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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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ゲリラ戦



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:肉嫌いのチェーン


遊撃(ゲリラ)戦……。確かに、それならある程度はやり合えるかもしれない」


「交国はろくでもない国家だが、交国軍の実力は本物だ。エデンはそれなりの規模になったが、エデンだけで交国と真っ向からやり合うのは不可能だ」


 遊撃戦なら数と質で劣っていても、まだ勝機ある。


 だが、それだけで交国に勝てるとは思えない。


「遊撃戦で戦ったところで、あくまで局地的な勝利を拾えるだけじゃねえか?」


「だが、それが積み重なれば交国も根を上げる」


 今の交国は昔ほど大胆な作戦行動が出来なくなっている。


 エデンの「局地的な勝利」が積み重なっていけば、巨大軍事国家の交国だって無視できない損害を被ることになる。


「遊撃戦で交国を弱らせた後、オレは交国と交渉(・・)しようと考えている」


「交渉……?」


「これ以上、被害を拡大したくないなら要求を受け入れろ――と交渉するんだ」


 総長は不敵な笑みを浮かべつつ、腰掛けた机に手を置きながら言葉を続けた。


「まず、エデンが保護した弱者の受け入れ先を作ってもらう。単に土地を用意してもらうだけじゃなくて、そこに大きな経済圏を作る支援もしてもらう」


「「…………」」


「そして、いま独立を進めている交国領の完全な(・・・)独立も認めてもらう」


 交国はここ数年、妙な動きをしている。


 侵略によって拡大した自国領から、独立を求める地域の独立を承認する動きがある。実際、既に交国から独立した国家・組織が存在している。


 それも各々が好き勝手にやるのではなく、交国政府が独立を認めている。単に独立させるだけではなく、同盟を結び、経済支援まで行っている。


 現状でも「完全な独立」は行われているみたいじゃないか――と言うと、総長は首を横に振って「完全じゃない」と言った。


「いま、交国領で『独立』が進んでいるのは……単なるガス抜きだ。直接統治を間接統治に切り替えて、誤魔化しているだけだ」


「いえ、いま進められている独立は、そういうものでは――」


 ヴァイオレットが意見しようとしたが、総長は「交国は、対プレーローマの名目で多額の防衛協力費を搾り取ろうとしている」と言った。


「独立した後も、多額の防衛協力費を搾り取り、それを払わなければ『プレーローマから守ってやらないぞ』と脅す。あるいは経済制裁を行う。そんな事をやるのが目に見えているだろ?」


「でも実際にやられたわけでは――」


「直ぐにそうなるさ」


 総長は吐き捨てるようにそう言った後、「話を戻そう」と言った。


「ともかく、いま行われている独立運動は『完全な独立』からはほど遠いものだ」


「「…………」」


「独立が進んでいる地域は、7年前……あるいはそれ以前から治安が悪化していた地域だ。そこに無理矢理交国軍を駐留させて支配するより、形だけでも独立させてやった方がいいとやり方を変えただけだよ」


 そうやって虐げられる地域に住む者達も、「弱者」に他ならない。


 エデンが救うべき人々だよ――と総長は語った。


「総長。完全な独立を要求するといっても……具体的にはどうするつもりだ?」


「まず、防衛協力費の徴収は許さない。そして交国軍の駐留も一切許さない」


「独立したばかりの国家が、大国の後ろ盾無しで存続出来るものか?」


「足りない武力はエデン(おれたち)が担うのさ」


 総長の狙いは「エデンが保護した弱者が住まう土地」と「交国領から独立を進める人々の完全なる独立」の2点。


 エデンも、交国から独立しようとする人々も同じ弱者。


 どちらも交国に苦しめられてきた人々だ。


「弱者同士で手を結び、一大軍事同盟を築き上げるんだ。オレ達が力を合わせれば、大国の後ろ盾なんて必要なくなる」


「弱者同士で手を組んでも、大した力はないと思います」


 表情を強ばらせ、そう言ったヴァイオレットはさらに言葉を続けた。


 一大軍事同盟と言えば聞こえは良いが、あくまで同盟で実体はバラバラの国家・組織に過ぎない。


 そんなものが一致団結出来るとは思えません――と言った。


 確かにその通りだと思うが、総長は不敵な笑みを浮かべ続けている。


「同盟を結んでも、全員が横並びになるわけじゃない。強い指導者のいる強い組織がいれば、同盟参加国の意志統一も可能になる」


「その強い組織の立場を……エデンが担うつもりか?」


「その通りだ。エデンが主力となって『対交国戦争』を勝利したら、皆がエデンの実力に一目置くようになるだろう」


「素晴らしい計算ですね。実現さえ可能であれば」


 ヴァイオレットが珍しく皮肉を言うので驚いていると、総長は大仰な動作で「お褒めに与り光栄だ」などと返してみせた。


「エデンが遊撃戦で交国に勝つのは、あくまで初めての一歩だ。そこから交国と交渉して、交国の被害者達と……独立国と手を取り合い、もっと力をつけていく」


「「…………」」


弱者(オレ)達の勝利は、交国の没落を決定づけるだろう。巨大軍事国家交国も、無茶をやってきたツケを支払う時が来たんだと多くの者が感じ始めれば……交国領からさらに多くの独立国家が生まれていく」


