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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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残り火を継ぎし者達



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:エデン総長・カトー


「誰かが戦う必要があるんだ。その『誰か』の役目を、オレ達が担おう」


 皆で力を合わせ、交国の蛮行を止めよう――と宣言する。


 作戦の詳細はひとまず伏せるが、これから本格的な「対交国作戦」を展開していく宣言はできた。皆の反応は上々といったところのようだ。


 艦内放送後、周囲に集まってきた仲間達が興奮した様子で称賛してくれている。皆も交国とやり合いたくてたまらないようだ。


 仲間達と改めて握手を交わしつつ、「力を貸してくれ」と頼んでいると……現エデンでは古株の隊員達がやってきた。


 先代総長(ニュクス)時代はエデン第2実動部(ファイアスターター)隊として活躍していた奴らが……ファイアスターターの元部下達がやってきた。


「総長。先程の放送はなんですか?」


「今後の方針を示したんだよ」


 コイツらは、オレと握手する気はないようだ。


 ファイアスターター亡き今も、コイツらはアイツを隊長として崇め続けている。現総長(オレ)に対しても、たびたび突っかかってくる。


 それなりに信頼できる隊員ではあるんだけどな……。


「本気で交国とやり合うつもりなんですか?」


「今が好機だからな。交国はいま、大きく弱体化している」


「交国とやり合う前に……もう一度、竜国と接触するべきでは? ニュクス総長時代も、竜国には世話になっていたでしょう?」


「あの人外共はアテにならんよ」


 その理由は前も話しただろ――とため息交じりにつげると、ファイアスターター隊の隊員達は困惑顔を向けてきた。


「人外共って……。カトー総長も、レンオアム王の事は信頼して――」


「――――」


 くだらん事を言った奴を視線で黙らせる。


 そして、「竜国には頼らない」と宣言する。


オレ達(エデン)が<竜国・リンドルム>に関わった結果、何が起こったか……お前らだって知ってるだろ」


「それは……」


「オレは覚えているよ。……忘れるはずがない」


 狭い空間に折り重なった人の身体。


 火薬と焼けた肉の臭い。……壁を汚す肉片。


 光景も、臭いも、全て覚えている。


 神器を失い、弱くなり続けていても……それでもあの光景は忘れない。


 忘れてたまるか。


「しかし、相談ぐらいはするべきでは……? レンオアム王は人間ではなく、混沌竜ですが……あの御方はそこらの人間よりずっと信頼できる存在です」


「竜国の方も最近は落ち着いているようだし、苦境に立たされているエデンを救ってくれる可能性が――」


「オレ達のどこが、苦境に立たされているんだ?」


 両手を広げ、現状をよく見るように促す。


 今のエデンは、姉貴(ニュクス)が率いていた時代のエデンとは違う。


 誰も飢え苦しんでいない。物資には常に余裕があり、資金も潤沢。混沌の海での暮らしから逃げられずにいるが……昔よりずっと優れた方舟を手に入れた。


 昔と今は違う。オレは、エデンを立派な組織として再建したんだ。


 昔の基準で物を考えるな。


 お前らが海獣の肉を食べずに済んでいるのは、誰のおかげだと思って――。


「…………。確かに、オレ達は大斑の戦いでは交国から逃げた」


 大人げない言葉を飲み込んで、ファイアスターター隊の隊員に語りかける。


 努めて穏やかな声で語りかける。


「けど、大斑から撤退したのは……あそこで無理に戦っても得るものは少ないからだ。戦略的な撤退を選んだだけだ」


「…………」


「オレ達は既に、交国とやり合えるだけの力を持っている。守りに回らず、攻めに回れば十分に勝ち目がある」


 交国に立ち向かうのは、エデンだけじゃない。


 オレは既に、交国領内にいる複数の反交国組織と協力関係を結んでいる。


 奴らはブロセリアンド解放軍のような脆弱な組織じゃない。解放軍の一件の後も生き残り、力を持ち続けてきた頼りになる戦力だ。


 全ての弱者の力を束ねれば、交国とだって戦える。


「勝算はある。あとは、お前達がオレを信じるだけだ」


「…………」


