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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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異世界人と現地人



■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて

■from:肉嫌いのチェーン


「悪いが……大王(アンタ)には死んでもらう」


 現地人との会談を終え、捕まえた大王国の大王(リーダー)と話す。


 大王国捕虜全員の引き渡しは回避出来たが、責任者は殺す。


 現地人全員がそれで納得できるわけじゃないが、「誰も殺さない」よりはまだ理解を得られる。……というか、半ば無理矢理それで手打ちにしてもらった。


 感情的な問題を解決するためにも、はけ口が必要なんだ。


 絶句している大王に「ここの人達にも感情的な問題が……復讐心やメンツの問題があるんだ」と説明する。


「責任者として、部下のためにも潔く処刑されてくれ」


「は……はっ!? やだよ? なんでオレが……! し、死にたくねえっ! ふざけんな!! なんでオレが死ななきゃいけないんだよ!?」


「アンタ達は、一線を越えちまった。思いっきりな」


 交国軍から脱走した後、犯罪などせずに大人しく暮らしておけば……こんな事にはならなかった。それが難しい事でも、そういう道もあったはずだ。


 自分達が交国政府や玉帝によって「可哀想な目」にあったからといって、それは無関係の人間を苦しめる免罪符にはならない。


 ガンギカナ大王国という集団の責任者として、責任を取って死んでくれと頼む。大王は「いやだいやだ!」とゴネ始めた。


 まあ……こうなるよなぁ……。


お前達(エデン)にオレを裁く権利はない!」


「それはそうだ。ただ、これは現地の司法判断でもある」


「何がエデンだ! 正義の味方気取りで、オレをリンチしようとしているだけじゃねえか! おっ、お前らだって人連に指名手配されてんだろ!?」


「オレも交国軍から脱走した人間だ。アンタらの同類と言っていい」


「そ、そうだろ!? だから――」


「お前らの不幸(じじょう)もわかる。だが……さすがにやり過ぎだ」


 皆殺しよりはマシと思ってくれ――と説得する。


 大王は泣きわめいた後、「他の奴でいいだろ!?」と言いだした。大王国の他の兵士を「大王」という事にして、そいつを殺せと言ってきた。


 それはさすがに断る。


「それで誤魔化すのも不可能じゃないが、責任者はお前なんだ」


「好きで大王なんてやってたわけじゃないっ! 仕方なかったんだ! 他に生きる道がなかったから……! 戦う以外の生き方なんて……知らなかったんだ!!」


「……そうだよな。でも、悪いが責任取って死んでくれ」


 現地人は大王を散々苦しめた後、処刑する提案をしてきた。


 それは勘弁してもらい、出来るだけ苦しまない処刑方法を提案した。


 幸い……と言える話ではないが、アンタも交国のオークだから痛覚はない。「痛い」って事にはならないからさ……と説得したが――。


「お、オレは<カヴン>の幹部だぞ? オレを殺したら組織がお前達に報復するぞ!? それでもいいのか!?」


「いやいや……。カヴンの幹部がこんなとこにいるわけねえだろ」


 カヴンは全体像がわからないほど巨大な組織だ。


 下手したら、カヴン内の誰も組織の全貌を知らないかもしれないぐらい巨大だ。後進世界に構成員がいてもおかしくない。


 だが、さすがにコイツは違うだろ……。もし仮にカヴンの人間だったとしても、三次団体とか四次団体程度の地位だろ。いや、それよりもっと酷いか。


 下手なウソすぎて呆れつつ、「オレを殺せば報復が来るぞっ!」とゴネる大王をしばし見守る。その後、「どういう経緯で幹部になったか言ってみろ」と言うと、大王はまた下手なウソを並べ始めた。


