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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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余計なお世話



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「特に総長に頼られています。貴方って、エデンのエース的立場なんですよ」


「それはさすがに過大評価だよ」


「貴方は貴方で過小評価しすぎですよ。自分自身を」


 タマは慰めてくれているのかもしれない。


 なんと返せばいいかわからず、ただ微笑だけ返していると――子供達が話しかけてきた。僕に用事があるようだ。


「アルちゃ~ん! マーリンちゃん、どこー?」


「今日はいないのぉ?」


 子供達の声を聞き、辺りを見回す。


 大斑に行っている間もマーリンはその辺をふよふよしていて、ウチの方舟(メテオール)にも乗っていた。近くにいるはずだけど……姿は見えない。


 今はいないみたいだ、と言うと、子供達の残念そうな声が返ってきた。


 マーリン、賑やかなの苦手みたいだからさ……遊技場(ここ)には中々近づかない。皆が寝静まったあと、1匹で遊んでたりするけどね。


 あと、子供達にぬいぐるみみたいに扱われるのも嫌がるのかもね。自分の整った毛並みが大好きっぽいから、僕が乱暴に抱っこするとたまに噛んでくるし……。


「あたちもマーリンちゃん抱っこしたいぃ~!」


「アル兄ちゃんばっか、マーリンと遊んでてズルいっ!」


「ボクら、マーリンと遊んだことない……」


「え、そうだっけ? ……そういえば皆と遊んでるの見たことないな」


「マーリンちゃんって、ホントにいるの~?」


「いるって。皆が良い子にしてたら、フラッと遊びに来てくれるよ」


 僕が考え無しにそう返すと、子供達はムッとした様子で「良い子にしてるも~んっ!」と叫んだ。近くで大声を出されたから、耳が少しキンとした。


 僕が子供達に怒られていると思ったのか、レンズがやってきて「まあまあ、皆落ち着いて~」と言ってくれた。


 事情を聞いたレンズは苦笑いを浮かべつつ、面白い提案をしてくれた。


「マーリンちゃんに会えないなら、代わりにマーリンちゃんのぬいぐるみを作るからさ。そうだ! どうせなら皆それぞれ、『自分が考えた最強にカワイイマーリンちゃん』を作るのはどうかなっ?」


 レンズがそう提案すると、皆はキャイキャイとはしゃいだ。


 どうやらそれでいいようだ。命拾いしたな、マーリン……。子供達に揉みくちゃにされたら大変だろうからなぁ……。


 僕が安堵しながらレンズに感謝していると、レンズは僕に絵を描けと言ってきた。……なんでだ?


「マーリンのぬいぐるみと僕の絵に、何の関係が?」


「そりゃあ……マーリンちゃんを一番目にしているのはアルっしょ……? アルが一番詳しいんだから、参考まで見せてほしいな~……って思ってさ」


「僕の絵心に期待しないでくれ」


 写真でいいだろ――と言いつつ、携帯端末を操作する。


 携帯で撮ったマーリンの写真を見せ、「これでいい?」と言うと、子供達がケラケラと笑って「写ってないじゃん!」と言った。


 いや、一応写ってるんだけどな……。僕が写真撮るの下手だから、ちょっとブレてるけど……これはこれでカワイイと思うんだけどな……。


 レンズは苦笑を深め、「どうせならアルの絵がいいんだよ~」と重ねて言ってきた。まあ……レンズがそこまで言うなら、筆を執ってみるか。


「けど、あんまり期待しないでくれよ」


「うんうん。好きに描いていいからね。あ、マーリンちゃんって何色?」


「変なこと聞くんだな……。白色に決まってるだろ」


「ほいほい。んじゃ、材料調達しなきゃな~」


 レンズは「マーリンちゃんの絵、よろしくね~」と言い、子供達を引き連れて去っていった。……ちょっと心配になること言ってたな。


「レンズのヤツ……大丈夫かな? 義眼の調子が悪いんじゃないか?」


「いや、アレは……」


 タマは何故か困り顔を浮かべていたけど、「そういえば、貴方に渡すものがあるんでした」と言い、持っていた袋を渡してきた。


 袋の中に入っていたのは――。


「絵本……? あっ! これ……!」


「ヴィオラ様からのお届け物です。検査の時、アレコレあったので渡すの忘れていたそうなので、渡してほしいって頼まれたのですよ」


 ヴィオラ姉さんがタマに預けたのは絵本だった。


 しかも、「虹の勇者」の絵本だ!


 どうやって手に入れたんだろう――と思いながら絵本を開くと、昔見たものと絵柄が違った。内容は僕の知る「虹の勇者」と同じだ。大体同じだ。


 けど、細部は変わっているような……?


「ヴィオラ様が仕事の合間にチマチマ描いたそうです。貴方に聞いた物語(はなし)にアレンジ加えつつ、可能な限り再現しようとしたんですって」


「あ、ああ……なるほど……」


 ヴィオラ姉さんと出会って間もない頃、僕はまだまだガキだった。


 虹の勇者の物語が大好きで、ヴィオラ姉さん相手にもよく語っていた。……いま思い出すとガキっぽすぎて赤面しちゃうけど……ヴィオラ姉さん、僕の語った話を覚えてくれていたのか……。


