろうな」


 巫術は術式。


 通常兵器防御だけじゃ防ぎきれないはずだ。


 もちろん、相手が巫術師じゃなければって話になるけど――。


「問題は3種類目の攻撃ですね」


「超強力な爆弾でも用意しますかい? そんなもん、機兵での戦闘中に上手く使えるかどうかはともかく――」


爆弾(それ)は通常兵器の枠で防ぎきれるんじゃねえのか?」


「威力次第ですね。例えば……混沌機関の貯蓄混沌(エネルギー)を全て使い果たすほどの爆発を起こせたら、通常兵器の枠は超えられるかと」


「何にせよ、キツい相手だな。相手はあの犬塚銀なんだから……」


「問題ねえよ。オレ達(エデン)なら何とかなるさ」


「…………」


 総長は自信ありげに笑っている。


 けど、大丈夫かなー……。犬塚特佐とはあたしも戦ったことあるけど、並大抵の相手じゃなかったのは覚えている。権能無しでも勝てなかったと思う。


 あたし達も7年前より強くなったけど……それは向こうも同じかもだし……一筋縄ではいかないと思うけどな~。


「他に何か弱点はないのか?」


「今のところ、思いつきません。実際に戦った丘崎さんは……『あと何度か戦ったら、権能で防御されようと技術的に叩き切ることが出来た』と豪語してました」


「技術的に、って……?」


「丘崎獅真さんは、ちょっと……常軌を逸した達人さんなので、相手が高位の権能だろうと技巧で突破できる、ってことです」


「ちょっと言ってる意味がわからないな」


「その辺の棒きれで、空に浮かんだ雲を断てるような人なんです。コツを掴めば権能の防御だろうが叩き切ってやる~って御方なんです」


「もっと意味わからなくなったな」


「人間やめてるだろ、それ」


 皆も困惑している。


 けど、「丘崎獅真」の名は一部の人には聞き覚えがあるらしい。


 人間のはずだけど、生身で空や海を切り裂いたり、機兵や方舟も普通の剣1本でズンバラリンと切り裂いたり出来る人らしい。


 知る人ぞ知る達人、って感じか。そんな人があたし達の仲間になってくれたら犬塚特佐も倒せるかもだけど――。


「まあ、オレ達はオレ達のやり方でなんとかするしかない」


 ざわつく会議室を静かにするため、総長が「パンッ!」と手を叩いた。


「相手の能力はわかった。キッチリ対策したら勝てる相手さ」


「あの、総長。白瑛がアザゼルと同じ権能を使っているというのは、あくまで推測ですからね? 2種類の攻撃を防御するって話も推測ですから……。ひょっとしたら、さらに進化している可能性も――」


「無敵の怪物なんて存在しない。そんなのがいたら、人類とプレーローマの戦いはとっくの昔に終わっているさ」


 総長は勝つ自信があるらしい。


 ヴィオラ姉さんは不安げな表情を浮かべつつ、総長に話しかけた。


「白瑛は対策を打てば楽に勝てる相手ではありません。犬塚特佐の強さは……メッキではありません。多大な犠牲を支払っても勝てない可能性が――」


「ヴァイオレット。オレが何年、エデンの戦士として戦い続けてきたと思う? オレは戦闘のプロだ。そのオレが『出来る』と判断した以上、素人のお前は黙っていてくれ」


 総長の言葉に対し、「やな言い方~」と言っておく。聞こえるように。


 けど、総長はサクッとスルーした。総長って人の意見あんまり聞かないよね~。





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