子供達の人気者
■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて
■from:死にたがりのスアルタウ
総長達がベルベスト連合の生き残りを救って以降、エデンは大所帯になった。
一気に組織構成員や保護している人が増えた結果、一気に忙しくなったけど……何だかんだで組織は存続している。皆、飢えずに暮らせている。
ベルベスト連合の生き残りの多くは――タマのように――エデンの構成員として働いている。戦闘員、あるいは支援担当の人間として働いている。
ただ、皆が皆、働けるわけじゃない。
小さな子供達は働ける年齢じゃない。子供達はエデンで保護し、色々な勉強をしてもらったり……子供らしく元気いっぱい遊んでもらっている。
エデン本隊艦隊は保護している多数の子供達のために、遊技場を用意している。
方舟で生活している流民にとって、広い遊技場を用意するのは贅沢な事だ。エデン構成員の中には「遊び場より、もっと重要な施設として使うべきだ」と言う人もいたけど……総長は遊技場設置は絶対にやる、と宣言した。
総長は宣言通り、エデン本隊艦隊に複数の遊技場を作った。もちろん、エデンの皆が生きていくために必要な施設は確保しつつ、子供達のための施設も作った。
『お前達は、ここでたくさん遊んでいい。ただし、利用に条件をつける』
総長ははしゃぐ子供達に対し、遊ぶ代わりに約束の履行を求めた。
遊ぶのは必要な勉強をした後。
遊ぶのは仕事をやった後。
今のエデンではヴィオラ姉さん主導で、保護した子供達への教育が行われている。総長はそれを後押ししつつ、子供達にしっかり勉強するよう求めた。
エデンの仕事を手伝う事も求めた。
仕事といっても、子供のお手伝い程度のもの。
ヴィオラ姉さんが「お手伝いを通して職業訓練もしてほしいんです」と訴えたところ、総長は「良い考えだ!」と言い、その件も後押ししてくれた。
子供達は総長との約束をしっかり守った後、ご褒美に遊技場で遊んでいる。中には勉強やお手伝いを完璧にこなさず、サボっちゃう子もいるけど……総長は結構甘めに判断し、多くの子供達に遊技場を提供している。
未だに遊技場不要論を唱える人もいるけど……長く方舟で生活していると、気が滅入る事もあるから憩いの場は必要だと思う。
遊技場とか用意しておかないと、艦内のあちこちで遊び出す子も出て来るかもしれないし……遊技場だってエデンにとって必要な施設だ。
遊技場は今日も盛況で、子供達がキャイキャイとはしゃいでいる。
中には泣いている子もいるけど――。
「レンズおねえちゃあああんっ!! ウサぢゃんの内臓、でぢゃったぁ~~っ!!」
「おぉっ! これは豪快にハラワタ出てんねぇ!」
はしゃいで遊び過ぎたのか、ぬいぐるみを壊してしまった子が泣いている。
その子はレンズに泣きつき、レンズは笑ってその子をあやし始めた。
「大丈夫大丈夫。レンズねーちゃんに任せときな~? おねえちゃん、ぬいぐるみのお医者さんだからさ!」
「レンズおねえちゃ~ん……。ボクのクマさんも、目ん玉とれたぁ……」
「おっ、ホントだねぇ。取れた目、ちゃんと取っててえらいぞっ! その子もおねえちゃんが治してあげるから、貸してみな~?」
子供達の庭である遊技場で、レンズは「皆のお姉ちゃん」として大人気だ。
ぬいぐるみ作りが趣味のレンズは、子供達にねだられて沢山のぬいぐるみを作ってきた。暇さえあればぬいぐるみを作り続けている。大斑での作戦行動の合間もずっと新作を作り続けていた。
ただ作るだけじゃなくて、ぬいぐるみの作り方を教えており、女の子達から絶大な人気を集めている。
ぬいぐるみを欲しがる男の子がいれば、その子にも作ってあげる。それをからかう子がいれば、相手が折れるまで笑顔で説教するので男の子達にも一目置かれている。どこに逃げても巫術の眼で追いかけてくるのでビビられている。
男の子相手なら、バレットの方が人気だけど――。
「バレット兄、ドローンレースできるってホント!?」
「おう。ちゃんと企画書を通してきたから、お前らは自分の機体の調整に集中してろ。……ちなみに、コースはジウスドラ縦断コースだ。この方舟の尻から先端までビューン! と飛んで行くコースだぞ!」
「すげー!!」
「そこまでやっていいのっ!?」
「おう。ただし、許可されている区域だけな。皆の仕事の邪魔はしちゃダメだ」
バレットは子供向けの玩具作りや機械いじりで大人気。
自分自身も機械工学関係の学習や、機兵乗りの仕事や整備士としての仕事で大忙しだけど……合間を縫って積極的に子供達と遊んでいる。
皆の輪に入っていけず、オドオドしている子を遊びに誘い、友達作りも支援している。バレットと遊んでいる子の中にはヤンチャな子も多いから大人達にはちょっと睨まれ気味だけど……そこもバレットが上手く仲を取り持っている。
