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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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スペアボディ



■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:狙撃手のレンズ


「ハァ~……! フェルグス君もロッカ君も、私のことが嫌いになったんだ。お姉ちゃんウザいウザい期に入ったんだ……。だから身体を見せてくれないんだ」


「んもぉ~……。まだ言ってる」


 検査終わった後もブツクサ言ってるヴィオラ姉の頭をポンポン叩き、なだめる。


 ヴィオラ姉による検査は拒んだ男2人は部屋の隅で気まずげにしつつ、「仕方ねえよなぁ」「そうそう……」とコソコソ喋っていたけど、ムス~~~~っとしたヴィオラ姉さんの視線を受けると目を閉じて黙り込み始めた。


 あたし達が勝手に出撃した件はともかく……検査の件は仕方ないと思うけどな~……。ヴィオラ姉は頭良いのに、変なとこがお子様なのかも……。


「私達は家族だよ。私は、フェルグス君とグローニャちゃんとロッカ君とタマちゃんのお姉ちゃんなのっ!」


「サラッと(タマ)も入れないんで欲しいんですけどぉ……」


「イヤなのぉ!?」


 ヴィオラ姉がガチで傷ついたトーンで叫ぶから、タマちゃんも気まずそうに「いや、まあ、イヤってわけじゃ……」とこぼした。


「私は皆の実質的(ジェネリック)おねえちゃんなんだよ? 家族に隠し事をするのは良くない……。検査も私が全て担当するべきだよ。そうだよね?」


「うん、まあ、家族ってことは同意するよ~」


 あたし達はもう家族みたいなものだ。


 けど、家族だからといって、全て見せる気にはならないかなぁ~?


 ヴィオラ姉にそう説くと、不満げなうなり声が返ってきた。大好きな玩具を取り上げられた子犬みたいなうなり声だった。


「昔は皆……もっと何でも見せてくれた。『ヴィオラおねえちゃん♪ ヴィオラおねえちゃん♪』ってニコニコしながら抱きついてきてくれたのに……皆……皆、変わっちゃったよっ!」


「いや、そんな時代は1秒たりとも存在してないよ」


「混沌機関は作っていいけど、記憶まで作らないでくれよ」


 身を寄せ合って嫌そうな顔をしている二十歳手前の男2人のうち、バレットが「まあ、アルはヴィオラ姉に見てもらうべきだと思うが」と言った。


 実質家族(なかま)に売り飛ばされたアルが目を大きく開く中、ヴィオラ姉は「そうでしょうそうでしょう」と言いたげに腕組みして頷いている。


「バレットの裏切り者っ!」


「でも、実際見てもらった方がいいだろ。お前の義体(からだ)に関しては、ヴィオラ姉が一番わかってるんだから……」


「全然大丈夫だって。それに~……検査結果はヴィオラ姉も見てくれてるしさ。ねっ? ヴィオラ姉……」


「見てるけど、やっぱり自分の目で隅々までチェックしたいよ……! 脳や一部臓器は生身なんだから、義体部分との拒絶反応を起こしていないか頻繁に見守っておかないと夜も眠れないよっ……!」


「まともなことも言われると、反応に困るな……」


 渋面を浮かべたアルが「そんな心配しなくていいって」と言った。


「僕の義体(からだ)は、ヴィオラ姉の身体を参考に作られたものなんでしょう? ヴィオラ姉が元気なんだから、僕も大丈夫だよ」


 アルがそう言い、両手を広げた。


 解放軍につけられた義手と義足は「いかにも機械」って感じのものだったけど、ヴィオラ姉が用意した新しい義体(からだ)は生身と大差無く見える。


 実際、かなり生身に近い作りになっているらしい。


 性能面(パワー)では完全機械製のものに劣るものの、生身と同じく自然治癒能力があるから――ヴィオラ姉の手にかかれば――そこまでメンテナンスや維持費もかからないんだとか。


 ただ、ヴィオラ姉は過保護だから、事あるごとに検査をやっている。命がかかっている話だから、慎重になるに越したことはないだろうけどね。今のところ何にも問題起きてないけども。


