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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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転生殺害能力



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「結局、エレイン関連で動く認識阻害術式って……何なんだろうなぁ……」


 交国関係以外にも、僕らの周りには謎が多い。


 7年経っても認識阻害術式の正体は謎のまま。


 エレインは少しずつ消滅に近づいているようだけど、認識阻害そのものは衰える気配がない。弱っていくエレインとは違い、ずっと元気なままだ。


『私にもハッキリしたことはわからん。だが、認識阻害術式を仕掛けた者と、私を呼び寄せた存在は同じ……だと思う』


 エレインは「明確な根拠はないがな」と言ったが、僕も同意見だ。


 認識阻害とエレインの存在は無関係じゃない。


 エレイン関連で認識阻害が働いている以上、明らかに関係している。それならどちらも同じ人が仕掛けた可能性が高いはずだ。


 少なくとも「エレインが先」で、「認識阻害術式が後」だったんだろう。


 今のところ、認識阻害術式が働いているのはエレイン関連だけのはずだ。エレイン関連で機能する術式なら、「エレインがいることが前提の術式」だったはずだ。


『その存在は、お前達を守るという意図があったのかもしれない。あるいは……もっと別の目的があったのかもしれない』


「例えば?」


 聞いてみると、エレインは肩をすくめて「わからん」と言った。


 推論を並べようにも、判断材料が少なすぎるらしい。


 まあ、無理もないか。だって――。


「お前関連で動く認識阻害術式って、とんでもない広範囲だもんなぁ」


 ネウロンから逃げた後、僕らは色々と試す時間を得た。


 認識阻害術式の効果範囲も色々と検証してみたけど、わかったのは「効果範囲の果てがわからない」というものだった。


 下手したら多次元世界中に影響する術式のようだった。


 どれだけ離れた相手でも、どんな媒体を通しても、僕ら以外にはエレインのことを認識できる人はいなかった。


 僕が振るったエレインの技を認識できる人もいなかった。……まあ、ラートという例外はいたけど――。


『あえて私関連のことを隠している辺り、私の存在が露見するのがマズい……と考えているのかもしれんな』


「ふーむ……?」


『あるいは、私の力を使う兄弟達を過小評価(・・・・)させたかったのかもしれんな。それが何らかの目的に繋がるとかで……』


 この件に関しても推論を並べるのが精一杯。答えを出せない。


 それでも頭をひねって考えていると、エレインが「すまんな」と言ってきた。


 エレインが悪い話ではないけど――自分絡みの事だけに――その謎を解き明かせないことに関して申し訳なく思っているらしい。


「大丈夫だって。認識阻害は都合が悪い事もあるけど、エレインはいてくれても良いことしかない。エレインが申し訳なく思う必要はまったくないよ」


『…………。すまんな』


「僕はむしろ、感謝しているよ。アンタを遣わしてくれた人に」


 それが誰だかわからないけど、エレインと出会えたから今の僕がいる。


 ……僕を見守り、導いてくれるエレインに対してやってあげられる事がほぼ無いから、僕が申し訳ないぐらいだ。


「僕にとって、エレインは師匠の1人で……頼れる英雄でもあるんだよ。兄弟」


『――――』


「アンタがいなかったら、僕は今日まで生き延びられなかったし――」


 本当に感謝しているんだよ、と言うと、エレインの反応が少しおかしかった。


 呆けている……とは違う。ただ、息を飲んでいるような仕草をしていた。


 気に障る事でも言っちゃったかと思い、聞いてみたがエレインは「なんでもない」と言って笑うだけだった。


『それより、最初の話に戻ろう。……そもそも、星屑隊の隊長関係の話で私を呼び出したのではなかったか?』


 エレインはアラシア隊長達との話も聞いてくれていたようだったけど、話を整理するためにも改めて隊長達と話した件を話す。


