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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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生き残りの選択



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「…………」


 喧嘩をしたわけじゃないけど、バレットが出て行くと気まずい沈黙が流れた。


 その沈黙は、渋面を浮かべていたタマが破ってくれた。


「あのですねぇ……。ヴィオラ様は貴方達のことでメチャクチャ気を揉んでいるんですから、もっとヴィオラ様に気を遣ってくださいよ……」


 ヴィオラ姉さんはタマが喋るのを止めようとしたが、タマは構わず続けた。


「ヴィオラ様の言ってることは正論でしょ? 貴方達がやってる事は立派なことかもしれませんが、エデンの活動って人類連盟視点だとテロ活動なんですから……いつか大変なことになりますよ? 人様を命がけで助けていたら、自分達自身を助けられなくなっちゃいますよ。遠回りな自殺みたいなもんです」


「でもタマちゃん、ロッカ君達が言ってる事も間違いじゃないんだよ……」


 ヴィオラ姉さんはタマの服の裾をくいくい引っ張って止めつつ、そう言った。


 悲しそうに「皆がやりたい事と、私の考えがぶつかってるんだよ」と言った。


「皆がやりたい事はわかる。……でも、自分の命も大事にして」


「うん……」


「そこは……もちろん、気をつけるよ」


「皆が人を助けたいのはわかる。わかるけど……まずは自分自身を守って、自分自身を幸せにしてあげて」


 自分が幸せになったら、余った幸せをおすそわけする。


 人助けなんて、そういうものでいいんだよ――とヴィオラ姉さんは言った。


 グローニャが苦笑いを浮かべて、「そう言うヴィオラ姉が、自分より他人を優先してる気がするけどな~」と言うと、ヴィオラ姉さんは「私は幸せだからいいのっ」と言った。……本人も無茶している自覚はあるのか、視線は逸らしている。


 ヴィオラ姉さんは幸せ……か。


 本当にそうだとは思えない。


 だって……ここにはラートがいない。


 ヴィオラ姉さんの傍には、大切な人(ラート)がいないんだ。


「皆には巫術があるんだから、戦うならせめて……巫術を使って上手く立ち回って。機兵は常に遠隔操作するようにして」


「うん」


「了解っ」


「……大斑での作戦では、ちゃんと遠隔操作だけ使った?」


 ここで嘘をついても、どうせバレるだろうなぁ……と思いつつ、正直に話す。


 ヴィオラ姉は表情を曇らせたけど、強く怒ってきたりはしなかった。


「まあ、とにかく……自分自身を優先してね」


「うん。ヴィオラ姉さんの言う通りにするよ」


「フェルグス君は、特に約束を守ってくれなさそ~……」


 ジト目で見つめてくるから、「そこは信じてよ……!」と言ったけど、ヴィオラ姉さんの目つきは変わらなかった。


「信じているけど、無茶をする確信があるの。フェルグス君はそういう子でしょ」


「アルは無茶する前科持ちだもんね~」


「言っておくけど……グローニャちゃんも同じ目で見てるからね」


「げっ、マジ? あたしはアルほどじゃないと思うけどな~」


「でも、グローニャちゃんだって、レンズさんと再会できる機会が目の前にあったら、無茶してでも突っ込んで行っちゃうでしょ」


「まあ、それはね。だってレンズちゃんに会いたいし」


 グローニャは毛先を指で弄びつつ、笑顔でそう言った。


 笑顔を浮かべていたけど、直ぐに真剣な顔つきになった。


「あんな別れ方のまま、再会できないなんて絶対に嫌。あたしもアルもバレットも、レンズちゃん達のこと……まだ諦めてないから。ヴィオラ姉と同じようにね」


「そうだよね……」


「大斑にいる大王国は交国の脱走兵で構成されていたから、レンズちゃん達の手がかりが何か掴めるかも~……と思ったけど、そんな上手くいかなかった」


 巫術師のいる機兵部隊<北辰隊>という強敵と会ったものの、レンズやラートの手がかりはゼロ。それどころか<ウィッカーマン>の損失まで出た。


 大王国から奪った機兵を改造したら、<ウィッカーマン>の再生産はそこまで難しくないけど……エデンは金持ち組織じゃないし、機兵の損失は結構デカい。


 グローニャは北辰隊にやられた時の事を思い出しているのか、悔しげな表情を浮かべている。「繊三号でバフォメット相手にやったような手を、北辰隊にやられちゃった」とこぼした。


