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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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見極めの戦



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


 巫術師による機兵運用実験についての話し合い。


 その結果を待つ。待っているけど……どうにも落ち着かない。


 ラートさんの携帯端末使って皆と漫画を読んでいたフェルグス君が顔を上げ、「ヴィオラ姉、落ち着けよ」と言ってきた。


 私が廊下をウロウロしてるから……。


「ご、ごめんね。どうしても気になって」


「ヴィオラ姉の案が断られるわけねーじゃん。技術少尉(くそおんな)も説得したんだろ? じゃあ、もう誰も反対しねえって」


「だといいんだけど……」


 そう言われたけど、いま行われている話し合いが気になる。


 隊長さんに「貴様は来なくていい。結果は今日中に伝える」と言われたことが気になる。なんで私は参加しちゃダメなんだろう……。


 そんな事を考えながら待っていると、ラートさんと副長さんが来た。


 話し合いの結果を携え、やってきた。


 表情からは……よくわからない。ラートさんは笑ってないけど、そこまで悲観的には見えない。ちょっとだけバツが悪そうなぐらい。


 結果は副長さんが教えてくれた。


「模擬戦をやる事になった。見極めのために」


「模擬戦……?」


「生半可な腕じゃオレ達の機兵も命も預けたくない。だからお前らの力を見せてくれ。その結果を見て改めて協議する」


 そう言う副長さんの後ろで、ラートさんが両手を合わせて「すまん……!」と言いたげにしていた。


 認めてもらえなかった。


 けど、まだチャンスがあるなら……最悪の結果は回避できたはず。


「模擬戦ってことは、機兵と機兵の戦いですか?」


「そうだ。2週間後、時雨隊に<雪の眼>を引き渡す予定になっててな……。時雨隊との合流地点に島があるから、そこで機兵を使った1対1の模擬戦をやる」


「島で……1対1……」


 模擬戦で力を見せれば、もっと前向きに検討してくれる。


 子供達を、流体甲冑なんて危ないもので戦わせずに済む。


「巫術師が現役の機兵乗りを機兵戦で倒せたら、オレ達も巫術を認めるよ。お前らの実力を見せてくれ」


「はい」


「お前らが負けたとしても、隊長が上に掛け合って実験を引き継いでもらう事になるだろう。それにお前ら全員が参加できるかは怪しいから、自分達の運命は自分達で勝ち取ってみな」


 そう言った副長さんはラートさんの肩を叩き、「あとの説明はお前に任せる」と言ってこの場を去っていった。


 その背中を見つつ、フェルグス君がポツリと呟いた。


「なんだアイツ。エラそうに」


「バカ。副長には感謝すべきだよ」


 ラートさんが屈んでフェルグス君達の視線に合わせつつ、そう言った。


 何でもさっきの話し合いでは反対多数で「巫術師の機兵運用実験」は取り消しになりかけたらしい。少なくとも、星屑隊においては。


 けど、副長さんが隊長さんに「模擬戦で決めませんか?」と言ってくれたことで、何とか希望が残ったみたい。


 ……勝たなきゃいけないのは、結構苦しい展開だけど……。


「すまねえ、ヴィオラ。すんなりとは行かなかった」


「いえ……」


「まあ、勝てばいいんだろ? 勝てば」


 申し訳無さそうなラートさんの横にトコトコ歩いていったフェルグス君が、ラートさんのツルツルの頭をベシベシ叩きながら笑う。


 フェルグス君を叱ろうと思ったけど、ラートさんもニヤリと笑って「そう、勝てばいいんだ」と言ってフェルグス君の頭を撫でた。


「触んなっ! クソオークめ。スケベ!」


「お前の方が先に触ってきたから、お前の方がスケベ~!」


「くっそー!」


「模擬戦は俺の機兵を使ってくれ。模擬戦までの2週間、何度か機兵を動かす機会が貰えるから、それで少しでも慣れてくれ」


「模擬戦に参加するのは――」


「1人だけだ。俺も指示役で機兵に乗るが、操作は全て巫術師が行う」


 ラートさんがそう言うと、スアルタウ君が心配そうに「それ、ラートさんが危ないんじゃ……」と言ったけど、ラートさんは笑って「大丈夫」と言ってくれた。


「模擬戦用の弾使うし、機兵はそこまでヤワじゃねえよ」


「迷惑かけてごめんなさい……」


「迷惑じゃねえよ~! 弾も装甲も流体で、混沌あればいくらでも練れる。その混沌は俺達、人間の感情でいくらでも作れる。お前らも笑ってくれてりゃ、誰も損しない。……けど、どうせなら勝ちたいから協力してくれ!」


