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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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衝突



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 一度始まると、ヤドリギ作成はトントン拍子で進んだ。


「整備長に『手伝いに行け』って言われたんですが、これ、別に自分がいなくていいですよね……?」


 バレットがそう言うほど、ヴィオラの手際は良かった。


 素人とは思えない手付きで組み立てと加工の作業が進んでいく。ちょっとした力仕事程度なら手伝えたが、それ以外は全部ヴィオラに任せきりになった。


 かくして、巫術憑依可能距離拡張アンテナ――ヤドリギの試作品が完成した。


 いきなり機兵相手に使うことは許可されなかったが――ヤドリギは別の機械相手にも使えるので――試運転は全て上手くいった。


「えっ、技術少尉の説得、もう行ってきたのか?」


「はいっ! 昨日、話をつけてきました」


 技術少尉も意外なほどすんなり話を受け入れてくれた。


 完成した試作品を持ってヴィオラ1人で説得に行ったところ――ヴィオラ曰く――すんなりと受け入れてくれたらしい。


「あの人、今まで散々文句言ってきたのに……どうやって説得したんだ?」


「あはは……。少尉には少尉の理屈があるので、そこをちょっと……ねっ?」


 技術少尉をどうやって説得したか。


 それを聞いてもヴィオラは笑ってはぐらかすばかりだった。


 なんか引っかかるが……ともかく、ここまでは上手くいっている。


 けど、俺達は大きな壁にブチ当たる事になった。


 星屑隊に配備されている機兵は4機。


 予備機はないから、子供達に機兵を使わせるとなると――。


「ネウロン人のガキに、機兵を明け渡せだぁ!?」


「ちょ、ちょっと貸すだけだって……! 落ち着け、レンズ!」


 俺達の機兵を使う必要がある。


 1人、あるいは全員の機兵を使う必要がある。


 それを機兵対応班の皆に話すと、レンズが俺の胸ぐらを掴んできた。


「ラート! お前、機兵乗りとしての誇りは無いのか!? ガキ共の乳臭い手でテメエの機兵を好きにされていいのかよ!?」


「普通の素人とは違うんだ! 巫術なら、直ぐにでも機兵を動かせる。ヤドリギによって憑依可能距離の問題も解決したんだ!」


 レンズだって見たはずだ。


 ケナフでアルが機兵を動かした瞬間を。


「アイツらが訓練したら、俺達より優秀な機兵乗りになれるかもしれない。いや、ひょっとすると分野次第では――」


「…………!!」


「コラコラ、レンズ、落ち着け落ち着け」


 レンズが拳を振り上げると、副長がレンズを羽交い締めにして止めてくれた。


 パイプも割って入ってきて、俺とレンズの距離が開く。レンズは額に青筋を立てながら俺を睨み続けている。


「止めないでください副長! 機兵乗りにとって、機兵は魂ですよ!? それをコイツ……売り渡しやがった!」


「売り渡してない! 俺は、俺なりに考えて――」


「テメーはネウロン人に良い顔見せたいだけだろうが! その結果、自分の機兵どころか仲間の機兵も明け渡すつもりかこのクソ野郎……!」


 言葉に詰まる。


 そんなことはないって言いたかった。


 だが、アル達のために動いているのは事実だ。


「まあまあ、落ち着けレンズ」


 暴れるレンズに対し、副長がヘラヘラ笑いながら動いた。


 羽交い締めの体勢から首を締める体勢に移行し、「大の男を止め続けるのも面倒なんだよ。絞め落とすぞ」と言い始めた。


「隊長の前だ。いい子にしようなぁ~?」


「っ…………!!」


 オークは痛みを感じないとはいえ、失神はする。


 レンズは副長の手を叩いて首絞めを止めてもらい、ゲホゲホと咳して呼吸を整えた後、また俺を睨んできた。けど、もう暴れだしたりはしなかった。


「レンズ軍曹の意見はわかった」


 黙って俺達の会話を見守っていた隊長が、腕組みを解きながら喋りだした。


「副長、パイプ軍曹。貴様らの意見は?」


「僕も反対です」


「オレも反対で~す」


 反対3。賛成は俺1人だけ。


 パイプも副長も賛成してくれると思ったのに……。


 そんなこと考えながら見ていると、副長が苦笑しながら俺を見てきた。


「いや、当たり前だろうが。俺達は機兵乗りだぞ? 機兵をガキ共に奪われたら、俺達は何乗りだよ? 単なる船乗りか? んっ?」


「機兵には、俺達も乗ります」


