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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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ネウロン神話



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


「昔々、ネウロンは『永遠の冬』で滅びようとしていました」


 立ち上がったアルが、いつもより響く声で語り出した。


 ネウロンの神話を語りだした。


「永遠の冬は、邪悪な天使がネウロンを去る際、置き土産として置いていったものでした。永遠の冬により、ネウロンはとても寒い世界になってしまいました」


 天使達は――プレーローマは大昔、多次元世界中を支配していた。


 天使達の創造主である源の魔神が倒れたことにより、プレーローマは混乱期に入った。多次元世界中を支配するだけの力がなくなった。


 それでいくつもの世界を放棄していったと聞く。その世界の1つがネウロンだったと考えると……かなり実話準拠の話かもな……。


「寒くつらい冬の中、ネウロン人はネウロン人同士で争っていました」


「…………!」


「寒くなる一方の世界の中で、限られた食べ物を奪い合って生きていたのです。最初は国同士で争い、その国が維持できなくなると、もっと小さな集団に分かれて争っていました」


 そいつは「戦争」と言っていいものだろう。


 ネウロンにも戦争はあったんだ!


 だが、史書官の話が本当なら1000年間は争いが無かった。


 この話はそれより前の話か、あるいは創作なのか――。


「永遠の冬は、命だけではなく、優しさも奪っていきました。冬は終わる気配もなく、年々酷くなっていき……ネウロン人は未来への希望を失くしていました」


「…………」


「でも、冬は終わりました」


 手を組み、目を閉じ、悲しげに語っていたアルが目を開いた。


 そして微笑し、「救いの神がやってきたのです」と言った。


「雪より白き衣を纏い、ニイヤドに降り立った神が、ネウロンを救ったのです」


「…………」


「その名を『叡智神』といいました。叡智神は使徒達を率いて永遠の冬を終わらせ、ネウロンに春という希望をもたらしたのです」


「ほぅ……」


「でも、それでもネウロン人は争いを続けました」


 微笑んでいたアルが、また少し悲しげな表情になる。


 叡智神は永遠の冬を終わらせ、ネウロン人を救った。


 だがネウロン人は冬が終わっても同胞と争い続けた。雪が溶けたことで活発になり、明日への不安から争いを続けた。


 今日は暖かくても、明日はわからない。


 また冬が来るかもしれない。


 他の奴らが襲ってくるかもしれない。


 そんな不安が、彼らを争わせた。


「ネウロン人を哀れに思った叡智神は、使徒達を遣わし、ネウロン人の争いを止めていきました。さらに知恵を与え、ネウロンを豊かにしていきました」


 知恵を与える賢神。


 ゆえに叡智神。


「神の使徒達は皆強く、争いも直ぐ収められました。永遠の冬と人々の争いが終わったのが……ええっと、確か……新暦195年のことです」


「ちゃんと記録が残っているんだな」


 アルが頷く。


 シオン教がそう伝えているらしい。


「ネウロンって、言語だけじゃなくて暦も交国と同じなんだな」


「えっ? 交国も<新暦>使ってるんですか?」


「おう、そうだぞ。今が新暦1242年だから……ざっと1047年前か」


 戦争のなかった「1000年」より、さらに昔の話なんだな。


「暦が同じってことは、交国も叡智神様に関わりあるんじゃ……!?」


「いや、それは無いだろう。新暦は多次元世界中で使われてる暦だからなぁ」


 和語と同じだ。


 同じ世界にいなくても、新暦を使っている国は少なくない。


 和語はプレーローマが広めたもので、新暦はまた別の存在が広めたものだったと思うが……なんだったっけ……?


 うろ覚えなりに説明すると、アルは少しガッカリした様子だった。けど、直ぐに気を取り直して説明を続けてくれた。


「えっと、ともかく、1047年前に叡智神様はネウロンに来たんです。そして永遠の冬と、ネウロン人の争いを終わらせました」


 そして知恵を与えた。


 長きにわたる冬で疲弊し、文明も退行していたネウロンだったが、叡智神の助力によって再興していった。天使がいた頃よりも発展していった。


「豊かになったことで、ネウロン人は争う必要がなくなりました。叡智神様は知恵だけではなく、平和まで与えてくれたんです」


「…………」


 豊かになれば平和になるとは限らない。


 だが、叡智神が抑止力になれば強制的に平和になるのか……。


 この話が真実だとしたら、ネウロンに「1000年の平和」をもたらしたのは叡智神ってことか? 叡智神の存在がネウロンの平和を保っていたのか……?