 さすがに自分でもその自覚があったのか、今度は愛想笑いを浮かべて命乞いをしてきた。自分を逃せば財宝をやる。ケジメが必要なら部下を殺せ、と言ってきた。


「現住民の奴らは、大王国のリーダーが誰かなんてわからねえって!」


「わかるよ。お前らが誘拐した現地人の証言を聞けば、誰が大王国のリーダーだったかは、ここの人達でもわかるんだよ」


「テキトーに誤魔化してくれればいいんだよ! なっ! なっ!?」


「…………」


 ネジ隊長だったら、絶対にこんな無責任なことは言わない。


 いや、そもそも大王国のような蛮行は行わないだろう。


 けど……オレはどうだろうな。


 オレが大王(コイツ)とまったく同じ立場だったら、「交国が悪い」の一点張りで被害者ヅラして、色々やらかしていたかもしれん。


 大王国の奴らには、正直、同情心を抱いてしまう。だが……コイツは一線を越えてしまった。誰かが責任を取らなきゃいけないんだ。


「……説明は終わった。もう連れていってくれ」


 エデン(ウチ)の方舟の外で待機していた現地人の兵士に、そう告げる。


 大王が連行されていく。泣きわめいている姿に対し、色んな感情が芽生えるが、オレはアンタを救ってやれない。


 ただ、アンタを処刑台に送った身として、処刑を見届けに行くが――。


「アル。お前は来るな」


『隊長の護衛は必要でしょう?』


 流体甲冑を纏い、ついて来ようとしたスアルタウに「来るな」と告げる。


 だが、アルはオレの言う事を聞かず、ツカツカとついてきた。


「護衛なら機兵の方が安心できると思いますが、機兵で護衛をすると……住民を怯えさせてしまいます。だから、僕が流体甲冑を使って護衛するのが一番です」


「ったく……無駄に口が回るようになったな」


 睨み付けて軽く脅してみたが、アルは凜とした表情のままついてくる。


 昔は睨むだけでも、それなりに脅せていたんだが……。


「……7年前はただのクソガキだったのに、大人になっちまいやがって」


『クソガキなのが嫌だから、背伸びしているんです』


 オレの隣に並んできたアルが、「ラート達に比べたら、僕なんてまだまだクソガキですよ」とこぼした。


「ふん……。ラートよりしっかりしてきたよ」


『……大王国の大王、どうしても処刑しなければいけないんですか?』


現地人(むこう)は、もっと大勢殺されているんだ」


 この町だけでも、相当の被害が出ている。


 この世界全体の被害者数累計は、もっと酷いものだろう。


「オレ達なら大王国の兵士を全員庇える。だが、それは現地人が納得しねえよ」


『…………』


「オレ達がこの世界に来た理由、ブリーフィングで説明しただろ?」


『はい……。意図は……理解しているつもりです』


 エデンは単に「悪人」をやっつけにきたわけではない。


 ガンギカナ大王国は、エデンとして討つべき敵だった。後進世界で弱者を虐げている大王国は、エデンの敵と言って差し支えのない相手だった。


 けど、今回のエデンは「下心」を持って動いている。


 ガンギカナ大王国という「後進世界の戦力では対抗できない脅威」をエデンが取り除く事で、この世界の人間に取り入るという下心も持って行動している。


 エデンはテロ組織として、人類連盟に睨まれ続けている。


 少しでも味方を増やさないと、いつか立ちゆかなくなる。……前総長(ニュクス)時代のエデンが壊滅に追いやられたのは味方が少なすぎたのも原因だ。


 世の中、ただ悪人を倒すだけじゃあ生きていけねえ。


 エデンが「弱者を救うための活動」を続けるためには、少しでも味方を増やす必要がある。大斑は人類連盟に認識されている後進世界だが、人類連盟の手はまだ完全には及んでいない場所だ。