例えば玩具作りを通して機械いじりの仕事を覚えてもらったり、プログラミングの勉強を兼ねて皆でゲームを作ったりして、「オレらは単に遊んでいるんじゃなくて、仕事も覚えているんですよ」と言いくるめている。
単なる言いくるめに終わらず、キチンとした学習機会にもなってると思う。
レンズの方も「ぬいぐるみ作りは趣味に留まらず、仕事にも繋がる」と主張し……子供が遊ぶ事に関して大人の理解を得られるように立ち回っている。
2人共、自分がやってもらって嬉しかったことを、子供達にしていると語っていた。……自分達が星屑隊でやってもらった事を、自分達と似た境遇の子達にやってあげているようだ。
ただ遊ぶだけだと、厳しい目で見てくる大人は多い。
エデンは……正直、余裕がない。
皆が飢え苦しまずに済んでいるけど、人類連盟に追われるテロ組織扱いだから、常に崖っぷちの組織だ。お金も資源も限られている。
余裕がないあまり、カリカリしている人も多い。
子供達が遊ぶことは総長が許可してくれているけど、全ての大人が全面的に賛成してくれるわけじゃない。
大人達はこんなに大変なんだから、子供も自分達のように振る舞うべきだ――と言う人も少なくない。
そういう大人達の理解を得られるよう工夫しつつ、レンズとバレットは子供達を遊ばせている。……2人は僕と違って、色々考えている。
子供達を笑顔にしつつ、導いてもいる2人の姿を見つめていると、肩をチョンチョンと突かれた。
子供が遊びに誘いに来たのかと思ったけど、違った。
「アル君。なにをボケ~ッとしてんですか?」
「ああ、タマ……」
「定年後にやることなくて、縁側でボケッとしてる爺さんみたいでしたよ」
タマの例えに苦笑しつつ、「ちょっと考え事をしていたんだ」と返す。
するとタマはしばし黙った後、僕の隣に座ってきた。
「考え事というか、悩み事って顔してますよ?」
「まあ、そうとも言えるかも。……僕は何にもないな、と思ってさ」
「……………………」
タマは、何故か無言で僕の頬を引っ張ってきた。
痛くはないけど、妙なことをされるので戸惑いながら、「ふぁ、ふぁに?」と聞く。するとタマは不機嫌そうに喋りだした。
「何にもないってことはないでしょ。親身になってくれるヴィオラ様がいますし、レンズやバレットみたいな友達もいる。巫術師としても戦闘員としても頼りにされていて……評価もされている」
ちゃんとした居場所も、帰る場所もある。
タマはそう言ってきた。
「いっぱいあるじゃないですか。恵まれてるじゃないですか……」
「いや、技術の話だよ」
ほっぺを掴んでいた手を離してもらい、言葉を返す。
「レンズにはぬいぐるみ作りの腕がある。バレットは機械全般に強い。2人とも自分の技術を活かして皆を楽しませて……そのうえ、エデンにも貢献している」
「貢献? 子守りのことですか?」
「それだけじゃない。子供達に技術を伝えて……子供達のことも強くしている。それを意識してやってるのが凄いな、と思ってさ……」
2人はそういう事が出来ている。
ただ、僕は……。
「僕には2人みたいな技術が無いな、と思ったんだ。2人がああして皆に求められているのを見ると……僕は戦う以外、能がないな……と思ってさ」
「そりゃあ……レンズ達は余暇を趣味につぎ込んできたから……それが活きているんでしょ。で、貴方は余暇を訓練に費やしてきた」
「…………」
「貴方は貴方で戦闘技術を磨いてきたでしょ? 貴方も貴方で努力してきたじゃないですか。戦う能があるじゃないですか」
「戦闘技術は、レンズもバレットも持ってるよ」
「けど、3人の中で貴方が一番強いでしょ」
一応、勝つ自信はある。
けど、射撃技術ではレンズに勝てないし、機兵の知識もバレットには勝てない。100%勝てるような相手ではない。
2人の得意分野に持ち込まれたら、負ける可能性は高い。
僕はその程度のヤツだし――。
「戦闘技術を除いたら、僕には何もない。それがちょっと……情けなくて」
「なるほど。欲張りだこと。……世の中、何の得意もない人もいるんですよ? 一芸持っているだけでも大したものだと思いますけどねぇ」
「僕の一芸なんて、大したことないよ」
僕は総長達ほど……神器使いほど強くない。
たった1人で戦況を変えられる猛者じゃない。
大したことは、何も出来ていない。昔から無力なままだ。
「大したことなかったら、頼られてませんよ」
タマはムッとした表情のまま、「貴方は他のエデン構成員に結構頼られているんですよ」と言ってきた。
■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて
■from:ヴァイオレットの助手兼護衛のタマ
何もない?
貴方が?
ふざけているんですか?
馬鹿にしているんですか?
貴方は……恵まれているくせに……。




