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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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同族対決



■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて

■from:死にたがりのスアルタウ


『アル! 一度退け! そろそろ方舟を出すぞ!!』


「了解!」


 敵の先鋒部隊は崩し、足止めできている。全てを倒せたわけじゃないけど、勢いは削いだ。こちらを警戒して慎重になっている。


 総長に一時前線を任せ、<ウィッカーマン>の操縦席から飛び出し――味方の方舟に向けて――機兵で投げてもらう。


 空中で流体甲冑を纏いつつ、味方の方舟に乗り込む。


 本体(からだ)を方舟に預け、自分の機兵に向けて強奪弾を飛ばす。弾に自分の魂を乗せ、魂だけ機兵に戻す。


『身体の避難は終わったか!?』


『遠隔操作に切り替えました! 総長も退いてください!』


 直接操作していたウィッカーマンを、ヤドリギによる遠隔操作に切り替える。


 これで機兵がやられたとしても身体は無事。皆が逃げ切れば、僕も生還できる。僕が操作する機兵に殿を務めさせて、敵の追撃を挫きながら逃げれば――。


レールタ2(レンズ)! そっちもそろそろ撤収を――』


『アル、レールタ2が複数の機兵に追われている!』


 敵の機兵部隊は全部こっちに来ていると思ったら、方舟から新たに襲撃してきた機兵部隊がレンズの方に向かったらしい。


 レンズは安全地帯から方舟への牽制を務めてもらうつもりだったのに、このままだとレンズの撤退が間に合うかどうか――。


『こっちは総長(オレ)が何とかする! アル、レンズの救援に迎え!』


『了解!』


 敵機兵を剣で切り倒し、踏み越えながら救援に向かう。


 助けるべき人達が乗った方舟は飛び立ち始めている。レンズが敵艦隊を翻弄してくれていた影響で、艦隊の方はまだ立て直せていない様子だ。


『レンズ! 聞こえるか!?』


 応答はない。敵の通信妨害が続いている。


 けど、レンズがいる方向はわかる。


 拠点から離れた場所で、機兵による戦闘による土煙が発生している。土煙だけではなく、誰かが煙幕を起こしているようだ。


 煙の中を走る複数の魂が観える。


 大半が戦闘に驚いた野生動物だけど、あの魂の中にはレンズと敵がいるはず。


『レールタ2、無事か!?』


『めっちゃ苦戦してる~……!』


 煙幕の中、何とかレンズと合流する。


 レンズが直接操縦しているウィッカーマンは攻撃を受け、破損していた。


 得意の狙撃銃を落とし、さらに片腕を切り落とされている。レンズはフレーム代わりのワイヤーの配置を変え、何とか機兵を直そうとしているが――。


『アイツら、憑依できない! 巫術が効かない!』


『なんだって?』


 レンズが妙な事を口走る中、敵が突っ込んできた。


 敵機兵は周囲の煙幕を吹っ飛ばしつつ、突っ込んでくる。


 槍を手に突撃してきた機兵の攻撃を大剣で受け流す。受け流した瞬間、別方向から飛んできた射撃が脚部を狙ってきた。


 流体装甲を変化させて致命傷は避ける。


 まずは目の前の槍持ち達を倒そうとしたけど――。


『速いなっ……!?』


 突撃してきた槍持ち機兵達は、こちらの射撃を側転で回避しつつ、一度退いていった。煙幕弾を放ってさらに煙幕を張りつつ、退いていった。


 普通の機兵が出来る動きじゃない。


 敵は煙幕の中でも、こちらの位置を正確に把握していた。


 レンズが言っていた事も踏まえて考えると――


『敵は、僕らと同じ巫術師(ドルイド)か!?』


『多分ね! アイツら、強奪弾が効かない! 抵抗される! 無理をしたら憑依できそうだけど……あまり時間をかけて憑依していると――』


『他の機兵に食われるか』


 巫術憑依は巫術で対抗できる。