 プレーローマの天使達は支配地域を去っていく際、そこが滅ぶように自立兵器を置いていくこともある。<永遠の冬>もその類かもしれん。


 それに対抗できたなら叡智神は確かな力があったんだろう。


「しかし、偉大な叡智神もネウロンを去ってしまいました」


「展開早くね!?」


 驚き叫ぶと、アルは悲しそうな笑みをこぼした。


「そういえば言ってたな。『叡智神はネウロンを出ていった』って」


「はい……」


「まあでも、数百年はネウロンに滞在してたんだろ?」


 だとしたら、平和が保たれていた理由もわかる。


 抑止力不在となった後も、それまで平和で軍備整えてなかったから、しばらくは平和が続いた――って話ならまだ理解できたんだが……。


「叡智神様がネウロンを去ったのは……大体1000年前です」


「1000年前……」


 例の「1000年の平和」と被ってないか?


 1000年前に叡智神が去ったなら抑止力不在が1000年も続いた事になるのか? むしろ、叡智神が去った方が平和になったのか……?


 疑問が多い。アルに続きを催促する。


「叡智神は、何でネウロンを出ていったんだ?」


「ネウロン人が大罪を犯した所為です……」


 アルはそう言い、まぶたを閉じ、手をギュッと組んだ。


 そして小声で叡智神に対する謝罪の祈りを吐いた。


「……1000年と少し前、ネウロン人は戦争を始めました」


「相手は同じネウロン人か?」


「というより、叡智神様相手に戦い始めたんです……」


「神に逆らった、って事か」


 アルの話によると、叡智神は知恵と平和をもたらした神だ。


 実情はさておき、アルの話だけ聞くと「善神」であり、滅びの危機に瀕していたネウロン人の救世主だ。それを40年そこらで手のひら返したのか?


「ネウロン人は、傲慢になっていたんです。自分達を救ってくれた叡智神に対し、『さらなる知恵を』『さらなる富を』と色んなものを求め、『与えてくれないなら奪ってやる』と挑みかかったんです」


「叡智神は圧政を敷いていたのか?」


「あっせい?」


「ネウロン人を扱き使ってたのか? ってことだ」


 俺がそう問いかけると、アルは「とんでもない!」と否定した。


 とても恐れ多そうに。そんなことありえない、と言いたげに。


「叡智神様はネウロンの大恩神です! でも、力に目がくらんだ一部のネウロン人が神様に逆らったんです……」


「ふむ……」


「愚かなネウロン人を見た叡智神は、使徒・バフォメットに命じ、ネウロン人を裁きの雷(・・・・)で打ちました」


「…………」


「その雷で、ネウロンは一度滅びました。叡智神が与えてくれた巨大な都市も、巨大な船も、知恵も富も……人さえも雷で焼き消えちゃったんです……」


「逆らうヤツは皆殺しか。……結構、容赦ないな」


 一度の反乱でそこまでやるとは、結構苛烈な神だ。


 そう思って言ったんだが、アルは首を横に振った。


 なぜか少し嬉しげに「叡智神様は優しい御方です」と言った。


「ネウロン人は雷で死にましたが、死にませんでした(・・・・・・・・)