 エレインもネジ隊長を「只者ではない」と気づいていたようだけど、近衛兵時代に何があったかなどはさすがにわからないようだ。


 ただ、改めて話をしていると――。


『口を閉じろ、兄弟。誰か来た』


「おっ、ホントだ」


 人気のない廊下で話し込んでいたけど、向こうから誰か来ている。


 エレインは「私と喋っていると、また幻覚と喋っている可哀想な子扱いをされるぞ?」と、冗談めかした様子で言ってきた。


 認識阻害術式の影響もあって、エレインと話していると皆が生暖かい目で見てくるんだよな……。ヴィオラ姉さんとか本気で心配してくるし……。


 そういえば、エレインと実際に会話し始める前から幻覚や幻聴の症状があるように思われていたんだよなぁ……と思いつつ、こちらに来る人物をよく見る。


 やってきたのはエデンの構成員ではなかった。お客様だ。


「こんにちは、ラプラスさん」


 ゴロゴロと喉を鳴らしているマーリンを頭に乗せつつ、やってきた知人に挨拶をする。ラプラスさんは片手を軽く振りつつ、挨拶に応じてくれた。


 1人で何をしていたんですか、と問われたので、「マーリンと戯れていたんですよ」と言って誤魔化しておく。まあ、嘘ではない。


「まーりん?」


「ネコですよ。フワフワマンジュウネコ」


「ほ~。渡りのマンジュウネコがいるんですね?」


 ラプラスさんは「艦内に出たネズミとか取ってもらうと良いですよ」と言ってニコリと笑い、さらに話題を振ってくれた。


「そういえば、エデンの対交国作戦、私達も同行させていただきますね」


「ああ、そうなんですね」


 どうも総長が許可したようだ。


 ちょうど良いかもしれない。


 ラプラスさん達は――正義の味方ではないけど――真実の歴史を集めている。


 記録を広く公開する事がなくても、エデンの活動や、交国の蛮行を記録してもらった方が何かと良いだろう。


「でも確か、ラプラスさんって<真白の魔神>を追っているんですよね? エデンについてきたところで、真白の魔神とは出会えないと思いますが……」


「いやぁ、わかりませんよ。ヴァイオレットさんは真白の魔神謹製の人造人間です。彼女についていけば、真白の魔神絡みで面白い事件が起こるかもです」


「事件なんて起きないでほしいですけど……」


「私は正直、起きてほしいですね」


 人の不幸を祈るなんて趣味が悪いですよ――と言っちゃうと、ラプラスさんは「実のところ困っているんですよ」と返してきた。


 ラプラスさんはずっと真白の魔神を追っているけど、最近はまったく所在が掴めないらしい。多次元世界は広いから、そう簡単には見つからないか。


 捜索するための手がかりが殆どなくなったため、藁にも縋る思いでヴィオラ姉さんを頼ってきたらしい。


「ヴァイオレット様は玉帝に狙われているようですし、そんな身で対交国作戦に参加したら何か起こりそうですよね」


「それは……確かにそうかも」


 ヴィオラ姉さんが作戦についてくるのは、正直心配だ。


 無理矢理でも本隊に置いていった方がいいと思いませんか――と相談すると、ラプラスさんは「危険度は大して変わらないでしょ」と言った。


「むしろ貴方達が不在の間に、交国軍がバ~ン! とエデン本隊を襲いに来るかもですよ? 彼らはそういうことやってきてもおかしくないです」


「ム……」


「ともかく、私は以前と変わらず真白の魔神を追っているので、真白の魔神絡みで面白い話があったら教えてくださいな」


 そう言われても、僕は情報通じゃないから何も知らない。


 わからない事だらけで戸惑ってばかりだ。


 ……いっそのこと、エレインのことをラプラスさんに相談してみるか? いや、言ったところで認識阻害術式に阻まれるだけか……。


「しかし、史書官さんも大変ですね。この広い多次元世界で1柱の魔神を探すなんて……とても大変でしょう?」


「大変ですが、楽しいものですよ。色んな世界に行けますからね」


「ああ、そういう楽しみもあるのか。あ、そうだ、SNSとか活用してますか?」


 小首を傾げるエレインさんの前で、携帯端末を見せる。


 専門家相手に探し方を提案するなんて、鼻で笑われるかもだけど……言うだけならタダだ。試しに1つ提案してみる。


「色んなSNSで人捜しの情報を募るんですよ。真白の魔神の顔写真とか、1枚ぐらいあるでしょう? それを使って皆に探してもらうんです」