「今回は手がかりゼロだったけど……レンズちゃん達は生きてるって信じてるから。もしかしたら……交国軍に戻ったパイプちゃん辺りが助けてくれたかも?」


「その可能性もあるかもね。……パイプも元気にしてるかなぁ……」


 僕らが交国軍から逃げるから、パイプとはネウロンで別れた。


 不幸中の幸いと言うべきか、パイプは玉帝が派遣した部隊と戦闘する前に別れた。だから、パイプはきっと交国軍で元気にしているはずだ。


 パイプともまた会いたいな……。


 星屑隊の皆の話をしていた事もあって、少ししんみりしていると……診察室の外が騒がしくなってきた。誰かがやってきたらしい。


 コンコンと叩かれた扉に対し、ヴィオラ姉さんが「どうぞ~」と言うと、小さな子供達がワッと入ってきた。


「レンズ姉ちゃん達、検査もう終わった~!?」


「あそぼ! あそぼっ!」


 エデンが保護した子供達だ。


 僕らが帰ってきたことを聞きつけて、遊びに誘いに来たらしい。正確には……僕らというより、特に懐いているレンズやバレットかな?


「あっ! タマねえちゃんもいる!」


「タマねえちゃんも遊んで~!!」


「昨日のパズルの続きしよっ!」


「げっ……。た、タマは用事があるので、これで~……!」


 僕らが子供達に囲まれていると、タマはそそくさと逃げていった。


 どうも、タマは子供が苦手らしい。子供達と大して変わらない背丈で、生意気な子には舐められがちだから苦手なのかもしれない。


「アルちゃん、遊んでぇ」


「うん。じゃ、ヴィオラ姉さん、僕らは行くから……」


「うん。検査結果は明日伝えるね」


「ありがとう。あ、それと……」


 少し言いにくいけど、この件も言った方がいいだろう。


 頬を掻きつつ、「姉さんも出来ればコードネームで呼んでほしい」と告げる。


 ヴィオラ姉さんは寂しそうな表情を浮かべつつ、「善処するよ」と言ってくれた。姉さんにとっては……僕らは「フェルグス」と「ロッカ」と「グローニャ」のままなんだろう。その認識は……別に間違ってないけど……。




■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「…………」


 フェルグス君もグローニャちゃんも……ロッカ君も、いつまでも子供じゃない。


 皆それぞれの考えがある。危険なことはしてほしくないけど……それは私のワガママなのかもしれない。


 だからといって、皆が戦うのを全力で後押しする気にはなれないけど……いつまでも子供扱いするのは、おかしいんだろうなぁ……。


「……あ、ちょっと待って。1つ確認したい事があるんだけど」


 子供達と遊びに行こうとしていたフェルグス君とグローニャちゃんを……アル君とレンズちゃんを呼び止める。


 子供達には「直ぐに済むから」と言って先に行ってもらい、2人だけにこっそりと聞く。作戦行動中のことを聞いておく。


「2人共、鎮痛剤……ちゃんと使ってる?」


「あっ」


「あたしは使ってるよん」


 アル君は「しまった!」と言いたげにしていたけど、レンズちゃんは笑って鎮痛剤入りのケースを見せてくれた。


 アル君はともかく、レンズちゃんは言いつけを守っているみたいだ。


 バレット君も後で念のため確認しておかないと……。


「アル君。どういう事か説明してくれるかな~?」


「ご、ごめん……。でも、僕らはもう鎮痛剤(・・・)無しでも(・・・・)戦えるよう、ヴィオラ姉が『枷』を外してくれたでしょ……?」


「それはそうだけど、鎮痛剤を打つフリだけはしてって……お願いしたでしょ?」


 巫術師は「死」を感じ取ると頭痛がする。


 人間の死は特に酷い頭痛がするから、それが巫術師の大きな弱点になっていた。


 ただ、その弱点は真白の魔神が後天的につけた「枷」だ。


 解除も不可能じゃない。


 下手したら死にかねない枷だから、私はそれをネウロン脱出後に外した。外すのは苦労したけど……ネウロン脱出後は時間の余裕もあったから、何とか外せた。


「皆が鎮痛剤無しでも戦えるようになった事を知られると……皆がもっと戦いに駆り出されるかもしれない。それは避けたいから……もう枷がないことは秘密にして。もうしばらく演技をして」