 こういう世界で「異世界侵略者に対抗できる組織」として恩を売り、味方を作る。それもエデンにとって必要な活動だ――とカトー総長は言っている。


 オレもそれが「正しい」と思っている。


 この世界の住人にとっても、悪い話ではないからな。


 こういう大人の汚い算盤勘定に、アル達を巻き込みたくないが……コイツらもエデン構成員である以上、まったくの無関係ではいられない。


 この多次元世界(せかい)は、正義だけじゃ食っていけないんだ。


 先人達はそれを証明し続けてきた。死や組織壊滅で証明し続けてきた。


 オレ達が同じ轍を踏むわけにはいかないんだ。


「全員処刑にならなかっただけマシ――――」


 ほぼ言い訳の言葉が出かけたので、一度口を閉じる。


 アルの方をチラリと見て、「すまん、失言だった」と言う。アルは少し困った顔で「隊長を責めたいわけではありません」と返してきた。


『というか……隊長、僕達の代わりに嫌な役目を背負ってるんですよね?』


「そんな殊勝な奴じゃねえよ、オレは」


『…………』


「エデンの今後のためにも、出来るだけ穏便に問題を解決したいだけだ。オレみたいな奴は他に行き場がねえからな」


 寄生虫(オレ)が生きるために、宿主(エデン)をせっせと生かしているだけだ。


 アルは「アラシア隊長は、どこ行っても結構上手くやっていけるでしょう」などと言ってくれたが否定する。オレは今まで運良く生き残ってきただけだ。


 運悪く死ぬ可能性はたくさんあった。


 けど、周りに助けられてきた。


 悪事も働いてきたのに……周りに生かされてきた。


 オレは本質的にはガンギカナ大王国の奴らと大差無い。


 選んだ道が違えば、処刑されるのはオレだったかもしれない。


 どっちにしろ……死に損なったオレは、どこかでケジメをつけなきゃならない。今はまだやる事あるから、ここにいるが――。


「…………」


 絞首刑にかけられようとしている大王(オーク)を見ているアルの横顔を見つめる。


 ガンギカナ大王国は一線を越えた奴らだが、アルは処刑に納得したわけではないらしい。処刑を止めはしないが、じっと大王の最期を見届けようとしている。


 あの大王(オーク)に、ラート達を重ねているのかもしれない。


 大王国とラート達は違う。


 けど、どちらもオークだ。


 交国の犠牲者という意味では同じだ。


 アルも交国のオークの立場に同情しているのか、大王の最期を悲しげに見つめ続けている。同時に現地人の感情も理解し、拳を握りしめるだけで止めている。


「死にたくないっ!」


 首に縄をつけられ、そう叫んだ大王の身体が持ち上がっていく。


 広場に集まった現地人が、綱引きでもするように縄を引っ張っていく。


 怒りに満ちた表情で縄を引っ張っていく。


 大王の声はもう聞こえない。


 現地人の怒声と、縄がキリキリと軋む音だけが聞こえてくる。


「……なあ、スアルタウ。エデンにいたら、今後もこういう光景をたくさん見ることになるかもしれん」


『…………』


「最悪、お前がああいう奴らを処刑しないといけない立場になる。だから、そうなる前にエデンを辞めた方が――」


『隊長まで、ヴィオラ姉さんみたいなこと……言わないでください』


「…………」


『アラシア隊長やヴィオラ姉さんが、僕達をことを心配しているのはわかっています。……僕も、この光景について、覚悟しきれていないのはわかっています』


 けど、僕はエデンでやるべき事があるんです。


 アルは大王の姿を真っ直ぐ見つめたまま、そう言った。


『為すべき事を成すまで、僕はエデンの一員として戦い続けます』


「…………」


 アルに向けていた視線を少し動かし、少し離れたところにある建物の屋根を見る。そこにはレンズとバレットの姿があった。


 アイツらも処刑の様子を黙って見守っている。


 ……スアルタウ達を、このままエデンで戦わせていいんだろうか?


 こいつらを解放軍の尖兵として戦わせようとしていたオレが、言えた義理じゃねえかもしれんが……コイツらは、本当にこのままでいいんだろうか?