「…………? どういう事だ?」


「叡智神様は、雷で死んだ者達を全員、蘇生してくださったんですっ!」


 死者蘇生。


 広い多次元世界にはその手の話は枚挙に暇が無いし、実在もしている。ただ、「本物」は限られる。大抵がインチキだ。


 交国でさえ、死者蘇生は実現できていない。プレーローマに関してはシステム化された死者蘇生を使っているが、アレも完璧なものじゃない。制限がある。


 だから――。


「マジで死者蘇生したとしたら、かなりの力を持っている神だな」


「でしょっ? だから叡智神様はスゴいんですっ」


 アルはとても嬉しそうに胸を張った。


 その目には狂信の色がチラついている気がした。


 ……いや、考え過ぎか。子供らしい無邪気さで信じているだけだ。


「叡智神は、反逆者達を厳しく諭しながらも、全員を生かしました。そして大罪に対する罰としてネウロンを去ったんです。使徒達を連れて……」


「…………」


「残されたネウロン人は強く後悔しました。叡智神はネウロン人を生かしましたが、彼らから知恵を――文明の利器を奪いました」


 叡智神が去り、神がもたらした利器も失った。


 ネウロンの文明は大きく退行し、細々と生きていかざるを得なくなった。


 その退行は『永遠の冬』時代に比べたら、遥かにマシなものだった。冬は幾度となく訪れるが、春も夏も秋も存在する。


 真っ当に生きていけばそうそう滅ぶことはない。それでも神と共に去った黄金時代をネウロン人は後悔と共に懐かしんだ。


 そして、祈り始めた。


「ネウロン人は叡智神に対し、謝罪の祈りを捧げ始めました。謝罪を繰り返していれば、神はいつか許してくれる。神はいつか戻ってくる。そう信じ、祈り始めたのが<シオン教>の始まりでした」


「つまり、神が去った後に生まれた信仰ってことか」


「ですです!」


 なんとなく、シオン教は統治装置だと思っていた。


 叡智神が自身を神として崇めるように命令し、ネウロン人がそれに従い始めたことで出来たシステムだと思っていた。


 けど、そうじゃないのか。神が去ってから慌てて「神様! ごめんなさ~い!」と謝り始めて出来た宗教ってことか。


「その……叡智神と連絡は取れないのか? 神が去った後で祈っても、その祈りってどうやって届けるんだ……?」


「え……? 叡智神様ならわかると思いますよ? だって、とっても賢くてスゴい神様なんですから、ボクらの声もきっと届いてますよ」


 通信機すら使わないのは、神を過大評価してねえか……!?


 いや、宗教なんてそんなもんか。


 実在しない(もの)に祈り、根拠の乏しい教えを盲信する。


 生臭坊主共の頭の中で作られた神をありがたがり、せっせと寄付して搾取するのが宗教というシステムだ。……これ言うとアルは泣くだろうから、言わないけど。


 ただ、叡智神はどうなんだろうなー……?


 後世の創作もありそうだが、モデルになった存在がいてもおかしくない。


 叡智神の正体は、異世界からネウロンに来た人間かもしれない。


 異世界間航行技術は1000年よりずっと前から存在していた。新暦の時代が始まるより前から存在していたものだ。渡航は不可能じゃない。


 あるいはマジモンの魔神(カミ)か?


 魔神にしては優しすぎる気がする。ネウロン人を雷で焼き払ったっていうのは過激だが、反逆されても結局許したようなもんだしな……。


「しかし、大変なことやってんだなぁ……」


「…………? 叡智神様がスゴいって話ですか? スゴいですよ?」


「いやいやいや……そうじゃなくて、お前ら1000年も謝り続けてんのか」


 1000年も平和を維持出来てるのもトンデモないが、1000年もひたすら謝り続けているのも凄いよ。


 察するに、叡智神はネウロンに戻ってきていない。つまり許してくれていない。祈りが届いているのかすら怪しいもんだ。


「つらくないか……? 謝り続けるのって」


「でも、ボクらは……ネウロン人は大罪人ですから」


「それは昔のネウロン人だろ?」


 それも、実際に罪を犯したのは一部の人間だろう。


 全てのネウロン人が――大人も子供も――神に逆らったとは思えん。


 それなのに「ネウロン人」ってだけで、罪があるとは思えん。


「遠い子孫のお前達が謝る必要なんてない」


「んー……? でも、謝ること、大事ですから。それに謝罪の祈りは神様のためだけにしている事じゃないんです」


 アルは再び手を組み、穏やかな表情で語りだした。


 ……俺には少し、恐ろしいものに見えた。


 わからない。


 理解できない。


 未知だからこそ、「恐れ」を抱いたんだろうか。


「ボクらは罪を犯した。争うのは悪いこと。その気持ちを大事にするためにも祈っているんです。だから――」


「ネウロンでは戦争がなかった……?」


 そう言うと、アルは笑顔でコクコク頷いた。


 神に対する謝罪の祈り。


 それを1000年も続けてきた。


 1000年の平和が続いた原理は、その祈りが現代まで紡がれ続けた影響なのか? シオン教の力というより、人々の信仰心が平和を作ったのか?