「あ、頭を上げてください、ラートさん。協力してもらうのはこっちですから!」


 勝敗が私達の「今後の立場」に影響する。


 より正確に言うなら……子供達の命に影響する。


 それが2週間後の模擬戦で決まる。


「模擬戦に出る代表者を決めておきたい。そいつに機兵に乗ってもらい、機兵に慣れてもらう。やりたい奴は――」


「オレ! オレに決まってんじゃん!」


 フェルグス君が満面の笑みを浮かべつつ、両手を上げる。


 異議もなかったので代表者が決まった。


 勝てるか不安だけど……勝てるように私もバックアップしなきゃ。


「それで、オレ様は誰と戦えばいいんだ?」


「ダスト2のレンズだ」


「誰だそいつ! さっきのエラそうな副長か?」


「ちげーよ。さっきのはダスト1。レンズは機兵対応班(ウチ)の狙撃手だ」


 ふんぞり返るフェルグス君の額を、ラートさんがツンと突く。


 動作は可愛らしいけど、ラートさんの表情はとても真面目なものだった。


「レンズは強えぞ。……何とか間合いを詰めなきゃ、一方的にやられる相手だ」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:歩く死体・ヴァイオレット


『うおおおおっ! すげえすげえっ! ここまで離れても余裕で憑依できるじゃん! やっぱりヴィオラ姉、天才じゃん!』


「この距離もクリア、っと……。フェルグス君、ラート軍曹さん、そのままゆっくり進んでいってください」


『了解』


『わかった!』


 模擬戦に向けて機兵の遠隔操作を試みつつ、実験する。


 ヤドリギによる憑依可能距離延長は上手くいっている。


 フェルグス君の身体は船にあるのに、魂だけ機兵に憑依し続けている。


 今のところ上手くいっているけど、この距離の憑依は初めてだから慎重にデータを取っておこう。憑依したまま戻って来れなくなる――なんて事は起きないはずだけど、楽観は危険だ。


