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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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対交国作戦開始



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:肉嫌いのチェーン


 エデン本隊に戻ってきた翌日。


 エデンの仲間達と<ガンギカナ大王国>の兵士の処遇に関して話し合っていると、艦内放送で総長(カトー)の声が聞こえてきた。


『これより、<エデン>は対交国作戦に着手していく』


「…………正気かよ」


 話し合いどころではなくなったので、会議室から出る。


 総長のところに向かうか迷ったが、先にヴァイオレットのところへ向かう。


 艦内放送に耳を傾けつつ歩く。


 どうやら総長は本気で交国とやり合うつもりらしい。今までも対交国作戦は行われてきたが、それは短期的なものだった。


 交国の支配地域から虐げられている弱者を逃がしたり、交国や人類連盟の脅威を後進世界に伝えたり、交国軍から物資をちょろまかす程度だった。


 だが、今回の作戦は規模が段違いらしい。


「戦争するつもりかよ」


 総長が――カトー特佐が交国から逃げ出した後のエデンは、弱小組織だった。


 いや、組織と言うのすら恥ずかしい状態だった。


 カトーが交国に下って特佐になった際、当時のエデンは一度解散している。エデンの残党はいたが、まともに戦える人材は残っていなかった。……そもそも交国に来たエデン残党はもう、ろくに残っていないはずだ。


 交国政府に罪を着せられたカトーは、交国から脱走した後、エデンを再結成した。オレやアル達も再結成したエデンに合流したが……当時の構成員は50人ほどだった。


 少数精鋭と言えるほどの組織ですらなかった。当時はもう、総長は神器を失っていたし……機兵どころか機兵乗りすら満足な数がいなかった。


 それでも総長は昔のツテを使って、少しずつ戦力を整えていった。


 それでようやく構成員100人に届くぐらいだった。交国とやり合うなんて夢のまた夢という状態だった。ガンギカナ大王国にすら劣る組織だった。


 だが、5年前に状況が変わった。


 5年前、総長は傭兵達を連れ、ベルベスト連合に向かった。


 交国を攻め滅ぼそうとしているプレーローマが――交国侵略の足がかりとするべく――ベルベスト連合を攻めた事で、ベルベストでプレーローマと交国の大規模な戦闘が起こった。


 その戦闘に巻き込まれたベルベスト連合は無惨な状態になり、連合どころか世界も滅びる結果になった。


 壊れ、滅びていく世界にはベルベスト連合の民衆や兵士が取り残されていた。


 彼らは滅びる世界と共に死んでいくはずだったが……そこにやってきた総長(カトー)が彼らを救った。


 しかも、ただ救助しただけじゃない。


 総長は雇った傭兵達と共に、滅びていくベルベスト連合から撤退中のプレーローマ艦隊を襲ったらしい。強襲し、プレーローマの方舟を多数奪った。


 信じがたい事だが――実際にプレーローマの方舟を手に入れていたし――総長は相当上手くやったんだろう。


 総長は奪った方舟を使い、ベルベストの民を何とか界外脱出させた。全員を救えたわけではないが……万単位で彼らを救出する事に成功した。


 エデンは全盛期より大幅に弱体化し、多くの者に存在を忘れられつつあった。だが、総長が起こした「ベルベスト連合の生き残り」の救出劇は、多次元世界に再びエデンの名を刻む大事件となった。


