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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第4.0章:その大義に、正義はあるのか
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新暦1250年



■title:人類連盟認定後進世界<大斑(おおまだら)>にて

■from:自称天才美少女史書官・ラプラス


「交国で大規模なネットデモですか……」


 やはりそう簡単に問題解決とは行きませんねぇ……と思いつつ、お茶を飲む。


 7年前……新暦1243年。


 交国首都で犬塚特佐の口から発表された「交国のオーク」に関する真実。


 その真実が明かされた後、交国支配地域でブロセリアンド解放軍等による武装蜂起が発生。しかし、それらは交国軍によって即座に鎮圧された。


 交国はブロセリアンド解放軍の動きを知っており、先んじて告発して印象操作を行った――という説も存在していますが、その確かな根拠は存在しない。


 あくまで噂。


 ブロセリアンド解放軍を含む蜂起勢力に対する交国軍の動きが的確だったのは「事前に蜂起を知っていたから」という説もありますが、あくまで仮説。


 ともかく、新暦1243年の蜂起自体は(・・・)サクッと鎮圧された。


 しかし、騒動そのものはそれだけでは終わらなかった。


 交国が――玉帝が「交国のオーク達を軍事利用していた」という事実が、解放軍と共に消えたわけではない。それはそれとして、真実という問題は残った。


 この問題は、現在も火種として残っている。


 また、反交国勢力の蜂起に乗じ、プレーローマが動くという事件も起こった。


 交国軍が粛々と反交国勢力を鎮圧する中、荒れた交国情勢につけ込む形でプレーローマによる「交国侵攻作戦」が行われた。


 この侵攻作戦は1年続き、最終的に交国はプレーローマの侵攻を食い止めたものの……戦場となった8つの世界が跡形もなく滅びる事態となった。


 交国の災難は終わらない。


 プレーローマは一度退けられた程度では小揺るぎもせず、存在している。そして、交国国内の火種も残り続けている。


 犬塚特佐が玉帝を告発し、犬塚特佐率いる<交国兄弟団>はオーク達の待遇改善を交国政府に迫っていった。


 それにより、交国のオーク達は他の交国国民と同程度の生活を送れるようになったものの……今まで騙されていた事実は消えない。


 告発以前に生まれた交国のオーク達は家族がいないまま。


 家庭を新しく作るという手もあるものの、他の交国国民には存在する親兄弟は存在しない。夢幻として在っただけで、実在はしない。


 待遇は改善されつつあるものの、今まで騙されていた事に対する賠償の動きが広がっている。交国政府側もある程度は呑まざるを得ず、国庫に負担をかけている。


 国庫への負担は交国の国防や、オーク以外の国民へのしわ寄せが大きいのでは――という意見も囁かれている。中には「オークが我慢していれば良かった」と言う人々もおり、オークと他種族の間に溝まで生まれている。


 お金による賠償で済めばまだいい方で、オーク達の中には「揺籃機構(クレイドル)の中にいる家族を現実(・・)に出してくれ」と求める人も多い。


 夢幻の存在だったとしても、彼らにとって「家族」は大事な存在だった。


 交国政府に騙されていた事は理解しつつ、それでも「家族」を求めているオークは少なくない。被害者のオーク達の中でもどのような賠償を行ってもらうかで意見が割れている。意見を統一出来ていない。


 真実を告発したところで、問題は解決しなかった。


 交国国内の情勢は未だ不安定で、それは経済にも大きな影響を与えている。交国ほどの巨大軍事国家が揺らいでいる以上、周辺諸国にも強い悪影響が出ている。


 ブロセリアンド解放軍は鎮圧したとはいえ、交国の情勢不安が様々な問題を作っている。


 オークだけではなく、「交国政府に虐げられた」と主張する人々が多く声をあげている。交国は実際、異世界侵略によって勢力を拡大した国家のため、「虐げられた」という主張が事実無根というわけではない。