 指揮所を借りてモニタリングしていると、技術少尉がやってきて画面を覗き込んできた。町で撃たれた事を思い出し、少し身構えていると――。


「ふん……。過去最長を更新してるけど、この程度か……」


「…………。もちろん、まだ遠くまでいけますよ。ヤドリギ1本でも4、5キロは余裕でいけるはずです」


 ヤドリギが2本以上あれば、さらに憑依可能距離を飛ばせる。


 ドローンや他の機兵に中継用のヤドリギをつければ、憑依可能距離はさらに延長できるはず。実戦でも使い物になるはず。


 そう思っていると、技術少尉は小馬鹿にするような表情で「所詮は机上の話でしょう?」と言ってきた。


「いや、机上の話ですらない。アンタが『行ける』って言っただけじゃない」


「はい……。なので、こうやってデータを取っています」


 ヤドリギは機能している。


 ここまで離れてもなお、憑依が機能しているのは今までになかった成果だ。


「ちゃんと成果(・・)を出します。だから、少尉も――」


「チッ……! わかってる。ガキ共の電子手紙(メール)の件でしょ? ちゃんと出せるように取り計らってあげるわよ!」


 そう言った技術少尉が、指揮所の入り口を見て「げっ」と声を漏らした。


 指揮所に隊長が入ってきた。


 技術少尉は隊長がすっかり苦手になったらしく、「とにかく……データは必ずアタシに提出するのよっ!」と言い、そそくさと指揮所を出ていった。


 邪魔されずに済みそうで、ホッと胸をなでおろしていると、機兵の様子を夢中で見ていたロッカ君が「ああいうのも楽しそうだな……」と呟いた。


 フェルグス君が機兵を遠隔操作しているのが羨ましいみたい。


 小声で「フェルグス君が勝てば、皆も乗れるようになるはずだよ」と囁く。


「だから応援してあげて」


「うん。でも、フェルグスが勝てるかなぁ……?」


「ラートさんが言ってたけど、基本の操作は申し分ないそうだから――」


 機兵の操縦は最低でも数百時間の訓練が必要で、一人前として認められるにはさらに多くの訓練と実戦経験が必要になるらしい。


 フェルグス君は「一般的な機兵乗り」が数十時間乗って辿り着く領域に一瞬で辿り着いた。巫術で機兵を自分の身体のように操作することで、それを可能とした。


 普通の人じゃ出来ないことをやってのけているのは確かだ。


「さすがに判断能力は本職の軍人さんに負けるけど……そこはラートさんが判断してくれるから、きっと大丈夫」


「ホントかなぁ……。まあ負けても死ぬわけじゃねえけど――」


 ロッカ君が憂鬱そうな顔で「負けたら、これからもずっと流体甲冑で戦うわけか」とこぼした。


「つーか、流体甲冑も遠隔操作できないの?」


「不可能ではないけど、難しいかな……」


 流体甲冑は制御と混沌機関を「巫術師」で代用することで、小型化に成功した機兵みたいなものだ。


 機関役の巫術師が外に出てしまうと、混沌(エネルギー)不足で稼働できなくなる。有線で流体甲冑と巫術師を繋ぎ、エネルギーを送る方法は現実的じゃない。


 機兵の場合は自前の混沌機関があるから遠隔操作もいける。ヤドリギはあくまで遠隔操作の補助であって、無線によるエネルギー供給網構築装備じゃない。


「巫術師抜きの流体甲冑は『エンジン抜きの車』みたいなものだから、無線による遠隔操作は難しいの。流体甲冑に超小型の混沌機関を搭載できれば話は別だけど、そういうの作るには部品が足りないから」


「ふーん」


 そんな話をしつつ、憑依可能距離の測定を続ける。


 うん……見込み通り、現状の装備でも4、5キロは問題ないかな。


 今のヤドリギも改良したら中継用のヤドリギ無しでも、さらに距離を伸ばせそう。シリングケージが手に入ればなー……いやいや、欲張りすぎだよね……。今日のデータで調整するだけでも、もう少し距離を伸ばせるはず。