「ああ、それは無理です。今代の真白の魔神の顔、まだわからないので」


「といっても、真白の魔神は……真白の魔神でしょう?」


 転生する特殊な魔神だとしても、同じ魔神のはずだ。


 それなら顔だって同じだろうと思ったけど……違うらしい。


「真白の魔神は転生するたびに容姿が変わるのです。10歳の少女だったり、1000歳の老エルフになっちゃう事もあります」


「どういう事ですか……?」


「真白の魔神は、他者の身体を乗っ取る(・・・・)んですよ」


「乗っ取…………。えっ?」


「巫術師の皆さんは、様々な人工物に憑依できるでしょう? 真白の魔神は生物に憑依しちゃうのです。死ぬまで乗っ取っちゃうのです」


 真白の魔神は転生する。


 死んでも死んでも復活する。


 新生児として復活する事もあるけど、その場合でも「本来生まれてくるはずだった命」の身体だけ乗っ取って、魂を追い出すらしい。


「追い出すというか、乗っ取る段階で憑依先の魂を殺害するんですよね~。自動的に。どちらの意志も関係無しにぶっ殺し、他者に成り代わるのです」


「…………」


「一種の即死攻撃ですね。私達がこうして話している間も、どこからともなくやってきた『真白の魔神の魂』に身体を乗っ取られて殺される危険があるのです」


 普通は真白の魔神自身も転生先を選べないから、実際に乗っ取られることはそうそう無いらしい。


 普通は(・・・)ってところが、ちょっと気になるけど――。


「それ、乗っ取られる人にとってはたまったものじゃないですね」


「周囲の人も大変ですよ~? スアルタウ様の大事な人達がある日突然、<真白の魔神>と化しちゃう事もあるのです。そうなった時点でもう救いようがないので、身内を彼の魔神に殺され奪われ復讐を誓った人々も大勢いました」


 無茶苦茶な話すぎて、ゾッとした。


 魔神は危険な存在だと教わってきたけど、「他者の身体を乗っ取って転生する」ってだけでメチャクチャ危険な存在だ。傍迷惑を通り越して恐怖を感じる。


「しかしそうなると、外見で判断するのが不可能になるでしょう?」


「うんうん。仰る通りです」


「あと……真白の魔神は転生のたびに、記憶を失う可能性があるんですよね?」


 真白の魔神本人が自分が何者か忘れてしまえば、余計に探しづらくなるだろう。


 実際探しにくいらしいけど、見つけるのは不可能じゃないらしい。


 真白の魔神は記憶を(・・・)失おうが(・・・・)非凡な才能を発揮するため、「急に天才になった人物」「急に活躍し始めた人物」を探せば見つかる事もあるらしい。


「あと、彼の魔神は壊拓者(トリックスター)なのでよく大きな問題を起こしています。火事や世界崩壊が起きていたら、その中心で真白の魔神が何かやらかしている事も珍しくありません」


「それ、本人が死にそうですね」


 実際に死んで転生するから追跡が難しいんですよ――とラプラスさんは言いつつ、何故か両手で大きな箱を持つような仕草をした。


「真白の魔神が『魔神』たる所以は、転生だけではないのです。記憶を失ってなお、天才性を発揮し続けるからこそ恐れられているのです」


「急に頭が良くなった子が、真白の魔神扱いされそうですね」


「実際、ありますね~。本当に彼の魔神か否か問わず」


 一部の世界では、神童を「この子は真白の魔神かもしれない」と警戒し、監禁する風習もあるらしい。


 その子が本当に真白の魔神か否かを判定するのは難しいため――本人が何と弁明しようと――場合によっては殺す事もあるらしい。


 色んな意味で恐ろしい魔神だ。関わり合いになりたくないな……。


「まあ、私は特殊な捜索方法も持っているのですけどね~」


 ラプラスさんは「むふーっ」と得意げな顔を浮かべつつ、懐からビー玉のようなものを取り出した。


「それは……?」


「これは<魂魄認証装置>です。なんと! 外見どころか種族すら関係なく、魂を判定できる特殊な装置なのですよ~!」


「へ~、すっごい。それあれば真白の魔神を見分けられるって事ですか?」


「ええ。直ぐ近くに真白の魔神がいたら、ほんのり温かくなって赤く光っちゃうのですよ。優れものでしょう?」


「へ~……………………既に赤くないですか…………?」


 赤く爛々と輝いてるよ、これぇ。


 え…………エデン本隊のどこかに真白の魔神がいるってこと!?