 エデンは独立(それ)を支援していく。


 独立後はエデンが仕切る同盟に加入させ、守る。


「それを続けていけば、交国の解体(・・・・・)すら不可能じゃない」


「…………本気ですか?」


「本気さ。独立が相次げば、交国はさらに弱体化していく。……今が好機なんだ。交国が弱っている今なら、交国を容易く切り崩していける」


 総長の言葉を聞いたヴァイオレットは頭を振り、「どこが容易いんですか……」とこぼした。


「交国が弱っているのは事実だろう?」


「それは確かにそうかもしれませんが……」


「この計画は、お前の言う計画と違って即効性がある。いま直ぐ弱者を救う事が可能で、その弱者達と手を結んでいくことでエデンの力も大きくなる計画だ」


「…………」


「エデンだけで出来る計画じゃない。だから、オレは他の組織との協力関係も取り付けている。皆、オレの計画に乗ってくれたよ」


 このまま計画を進めていけば、交国はさらに弱体化していく。


 弱体化するほど、もっと要求を飲まざるを得なくなる。


 総長は笑みを浮かべたまま、そんな夢物語を口にした。


「交国が弱れば、玉帝の身柄すら要求できるはずだ。交国の罪を清算したいなら、玉帝を差し出せと言えるはずだ」


「それはさすがに無理ですよ……」


「やってみる前から、そう判断するのか?」


「これは『試しにやってみる』なんてお気楽な判断が出来る話ではありません……! 貴方がやろうとしているのは、国家との戦争なんですよ!?」


 戦争する以上、誰かが犠牲になる。


 無血の勝利など有り得ない。総長だって、それは理解していると思ったが――。


「ヴァイオレット。交国との問題は、話し合いだけで解決するものじゃない」


「…………」


「交国や人類連盟は、驕り高ぶっている。奴らを正すためには戦争を起こすしかないんだよ」


「無茶苦茶です……」


「無茶をしているのは、奴らだ。暴君達は自分達の力が盤石なうちは横暴に振る舞うが、それが出来ない状態になれば……確実に倒せる」


「私達が取れる手段は、戦争だけでは――」


「何度でも言うぞ。お前の計画は、時間がかかりすぎる」


「それはっ…………。でも、現状を打破するのは簡単じゃないから――」


「エデンの総長はオレだ。オレの判断に従ってくれ」


「…………」


「そもそも……お前の計画は、総長(オレ)の力無しじゃ出来ない。必要な設備や資源は、オレのツテがないと確保できないってわかっているだろう?」


 戦争を手段として選んだ総長と違い、ヴァイオレットは別の計画を用意していた。だが、エデンの長である総長自身が「ヴァイオレットの計画」だけに頼るのを拒否している。


 エデンの長として、エデンの舵取りを決めるのは総長の役目だ。……どれだけ無茶な計画だろうと、最終決定権は総長が握っている。


「オレは、お前の夢物語(ペーパープラン)に全てを賭けるほど愚かじゃない」


「総長の計画は……夢物語じゃないって言いたいんですか?」


「オレは実際に動いている。オレ自身の力を使って準備を進め、ここまでこぎ着けてみせた。……もう戦争は止められないんだよ、ヴァイオレット」


「横暴なのは交国だけではありません。総長も、同じじゃないですか」


「…………」


「貴方は、子供達を戦いに駆り立てている。どんな理由(・・・・・)があっても(・・・・・)、子供達を戦争に駆り立てるのは正当化できません」


 正当化するべきではない、とヴァイオレットは言った。


 そんな事をしていたら、交国と同じになる――とまで言った。


 総長は表情を動かした。


 ただ、その顔に浮かんだのは怒りではなく落胆のようだった。


「お前は、何もわかっていない」


「…………」


「そんなだから、穏健派(おまえら)は支持を集められないんだよ。……エデンの皆は総長(オレ)の判断を支持してくれている」


「大勢が支持した事が全て正しいなら、民主主義はもっと力を持っていますよ。そもそも今のエデンは民主的な組織とは言いがたいですけど……!」


「嫌ならエデンから出て行け。皆の(・・)邪魔をするな」


 総長はヴァイオレットを睨み付け、そう言った。


 ヴァイオレットは気圧されたりしなかったが、唇をキュッと結んで総長をにらみ返している。拳までギュッと握りしめている。


「エデンの総長はオレだ。エデンをここまで立て直したのは、オレの力だ」


「…………」


