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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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毒と白瑛



■title:エデン所有戦闘艦<メテオール>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 あの犬塚特佐が……交国の英雄が、部下を毒殺?


 オレの耳がおかしくなったのかと思ったが、総長は確かにそう言ったらしい。


 オレは交国なんて大嫌いだ。犬塚特佐のことも別に好きじゃない。


 だが、あの人が部下を毒殺したなんて……イメージが湧かない。


 総長は「長年従えてきた部下達に反抗されたから、全員まとめて毒殺したそうだ」と語ったが……どうにも信じがたい。


「誤報じゃないのか?」


「確かな筋からの情報だ。交国は真実を隠蔽しているがな……」


 総長は吐き捨てるように言いつつ、さらに言葉を続けた。


「犬塚銀は多数のオークを従えていたが、直属の部下だったオーク達と待遇面で揉めたらしい」


 犬塚銀は、あくまで交国政府側の人間。


 オークの真実を告発したのは、交国政府が筋書きを書いた工作の可能性が高い。


 しかし、それでも……犬塚銀は<交国兄弟団>の代表者として交国政府との交渉の最前線に立っていた。交国政府の筋書き通りだろうと、オークの待遇改善のために動いていた。


 相手が交国で、犬塚特佐自身も交国側の人間だから万事が上手くいっていたわけではないはずだが……それでも待遇は少しずつ改善されていたはずだ。


「どうも、犬塚の部下達は<丹国>の元首や大臣の地位を約束されていたらしい。しかし、その約束を反故にされてキレた部下達は不平不満を漏らし、犬塚の不正をアレコレと告発する準備をしていたそうだ」


 窮した犬塚銀は、先手を打って部下共を毒殺した。


 総長はその事件について扱った交国の報道を見せてくれたが……そこには「反政府組織の工作員により、犬塚特佐の部下が殺害された」という報道が流れていた。


 総長はそれを「交国政府の偽装工作」と断じ、糾弾している。


 交国政府が「また」真実を隠していると言っている。


「交国政府にとっては、犬塚銀は大事な手駒だからな。交国兄弟団の代表としつつ、オーク達の考えを誘導するために必要な存在だ」


「だから事件の詳細を捏造していると? そんな馬鹿な……」


 本当に反政府組織のやった事じゃないのか? と聞いたが、総長は「それは絶対に有り得ない」と真剣な顔つきで言ってきた。


「オレは犬塚銀の部下達から、接触(コンタクト)を受けていた。奴らは犬塚銀と揉めている詳細について話してくれて、犬塚の不正告発を手伝ってくれと言っていたが……その矢先に殺されたんだ」


「偶然じゃないのか? 犬塚特佐が彼らを殺したとは――」


「犬塚銀の部下という事は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた精鋭だぞ? 反政府組織如きにサクッと毒殺されるもんか」


 身内に――犬塚銀につけ込まれたんだよ、と総長は語った。


 しかも、事件で死亡した犬塚特佐の部下は、オークだけではないらしい。


「オーク側についていた神器使いも毒殺されたらしい。その場で一番若い子だったらしいが……犬塚銀は容赦なく殺害したそうだ」


「そんな馬鹿な。神器使いを殺すなんて……」


 神器使いを勝手に殺したら交国政府が黙っているはずがない。


 だが、総長は「犬塚銀はそこらの神器使いより価値ある存在だから、犬塚銀が優先されただけだよ」と言って鼻で笑った。


「交国政府が主張している『反政府組織の工作員』は捕まったのか?」


「工作員自体は今まで何人も捕まっている。それこそ解放軍の残党とかな。だが、毒殺犯自体は捕まっていない……という扱いになっているらしい」


「それなら余計、断言出来ないんじゃないのか?」


「そもそも捕まるわけないんだよ。犯人は犬塚銀なんだから――」


「…………」


 どう聞いても、おかしい。


 犬塚特佐といえば、対プレーローマ戦線の英雄だぞ?


 あの特佐はプレーローマ戦線以外でも大活躍している特佐だった。犬塚伝という作品として取り上げられるほどの英雄だった。


 もちろん、犬塚伝(フィクション)に書かれていた事が全て事実だとは思えないが、それなり以上の根拠があったはずだ。


 交国指折りの武闘派が、部下と揉めて毒殺なんて……雑なことをするか? 確かに卑劣な工作は交国のお家芸だが……。


「犬塚銀といえば、常に自分が真っ先に戦場に飛び込んでいって……部下は後方支援に徹させる人間だったはずだ。部下達にも、慕われていたはず……」


「丹国の中枢を任せるという甘言を吐いていた結果だよ。考えてもみろ、オークは交国に軍事利用されていたんだぞ? 奴らには交国に反感を持つ理由なんていくらでもあるはずだ」


 総長はそう言って苦笑し、「そもそも、犬塚銀の活躍はメッキ塗れのものだよ」と言った。


「長年活躍してきた『交国の英雄』なんて、交国政府の宣伝戦略(プロパガンダ)に決まっているだろ。アラシア、お前はそんなものを信じているのか?」


「ある程度は宣伝戦略の影響もあったと思うが、全てがそうだったとは思えない。根拠となる実績が多数あったはずだ」


 オレがそう言うと、アルが「犬塚特佐は強敵でした」と語った。


 ネウロンから――繊一号から逃げる時、アル達は犬塚銀と戦闘した。


 そして圧倒された。その強さはメッキ塗れのものではありませんでした――とアルは語ったが、総長は「奴の強さにはカラクリがある」と言った。


「犬塚銀の強さは<白瑛(びゃくえい)>ありきのものだ」


 総長がそう語ったのが合図だったように、総長の背後のモニターに白瑛の姿が――犬塚銀が駆る機兵の映像が映った。


 白瑛は<交国六鬼兵>と呼ばれる特殊な機兵の1体であり、その戦闘能力は『神器に相当する』と言われている。


「白瑛は今まで一度も傷を負ったことがない。異常な(・・・)防御性能(・・・・)を持っている。アル達が犬塚銀に負けたのは、向こうに白瑛があったからだ」


 映像の中の白瑛が被弾した。


 だが、白い装甲には傷一つついていない。


 流体装甲による装甲の即時修理によるものじゃない。艦砲射撃を受けてもなお、白瑛はピンピンとしている。


 白瑛が異常に硬いのは有名な話だ。だからこそ交国六鬼兵の1つとして数えられているんだが――。


「白瑛がどうやって攻撃を防いでいるか、わかる者はいるか?」


 総長がそう言うと、皆はそれぞれ近くの者と顔を見合わせていた。


 全員、正確な答えはわからないんだろう。


 交国軍人だったオレでもわからん。白瑛が「どういうカラクリで攻撃を防いでいるか」ってことは、軍事機密だった。


 ただ、推測として「神器を内臓しているのでは?」と言う者はいた。


 白瑛の堅さは尋常のものじゃない。ならば、防御性能に優れた神器の力を借りているのでは……という推測が持ち出されたが――。


「アレは神器によるものじゃない。……そうだよな、ヴァイオレット」


 総長に問われたヴァイオレットは、僅かに困惑顔を浮かべた。


 総長に「お前の考えを皆に伝えてくれ」と言われると、「総長の指示で白瑛のデータを精査してみたのですが――」と言いながら言葉を続けた。


「白瑛の防御性能を支えているのは、おそらく<権能>です」





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