 もちろん、騒ぎに便乗している人もいますが……真っ当な被害者は当然いる。


 彼らは「オーク以外にも苦しんでいる人々は沢山いる」と主張している。今までずっと我慢してきた人々が声を上げ始め、交国国内の情勢はさらに荒れていく。


 いえ、「ずっと我慢してきた」わけではないですね。


 声を上げてきた人々は、今までも沢山存在していた。


 しかし、そういった方々は交国政府が「各個撃破」してきたおかげで、大火に成長しなかった。それまでは交国政府が上手く、狡猾に対応してきた。


 オーク達の真実という大きな火の手が上がった事で、それにつられて出てきた人々が一斉に声を上げ始めた。それら全てを各個撃破するのは、さすがの交国政府でも不可能のようです。


 今までずっと無茶をしてきたしわ寄せが、新暦1243年から一気に交国政府を襲い始めたわけですね~。


 交国政府がブロセリアンド解放軍を上手く片付けたとしても、それで終わりじゃない。……交国は確かにダメージを受け、揺れている。


 ぐらぐら揺れる事で交国は軋み、それによって生じた隙間に噂話という風が流れ込み、交国はさらに大きく揺れていく。


 噂話のため、事実無根のものも存在している。


 ただ、火のないところに煙は立たないとも言います。


 噂話の中には「交国は支配地域の<ゲットー>で大虐殺を行った」「カトー元・特佐がゲットーの騒動を扇動したというのは交国政府による冤罪だった」という話も混ざっている。……真偽はさておき、強い影響力を持つ噂話も混ざっている。