 ……そんなバカな。


 そんなあやふや(・・・・)なモノで、何世代も平和が維持できるもんか。


 絶対、何かカラクリがある。


「平和を守るのは良いことだ。けど……謝罪は、もういいんじゃねえのか? お前達が昔のネウロン人の罪を背負う必要なんてないだろ……」


「でも、これはもう何年も続いてきたことですし……」


「叡智神は帰ってきてないんだろ? お前達が必死に祈っても……」


 そう言うと、アルの瞳が微かに揺れたように見えた。


 マズい。あんま否定しすぎるのも泣かせちまうか……。


「いや、スマン。……交国人の俺が言うのもおかしな話だろうけど……」


「…………? 交国の人ってことが、何か関係あるんですか?」


「俺達、交国人は『巫術師(ドルイド)』ってだけでお前達に罪を背負わせている。巫術師ってだけでお前達を特別行動兵にした交国の一員の俺が、『先祖の罪なんて関係ねえ』って言うのはおかしいよな……」


「あっ、いえっ! ラートさんは何も悪くないですっ!」


 俺が悪くないなら、お前だって悪くないだろ。


 交国は俺の親みたいなものだ。


 親の罪を背負わなくていいなら、お前達も罪を背負わなくていいはずだ。


 現代を生きる俺なんかより、ずっと遠い繋がりなら、なおのこと。


「…………」


 そう思ったが、言うのはやめておいた。


 アルの信仰(こころ)を否定するのが怖い。


 泣かれるのが怖い。信じ、すがってきたものを壊すのが恐ろしい。


「ごめんな、アル」


 謝罪はする。


 特別行動兵(おまえたち)を救えていないのは事実だ。


 交国(おや)の罪がわかっていても、正せていない。


 だから謝ったが、アルは「ラートさんはホントに悪くないですっ!」と弁護してくれた。そしてさらに言葉を続けた。


「いま、ネウロンは大変なことになってます。ネウロンだけじゃなくて多次元世界全体が……ええっと、プレーローマ? っていう人類の敵の所為で、大変になってるんですよね?」