 アル達は巫術を使えば、自分の身体のように機兵を動かせる。


 けど、アイツらは軍人じゃない。機兵を動かすことが出来ても、どう考え、どう動けばいいかはわからないはずだ。


「俺達がそれぞれ指示を飛ばし、状況によっては代わりに機兵を操作します」


「それ、主導権はガキ共にあるんだろ? アイツらがしくじったら、俺達は死んじまうわけだ。他人に生殺与奪の権を握らせるとか、気持ちわりぃ」


「副長……」


「そもそも、アイツらは特行兵だ。余計に信用できねえよ」


 副長の言葉にパイプが頷き、言葉を続けた。


「僕は巫術をキチンと理解していませんが、ラート軍曹のことはわかっているつもりです。ラート軍曹のことは信じています」


「パイプ――」


「ただ、僕も機兵乗りです。レンズが言うように自分の魂を他人に預けるのは抵抗があります。副長が仰るように、他人に命を握られる事も抵抗があります」


「…………」


「隊長の命令であれば従いますが、反対の意思表示はさせてください。以上です」


 敬礼をしたパイプに対し、隊長は小さく頷いた。


 頷き、「賛成はラート軍曹だけだな」と小さく呟いた。


 パイプは少しいぶかしげな表情を浮かべ、隊長に対して「隊長は巫術師による機兵運用に賛成だったのでは……?」と問いかけた。


「私はどちらでもない。今回の話は上の命令ではなく、現場の上申から生まれたものだ。ヤドリギは確かに巫術師の運用を抜本的に変えかねない力を持つが――」


 隊長の手がヤドリギに伸びる。


「星屑隊の任務はタルタリカの討伐。実験部隊の補助も命令されているが、最優先目標はタルタリカの討伐だ」


「…………」


「交国の今後を考えるのであれば、ラート軍曹達が提案してきた運用実験に手を貸すべきだろう。だが、私はそのような命令は受けていない」


「隊長……!」


「巫術師の運用をどうするかは、上の考えることだ。タルタリカ討伐の要である機兵乗りから多くの反対意見が出た以上、その意見を優先する。貴様らの士気が下がってタルタリカ討伐に支障が出るのは私も望まない」


 隊長はてっきり、賛成してくれていると思った。


 けど違った。ヤドリギ作成を許してくれただけ。


 それ以上の「お遊び」は許さないとばかりに、隊長の態度は頑なだった。


巫術師(ドルイド)による機兵運用は、実現可能な案だろう。上には私から伝えておく。上層部や研究所の判断次第ではこの案が試されることもあるだろうが、その時は別部隊で別の機兵が使用されるだろう。それが無難だ」


「隊長! ヴィオラも言ってたでしょう? 俺達でこれを成功させたら――」


「軍曹。我々は猟犬だ」


 隊長の視線が突き刺さる。


 いつもと同じ無表情。


「猟犬の仕事は、主人の命に従い、戦うことだ。考えるのは我々の仕事ではない」


 でも、今日はいつも以上に有無を言わせない圧があった。


「長期的な計画を考えるのは、上層部(しゅじん)の仕事だ」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「ヤドリギが巫術の憑依可能距離を延長出来たのは確かだ。そのレポートに関してはヴァイオレット特別行動兵と協議の上で、私が提出する」


「そんな……」


「当然、この件はラート軍曹とヴァイオレット特別行動兵の手柄だ。貴様らの処遇に好影響を与えることは約束しよう。上が特別部隊を編成し、そこで実験を引き継ぐ事になるだろうが、貴様らが望むならそこへの配置換えを――」


「それっていつの話になるんですか!? それまで、あの子達は戦い続けなきゃいけないってことですよね……!?」


「上には貴様らの希望に添う形になるよう、掛け合う」


 ラートは食い下がったが、隊長は淡々とあしらった。


 隊長なら必ず、上に掛け合ってくれるだろう。


 ただ、それは軍規で許される範囲だ。上が「成果物(ヤドリギ)だけ寄越せ。貴様らは化け羊と戦っていろ」と言ってきたら、隊長はその通りにするだろう。


 隊長は猟犬(おれたち)の飼い主だ。


 それも雇われの飼い主。もっと上の存在には逆らえん。


 隊長は正しい。


 昔のオレなら、そう思えてただろうな。


「隊長。意見具申、よろしいでしょうか?」


 片手を軽く上げ、隊長に声をかける。


 軽く……そう、軽く歯向かっておこう。


 オレも隊長が正しいと思う。


 けど、気に入らねえ。


 隊長が上の言いなりなのは……気に入らねえ。


 それに、アイツらに恩を売っておくのも悪くない。


 こんなもん作られちまったら、仕方ねえ。




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