人造人間(わたし)は真白の魔神製だけど、アル君の身体は私作だもん。自分の技術を過信できないよ……。私の身体は全部作り物だけど、アル君はそうじゃないし……」


「いっそのこと、アルも身体の全てを義体に出来ないの?」


 そう提案したけど、ヴィオラ姉は「オススメできない」と難色を示した。


「脳も臓器も完全に義体にしちゃった場合、魂が定着しない可能性もあるの。生身の身体が完全になくなったら、魂がどこに帰ればいいのかわからなくなって……結果、死んじゃう可能性が高い」


「不可能ではないんだ?」


「出来るけど、リスクが高すぎるからダメ」


 環境さえ整っていれば、ヴィオラ姉なら成功率50%まで持っていけるらしい。


 それは50%の確率で死んじゃうってことで、失敗した時に取り返しがつかないからヴィオラ姉は絶対にやりたくないみたい。


 2回に1回死ぬって考えたら、そりゃ確かに危ないか……。


「そもそも、脳の代用品を用意するのが難しいの。私じゃ作れない」


「あれっ? ヴィオラ姉が作ってくれた代用義体(スペアボディ)は脳まで作り物だったよね? 僕がたまに使わせてもらってる奴」


「アレはあくまで巫術で動かしているものだよ。代用義体に魂が定着しているわけじゃなくて、ヤドリギを介して遠隔操作しているだけ。機兵と同じようなもの」


 ヴィオラ姉曰く、脳を作るのは凄く難しいらしい。


 他の部位はヴィオラ姉でも作れるらしいけど、脳を一から作るのは真白の魔神ですら苦労していたらしい。苦労していただけで作ることは可能みたいだけど。


「脳だけテキトーな代用品を調達できないの?」


「出来るけど……基本的に非人道的な方法になっちゃうかな。もしくは……人体を一から作れる設備さえあれば……」


 非人道的な方法というのは、他の人間の脳を使う方法らしい。


 それも上手く行くとは限らないから、脳の状態が悪いと完全な全身義体化手術の成功確率もガンガン下がっちゃうんだとか。


 ヴィオラ姉は非人道的な手術はやる気ないし、アルもそこまでして義体化をさらに進める気はないらしい。


「交国の技術なら、脳も一から作れるんじゃねえの?」


「交国の技術……? ああ、<玉帝の子>が人造人間だから?」


「そう。久常中佐とか犬塚特佐が完全に一から作られた人間なら、交国には脳すら一から作る技術があるってわけだ。それをちょっと拝借するとかさ……」


「借りる事が出来たら出来るかもしれないけど……そもそも<玉帝の子>が完全に一から作られた人造人間とも限らないからね……」


 それこそ、非人道的な手段で作られているのかもしれない。


 確かに、交国ならやりかねないかも。


 ……レンズちゃん達(オーク)を軍事利用していた悪い奴らだし……。


「あっ! 代用義体(スペアボディ)で思い出した!」


 ヴィオラ姉が両手を叩き、椅子から立ち上がった。


 そして、ちょっと怒った顔でアルを見つめ始めた。


「フェルグス君! 私に身体を診られたくないのに、グローニャちゃんには代用義体を好き勝手させてるでしょ?」


「は?」


「アレはキミの義体とほぼ同じ作りなんだから、アレが許されるなら私が身体を診てもいいでしょ……!?」


「何の話?」


 アルが呆気に取られているうちに、コソコソと立ち上がる。


 この話は、ちょっとマズい……。


「グローニャちゃんが、フェルグス君の代用義体に憑依してうろついてるの、私知ってるんだから。アレって身体を診る以上のことしてるようなものでしょ?」


「おい。レンズ。おいっ」


 コソコソ逃げようと思ったけど、アルの鋭い声に止められた。


 口笛を吹いて誤魔化そうとしたけど、さすがに無理だった。


「大丈夫。やましいことはしてないから」


「僕に内緒で、僕の代用義体(からだ)を使ってる時点でやましいだろ!? 巫術を使って憑依して、その辺をうろついているのか!?」


「だって……アルの身体の方が筋肉ついてて便利だもん」


 艦内で力仕事する時とか、あたしの身体よりアルの身体の方が便利だしぃ……。


 狭い通路だと機兵も持ち込めないから、アルの代用義体がちょうど便利なの。


 荷物の運搬以外には利用してませんよ~と言うと、バレットが「ウソをつくな、ウソを」と言って口を挟んできた。


「お前、アルの代用義体(スペアボディ)使って、女の子を口説いてただろ」


「おおおおいッ!!?」


「いや~、それは向こうが勝手に勘違いしたからさぁ~……。ついつい面白くなってカッコつけて、キャーキャー言われちゃっただけ」


 アルは口を開くと残念なとこあるけど、顔は昔から整ってるからさ~。


 エデン内では若手だけど総長にも頼られてるし、女の子達も結構陰でキャーキャー言ってんのよ。口説きやすくて楽しかったなぁ。


 アルだってモテたいでしょ?