「お前達は、ファイアスターターや皆の仇を取りたくないのか?」


「それはもちろん、取りたいですよ。でも、本当に――」


「仇を取りたいなら、オレを信じてくれ」


 隊員の1人の肩に手を置き、軽く揺さぶって語りかける。


「オレは皆の仇を取るだけではなく、全ての弱者の居場所を作ってみせる。流民や難民だけじゃない。強国に虐げられている全てを救ってみせる」


「…………」


「交国相手に勝てば、展望が開けるんだ」


 弱者が強者に勝った実績が作れる。


 交国に勝てば、多くの眠れる獅子達が目を覚ますだろう。


 ファイアスターター隊の奴らは、まだ心配そうな顔をしている。


 だが、「仇は取りたいですよ。もちろん」と言った。


 オレにとってファイアスターターは大事な戦友だった。コイツらにとっても、ヤツは大事な存在だったはずだ。……オレ達は一緒に戦えるはずだ。


「しかし、無謀な戦いには賛成できません。……隊長に救っていただいた命を無駄遣いするつもりはありません」


「心配するな。さっきも言ったろ? 勝算はあるって」


 説得するために、対交国作戦のために協力してもらう組織の名を出す。


 大小様々な組織との協力関係を結んだから、知らない名前も多いだろう。だが、複数の組織の手を借りれば交国に勝利する事も不可能じゃない。


 いま教える事ができる主立った組織の名を伝えると、ファイアスターター隊の隊員は質問を投げてきた。


「<カヴン>とは連携しないんですか?」


「犯罪組織と手を組むわけないだろ」


「しかし、カヴンは我々と同じ流民組織です。手を組む余地はあります」


「一部の大首領直参幹部から、総長と『話がしたい』という連絡が来ているんですよね? 良い機会なのに、彼らに協力要請しないんですか?」


「カヴンは一枚岩ではないとはいえ、強大な組織です。彼らの力があれば――」


「カヴンがどんな組織か、お前達だってわかっているだろう」


 確かにカヴンは流民の多い組織だ。


 オレ達と同じ、流民組織だが……奴らは「犯罪組織」だ。


 弱者のために戦っている<エデン>と、弱者を食い物にしている<カヴン>は別物だ。敵同士だ。……奴らと手を組めばエデンの大義が穢れちまう。


「ニュクス総長は、カヴンとも上手く付き合っていましたよ」


「姉貴も…………ニュクス総長も、カヴンと深く付き合うのは避けていた。あくまで簡単な取引をしていただけだ。どうしようもない時だけな」


 カヴンは手の染めていない犯罪行為はないぐらい、幅広く犯罪やってるクズ集団だ。そんな輩と組んだら、オレ達も食い物にされる可能性が高い。


 ファイアスターター隊の奴らは「カヴン内にもまともな組織はいます」などと言い、協力を促してきたが――。


「マーレハイト共和国で多くの仲間が死んだ時、エデンは苦境に立たされていた。あの時、カヴン内の『まともな組織』とやらは助けてくれたか?」


「それは……」


「オレ達がマーレハイトでプレーローマの罠にハメられる前から、カヴンの連中は距離を取ってきた。取引出来たとしても、足下を見てきてばかりだった」


 奴らは所詮、犯罪組織なんだよ。


 あんな奴らと手を組んだら……ろくな目にあわない。


 アル達の教育にもよくない。若く純真なアル達に、犯罪組織と手を組むことが当たり前などと教えたくない。……穢れるのはオレだけで十分だ。


「昔のカヴンなら、まだ取引の余地があったのは認める。だが、今の奴らは危険だ。何故ならカヴンは交国(・・)との繋がりを強めつつある」


 カヴンは昔から、交国との繋がりが噂されていた。


 正確に言えば<ロレンス>か。……よりにもよって奴らだ。


 確たる証拠は掴めていないが、交国はロレンスを通じてカヴンと手を結んでいた可能性が高い。その取引関係はロミオ・ロレンスの死後も続いているはずだ。


 むしろ、ロミオ・ロレンスの死後、歯止めがかからなくなった可能性が高い。


 黒水守は……加藤睦月は長く<ロレンス>に世話になっておきながら、ロレンス首領(ロミオ)を殺害した。ただ殺すどころか、その遺体と神器を交国に持ち込んだ。


 おそらく、加藤睦月は最初から交国側の人間だったんだ。


 ロレンスが交国の言う事を聞かなくなっていたから、報復として加藤睦月(スパイ)にロレンス首領を殺害させたんだろう。


「交国はロミオ・ロレンス亡き後も、裏でカヴンとの取引関係を続けている。以前より強い繋がりを作っている。そんなカヴンに協力を要請したら、対交国作戦に大きな支障が出るんだよ」