「あ、ああ……。そうだな」


「そういう問題も、全部、大丈夫になる(・・・・・・)んです」


 アルがまた笑う。


 ピカピカの笑顔で笑う。


「叡智神様さえ戻ってきたら、全ての問題は解決するんです」


「…………」


「叡智神様は平和を愛する知恵の神です。戻ってきたらネウロンの戦いだけじゃなくて、多次元世界中の戦争を終わらせてくれるんです」


「……そうか」


「死んだ人も帰ってくるんですよ……! だって、叡智神様は死者を蘇らせるほど、すっごい神様ですからっ……!」


 アルは笑っている。


 笑っているが、その瞳は明らかに揺れていた。


 アルは叡智神を信じている。


 信じているが、その信仰は「そうであってほしい」というものに見えた。


 神に対する信仰が氷のように固まり、足元を支えてくれている。でもその氷は薄氷のように薄く感じた。一度割れてしまえば、もう――。


「アル。何かあったら俺を頼ってくれ」


 アルに近づき、その手を取る。


 祈りを捧げるために組んでいる手を、そのまま手のひらで包む。


 ……アルの手、ヴィオラよりちっちゃいな。


「俺は今もお前の傍にいる。呼んでくれれば駆けつけられるほど近くにいるんだぜ。手を伸ばしてくれれば、握り返せるほど近くにいる」


「ラートさん……」


「ま、まあ……神ほど強くはねえが……頼りにしてほしい」


 信じてほしい。


 俺はお前達を救いたい。お前達の味方だ。


 今はまだ、神への信仰の方が身近なものかもしれない。


 けどいつか、神より信じてもらえる男になってみせる。


 そう思いながらアルの目を真っ直ぐ見つめる。近くで見ると、アルの瞳はやっぱり潤んでいた。涙が流れるより早く、アルは俺に抱きついてきた。


 その背をポンポンと叩き、あやす。


 ……しばらくしたら落ち着いてくれた。


「……その……ひょっとしたら、神はもう戻ってきてるかもしれないな」


「えっ?」


「お前みたいな良い子が祈ってんだ。実はひょっこり戻ってきて、その辺にいるのかもしれないぞ? 正体現すタイミングに困ってるだけとかっ!」


 冗談めかしてそう言うと、アルは笑ってくれた。


 その笑みは怖いものじゃなかった。「戻ってきてくれたらいいなぁ」と言い、ほころぶ純粋な笑みだった。


 アルは良い子だ。


 こんな良い子が祈ってんだから、応えてやれよ叡智神。


 交国人の俺が「何いってんだ」って思われるかもだが……アルは良い子だぞ。






【TIPS:新暦】

■概要

 新暦とは、源の魔神が死亡した年を紀元とする紀元法である。


 発案はビフロストの雪の眼が行い、「源の魔神の死は多次元世界史の大きな転換点である」とし、新暦を採用。


 源の魔神の死は「人類の敵」の大幅な弱体化を意味するため、プレーローマに抗う人類勢力も次々と新暦を採用していった。


 プレーローマですら、現在は新暦を採用している。採用した利用は人類勢力と異なり、「神無き世界を新たな決意を持って管理するため」というものである。



□ビフロストじゃんけん大会十連覇&出禁美少女史書官・ラプラスの覚書

 新暦はその名の通り、新暦が始まって以降に生まれたものです。昔は西暦とか使われていましたが、もうずっと昔のことですね。


 交国でもネウロンでも新暦が使用されています。


 交国が新暦使っているのは別におかしくないんですよ。異世界侵略バンバンやってるイケイケ国家なので、新暦の存在は直ぐ知ったか、建国前から知っていたはずですから。


 問題はネウロンです。


 ネウロンで新暦が使用されているのは、ちょっとおかしいんですよね。


 新暦はビフロストで生まれたものですが、ビフロストはネウロンに来た事がありません。私がネウロンに来た最初のビフロスト構成員と言っていいでしょう。


 では、どうやって新暦がネウロンに伝わったのでしょう?


 新暦は現在ではプレーローマも採用しているので、プレーローマが伝えた可能性もゼロではありません。源の魔神こと<アイオーン>が死亡したのは新暦1年のことで、プレーローマが諸々の事情でネウロンを放棄したのは新暦32年です。


 その31年の間に「プレーローマがネウロンに新暦をもたらした」可能性はありますが、プレーローマが支配地域の暦をわざわざ変更するのはおかしいんです。


 別に必要ないんですよね。源の魔神死亡でプレーローマ本土がゴタゴタしている状況で、支配地域の暦変更をする必要性がわかりません。


 ひょっとすると、一部の天使がネウロンで独立しようとしたのかもしれない。


 その可能性も考えました。プレーローマの支配者である源の魔神が死んだ折り、その配下の天使はそこそこ離反してますからねー。


 ネウロンでも「よっしゃ! ウチも独立したるでぇ!」「独立記念に新暦使おう!」とかやろうとした可能性も考えました。


 でも、ネウロンで天使が独立しようとした記録は見つかってないんですよね。


 エノクに調べてもらったんですが、ネウロンはフツーに放棄されてます。永遠の冬という陰湿な置き土産まで置いて、無茶苦茶にして放棄されてます。


 そして、プレーローマがわざわざネウロンで新暦を採用させた記録も残っていません。色々ゴタゴタしていた時期なので、当時の記録は失われているものもありますが、プレーローマにあるネウロン関係の記録はそこそこキチンと残っているんですよねぇ。


 私はネウロンに<新暦>を伝えたのはプレーローマではないと思います。


 それよりもっと、それっぽい存在がいますからね。


 シオン教の神、叡智神。


 彼の神が異世界からネウロンにやってきた折りに新暦を伝え、ネウロンに広めたのではないでしょうか?


 叡智神の正体があの人なら、源の魔神死亡によって生まれた新暦使うの大好きでしょうからね。


 エノクが伝えた可能性もゼロではありませんが、それはさすがに無いでしょう。不可能ではありませんが伝える動機がありません。



□追記

 そうそう、エノクに調べてきてもらったプレーローマによるネウロン管理記録には、<巫術師>の存在は記されてません。


 プレーローマは、ネウロンに巫術師がいた事を知りません。


 おそらく、最初はいなかったんでしょうね。プレーローマが出ていった後、何らかの要因で生まれた――あるいは作られた存在だから。


 ネウロンには秘密がいっぱいです! 私の探している真実もきっと眠っているはずです! タイミング悪く交国がネウロン侵略してなければ、もっと自由に調べられたんですが……これはおそらく「運悪く」ではないのでしょうね。


 ネウロンは一見、辺境にある価値の乏しい後進世界です。


 でも、おそらくお宝が埋まっているのでしょう。


 彼の国もそれに気づいているからこそ、やってきたわけで――。




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