死角に潜る者
■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて
■from:<北辰隊>隊員
『うわっ! ちょっ……!! 第32艦隊、邪魔しやがって!!』
こっちの用事を済ませようとしたのに、横槍が飛んできた。
北辰隊を巻き込みかねない砲撃が次々飛んでくる。
砲撃地点を迂回しつつ、敵の退路を塞ごうとしていると――。
『…………!』
砲撃が起こす土煙の中から、エデンの機兵が素早く肉迫してきた。
まるでブースターで加速したように一気に距離を詰めて、味方機を斬り倒してきた。またやられた。また一機やられた。
遠隔操作しているから、人的被害はゼロだが――。
『ポラリス3、大破!』
『向こうの機兵捌き、副長並みだな……!?』
数では圧倒しているのに圧倒できない。
間合いを……はかれない。何故か、敵の動きが理解できない。
姿は見えている。魂も観えている。
だが時折、理解できない動きが混ざる。
脳がバグったみたいに、理解できない動きが混じる。
急に距離を詰められた味方が、気づけば斬り伏せられている。
敵の近接戦闘能力はウチの副長並みだ。副長がいれば簡単に対抗出来ていたはずだが、その副長はいない。……俺達が隊長の足を引っ張っているだけだ。
『第32艦隊の機兵部隊がこっちに来てる!』
『邪魔だなぁ……!』
砲撃してくるだけじゃなくて、機兵部隊までこっちに近づいてきている。
素直にエデンの方舟を追っていればいいのに、こっちにも機兵部隊の生き残りを派遣してきた。
普段なら盾代わりに出来るけど、今はちょっと……都合が悪い。
『うおっ……!?』
『ボサっとするな。敵の狙撃手は、まだ生きてんだぞ』
『す、すみませんっ……!』
迫る第32艦隊の機兵部隊を見ていたところに、先に逃げた敵機兵の狙撃が飛んできた。何とか致命傷は避けたが、危ういところだった。
敵の狙撃手が逃げて行く。
けど、大丈夫。
ここまでは概ね想定通りだ。
奴はもう、隊長の間合いに踏み込んでいる。
■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて
■from:狙撃手のレンズ
「はいはいはい……! 隙だらけ隙だらけ!」
アルが敵と真っ向からやり合ってくれているおかげで、狙撃しやすい。
煙幕が邪魔だけど、逃げつつアルの援護もする。アルを助けた方があたしも逃げやすい。でも、敵部隊を倒しきるのはさすがに無理かな~っ……!
あたしはまだ、敵の巫術師部隊を1人も倒せていない。アルは敵を斬り伏せていってるけど、敵部隊はまだまだいる。
総長達がいた拠点を襲っていた機兵部隊の生き残りも、総長達の方舟を追うついでにこっちに迫っている。逃げ損なったら袋だたきにされる。
「このまま――」
もう少し逃げる。
逃げつつ時間を稼ぎ、機兵を修理していく。
もう、飛行形態に移行できるところまで回復した。
けど、飛び立つまで少し時間が必要。飛行形態に移行する時間がいる。
それに飛び立った瞬間を狙われる危険もあるから、敵の射線を切れる場所まで移動しないと……いいマトになっちゃう。
「真っ直ぐ逃げたら――――撃たれるよね」
進路を変える。
真っ直ぐ進んで、目の前の丘を越えていった方が速く逃げられる。
けど、丘は「狙ってください」と言うようなものだ。
敵の狙撃手が怖い。
最初にあたしの狙撃銃を破壊してきた相手。
悔しいけど、アイツはあたしより強い。あたしより優れた狙撃手だと思う。
今は息を潜めているようだけど、いつでも撃てる体勢のはず。
呑気に直進して丘を越えようとしたら、その瞬間に撃ってくるだろう。
「でも、そっちの位置は把握してるもんねっ……!」
最初に狙撃された時点で、アンタのことは一番警戒する事にした。
バレットの巫術も借りて、アンタらの位置は把握し続けている。巫術観測によって位置を把握し続けている。
位置さえわかれば射線も読みやすい。
少し遠回りになるけど、丘には向かわず近くの渓谷を通ろう。
渓谷を通りつつ飛行形態に移行して、敵の射線を切りながら飛び立つ。
それで十分、逃げ切れるはず――――。
■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて
■from:<北辰隊>隊長・ザイデル中尉
「…………」
エデンの狙撃手は丘を越えず、迂回路を選んだ。
渓谷を経由して射線を切りつつ、逃げるつもりだろう。
ウチの部下との戦闘を経てもなお、狙撃手の位置を把握していたようだ。
位置把握だけではなく、射線の読みも完璧。
確かに、ここからでは狙えない。
北辰隊の機兵の射線は通っていないが――。
「……足下がお留守だぞ」
■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて
■from:狙撃手のレンズ
「…………?!!」
けたたましい爆発音が響き、機兵が転倒した。
攻撃を受けた――どこから!?
迂回路だけど渓谷に入って、敵の射線は完全に切ったはず。
アルが援護してくれたから、この道を選べた。
ここなら安全に逃走出来たはずなのに――。
「しまった……! 地雷……!?」
渓谷内に地雷が仕掛けられていた。
敵は、あたしの逃走経路を完璧に読んでいた。
いや、完璧に誘導してきた。
こっちが狙撃の射線を読んでいるのも、折り込み済みだったんだ。
敵の狙撃手は、狙撃手の存在を使ってあたしを誘導したんだ。
あたしが狙撃を強く警戒すると、読み切ったんだ。
煙幕を張っていたのも、多分……この罠のためだ。
向こうはあたしが巫術憑依を仕掛けていたことを知っているはず。
お互いに巫術師同士だから、巫術の眼を使えば煙幕がそこまでの脅威にならないとわかっていたはず。……それなのに煙幕を使ったのは、地雷用だ。
煙幕を使って、地雷を隠していたんだ……!
「まず――――」
煙幕を押しのけ、地雷敷設用のドローンが突撃してくる。
まだ使っていない地雷を抱えたまま、転倒したあたしに突っ込んでくる。
敵は煙幕で地雷とドローンを隠し、あたしを狙ってきた。
ドローンに魂が宿っていなければ、巫術師でも観えな――――。