「フェルグス君、ポイントC経由でポイントAまで戻ってきてください。ラート軍曹さん、戦闘機動での移動でもいいですか? 全速力でも問題ないかを見ておきたいので……」


『おう、構わねえよ。フェルグス、行けるよな?』


『よっしゃあ! 行くぞーーーーッ!』


 機兵が全力疾走を開始する。


 上手くいってるみたい。操作の遅延も発生していない。ヤドリギは乱れることなく憑依可能距離を延長し続けている。これなら戦闘も難なくこなせるはず。


『どうよっ! ヴィオラ姉! 見てたか!?』


「うん、ありがとうフェルグス君。軍曹さん、調子はいかがですか?」


『久しぶりに胃液出てきたわ。やっぱ他人の操縦だとキツいな~』


「すみません、無理させて……」


『良い訓練になるから大丈夫!』


 誰かを乗せて巫術で操縦する以上、その問題が立ちふさがってくるよね。


 フェルグス君達が常に操縦席周りの衝撃を逃してくれればいいけど、それ意識しながら戦闘機動させるのは頭のリソース無駄遣いさせちゃうよね。


 OSの方でバックアップさせよう。整備長さんにシステムいじらせてくださいってお願いして、衝撃制御の項目を調整させてもらいたいな。


 これならフェルグス君達の負担も軽減できるし、ラートさん達のコンディションを維持したまま十全に戦闘できるはず。普段使いも改良できそう……。


 ああそうだ、巫術の視界をラートさん達にも共有できた方がいいよね――。


 思いついたアイデアと改善策をメモしつつ、さらに実験を進めていく。


 ……模擬戦で勝てるとも限らないから、いま取らせてもらえるデータはしっかり取っておかないと。最悪、そのデータをとっかかりに交渉していかなきゃ。


 そう思いながらペンのお尻で唇をぷにぷに弄んでいると、格納庫から通信が来た。整備長さんが「ドローンの準備、出来たよ」と教えてくれた。


「はーい! ありがとうございます~……! 直ぐに行きますっ!」


 ロッカ君達を連れ、格納庫に移動する。


「それじゃあ、次は同時延長処理のデータを取らせてね。1つのヤドリギで複数の憑依を延長し続ける実験ね。ドローンも使ってデータを取りましょう」


「ん」


「は~い」


「はいっ。……ドローンの憑依、ワクワクするね」


 ニコニコ笑っているアル君が、グローニャちゃん達にこっそりそう言うのを見て微笑ましく思いつつ、作業を進める。


 フェルグス君達は砂浜で動きを確かめてもらいつつ、その間にロッカ君とアル君とグローニャちゃんにドローンに憑依してもらう。


 整備長さん達にドローンを任せ、一度指揮所に戻る。


「ガキ共の憑依は出来たのか?」


「はい、問題なく」


「雑に扱って落とさないでくれよ。ドローンも貴重な戦力なんだ」


 ドローンのオペレーターさん達に釘を刺され、「気をつけます」と返す。


 機兵の方はラートさんいるけど、ドローンの憑依が途中で剥がれたらオペレーターさん達に頼ることになる。多分、大丈夫だと思うけど――。


「うん……並行処理も問題ないかな……。負荷はかかってない」


『ヴィオラ姉~! まだ飛んじゃダメなの~!?』


「もうちょっと待ってね~!」


 まず、身体と憑依先を離しても問題ないかのデータを取る。


 既にフェルグス君がヤドリギを使っているけど、これも問題なし。砂浜で飛んだり跳ねたりしているフェルグス君含め、誰の憑依も剥がれていない。


「離陸と着陸の操作はお願いします。あの子達、飛ぶのは初めてなので……」


「余計に不安になってきたよ」


「すみません……」


「まあ、自分の命かかってるラート軍曹よりはマシだがね――」


 まずはオペレーターさん達に操作をお願いする。


「滑走路展開」


 船の混沌機関が流体を吐き出し、流体装甲の滑走路を生成していく。


 そこからドローンが飛び立っていく。


 通信機越しに、グローニャちゃんとアル君の歓声と、ロッカ君の驚いた声が聞こえてくる。未知の感覚を――空を飛ぶ感覚をしっかり味わってるみたい。


『ふぇ~~~~! グローニャたち、お空、飛んでりゅっ!』


『わっ……!』


『たっか……! いや、海に近いより、高いほうがいいけどよ……!』


「みんな大丈夫、怖くない?」


『楽しい~~~~!!』


 キャイキャイと楽しんでくれている。


 良かった、高所恐怖症の子がいたらどうしようかと……。巫術の憑依って、憑依対象にカメラがついていると臨場感抜群らしいから、無事で良かった。


 キャッキャと騒いでいるのが可愛らしくて、ついニコニコしちゃう。


 指揮所の皆さんの視線がやや厳しいので、コホンと咳払いし、「こ、コラ~……! 遊びじゃないんだよ~……?」と叱っておく。カッコだけでも。


 オペレーターさんの操作で十分に「飛ぶ感覚」を覚えてもらった後は、皆それぞれ操作してもらう。これも機兵と同じく上手くいった。


 巫術に懐疑的だったオペレーターさん達も、子供達が自由自在に飛んでいるのを見て舌を巻いている。操作パネルから手を離してくれる人もいた。


「シミュレーターだとボロボロの成績だったのに……身体で覚えるとああも変わるものなのか?」


