理性と感情の問題
■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて
■from:肉嫌いのチェーン
「悪人やっつけたら全部解決……とはいかないよなぁ」
<ガンギカナ大王国>は制圧したが、それで万事解決とはいかない。
大王国の捕虜を尋問して残党がいないか吐かせたり、大王国による被害状況を確認する。大王国に襲われた町の復興も出来るだけ手伝う。
ガンギカナ大王国は先進技術を持っているのをいいことに、この世界でも好き放題やっていた。奴ら自身はそれで楽しんでいただろうが、被害にあった現地人にとってはたまったもんじゃない。
大王国の蛮行に抵抗した現地人は何人も殺されているし、集落がいくつも破壊されている。酷いところでは国家が実質的に破壊されていた。
奴らは半年前からこの世界で暴れていたようだから、それ相応に爪痕が残っている。いや、爪痕すら残っていない場所もある。
「我々は奴らの身柄と、奴らの所有物全ての引き渡しを要求する」
<エデン>に会談を申し込んできた現地人はそう要求してきた。
さすがにそれは飲めない。大王国が持っていた兵器をすんなり渡した場合、この世界のパワーバランスが崩れる結果に繋がる。
機兵や方舟を手に入れた現地人は「我々は可哀想な被害者だから」などと言いつつ、被害の補填のために他国を襲い始めかねない。
大王国が持っていた兵器を手に入れれば、大斑の軍隊なんて簡単に蹴散らせる。「キミら可哀想だから大王国の装備あげるね」なんて無責任な事は出来ない。
復興に使うだけだ、と言われてもダメだ。
本気でそう思っていたとしても、誰かが悪用しかねない。
「大臣さん。悪いが、大王国の装備はさすがに渡せない」
「貴方達が独占するという事か?」
「オレ達は既に方舟や機兵を持っています。大王国の装備を手に入れたところで、今更大した戦力強化にはなりませんよ」
半分はウソだが、そう伝える。
数年前までエデンは弱小組織だった。というか、滅びかけていた。
最近はカトー総長が上手くやっているらしく、懐事情も改善された。多くの非戦闘員を保護してもやっていけている。
だが、機兵や方舟はいくらあっても困らない。自分達で使ってもいいし、売り飛ばしてエデンの活動資金に充ててもいい。
エデンは弱者のために戦っているが、ずっとタダ働きできるほどの金満組織じゃない。いただけるものはいただいていかないと、まともな活動が出来なくなる。
大斑の現地人に過剰な兵器を渡して、新たな争いを引き起こすわけにもいかない。だから兵器類に関しては無責任に渡すことは出来ない。
「ただ、兵器以外の物資は渡せるものもあります」
食料物資等に関しては渡せる。
エデンで選別して渡せるものは渡すから、復興に役立ててください――と伝える。相手は不服げだが、そこに関しては飲んでくれた。
大王国をアッサリ倒してしまったエデンの実力を正しく認識しているようだ。戦争吹っかけても勝てない相手とわかってくれて助かった。
あとは闇討ち警戒しておけば、この人達とはやり合わずに済むはずだ。
「捕虜に関しても……全員は引き渡せません。ご理解ください」
「何故だ」
「彼らにも、彼らの事情があるんです。それを理解してください……と求めるのは心苦しいのですが、捕虜全員の引き渡しは……さすがに勘弁してやってください」
ガンギカナ大王国は、好き勝手やらかした。
大斑の現地人は正当な怒りを抱いている。
現地人にとって、大王国は何の大義もない侵略者だ。……仮に大義があったところで、家族や友人を亡くした現地人は大王国の兵士達を許せないだろう。
大王国の捕虜を現地人に引き渡せば、ろくな結果にはならない。
処刑は免れないだろうし、拷問だって受けるかもしれない。……大王国の兵士の自業自得なんだが、それでも……オレは奴らが暴れた理由も理解出来ちまう。
大王国構成員の大半は、交国生まれのオークだった。
オレも同郷で、同じ境遇だった。
奴らの「怒り」は……理解出来てしまう。
だからといって、「怒り」の矛先に無関係の人間を巻き込むのは許されない。
元ブロセリアンド解放軍兵士のオレが、エラそうに言える事じゃないが――。
「捕虜全員は、さすがに渡せません」
この場の全権は、総長からアラシア隊・隊長に預けられている。
大王国兵士を可能な限り生かす事も、総長に許可を貰っている。
オレ達だけの意見で決められる話じゃない。現地人の了解も貰う必要がある。感情の問題も出来るだけ解決する必要がある。
「責任者の首だけで、手打ちにしてやってください。……お願いします」
これが「正しいこと」とは思わない。
思わないが、全員の首を切って解決する問題でもない。……オレはそう思う。