 最終的に巫術(ちから)が強い方が押し勝つけど、1機の憑依に時間をかけていると、機兵本体(ウィッカーマン)が敵の攻撃を受けてしまう。


 交国軍が、巫術師を投入してきた。


 それ自体は初めての事じゃない……僕らがネウロンから脱出する時、解放軍の巫術師を脅して戦闘に投入していた例もある。


 けど、あの時とは練度が違う。


 動きが洗練されている。


 明らかに、機兵戦に慣れた巫術師達だ。


 それこそ、僕らと同じように――。


『レンズ。ここは僕が引き受ける。キミは方舟(フネ)に向かってくれ』


『1人で平気?』


『こっちは遠隔操作中だ。捕まることは絶対にない』


 僕の本体(からだ)は総長達の方舟に移した。


 強奪弾や憑依を気安く使えない状態になったけど、相手が巫術師ならあっても無くても大して変わらない。


 身体との距離があまり離れすぎると遠隔操作の精度が落ちていくけど、その時にはもう方舟は離脱できるだけの距離を稼げているはずだ。


 いま逃げるべきは、まだ直接操作しているレンズの方だ。


『ごめん! 後よろしく!』


 レンズが機体を修理しつつ、離脱を始める。


『あ、それと厄介な狙撃手がいるから注意して! あたしより強いかも!』


 レンズは去り際、敵の位置情報に情報を加えた。


 迫る機兵部隊の後方に狙撃手がいる。そいつが一番やばい、と教えてくれた。


 敵機が煙幕の中から突撃してくる。レンズを止めに走ってくる。


『…………!』


 槍の軌道を大剣で逸らしつつ、そのままの勢いで斬りつける。


 けど、相手は逆海老反りするように上体を反らして斬撃を回避してきた。脚部のローラーをフル回転させ、こちらの背後に回り込んできた。


 機体背部の流体装甲を巫術で強引に動かし、槍を作る。ハリネズミのように攻撃する。その攻撃すらも敵機は回避してみせた。やはり、普通の動きじゃない。


 無茶な回避でさすがに体勢を崩していたけど、追撃できなかった。煙幕の中にいる別の敵機が一斉射撃をしてきた。


『しっかり連携してるな……!?』


 ブロセリアンド解放軍の巫術師は、ここまでの動きも連携もできてなかった。


 彼らは巫術で機兵を動かした経験が乏しかった。それでもある程度は機兵を動かせていたけど、射撃や味方との連携は拙かった。


 けど、いま戦っている相手の練度は、解放軍の巫術師とはまったく違う。


 エデンの巫術師(ぼくら)に近い動きだ。


 いや、近接戦闘の連携練度は僕らを圧倒しているかもしれない。


 アラシア隊は僕が斬り込んで、レンズ達に後方から援護してもらう動きが多いから……ここまで近づいて連携すること自体が稀だ。


 今まではそれで何とかなっていたけど――。


『っ……! レンズ狙いか……!』


 敵機兵部隊が一斉に煙幕弾を砲撃し始めたようだ。


 戦場にかかる霧(えんまく)の影響範囲が広くなっていく。


 煙幕を張ったところで、敵の位置はわかる。


 母艦にいるバレットの索敵支援により、この戦場にいる敵の位置は把握出来ている。だから、煙幕の中を走り、レンズに向かっていく敵の位置もわかる。


 近接戦闘主体の僕にとって、この程度の煙幕なら大した脅威じゃない。けど、狙撃主体のレンズにとってはかなりやりづらい相手だろう。


 レンズを追う敵機兵に追いすがる。敵機の背中に斬りかかる。


 けど、それは敵側の誘いだった。


 敵は機体の前後を素早く入れ替え、こちらの斬撃を受け止めてきた。


 そのうえ、こちらに組み付いてこようとした。


『あぶなっ……!!』


 危ういところで蹴りつけて、背後に飛ぶ。


 別方向から飛んでくる射撃が、煙幕の中に橙色の線を引いていく。何発かは回避しきれず、当たってしまったけど……流体装甲で上手く受け流す。


 機体性能は解放軍が持っていた<レギンレイヴ>の方が上だと思うけど、練度は目の前にいる部隊の方が圧倒している。


 明らかに使い捨ての部隊じゃない。


 高度な訓練を積んだ兵士達だ。


 ……あの交国軍が巫術師にキチンとした訓練を施し、利用しているのか……?