 モテさせてあげたんだから感謝してよ~と言ったものの、許してくれなかった。プリプリ怒って文句を言ってきた。


「ヴィオラ姉さんもレンズを叱ってよ!? こいつ、代用義体の方とはいえ、僕の身体で好き勝手やったんだよ!?」


「ちょっと女の子50人ほど口説いただけだよ~」


「なんか最近、周りの視線がおかしいと思ったらお前の所為か……!」


「お姉ちゃんはフェルグス君がモテモテで鼻が高いよ……♪」


 アルはプリプリ怒ってるけど、ヴィオラ姉は腕組みして満足げに笑っている。これは実質、ヴィオラ姉公認と考えていいかな?


 よしよし、これからもアルの代用義体(スペアボディ)を勝手に使っちゃお。




■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


「レンズ! 今度から絶対、僕の代用義体を使わないでくれよ」


「じゃあ、本体ならいいの?」


「ダメに決まってるだろ……!?」


 レンズをひとしきり叱っていると、ヴィオラ姉さんもやっと笑顔を見せてくれるようになった。少しは機嫌が直ったようだ。


 ただ、根本的な問題は解決していない。


 ヴィオラ姉さんとも……ちゃんと向き合わないといけないよな。


 向き合わないと、7年前と変わらない。バフォメットに「お前はヴァイオレットと向き合っていない」と言われた時と、変わっていない。


「ヴィオラ姉さん。黙って作戦に参加して……ごめん」


「…………」


「でも、僕はこれからもエデンの作戦に参加するから……」


 僕がそう言うと、バレットが「オレも」と言い、レンズも「あたしも」と言った。2人も居住まいを正してヴィオラ姉と向き合っている。


 タマは「余計なこと言うな」と言いたげに渋い顔を浮かべているけど、言わなきゃダメだ。言わないと……問題を先送りにするだけだ。


 僕達の意志を伝えると、ヴィオラ姉は少し泣きそうな表情になった。


「……エデンの作戦行動は、とっても危ないことなんだよ? 星屑隊の皆さんのおかげで何とか命を繋げたのに……なんで自分から危ないことをしようとするの?」


「僕らが持っている巫術の力は、誰かを救うのに役立つ。犯罪者や強国に虐げられている人達を助けられるし……戦っていれば、いつかラート達とも再会できるかもしれない。……助けられるかもしれない」


「ヴィオラ姉だって、ラートちゃん達のこと諦めてないでしょ? エデンの活動を手伝う代わりに、色々と調べてもらってるでしょ? ラートちゃん達の行方とか……交国の動向とか……」


「それとこれとは、別の話だよ」


 ヴィオラ姉は「ラートさん達のことは、私がなんとかするから」と言った。


 信じて、とも言った。


 ヴィオラ姉のことはもちろん信じている。けど、ヴィオラ姉だけに背負わせたくないんだ。……僕らもラート達を探したいんだ。


「皆がやりたいことはわかるけど……。でも、せめて前線に出るのはやめてほしい。エデンは交国軍とは違う。特別行動兵だった時みたいに、戦いを強要されるわけじゃない。皆なら……後方支援でも十分、活躍出来るし……別の道も……」


「けど、僕らの力を最大限活用するなら、前線が一番適している」


「力を持っているからといって、何もかも背負う必要は――」


 苦しげな表情で言葉を続けていたヴィオラ姉は、突然黙った。


 自分の胸に手を当てて、しばし黙っていたけど――。


「……私は皆のことを信じているつもり。だけど、皆を束縛しているのは事実……だよね。カトー総長の言う通り……」


「そんなこと――」


「束縛なんてされてねえよ。ヴィオラ姉は、オレらを心配してるだけだろ」


 僕がアレコレ言うより早く、バレットがピシャリと言った。


「心配するのもわかる。グローニャはともかく、オレやアルはもうガキじゃないつもり…………だけど、何歳になっても心配なもんは心配だよな」


「…………」


「ヴィオラ姉が、本当の姉ちゃんのようにオレ達のことを心配してくれているのはわかってる。オレ達も、ヴィオラ姉のことを本当の姉貴のように思ってるよ。……そんなヴィオラ姉を心配させっぱなしの悪い弟と妹って自覚も、一応ある」