「去りたければ去れ。だがきっと、アル達はお前についていかないだろうな。……お前はいま苦しんでいる人を誰も救わず、立ち上がらずにいる臆病者だからな」


「っ…………」


「アル達はラート達のことを諦めていない。ラート達の生存を信じ、見捨てないでいる。お前と違って――」


「私だって!! ラートさん達の生存を信じて――」


 ヴァイオレットが総長に掴みかかろうとした。


 それを止めるためにも、2人の間に割り込む。


 割り込んで、総長の胸ぐらをオレの手で掴んでやった。


「総長さんよ。さっきの言葉は取り消してもらおうか」


「…………」


「ヴァイオレットは、ラート達の生存を確かに信じている。信じているからこそ……アイツらを必死に探している。エデンの仕事も手伝いながらな」


「…………」


「アンタだって、ヴァイオレットの知識には助けられているだろう?」


 エデンが他所から奪ってきた混沌機関、誰が整備している?


 エデンが使っている新造の混沌機関、誰が作ったと思っているんだ。


「確かに、エデンを立て直したのは総長(アンタ)の力だ。けど……ヴァイオレットはアンタと同じか、その次ぐらいに貢献している逸材だ」


「…………」


「アンタ1人で全てやったような口ぶりは、さすがに調子乗りすぎじゃねえか?」


「……そうだな。さすがに、言い過ぎた」


 総長はバツ悪そうな表情を浮かべた後、ヴァイオレットに「悪かった」と謝った。……さすがの総長も今回ばかりは頭に血が上っていたらしい。


「ヴァイオレットがエデンを離れる場合は、さすがにアル達もついていく……と思いますよ。まず最初に説得するでしょうけどねぇ」


「わかってるよ。総長(オレ)より、ヴァイオレットの方が付き合い長いからな」


 総長はそう言ったものの、最初の判断を覆す気はないらしい。


「対交国作戦は、予定通りに行う。……他所の組織も動いている以上、もう止められないんだ」


「「…………」」


「交国が横暴を働いてきたのは、お前らもよく知っているだろう。誰かが戦わないといけない以上、その役目はエデンが率先して担うべきだ」


「でも、子供達を戦いに巻き込むなんて――」


「アル達は、もう子供じゃないよ」


 総長は静かにそう言いつつ、「だが安心しろ」と付け加えた。


「交国相手に遊撃戦を仕掛けていくのは、まだ1年以上先の話だ。ひとまずは……計画をさらに盤石にするために、偵察や準備を進めるだけだ」


「…………」


「アル達に危険な仕事は与えない。危険な役目は大人(おれたち)が担うつもりだ。もう少し……オレを信じてくれ」


 総長は両膝に手をつきつつ、「頼む」と頭を下げてきた。


 深々と下げられた頭を前に、オレ達はしばし戸惑ったが……ひとまず、頭を上げてもらった。正直、どうかと思う計画だが――。


「もうしばらく、付き合ってくれ。その過程で見極めてくれればいい」


「…………」


「これから対交国作戦を進めていく中で……さらに情勢が変わる可能性もある。計画成功の可能性がないなら、オレだって手を引く。もう少し、時間をくれ」


 全面的な賛成はできない。


 正直、かなり分の悪い作戦だと思う。


 ただ、総長は「並行してヴァイオレットの計画も進めてくれていい」と語った。そこまで言われると、オレ達も折れざるを得なかった。


 あくまで、もう少し見極めるために協力するって話だ。……ヴァイオレットの計画には総長のツテが必要だから、エデンを離れるのはあまり良くない。


 ヴァイオレットも、ひとまず折れてくれたようだが――。


「総長の仰る通り、交国は横暴な国家です。……皆の大事なものを奪った国です」


「…………」


「でも、あんな国家でも……人類文明の1つなんですよ?」


 ヴァイオレットは困惑顔を浮かべつつ、総長にそう語りかけた。


「人類を滅ぼそうとしているプレーローマがいるのに、人類同士で争っていたら……それはプレーローマの思うつぼなのでは?」


「玉帝は、オレ達を人間扱いしてくれたか?」


「えっ?」


「向こうは、オレ達を『人間』だなんて思っていない。機械の部品程度しか考えていない。……そんなヤツを、こっちだけ『人間』扱いする必要……あるのか?」


 総長の言いたいことは理解できる。


 玉帝や交国政府のやった事は、オレも許せない。


 実際、玉帝達はオレ達を人間扱いしていないと思うが――。




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