 視線を落とし、しばし考え込んでいると――。


「…………!!」


 アルがバッと動いた。


 オレの前に飛び出て、何かを掴んだ。


 アルの手中には大きな石が握られていた。……どうやら(それ)が飛んできたらしい。飛んできた方向には群衆がいた。


 誰かがオレ(オーク)に向け、投石してきたらしい。


「大丈夫か?」


『僕は大丈夫です! 隊長、少し下がっててください』


 ぼーっとしてたから、もう少しで頭に石を食らうところだった。


 流体甲冑を纏ったアルに庇われたが、「気にするな」と言ってこの場に残る。


 ここの住民にとって……オレも大王国も見分けがつかんか。


 オレもオークだからな。いや、見分けがついたとしても……大王国の兵士の助命を嘆願したオレは同類と言っても差し支えないか。


 エデンはこの世界の住人を「救った」が、所詮は押しつけがましく下心のある「救い」だ。大斑の住人にとってはオレ達も、この世界の異物だろう。


 ガンギカナ大王国もエデンも異世界からやってきた存在。エデンがどれだけ「エデンは皆さんの味方ですよ」と言ったところで、簡単には受け入れてもらえないかもしれないな……。


 そうこうしていると、処刑は終わった。


 事切れた大王の首を、現地人から借りた斧で切り落とす。


 ここの大臣と兵士達に向け、「すみませんが、(これ)は貰っていきます」と話す。


 被害を受けたのはここだけじゃない。


 ガンギカナ大王国の被害を受けた場所に、大王はもういない事を説明するためにも、これが必要だ。……訪れた場所で毎回、大王国の捕虜を処刑していたら今回の交渉も無意味になる。


 向こうは納得していない様子だったが、頭を下げて何とか理解してもらう。


 大臣達は「わかりました」と言ってくれたが、その後、迂遠な言葉で「エデンに協力してほしい」と言ってきた。


「ガンギカナ大王国を倒したとはいえ、我が国はまだ問題を抱えている。……大王国の所為で我らの王が殺されてしまったため、王位継承問題が――」


 さすがに現地人同士の争いには手を貸せない。


 この場は「持ち帰って検討します」と言って受け流し、撤収するための準備を進める。……色々と頭が痛くなる話が多い。


 交国軍の時も、解放軍の時も……そして今も人間関係の話は面倒くさい。ずっとウンザリさせられ続けている。


 けど、放り出す事ができない。


 大臣達との「話し合い」から帰ってくると、アルとレンズとバレットが大王国や処刑の事について真剣に議論していた。


 エデンや現地人の立場だけではなく、大王国の立場などにも立ちつつ、「どうしたら良かったのか」について話し合っているようだ。


 もう少し空気が緩んでいたら、まだガキらしい顔を覗かせる事が多いんだが……ああいう事も真剣に受け止め、考えているようだ。


 ……ガキ共が色々背負い込んでいるのに、オレだけ逃げる事は出来ない。


 オレは生き残ってしまった。


 ネウロンから脱出した星屑隊隊員の中で、オークの生存者はオレだけ。


 まだ行方不明(・・・・)の奴はいるが……生きているとハッキリしているのはオレだけ。オレは、死に損なってしまった。


 星屑隊の皆に繋いでもらった命。


 この命は、皆が守りたがったガキ共を守るために使うべきだろう。


 昔のように、交国への復讐に費やす時間はない。……もう、資格もない。


 解放軍(おれたち)はもう、負けたんだ。


 フェルグスもロッカもグローニャも成長したが、まだまだ危なっかしい。本当は……もっと戦いから遠ざけるべきだが、コイツら自身が戦いを望んでいる。


 自分達ではなく、皆のために戦い続けている。


 オレも、もうしばらくはコイツらを手伝ってやらないと。……オレがいなくても「大丈夫だ」って安心できるまでは、傍で見守りつつ、支えてやらねえと……。


星屑隊(あいつら)は……もういないからな」


 オレが必要なくなった時。


 その時こそが、オレがケジメをつけるべき時だ。……大王のように。





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