「交国とカヴンが手を結んでいる根拠は?」


 ファイアスターター隊の隊員達は、オレを疑うような視線を向けてきている。


 コイツらは多次元世界の情勢を理解出来ていない。


 カヴンと交国が手を組んでいるのは明らかだ。確たる証拠が掴めていないから糾弾できないだけで、奴らが組んでいるのは明らかなんだよ。


 交国とカヴンの繋がりが強くなった陰には……明らかに加藤睦月が絡んでいる。


 奴はメディアに対しては綺麗事を吐きつつ、裏では交国と犯罪組織(カヴン)の仲介役を務めるドス黒い輩なんだよ。


「カヴンとは絶対に組まない」


「しかし……」


「お前達、そんなに犯罪者になりたいのか?」


 オレとファイアスターター隊が揉めているのを聞きつけ、周囲のエデン構成員もやってきた。皆がファイアスターター隊を睨み、責めている。


「エデンの総長はオレだ。オレの指示に従えないなら、出て行ってもらう」


「……随分と偉くなりましたね。カトー隊長(・・)


 ファイアスターター隊の隊員は、あてつけのように古い立場で呼んできた。


 そしてこの場から去って行った。……奴らは古株の構成員だからそれなりに頼りにしていたが、オレが間違っていたのかもしれない。


 エデンから去るつもりは無いようだが、重要な仕事は任せられそうにない。


 直属の部下達に「ファイアスターター隊を見張っておいてくれ」と告げる。奴らがオレへの嫌がらせとして、対交国作戦を邪魔してくる可能性があるからな。


 ファイアスターター隊に落胆していると、表情に出てしまっていたのか……周囲の構成員達が心配そうに話しかけてきた。


「彼らは何故、総長にたびたび突っかかってくるんでしょうか……?」


「物の道理がわからんヤツらですよ。正義の心がないんですかね!」


「……アイツらにはアイツらの正義があるんだよ」


 ファイアスターター隊の奴らは、忠誠心が強すぎるんだ。


 奴らは今も、自分達の隊長(ファイアスターター)を忘れられないでいる。


 自分達を小さな頃から守ってくれていたファイアスターターの背を追い、エデンの戦いに身を投じてきた奴らだ。未だに隊長の事を忘れられないんだろう。


 それは良いことだ。


 アイツのことを……忘れないでいてくれるのは、とても良いことだ。ファイアスターターの戦友として、その事は喜ばしく思う。


 だが、今のオレは総長だ。


 エデンの総長として、時に非情な決断も行わないといけない。


 突っかかってくるファイアスターター隊に厳しい処分を行うわけではないが……重要な仕事は任せられない。とりあえず、アイツらには非戦闘員の護衛を任せておこう。それもそれで重要な仕事だけどな。


 総長(オレ)の事が大嫌いでも、非戦闘員のことは全力で守ってくれるだろう。


 アイツらも、ファイアスターターの遺した火を継いだ奴らだからな。


 大好きな隊長が死ぬ原因を作った(オレ)からの命令でも、ファイアスターターの顔に泥を塗るようなことは絶対にしないはずだ。……そうだと信じたい。


「少し、休む。誰か来たら連絡してくれ」


「カトー総長……!」


 部下にそう告げ、私室に戻ろうとしていたら、ヴァイオレットがやってきた。


 ファイアスターター隊以上に怒り狂っているのか、肩を怒らせてこちらに向かってくる。アラシアを伴って近づいてくる。


「オレに話があるみたいだな?」


 というか、文句か?


 まあいい。話し合おう。オレ達は、仲間同士なんだから――。




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