表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
516/875

誰が勇者を作ったか



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「やっぱり……おかしいですよ。時期(・・)がおかしい」


「ほほう?」


「僕が虹の勇者を読んだのは、交国が来る前(・・・・・・)なんです」


 交国が来る前から、僕は虹の勇者を読んでいた。


「虹の勇者が交国領発の物語だったとしたら……ネウロンに交国が来る前に伝わっているのはおかしくないですか?」


 交国が来た後なら、まだわかる。


 交国の誰かが持ち込んだものを、たまたま僕らが読んだって可能性がある。


 でも、実際は交国が来る前から<虹の勇者>がネウロンに存在していた。


 何で交国が来る前のネウロンに、交国の物語があるんですか? そこはおかしいですよね――と聞くと、ラプラスさんは部分的に肯定してくれた。


「おかしいですけど、不可能ではないのですよ」


「交国が来る前のネウロンに、交国の物語がある事が……?」


「そうです」


 ラプラスさんの話によると、虹の勇者の作者は交国領生まれ。


 だけど、交国領から出て行った人物らしい。交国から逃げた頃に最終巻が発売される予定だったから、最終巻は市場に出回らなかったんだとか――。


「虹の勇者の作者は、反交国組織に所属して活動していました」


「それって、ブロセリアンド解放軍……?」


「いや、別の小さな組織ですよ。で……その作者さんは表向きは考古学者(・・・・)として働きつつ、趣味で絵本を書いていたそうですが……裏では反政府活動を行っていた」


 反政府活動(それ)がバレた結果、作者さんは交国から逃げざるを得なくなった。


 交国の方舟を奪って、交国外に脱出した――と言われているそうだ。


「具体的にどこに逃げたかは不明です。交国軍に追われ、混沌の海(うみ)の藻屑になった説も囁かれていました」


「…………」


「しかし……ひょっとしたら、ネウロンに辿り着いていたのかもしれませんね」


「その作者さんが……交国より先にネウロンに辿り着いて……ネウロンに虹の勇者をもたらした……ってことですか?」


「あくまで仮説です。しかし、これが正しいとしたら……スアルタウ様が目にした虹の勇者最終巻は原典(オリジナル)だったかもしれませんね。手に入れたら好事家達が高く買い取ってくれますよ~?」


 エデン(みんな)のためにお金は欲しいけど、いまは他に気になる事がある。


 交国領から逃げた反政府活動家が描いた絵本。


 それをネウロン人の僕が読んだというのは……単なる偶然なんだろうか?


 それに、反政府活動家の仕事内容がどうにも引っかかる。


 考古学者だって? 僕の知っている人にも考古学者がいる。


 いや……でも……さすがに勘違いか。


 だって、名前が違う(・・・・・)