 それらはネットを中心に拡散され、人々という「火」を刺激している。


 交国政府に虐げられてきた人々は、「次は自分達が虐殺される番かも」と不安を募らせている。そして、より一層大きく声を上げ始める。


 噂が噂を呼び、交国はさらに揺れる。さらに軋む。


 ブロセリアンド解放軍という火は、鎮火された。


 しかし、交国から生じた大火は未だ多次元世界を燃やし続けている。


 この騒動に「黒幕」がいるとしたら、笑いが止まらないかもですね。


「私もその騒動に巻き込まれているところです……っと」


 雪の眼本部への報告書作成をテキトーに終え、龍脈通信で送付しておく。


 送付し、宿泊中の宿からこっそり外を覗く。


 窓の外には拡声器を使って声を張り上げている人がいる。


『我々は<ガンギカナ大王国>である! 貴様らが頼りにしていた守備隊は我々が皆殺しにしてやった! 死にたくない者は広場に集まれ!』


「おやまあ……」


『30分以内に広場に出てこない者は、全員殺す! 我々は本気だ!!』


 そんな叫びの後、広場にいた<逆鱗(・・)>が斧を振り下ろした。


 斧といっても、交国軍主力機兵<逆鱗>が振るう斧です。機兵用の斧で斬りつけられた建物はあっさりと倒壊していきました。


 ここ、<大斑(おおまだら)>は人類連盟認定後進世界。


 人類連盟加盟国も――今のところは――手出ししていない後進世界のため、異世界(よそ)からやってきた機兵に抗える戦力など存在しない。


 先程まで町の守備隊が一生懸命、矢を射かけていたはずですが、<逆鱗>が蹴る殴る発砲するなどの暴行で守備隊を蹴散らしちゃったようです。


「<大斑>では大砲程度なら存在していたはずですが……普及していても結果は変わらなかったでしょうねぇ。大砲といっても城壁破壊用のものですし……」


 人や馬が必死に頑張ってやって動かせる程度の大砲では、機兵を狙い撃つことすら難しい。その程度の大砲、当たったところで機兵には通用しませんけどね。


『さっさと出てこい! <ガンギカナ大王国>の威光にひれ伏せ!!』


 町を襲ってきた機兵は<逆鱗>ですが、交国軍が来たわけではない。


 町を襲っているのは、ガンギカナ大王国と名乗る武装集団です。


 多分、「交国軍の脱走兵」か「ブロセリアンド解放軍の残党」でしょう。交国軍から奪った機兵や方舟を使って、後進世界で好き勝手やっているのでしょう。


 この手の武装集団は新暦1243年以降、ちょくちょく見かけるようになりました。彼らは彼らなりの理由で交国を出てきたものの、交国にとっては「恥」と言える存在です。


 どうやらガンギカナ大王国は大斑(ここ)以外の世界も襲っているようで、被害者はそれなりの数に及ぶ様子。


 所詮は烏合の衆なので、先進国の軍隊なら軽く捻れる相手ですが……機兵を持っているので後進世界の住民にとっては天災並みの脅威です。


 通常なら交国軍辺りが血眼になってブッ飛ばしに来るんですけど、交国国内情勢が荒れているので中々倒しに来られないようですね~。


 交国も忙しいのです。忙しくなる原因を作ったのは交国ですけど。


 報告書作成がてら、ガンギカナ大王国とこの町の守備隊の戦闘の様子を見守っていたのですが……予想通りに大王国が勝っちゃった様子。


 大王国は侵略した世界の住人を方々に売り飛ばしているようなので、大人しく広場に行った住民は「商品」として連れて行かれるか、その場で処刑でしょう。


 かといって隠れていたら、機兵が大暴れして建物ごと潰されて死んじゃうでしょうね。町から逃げようにも機兵から逃げるのは困難でしょう。


 ガンギカナ大王国は、まるで古の帝国(ブロセリアンド)のようです。


 帝国と比べたらカスのような規模の武装集団ですが、やっている事はブロセリアンド帝国を思い出すものですねぇ~……。


「ラプラス様~……! 見物は終わりにして、そろそろ逃げましょうよぅ……!」


「はいはい、そうですね。そろそろ荷造りしますか」


「荷造りはもう終わってます!! ささっ、早くここを出ましょう!」


 護衛の子に急かされ、宿をコソコソと出ようとしていると――。


「おっ! 小綺麗な格好の女児発見! テメエも広場に来い!!」


「あらら」


 ガンギカナ大王国のオークさんに見つかってしまいました。


 この状況からでも逃げる事は不可能ではありませんが――。


「大人しくついていきましょうか」


 そう言うと、こっそり消音器付きの拳銃を抜き放っていた護衛の子が「マジか、コイツ……」と言いたげな顔でこちらを見つめてきました。


 その視線を無視し、大人しくオークさんについていく。


 ガンギカナ大王国は所詮、木っ端の武装勢力ですが……この世界にとっては大きな脅威です。多次元世界全体にとっては「小石」でも、この世界にとっては「隕石」なので、近くで観察させてもらいましょう。


 雪の眼(われわれ)の歴史書に名を残すか否かは、大王国の頑張り次第です!




■title:人類連盟認定後進世界<大斑>にて

■from:人類連盟に睨まれているテロリスト


『あちゃあ~……。遅かったくさい?』


「みたいだ……」


 この世界――大斑を襲っている侵略者の情報を掴み、追ってきたけど……少し遅かった。侵略者(やつら)は今まさに町を襲っているようだった。


 町の守備隊は既にやられたらしい。後進世界の兵器で機兵に抗うのは難しい。遅かれ早かれの話だったけど……僕らが間に合っていれば――。


 遠方にいる隊長にも状況を伝えると、「そこで待機しておけ」と言われた。


「しかし、町中に機兵が入り込んでいます。このままでは住民が……」


『だからこそだ。お前らの機兵(ウィッカーマン)なら勝てる相手だが、町中でおっぱじめたら現住民への被害が大きくなる』


 短気を起こさず、オレ達の到着を待て――と隊長は言った。


 隊長の言う事も正しいと思う。正しいけど……。


「せめて、町中への潜入は許可してください」


『生身でか? 見つかったら殺されるぞ』


「こっちには流体甲冑もあります。任せてください」


 隊長は難色を示したものの、最終的に折れてくれた。


 乗ってきた機兵を大斑の山中に隠しつつ、近くにいる仲間に声をかける。


「レンズ。水路経由で侵入する。流体甲冑を着用してついてきてくれ」


『りょ!』


「バレットは自分の<ウィッカーマン>で待機。索敵と敵船警戒を頼む」


『了解。2人共、気をつけろよ』




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