ランデブーポイント
■title:エデン所有戦闘艦<メテオール>にて
■from:死にたがりのスアルタウ
「もう直ぐ、本隊との合流地点か」
「いや、予定より早めに合流出来そうだよ」
合流地点はまだ先だけど、同じ航路を選ぼうとしている無数の魂が観えた。
エデン本隊艦隊にいる人達の魂だ。
総長やアラシア隊長が率いる部隊は、エデンの一部に過ぎない。本隊艦隊はこちらよりずっと大きく、もっと沢山の非戦闘員が暮らしている。
艦橋に行くと、アラシア隊長達が本隊へ通信しているところだった。予定より早く合流すると連絡し、本隊へと方舟を近づけていく。
こちらの方舟をエデン本隊艦隊の旗艦<ジウスドラ>に接舷させ、乗り込んでいくと――。
「今日はいつもより人が多いねぇ」
「本隊だけじゃねえな。殆どの部隊が集結してねえか?」
レンズとバレットも、いつもより人が多いことに気づいたようだ。
本隊艦隊旗艦<ジウスドラ>内には多数のエデン構成員がいて、ジウスドラ周囲を航行中の方舟もいつもの数倍いる。
普段は部隊をわけて行動している事が多いけど、バレットの指摘通り殆どのエデン部隊が集まっているようだ。
その理由は多分……交国相手の作戦が近いからだろう。
総長に口止めされているので黙っていると、その総長を迎えるためにエデンの人々がやってきた。
皆に出迎えられた総長はエデンのリーダーらしい威厳ある振る舞いをしつつ、時にはおどけて皆を和ませている。
7年前……僕達がカトー総長に救ってもらった時より、エデンは大きくなった。
一時は解散していたエデンが再結成し、随分と大きくなった。
先代総長時代のように神器使いが多数在籍しているわけではないから、戦力は衰えているけど……僕達がエデンに入った時と比べたら、戦力も強化できている。
総長を迎えに来たメンツを見ていると、各部隊の長達が集まっていた。本当に交国相手にやり合うつもりなんだな……なんて考えながら眺めていると――。
「ガキ共。おかえり」
「あっ、整備長~! あたし達を迎えに来てくれたの?」
僕達に声をかけつつ、近づいてきたエルフの女性。
元は星屑隊に所属していたブリトニー・スパナ整備長だ。
交国人なのに僕らと一緒に逃げてくれた整備長も、今はエデンに加入している。エデンの整備長として働いてくれている。
整備長に向け、レンズが飛びついていったけど整備長はそれを適当にあしらいつつ、「あたしゃ大王国の収奪品が気になって見に来ただけだよ」と返した。
相変わらずな整備長に苦笑していると、バレットが歩み寄っていって「収奪品の検品は済ませてます。データ送るんで、整備長達の方でもチェックお願いします」と言った。
整備長は頷き、データの入った端末を受け取り、それを閲覧しながら喋りだした。「交国軍と出くわしたんだって? 運がなかったね」と言った。
「けど、生還出来たのは運が良かった。よく帰ってきたね」
「あたし達のこと、心配してくれてたんだ~~~~!」
「別に。自分達が整備した機兵に乗った子達が帰ってこないと、寝覚めが悪いだけさ。あたしゃ大した心配はしてないんだが――」
整備長は背後をチラリと見た後、ニヤリと笑って「あたしと違って、心配し続けていた奴は知ってるよ」と言った。
そして、「逃げるんじゃあないよ」と言って、他の整備士さんを引き連れて<メテオール>に乗り込んでいった。
整備長がチラリと見ていた方向から、小柄な女性がズンズンとやってくる。肩を怒らせ、僕らの方へ真っ直ぐやってくる。
マズいな……。
メチャクチャ怒ってる。
「フェルグスく~ん! グローニャちゃぁ~ん! ロッカ君~~~~!!」
「あ、あはは……。ヴィオラ姉さん、ただいま~……」
バレットとレンズが僕の背に隠れ、盾代わりにしてくるので……引きつった笑みを浮かべながら小柄な女性に――ヴィオラ姉さんに挨拶する。
ハイネックのセーターの上に白衣を羽織ったヴィオラ姉さんは僕を見上げつつ、「怒ってますよ!!」と言いたげな顔で腰に手を当てている。
周りの人達が「保護者に怒られてる」と言って笑う中、僕らはヴィオラ姉さんに怒られることになった。
「何で何の相談もせずに、総長達の作戦についていったの!」
「いやぁ……だって……。ヴィオラ姉に相談すると止められるし~……」
「止めるに決まってるでしょ!? 3人共、まだ子供なんだから……!」
「待て待て待て、ヴィオラ姉。16歳のグローニャはともかく、二十歳手前のオレとアルに関してはもう十分大人――」