 さすがに狼狽えていると、ラプラスさんは興奮気味にビー玉――もとい、魂魄認証装置をあちこちに向け始めた。


 マーリンはその様子にビックリしたらしく、「ニャヒ~!」と悲鳴のような鳴き声をあげて僕の背中に隠れ始めた。


「むむっ……! スアルタウ様の方から反応が……!」


「げぇ……! じゃあ、向こうに真白の魔神がいるってこと……!?」


 そっちはエデンの医療区画だぞ。


 ……ヴィオラ姉さん達がいる方向だ。


 血の気が引くのを感じつつ、興奮しているラプラスさんについていく。ラプラスさんは「ほぁぁぁ~っ!」と鳴き声を上げつつ、反応を探りつつ歩いている。


「それって、ラプラスさんが自作したんですか?」


「いや、これも真白の魔神の発明品ですよっ! ちなみに同じような魂魄認証装置は、真白の魔神の使徒にも術式として搭載されていたりします!」


「自分達の主がどこにいるか、探しやすいように?」


「いえ、統制戒言ドミナント・レージング用ですね。転生後も引き続き使徒達を従えられるよう、魂魄で主従関係をハッキリさせているのですよっ!」


「ドミ……なんですって?」


「ドミナント・レージングです。真白の魔神が、使徒達を従わせるために使っていた術式です。真白の魔神が『死ね』と命じたら使徒達を自害させたり~、裏切った時の安全装置に出来るものですよ~」


「なにそれ、非人道的」


 僕がそう感想を漏らすと、ラプラスさんは「使徒には曲者が多かったですから、仕方ない面もありますよ」と言った。


 その辺はともかく……特定の魂を見分けられる装置か。


 それって上手く使えば、巫術に活かせるんじゃないか……?


 そんな事を考えながら歩いていると、興奮気味に歩いているラプラスさんに置いて行かれつつあった。けど、急いで追いかける必要はなかった。


「こっちじゃない! そっちですねっ……!?」


「あっ、医療部に行くんじゃないんですね」


 ラプラスさんは立ち止まっていた僕とすれ違い、元来た道を戻り始めた。


 ヴィオラ姉さん達の方じゃない。


 ……いや、どっちにしろ安心はできないか。


 けど、エデンに「人が変わったような構成員」なんていたっけ……?


「おぉぉ~っ? おおおおぉぉぉぉ…………?」


「…………? 何でこっち戻ってくるんですか?」


「いや、だって反応がスアルタウ様の方から……」


 ラプラスさんは困惑顔を浮かべつつ、僕に魂魄認証装置を向けてきた。


 装置が一層、赤く輝く。マーリンが怯えた様子で鳴いている。


 まさか、これって――。


「ぼ……僕が<真白の魔神>なんですか!?」


「いやいやいや……真白の魔神はもっと賢いですよ?」


「僕がバカだって言いたいんですか!?」


 軽く抗議すると、ラプラスさんは半笑いを浮かべつつ、「まあまあ落ち着いてください」と言ってきた。そして、装置を懐にしまった。


「ぬか喜びしちゃいました……。装置が壊れているようですね」


「僕が、いつの間にか真白の魔神になっているわけではない……?」


「スアルタウ様。生まれた頃からの記憶はキチンとあるでしょ?」


「いや、さすがに物心ついた時の記憶しかないですけど――」


 僕は僕だ。


 エデン構成員のスアルタウだ。


 僕がいつの間にか真白の魔神になっていたとしたら、記憶喪失とか起こってるよな……? ということは違うし、エデン内にも真白の魔神はいないんだな。


 胸を撫で下ろしていると、「にゃんにゃん」と鳴いて怯えていたマーリンがついに「ぴゅ~ん」と飛んで逃げて行った。


 追うか迷ったけど……そっとしておこう。


 貴重な装置が故障していることで落胆しているラプラスさんを慰めつつ、「直せないんですか?」と聞く。


「さすがに私は無理です。いくら私が天才美少女史書官だとしても、可愛さだけで万事解決できるほど万能ではありませんから……」


「そりゃあ、そうでしょうねぇ……」


魂魄認証装置(これ)は真白の魔神謹製のものなので、そこらの技術者には直せません。大龍脈に戻ればアテはあるのですが――」


 エデンの作戦行動に参加するなら、その機会は当分ないだろう。


 困った様子のラプラスさんに対し、「何とかしてあげたいな」と考えていると……良い考えが思い浮かんだ。妙案かもしれない。


「真白の魔神が造ったものなら、直せるかもしれない人……知ってます」


 ラプラスさんを連れ、艦内を歩く。


 あの人なら……ヴィオラ姉さんなら、コレを直せるかもしれない!




■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:贋作英雄


『…………』





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