「実機の方が動かしやすいんでしょうね。シミュレーターだと画面がピカピカ光るだけの箱って感覚みたいですから……」


「なるほどね。あっ! コラ! 高度300メートル以上を維持しろ! 急降下するんじゃないっ!」


『あはははっ! あはははは~っ!』


「ぐっ、グローニャちゃーーーーん! 言うこと聞いて~……!!」


「まったくも~……!」


 ちょっとした波乱もあったけど、ドローンの遠隔操縦実験は概ね成功。


 1本のヤドリギでも、ちゃんと4人分の処理が出来ている。


 ただ、距離が離れすぎると精度が若干落ちているようだから……そこは要改善かな。機兵での戦闘は僅かな遅れも致命傷になりかねない。


「おっ。やってるねぇ」


「あっ……。ど、どうも……」


 指揮所に副長さんと、もう1人……機兵乗りのオークさんが入ってきた。


 あれは確か、レンズ軍曹さん。


 模擬戦の対戦相手。


 副長さんはいつも通り笑っているけど、レンズ軍曹さんは不機嫌そうにしている。私が見ているのに気づいたのか、険しい視線で睨んできた。


 慌てて目を伏せると、「チッ」と舌打ちの音が聞こえてきた。


 大柄だけど動きが優しいラートさんと違って、この人は怖いよ……。


「おい。ラートはいまどこいるんだ」


「あ、ええっと……丘の向こうです。フェルグス君に機兵に慣れてもらいつつ、遮蔽物越しの精度をチェックしているところでして……」


「このままどっか走っていって、ラート連れ去るつもりじゃねえだろうな?」


 詰め寄ってきたレンズ軍曹さんが上から睨んでくる。


 怖い。けど、子供達が命がけで頑張ってるのに、安全な場所にいてばかりの私も、ちゃんと立ち向かわないと……。


「そんなことしません。何で信じてくれないんですかっ……!」


「んだと、テメエ……」


「はいはい、ケンカしない。戦闘は模擬戦でしなさいバカタレ」


 レンズ軍曹さんの視線が一層険しくなり始めた瞬間、副長さんが軍曹さんの禿頭をベシベシと叩いて止めてくれた。ボールでドリブルするみたいに。


「チッ……! ラートはお前らについた裏切り者だが、一応は星屑隊の隊員だ。テメエらを信じて命を託してるアイツに危害を加えたら、アイツが許してもオレは許さねえからな!」


「……私達にとってもラートさんは大事な人です。危害なんて加えません」


 そう言うと、レンズ軍曹さんは鼻を鳴らして「どうだか」と言ってきた。


「ラートはクソ甘ちゃんだから、お前らなんかに気を許しているが……星屑隊の隊員がラートみたいにバカだと思うなよ。舐めてんじゃねえぞ」


「ラートさんはバカじゃありませんっ!」


「何も知らねえくせに。アイツは(ケツ)で花火掴んで遊ぶバカだぞ」


「それはバカですね……!?」


「ケッ! ポッと出のテメエより、オレの方がアイツの理解者なんだよ!」


「くっ……!」


 悔しい……!


 私もラートさんのおバカエピソードの1つや2つ、知っていれば……! 


 副長さんが「お前ら何で競ってんの……」と呟く中、レンズ軍曹さんがさらに詰め寄ってきた。手が伸びてくる。


 胸ぐらを掴まれると思って身構えていると、額を太い指でトンと小突かれた。


「少しでも妙な真似しやがったら、寝てるガキ共に報復してやる」


「軍人さんなのに、そんな卑劣なことするんですか……!?」


「…………。じゃあ起きてる間に報復するっ!!」


「させませんっ!」


「あのさぁ、お前ら、ここは指揮所なの。ガキのじゃれあいはやめようね~? 隊長がさぁ、無言で圧かけてくんだよ。早く止めろって」


 怖いのでレンズ軍曹さんと一緒に頭をさげる。


 すみませんでした! 今回は私悪くないと思いますけど!!


 副長さんが無言で指揮所の出入り口を指差し、レンズ軍曹さんがしぶしぶそれに従って出ていくのを見送る。


 今回は引き分けでしたが、次は勝ちますから……! と思いを胸ににらみつける。レンズ軍曹さんも後ろ歩きしながらこちらを睨みつつ、出ていった。


「お前ら、仲いいの?」


「いーえ全然。あの人、友達いないでしょ……!」


「頼むからそれ本人に言うなよ……? レンズの名誉のために弁護しておくと、友達はいるからな……? 人付き合い苦手なだけなんだよ。アイツは」


「ふんっ……!」


「……ちなみに、お前は友達いるのか?」


「……………………5人もいますけどっ……!?」


 副長さんは呆れ顔で「ガキ4人を勘定に入れてねえだろうな……?」と言ってきた。な、なんでバレたんだろ……。


 じゃあ、私、ラートさんしか友達いない……?


 いや、ラートさんと私って友達なのかな……!?


 今度聞いてみ――いや、なんて言われるかわからない。こわい。


 嘲笑されながら「ハァ? 特行兵のお前と俺がダチのわけねえだろ」って言われたらどうしよ。ラートさんはそんなこと言わない! 言わないもんっ!


 多分、言わない!


 言わないだろうけど、返事が怖いから聞かないようにしよう……。




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