 バレットは――いや、ロッカは少し言いづらそうに言葉を続けていった。


「けど、オレは……安全地帯でぬくぬく暮らしたくないんだよ。オレがもっと強けりゃ……バレット達と一緒に逃げることができたのに……それが出来なかった」


「星屑隊のバレットさん達のことは、キミ達の所為じゃ――」


「色々と悔やむことはあるんだよ。オレが、バカなことやってアイツを追い詰めなきゃ……。オレが……バレットに、あんなことを言わなきゃ……」


「…………」


「オレはバレットに銃を向けるべきじゃなかった。アイツがどんな奴かなんて、わかりきっていたのに……。銃なんか捨てて、アイツを抱きしめてやるべきだった」


 バレットを許せたのは、オレしかいなかった。


 バレットを救えるのは、オレしかいなかった。


 ロッカはそんな言葉を絞り出した。


 その声は少し震えていたけど、ロッカはさらに言葉を続けた。




■title:エデン本隊旗艦<ジウスドラ>

■from:整備士兼機兵乗りのバレット


「エデンの作戦に参加しているのは、贖罪のためでもあるんだ」


「贖罪なんて――」


「いや、言い方を変えるべきだな。オレは、楽になりたい(・・・・・・)んだ。バレットにヒドいことして、ヒドことを言っちまった贖罪を……エデンの活動を手伝うことで……楽になりたいんだ」


「…………」


「一生、楽になれねえかもしれねえ。けど、エデンの仕事を手伝っているうちは……少しは胸を張れるんだ。これはオレにとって必要なことなんだよ」


 オレはヴィオラ姉みたいに頭よくない。


 ヴィオラ姉みたいに、知識でエデンに貢献することはできない。


 ただ、巫術を上手く使って戦うことはできる。そりゃあ、オレはアルやレンズほど強くないが……それでもそれなりの戦力にはなる。


 あと、機兵や方舟の整備も出来る。ヴィオラ姉や整備長や…………バレットに教わった知識を活かして、オレなりの貢献は出来る。


 貢献している間は、少しは……楽になれるんだ。


 バレットにはもう謝れない。アイツを許してやることもできない。バレット自身に対して、やってやれる事はない。……けど、それでも……何かしたいんだ。


 誰かのために働いていたら、少しは気が紛れるんだよ……。


「オレは今後も戦うよ。自分なりの方法で。ヴィオラ姉に止められても、嫌われても……戦い続けるよ」


 だが、簡単に死ぬつもりはない。


 より多くの人を救って、オレ自身も生き残ってみせる。


 生き残り続ければ、それだけ……たくさんの人を救えるはずだ。


 自分の考えをヴィオラ姉に告げ、診察室を出ようとすると――。


「ロッカ君を嫌ったりなんて、しないよ」


「…………」


「ただ……私にも、私の考えがある。どう言われてもキミ達が戦うのは……賛成できないけど……。少し、気持ちを整理させてほしい」


「…………」


 いま、ヴィオラ姉の顔を見る勇気はない。


 多分、涙ぐんでいると思う。


 泣かせそうなのはオレらが原因なのもわかってる。


 見る勇気はないけど、診察室の扉に手をかけたまま「ごめん」と謝る。


 考えを改めるつもりもねえし、これからも心配させる事になるだろうから……謝るぐらいはしておく。


 戦い続ける以上、オレもいつか死ぬだろう。言いたい事や、言わなきゃいけない事を言える時に言っておかなきゃ……ダメなんだろうな。


 ちゃんと気持ちを伝えなきゃ、バレットの時のような事になる。


 そう考えつつ、今はヴィオラ姉から距離を取る事にした。……アレコレとエラそうな事を言っておきながら、今はちょっとヴィオラ姉の顔見るの無理だ。


 オレもちょっと、気持ちを整理したい。





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