 そのうえ、絵本まで再現してくれるとは――。


 赤面しつつ、驚きつつ、届けてくれたタマにお礼を言う。もちろんヴィオラ姉さんにもお礼を言うけど、タマにもお礼を言わないと……。


 僕が感謝の言葉を口にすると、タマはイタズラっぽく笑いつつ、「タマはただ届けただけですよ」と言った。


「お礼は、ヴィオラ様にたっぷりと言ってください」


「うん、そうする」


 タマ曰く、そろそろ今日のお仕事は片付く頃ですよ――と聞いたので、ヴィオラ姉さんのところに戻ろうとしていると、また子供達がやってきた。


 さっきの子達とは違う。遊びに誘いに来たようだ。


 僕だけではなく、タマにも遊んで欲しいとねだっている。


「タマねえちゃんも、たまには遊ぼうよ~」


「あ、いや、タマは忙しいので……そーゆーのはここでヒマそうにしているアル兄ちゃんに頼んでくださいね~? ちょうど絵本も持ってますよっ!」


 タマはあたふたしつつ、そう言い残してピュ~ンと去って行った。


 子供達のこと、苦手なのかな。まあ……たまには遊んであげているし、結構懐かれていると思うんだけどな~……。


 背格好が近いこともあってか、僕より子供達に懐かれているかもしれない。


 いや、タマはヴィオラ姉さんの護衛兼助手だからエデン本隊艦隊にいること多いし、ヴィオラ姉さんは子供大好きで子供達ともよく接しているし……その護衛兼助手のタマは結構子供達と接する機会が多いから、その影響もあるんだろうけどね?


 ぼ、僕だって……タマと同じぐらい機会があれば子供達も構ってくれるはずなんだ……! いまより、もっと……。多分、おそらく……。


「アルちゃん、遊んでくれないの?」


「つまんねーやつ!」


「行こーぜ!」


「待って! 待ってください。遊んでください……!」


 子供受けする技術なんてろくにない僕は、子供達に「構ってください」と懇願するしかない……! 今ならちょうど、絵本もある!


 ……まさかヴィオラ姉さんは僕がレンズやバレットどころか、タマよりも子供達に人気ないから、子供達と仲良く出来るツールとして絵本を作ってくれたんだろうか……? あれっ? 僕って友達少ない子だと思われてる……?


 嬉しいはずの絵本(プレゼント)に込められた意味を考えていると、微妙に悲しくなったけど……子供達が「読むなら読め~!」と言うので、慌てて絵本を開く。


 大筋は僕が知る「虹の勇者」なので、特につっかえず読む事が出来た。


 真剣に聞いてくれる子供達の反応と、大好きだった物語に久しぶりに触れる懐かしさに喜びを抱きつつ、僕は絵本の読み聞かせを行った。




■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:ヴァイオレットの助手兼護衛のタマ


「ひぃ、ひぃ……。ガキの子守りなんて御免ですよ~……!」


 ただでさえ最近はレンズとバレットという「ガキ共に大人気の2人組」がいなくて、ガキ共がピーピー泣いてて大変だった。


 ヴィオラ様に「タマちゃん、皆と遊んであげて~……!」と頼まれると断ること出来ないので大変だったのに……。


 あの3人が帰ってきている以上、面倒事は押しつけてしまおう。……私の仕事は子守りじゃないんですから……。


「……しかし、贅沢な悩みですね……」


 アル君の言葉を思い出す。


 彼は自分が「何も持っていない」と言ってるけど、そんなことない。彼には巫術という特別な力があって、戦闘技術もそれなりに持っている。


 そして何より、期待してくれる人達がいる。


 ヴィオラ様は彼のことを心配しつつも頼りにしているし……他のエデン構成員達からも期待されている。目をかけられている。


 実際、彼はレンズやバレットほど器用ではありません。私と同じく……器用じゃない。戦う以外の生き方がない人間です。


 それでも……温かく迎えてくれる場所があるだけ、上等でしょう。


 彼の悩みなんて、「悩み」と言うのも恥ずかしい代物だ。私からしたら……惚気じみたものに聞こえる。聞いていて、正直、イライラした。


 貴方は幸せ者ですよ。それに比べて、私は……誰からも――。


「タマちゃんっ!」


「うおわァっ?!!」


 急に背後から抱きつかれたので、抱きついてきた相手を投げる。


 投げ始めたところで相手がヴィオラ様だと気づいたので、必死にバランスを取って着地させる。床にビターン! と投げつけるところでした……!


 ヴィオラ様は目をパチクリさせてましたが、特に怪我は負わなかった様子。良かった……この人を傷つけたら、大変な事になるとこでした……。


「な、なんですかヴィオラ様……! 驚かせないでくださいっ……!」


「ご、ごめんね? 声かけたけど、気づいてくれなかったから……」


 どうやら私が物思いにふけっていた所為で、ヴィオラ様に気づけなかった様子。


 それはすみません、と謝っていると、ヴィオラ様は何かを突き出してきた。


 どうやら、衣服のようですが――。


「これ、タマちゃん用の服! 新作が出来たから、是非っ……!」


「えっ? や、タマはそういうのいいですよ……」


 服ぐらい、ちゃんとありますから。


 それに見栄えとかより機能性の方が重要なので……。ヴィオラ様が作る服は正直……あんまり好きじゃないんですよね。見栄え重視なので……。


 ヴィオラ様はニコニコ笑顔を浮かべつつ、「まあまあ! せっかく作ったんだから着てみて!」と押しつけてきた。


「タマちゃんもオシャレしようよ~。可愛いのに勿体ないよ?」


「は、はあ……。どーも……」


 余計なお世話です、と思いつつ……受け取る。


 この人の機嫌、損ねたくないですからね……。


 これも仕事の一環です。仕方ない……。


「こ、これ、ちょっとタマには可愛いが過ぎませんか?」


「そんな事ないよ! タマちゃんは可愛いよ? 可愛いから、その可愛さに見合う服が必要なんだよ~」


「はあ……。どうも……」




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