「交国軍が来る前に、別の異世界人がネウロンに来ていた可能性か……」


「それ自体はおかしな話ではありません。シオン教が信仰していた叡智神……真白の魔神は異世界からネウロンに降り立った存在ですからね」


 ネウロンは界外から人が入れない状態になっていたわけではない。


 多くの人に忘れられ、多次元世界の片隅でひっそり存在していただけ。


 ネウロンの存在を見つけさえすれば、ネウロンに来るのは不可能じゃない。


 ラプラスさんの話によると、真白の魔神がネウロンから去った後も異世界から誰か来た痕跡は残っているそうだ。それも、近年の痕跡が残っているらしい。


「例えば<ネウロン連邦>は異世界人の影響を受けて作られたものかもしれませんし、<赤の雷光>は創設者が異世界人の可能性もあります」


 その話は聞いている。


 ヴィオラ姉さんが、「ラプラスさんがそんな仮説を唱えていた」と言っていた。


「ネウロン連邦と赤の雷光。その2つに関わっていたシオン教団の<マクファルド・ヴィンスキー>氏は既にお亡くなりになっているんですけどね~」


「あと、<メリヤス王国>の王女様を異世界に逃した人達もいましたね」


「マーレハイト亡命政府の<ピースメーカー>ですね。……奇しくもマーレハイトはエデンとも関わりがある国家ですね~?」


「……ですね」


 多次元世界は広い。


 広いのに、変なところで話が繋がるもんだな。


 さすがに、ただの偶然……だと思うけど……。


 僕の家族の職業(こと)も、偶然の一致だと思うけど――。


「ラプラスさん。これは……本当に偶然だと思うんですが……」


 ラプラスさんに、ウチの父さんの話をする。


 父さんは考古学者だった。


 といっても……ネウロンの考古学者だ。


 虹の勇者の作者が考古学者もやっていたのは、単なる偶然だと思うけど――。


「これはさすがに偶然ですよね? だって、名前が違う」


「虹の勇者の作者が『スアルタウ』と名乗っているからですか?」


「ええ。僕の父さんの名前は――」


ロイ(・・)という名前だったのでは?」


「――――」


「虹の勇者の作者の本名(なまえ)も、ロイなのですよ」


「いや、違うでしょ。虹の勇者の作者は――」


「『スアルタウ』という名は、あくまでペンネームです」


 ペンネーム。僕のコードネームと同じようなもの。


 虹の勇者の作者の本名は「ロイ」と言うらしい。


 仕事どころか、名前まで父さんと一緒なんて……。


 そのうえ、ネウロンになかった物語に関わっているなんて。


 これは……本当に偶然なのか?


「貴方が虹の勇者を知っているのは、作者が傍にいたからなのかもですね~」


「そんな、馬鹿な。父さんは…………」


 ネウロン人だったはずだ。


 ……本当にそうか?


 父さんの家族も、母さんの家族も僕は知らない。


 けど、母さんは孤児院育ちだったと聞いている。


 父さんの方は…………何も知らない。


「いや、でも、待ってください! 僕が虹の勇者を読んだのは、<保護院>に入ってからです。実家で読んだわけではありません」


「保護院にお父様達が訪れた事はありますか?」


「ええ、結構、面会に来てくれて……」


「その時に、寄付している様子はありませんでしたか?」


「…………」


「シオン教団はお金に困っていませんが……寄付の受付も行っています。保護院では、親が玩具などを差し入れる事もあったそうですが――」


「……寄付……していたかもしれません」


 荷物を持ってきていた事もあった。


 帰る時には、その荷物がなくなっていた。


 アレは寄付だったのか? あの中に……虹の勇者も紛れていた?