 総長が行った救出劇は「ベルベストの奇跡」と呼ばれ、ベルベスト連合の生き残りが総長を熱烈に支持する出来事となった。


 ただ支持するだけではなく――ベルベスト連合が滅んでしまった事もあり――多数の生き残りがそのままエデンに合流してきた。


 その中にはベルベスト連合の正規軍兵士も多数含まれていたため、エデンの戦力は一気に増加する事になった。エデンはもう、「弱小組織」とは言いがたい規模に拡大した。


 同盟国である交国に見捨てられたベルベスト連合の生き残りは、総長こそが「救世主(メサイア)」だと支持し続けている。


 総長に付き従う熱烈な信者であり、忠実な兵士と化している。


 だから……大半のベルベストの生き残りは総長が急に「交国とやり合うぞ!」と言いだしても付き従うだろう。


 奴らにとっても、交国との戦いは望むところかもしれない。


 自分達(ベルベスト)をプレーローマとの戦争に巻き込んでおきながら、助けてくれなかった交国への恨みつらみは残り続けているみたいだからな……。


「お前さんは、カトー総長を支持しないのか?」


「へ? あ、えぇ……まあ……」


 総長による艦内放送をどうでも良さそうな顔で聞いていたタマに問う。


 タマもベルベスト連合の生き残りだ。


 家族も友人も皆、交国とプレーローマの争いに巻き込まれて死んで……自分自身も交国に見捨てられ、世界と共に死にそうになっていた子だ。


 他のベルベスト連合所属の奴らは、総長の「対交国作戦開始宣言」を聞いて沸き立っているが、タマは何故か冷めた目つきになっていた。


 ヴァイオレットがどこにいるか聞くため、助手兼護衛のタマに話しかけようと思ったんだが……つい、気になって今回の件を聞いてみた。


「お前だって、ベルベストでの一件で交国に思うところあるだろ? 同盟国なのにろくに助けてくれなかった交国のことを」


「それはまあ、そうですね。……総長がベルベストでタマ達を救ってくれたことも、スゴいと思います。……けど」


「……けど?」


「ちょっと、出来すぎ(・・・・)かなぁ~と思うところもありまして」


 タマは悩ましげな表情を浮かべつつ、さらに言葉を続けた。


「皆が『ベルベストの奇跡』と言って総長を褒め称えている一件って……総長と、総長が臨時で雇った傭兵がやった事なんですよね?」


「そうだな。臨時で雇ったといっても、前から付き合いあるところだが――」


 当時、総長は他所の組織との交渉のために出ていた。


 護衛として付き合いのある傭兵達を雇い、エデン本隊から離れていた。その折りにベルベストが危うい話を聞き、交渉を切り上げて救援に向かった。


「実質、エデンの人間は総長だけだった。オレやアル達は、ベルベストとは別の場所に隠れ潜んでいただけだ」


「巫術師無しで、『ベルベストの奇跡』なんて事をやってのけたのは……何かおかしいって思いませんか……?」


 タマは「いや、巫術師が3人いたところで難しいと思いますけどね?」と言った。確かにタマの言う通りだ。


 総長は単にベルベストの生き残りを助けただけじゃない。


 滅び行く世界に取り残された生き残り達を連れ出すため、撤退中のプレーローマ艦隊を襲い……プレーローマの方舟を多数奪うことで生き残りを連れ出すための手段を手に入れた。かなりの荒技だ。


「カトー総長が神器使いだったのは、もう昔の話です。今でも強いですケド……プレーローマを襲って方舟を多数奪ってみせたって、出来すぎな話では?」


「そういう無茶をやってのけたからこそ、『奇跡』なんて言われているんだ」


 奇跡と呼ばれるほどの出来事だからこそ、助かった生き残り達は総長を熱烈に支持している。……タマは違うようだが。


「まあ、お前が言いたいことも……わかる。ただ、総長達がプレーローマから方舟を奪えた理由は……奴らが疲弊していた、って理由もあるんじゃないか?」


「はあ、疲弊ですか……」


「プレーローマはベルベストで交国と戦った。激しい戦闘を行った影響で、疲弊していたのかもしれん」


 プレーローマは交国を攻めるための足がかりとして、ベルベストを襲った。


 だが、ベルベスト連合の軍人達が何とか粘ったことで、ベルベスト陥落前に交国軍が間に合った。……間に合ったといっても、随分遅かったらしいが。


 ともかく、そこで交国と戦ったプレーローマは、最終的に撤退を選んだ。しかもベルベスト連合のいた世界を破壊して撤退する、という嫌がらせまでやってきた。


 アレコレと忙しくやっていたから、疲労困憊で逃げるところを総長達に襲われて……方舟を多数奪われる結果になったんだろう。


「総長達も苦戦したようだし、雇った傭兵の中には犠牲者も出た。『出来すぎ』と言いたくなるのはわかるが、こっちも無傷ってわけじゃあない」


「ふむ……。確か、総長達に方舟を奪われた艦隊の責任者は、プレーローマに逃げ帰ったものの処刑されたんでしたっけ?」


「らしいな」


 プレーローマの話とはいえ、そういう話も人類文明側に流れてきている。


 大小様々ながら、数十隻の方舟をゴッソリ奪われたら責任は取らないといけないだろう。それも、交国相手どころか当時は弱小だったエデン相手の失態だしな。


「ああ、ところで、ヴァイオレットはいるか?」


 ちょっと話があるんだが――と聞くと、タマは「ヴィオラ様なら奥の研究室にいますよ」と教えてくれた。


 苦笑いを浮かべ、「まあ、艦内放送(これ)の所為で研究どころじゃないみたいですけどね~」と言った。


 タマに教えてもらった研究室に入ると、ヴァイオレットがいた。椅子に座り、表情を強ばらせながら艦内放送を聞いている。


 ベルベストの連中がエデンに加入した事で、エデンは一気に規模を大きくした。


 だが、ヴァイオレットの知識はベルベストの奴らでも並ぶ者がないほど優れている。だからヴァイオレットがエデンの実質的なナンバー2のままなんだが……この表情から察するに、ヴァイオレットも総長から今回の件を聞いてなかったようだ。


 放送が終わると、ヴァイオレットは無言で立ち上がった。


「……総長のところに乗り込むつもりか?」


「はい。……さっきの放送の件、問いたださないと……」


「だな。じゃあ行くか」





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