「でも……総長達には話していいんじゃ……?」


「ダメ。……カトー総長達にも、言わないでほしい」


 枷を外したことは、一部の人達にしか教えていない。


 総長にも言ってない。……今は言うべきではないと思うから。


 アル君は鎮痛剤を打っているフリをするのが面倒なのか、演技を続けるのに難色を示しているけど……その手を握って説得する。


 今はお願い、と強く言う。


「この約束は、もうしばらく守って。お願い……」


「うん……わかった。でも、いつか総長達にも話していいんでしょ?」


「……いつかね」


 それがいつになるかわからない。


 でも、今はまだダメ。……総長には言っちゃダメ。





■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>

■from:歩く死体・ヴァイオレット


「とりあえず2人は問題なし、と……」


 ロッカ君とグローニャちゃんの検査結果の確認を終える。


 グローニャちゃんの義眼も問題無し。「子供達が喜ぶから、眼を光らせる機能でもつけてー」という要望はあったけど、さすがに却下する。


 2人はいいとして……問題はフェルグス君だ。


「…………」


 検査結果は良好。


 義体への拒否反応も出ておらず、健康そのもの。


 けど、やっぱりおかしい。


 そもそも最初からおかしかったのかもしれない。


 7年前……アル君が現世を去った。


 その時、フェルグス君も大怪我を負ったけど……それでも生き残った。あれだけの事があったのに、何故……生き残れたんだろう。


 技術少尉の処置が奇跡的に的確だった? それだけで何とかなる話とは思えない。輸血だけで何とかできる状況じゃなかったはず。


「……エノクさんが<ジウスドラ>に来てたはず……」


 ラプラスさんの護衛を務めるエノクさんがここに来ている。アル君が息を引き取った後、エノクさんもフェルグスの身体を診てくれたと聞いている。


 エノクさんを探しに行き、あの時のことを聞くと、エノクさんも「彼は本当に、よく生き残れたものだ」と言った。


「何らかの要因があったのは確かだろう。だが、ワタシはそれを断定できない」


「エノクさんのおかげ……ってわけではないんですか?」


「ワタシが処置をしなくても、生き延びる事は可能だったはずだ」


 結局、生き残れた原因は不明。


 この問題の答案があったとしたら、私は「奇跡的に助かった」と書くしかない。……実際は違和感を抱きつつも、思考停止の文言を書くしかない。


 ラートさんとアル君が必死にフェルグス君を守ったのも一因かもしれないけど……本当に「奇跡的」としか言い様がない状態で生き残っている。


 エノクさんの言う通り、別の要因があったはず。


 例えば、フェルグス君が元々「特別」だったとか――。


「難しい顔してますけど、3人の健康状態に何か問題が?」


 エノクさんと別れて検査結果とにらめっこしていると、タマちゃんが話しかけてきた。「全員、問題無しだよ」と返して微笑む。


「そのわりには、うかない顔をしてましたけど……」


「んー……まあ、ちょっとね」


「ふむ? タマに出来ることがあったら言ってくださいね」


「うん。もうちょっと考えをまとめてから相談させて。……あっ、タマちゃん、ちょっと届け物をお願いしたいんだけど……」


「お? 何です? 何でも任せてくださいな~」


 フェルグス君は生きている。


 それは悪いことじゃない。アル君が亡くなったのはともかく……フェルグス君が奇跡的に生き残った理由を深掘りしたところで、特に意味はないかもしれない。


 生きているならそれでいいでしょ? とも思う。


 ただ、どうにも引っかかる。


 納得できる答えを出せないから、引っかかる。


 検査を続けて結果を睨んでいても、何もわからないかもしれない。実際、フェルグス君の健康状態は何も問題がない。


 問題が(・・・)無さ過ぎる(・・・・・)ぐらい。


「……ネウロンに行けば、何か……わかるかも」


 タマちゃんに届け物を預け見送った後、独りごちる。


 検査を続けても手詰まり。原因はわからず終い。


 ネウロンはフェルグス君達の故郷のはず(・・・・・)だから、ネウロンに戻って調べれば、何かわかる可能性はあるけど――。


「戻れる状況じゃないよね……」


 今のネウロンは、もうすっかり交国の支配地域だ。


 ラートさん達の行方を知るためにも、出来ればネウロンに行きたいけど……いまネウロンに行くのはやめた方がいい。危険すぎる。


 だって、いま、ネウロンでは――――。


 


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