「貴方の本名はフェルグス。弟さんの名前はスアルタウです」


「…………」


「そして、虹の勇者の主人公は『フェルグス』で、作者のペンネームは『スアルタウ』でした。これも偶然の一致なのでしょうか?」


「父が……自分の描いた絵本から、僕らの名前を取った?」


「あるいは、もっと別の由来があったのかもしれませんね。何にせよ偶然の一致が多すぎるので、これはもはや必然かもしれませんね~?」


 ラプラスさんはとてもワクワクした様子でそう言った。


 史書官としての知的好奇心がうずくらしい。


 その知的好奇心に突き動かされているのか、ラプラスさんは僕の家族の事を根掘り葉掘り聞いてきた。


 僕自身、気になる話だ。父のルーツなんて当然、ネウロンにあるものと思っていたから……その前提が覆されてしまった。


 ただ、僕が持っている情報では「虹の勇者の作者=僕の父親」と確定させる事は出来なかった。「ロイ」なんて名前は、そこまで珍しいものじゃない。


 偶然、名前が同じで……偶然、同じ考古学者で……偶然、虹の勇者に近しいところにいただけかもしれない。一応、まだ……偶然の域は出ない。


「確定させるには情報が足りませんね~」


「すみません……。参考になる話が出来なくて……」


「いえいえ、十分参考になる話が聞けましたよ」


 ラプラスさんは携帯端末でメモを取り続けつつ、ニコニコと笑顔を浮かべている。僕の話を記録するだけではなく、自分の考えもまとめているようだ。


「スアルタウ様のお父様がネウロンの人間ではなく、異世界人だったとしたら色々と面白いですね~! この件、もっと調べてみないと……」


「結果がわかったら、僕にも教えてもらえませんか?」


「ええ、ええ。もちろん。何かわかったらお伝えします」


「でも、もっと調べるとしたら……調査のとっかかりが必要ですよね?」


 父さんのことを必死に思い出す。


 何かなかったか? 父さんの、ちょっとおかしいところ。


 そこが調査の取っかかりになるかも――。


「あっ……。えっと、その、関係ない話かもしれないんですが……」


 1つ、思い出した事がある。


 本当に関係ない話かもしれない。


 けど、ラプラスさんは「ぜひ聞かせてください」と言ってくれた。


「僕が巫術師として覚醒する前、1人の男性が家を訪ねてきたんです」


 その人は声を荒げ、父に迫っていた。


 父さんの方は落ち着いた様子で応対していたけど、ウチにやってきた男性はずっと声を荒げていた。


 父さんは温厚な人だから、人と揉める事なんて滅多になかった。あそこまで食ってかかられていたのを見たのは、最初で最後だった。


 その時の会話を、よく思い出す。


『ロイ……家族がいるからこそ、我々は立ち上がるべきなんだ! 家族を守るために、戦い(・・)の備えをするべきなんだ』


『ステー……。キミの言う事は正しい。正しいけど……僕にはもう、キミのように理不尽に抗う勇気がないんだ……』


『お前……! お前っ、なんでそんな……!』


『ネウロン人は、とても穏やかな生活を送っている。驚くほど温厚な人々だ。……そんな彼らに戦いを教えるのは、本当に正しいこと――』


 父さんがそう言った後、相手が怒声をあげた。


 父さんに促され、別の部屋に隠れていた僕と弟は、大きな物音を聞いた。怒り狂う客が、父さんを殴りつけて倒した音を聞いた。


 ビックリした僕は部屋を飛び出し、父さんを殴った客の足に噛みついた。父さんを守ろうと、必死になって戦った。


 結局、父さんに抱っこされて止められた。父さんは自分を殴った客に「すまないが、帰ってくれ」と言って、苦笑いを浮かべていた。


 相手はずっと怒っていたけど、結局帰っていって……それきり、僕の前には現れなかった。


「父さんは……『ステー』という男性と揉めていました。相手が一方的に怒っている様子で……戦いの備えが、どうのこうのと……」


「ふむふむ。ステーさんですか……。その方はネウロン人でしたか?」


「うーん……? 確か、植毛は生えてなかったんですが……」


 ネウロン人でも、植毛を切っている人もいる。


 植毛の有無では、ネウロン人か否かは確定できないけど……今にして思えば、2人の会話はどこかおかしかった。


 父さんがネウロン人ではなく、交国人だったとしたら……納得できる会話内容だった気もする。


「虹の勇者の作者は、交国から1人で逃げたわけではありません」


「方舟で逃げたわけですから……仲間と一緒に方舟を奪ったんですか?」


「ええ。反交国活動をしていた仲間と共に、交国の方舟を奪って逃げたとされています。その仲間の1人が……その『ステー』さんだったのかもしれませんね」


 ラプラスさんはニコニコと笑いつつ、「ステーさんについても、調べてみます。ひょっとするとそちらから真相がわかるかもしれません」と語った。


 父さんが虹の勇者の作者と同一人物だったとしたら……父さんは交国の脅威を知っていた事になる。


 父さんは考古学の仕事でよく家を留守にしていたけど……実際は仕事のフリをして家を出て、ネウロンでも反交国活動を続けていたんだろうか?


 いや、ステーさんとの口論の内容を鑑みると……父さんは「戦い」を放棄しているような口ぶりだった。それをステーさんに怒られているようだった。


 父さんは……何者なんだ?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