兄弟(・・)、仕掛けてくるぞ』


『…………!!』


 傍から聞こえた警告を聞き、動く。


 再び槍持ちの機兵が突っ込んできた。今度は2機。


 けど、少し様子が違う。


 流体装甲が蠢いている。


『ワイヤーを絡ませ、2人がかりで憑依してくるぞ』


『わかった!』


 敵がワイヤーを飛ばしてきた。回避は難しい。


 あえて受けつつ、逆にワイヤーを引っ張って敵機を投げる。


 投げている間もワイヤー経由の巫術憑依が来た。2人がかりの憑依を歯を食いしばって耐え、投げ飛ばすのと同時にワイヤーを切って距離を取る。


 こっちは1人だけ。1人で憑依を行っても、その隙に攻撃されてしまう。


 向こうは複数人いる。2、3人で憑依を仕掛けてこちらを仕留めようとしても、その隙は別の機兵が援護(カバー)してくる。


 巫術師としてなら、使える手札(カード)は向こうの方が多いけど――。


『エレイン!』


『好きに使え、兄弟』


 それは既にお前自身の技だ――というエレインの言葉に背を押され、走る。


 ワイヤーを使っていた2機の機兵が後退していく。


 一度体勢を立て直すつもりだ。


 それに向かっていくと、別の敵機が横合いから突っ込んできた。


 下手に突っ込めば挟み撃ちになりかねないが――。


『露と滅せよ――』


 大剣をの切っ先を後方に向け――。


虹式(カラド)煌剣(ボルグ)ッ!』


 虹式煌剣を放った勢いをブースター変わりにし、一気に加速する。


 横合いから来た敵を置き去りにし、ふわりと煙幕の中に消えていこうとした2機に体当たりをして弾き飛ばす。


 体勢を崩した2機をまとめて叩き切りつつ――。


『ッ、ラァッ!!』


 円を描く形で大剣を振り抜く。


 後方にいた敵機も虹式煌剣で脚部を切り飛ばす。


 操縦席は避ける。


 向こうも遠隔操作しているかもしれないけど、直接操作している可能性もある。……こっちは逃げ切るだけでいいんだ。別に殺さなくてもいい……!


『――――』


 上方から影が落ちてきた。


 さらに別の機兵が、上から飛んできた。


 さすがにもう、大剣を振り抜くのは間に合わない。


 けど、問題ない。


『ふッ…………!』


 大剣を捨て、敵の攻撃を回避しつつ組み付いて投げる。


 地面に叩きつけた4機目の機兵に迫りつつ、捨てた大剣を脚で引っかけて持ち直す。くるりと回った大剣を4機目を貫く。


 大剣で縫い止め、離脱する。


 回避する直前。鋭い狙撃が飛んできたが間一髪で避ける。敵が張っている煙幕は、敵の狙撃精度にも悪影響を及ぼしているようだ。


 でも煙幕なかったら、さっきの狙撃は当たってたかもな……!


『さっきのが、レンズの言ってた狙撃手か』


 レンズの警告がなければ、そこまで警戒してなかった。


 味方の機兵を前衛として出して、後方でぬくぬくとしているだけじゃなかったらしい。味方をけしかけてこちらの注意を削いだ後、狙撃で仕留めようとしてきた。


 とりあえず4機行動不能に追い込んだけど、敵はまだいる。


 僕の方は取り囲まれつつあるけど――。


『退いてください!』


 包囲してくる機兵部隊に襲いかかりつつ、レンズが逃げた方向に向かう。


 敵が邪魔だ。僕は逃げ切れないだろう。


 けど、僕は遠隔操縦に切り替えている。


 レンズと総長達を逃がせば、目的は達成できる。


『邪魔するなら、斬ります』


 レンズの方に向かおうとする敵機兵に大剣を見せつつ、威圧する。


『そっちが邪魔しているんだろ』


『お、大人しく話を聞いてくださいっ!』


 返答が返ってきた。僕らとそんなに歳の変わらない相手の声に聞こえる。


 多分、僕らと同じネウロン人なんだろう。


 話を聞けって言う事は、同郷の人間として交渉できる可能性が――。


『…………!!』


 空気を切り裂き飛んできた砲弾が、近くに次々と着弾してきた。


 敵艦隊が砲撃を再開している。


 話し合い云々言っておきながら、砲撃までの時間稼ぎか……!




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