「ロッカ君もフェルグス君もっ! まだまだ十分子供なのっ!」
そう言ってプリプリと怒るヴィオラ姉さんの方が僕らより年下に見られがちなんだけどなぁ……。小さくて可愛いから。
新しくエデンに入った人達には僕ら3人の妹に間違えられる事もある。ヴィオラ姉さんも……ラプラスさん達みたいに全然歳とってないし。
まあ、そもそも……ヴィオラ姉さんは僕らより年下疑惑がある。
身体は1000年前から存在していたとしても、魂は僕と出会ったばかりの頃に身体に宿ったものっぽい。だから、実年齢は10歳未満疑惑すらある。
この話を言うと、ヴィオラ姉さんは狼狽えて「私は皆の『終身名誉姉』だもんっ!」と言いながら涙目になるから僕らの中で禁句になってる。
ヴィオラ姉さんに相談せずに出撃し、心配させちゃったのは事実なので3人で縮こまって「「「ごめんなさーい……」」」と謝る。
「本当にごめん。ヴィオラ姉さん……」
「本当に心配したんだからっ……! 連絡も無視するし……」
「そ、それは、作戦行動中だったから~……」
「ウソ! 私と話すのが気まずかったからでしょ!?」
「それは…………ハイ…………仰る通りですぅ……」
「作戦への参加を優先して、定期検査も受けずに出て行っちゃって……! フェルグス君もグローニャちゃんもロッカ君も……! まったく、まったくっ……!」
「いや、あの、ヴィオラ姉? 全身義体のアルと両目義眼のレンズはともかく、生身のオレは定期検査いらなくねえか? あと、オレ達の事はコードネームで――」
「義体とか生身とか関係なく、検査を受けるって約束したよねっ!? 色んな世界に行くのは危険な行為って説明したよね!? 感染症の危険とか散々――」
「で、でもさぁ……!」
軽く口答えしたバレットの足を、レンズと一緒に軽く踏んでおく。
こういう時は謝り倒さないと。
ヴィオラ姉さん、涙目になってるし……。
アラシア隊長が「仲裁するべきか?」と言いたげにこちらを見ていたけど、苦笑を返して遠慮しておく。隊長にまで迷惑をかけるべきじゃない。
ヴィオラ姉さんとの約束を破って、作戦に参加したのは僕らだ。
ガンギカナ大王国に交国の脱走兵が多くいると聞いて……ラート達の手がかりが掴めないかと思って、作戦に無理矢理参加したのは僕らだ。
大人しく怒られ、平謝りしていると――。
「ヴァイオレット。言いたいことはわかるが、アル達の意志を尊重してやれ」
総長がやってきて、ヴィオラ姉さんにそう言った。
今のヴィオラ姉さんにそういう事を言うと火に油を注ぐ結果になるので、3人であたふたと「総長来ないで!!」とハンドサインを送ったものの無駄だった。
涙目で怒っているヴィオラ姉さんと、泰然としている総長が向き合う。
「アル達はお前の部下でも使徒でもない。束縛するな」
「わ、私は束縛しているんじゃなくて、この子達を心配して――」
「結局、お前はアル達を信じていないんだよ」
「なっ……!!」
総長は緩く腕組みをしつつ、ヴィオラ姉さんに言葉を投げ続けた。
「俺はコイツらを信じている。だから戦友として背中を預け、難しい仕事も任している。……ヴァイオレットは過保護すぎるんだよ」
「カトー総長は、この子達を扇動して都合よく――」
ヒートアップする2人の口論を止めるため、レンズとバレットと協力して割ってはいる。ヴィオラ姉さんを2人に引き離してもらい、僕は総長に「すみません、総長、大丈夫ですから……」と言いながら距離を取ってもらう。
総長はエデンのリーダーで、ヴィオラ姉さんはエデンの技術部を取り仕切っている。2人共、エデンになくてはならない人達だ。
そんな2人が僕らのことで喧嘩するのはマズい。非常にマズい。
総長は心配そうに眉を寄せ、「お前らも反論しろよ」と言ったものの……ここは僕らに任せて去ってくれた。
ホッと胸を撫で下ろし、改めてヴィオラ姉さんと向き合う。謝って、先送りにしていた検査も受けることを約束する。
ヴィオラ姉さんは瞳を潤ませてムッとしていたけど、ひとまずこの場で怒るのはやめてくれた。「医療部に行こう」と言い、歩き始めた。
荷下ろし作業とか残っていたんだけど……アラシア隊長達が「こっちでやっておくから、行ってこい」と言ってくれた。
「検査は大事だ。全身義体のアルは特にな」
「は、はい……。すみません、じゃあ、御言葉に甘えて……」
「おう。姉孝行してこい」
「「「は~い……」」」




