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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.5章:バッドカンパニー【新暦1225年】
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過去:テロリスト養成サマーキャンプ



■title:<泥縄商事>本社艦隊にて

■from:泥縄商事・人事部長


「ちょっと待って!! マジで何の話!!?」


「社長のバカっ! もう知らない死ねッ!!」


 商品企画部長がリモコンで操る機兵が機関銃を出し、社長を蜂の巣にした。


 撃たれた社長は「うぼあー!」と叫び、死んでいった。


 泥縄商事の名物風景。皆、機関銃の発砲音には驚いたが、撃たれたのが社長だとわかると深く気にしていない。中にはスナッフムービーを撮っている者もいたが、大抵の社員が直ぐに自分達の仕事に戻っていった。


 清掃員が社長を片付ける中、企画部長からリモコンをそっと取り上げ……何があったか聞く。頬を膨らませていた企画部長は、社長だったものを「ゲシゲシッ!」と蹴りつつ、質問に答えてくれた。


 それで……今回は何があったのですか?


「社長が!! 私の大事にとっておいたケーキを食べたの!!」


 …………。


 なるほど? それは大罪ですね。


「それだけじゃないのよ!? 社長がユーザビリティユーザビリティってウルサイから……! 商品企画部(ウチ)に無茶ばっかり言ってくるの! 商品にばっかりケチをつけて、人材育成を怠ってるからぁ~~~~!!!」


 商品企画部長は、泥縄商事の派遣人事の「質」にも腹を立てているようだ。


 馬鹿では高度な兵器を扱えない。だから本来は慣熟訓練を行わないといけないが、泥縄商事は人件費削減のため、安く使える後進世界の人材ばかり使っている。


 それらの人材教育も怠っている。


 素人にどれだけ優れた兵器を貸し与えたところで、それをまともに使える人材がいない。社長は「そこは商品企画部で何とかしろ」と命じていたようだ。


 いつもの話なのだが、商品企画部長は――ケーキがなくなった件で相当イライラしていたらしく――衝動的に社長襲撃を行ったらしい。


 ただ……これは少々マズい。


 人材の「質」について深掘りされると、人材管理を行っている人事部(わたしたち)の責任も追及されそうだ。


 商品企画部長もそれを思い出したのか、ムッとした様子で人事部長(ボク)に詰問してきた。「あなた達の所為でもあるのよ?」と言ってきた。


 チッ、うっせーな手羽先女(てんし)――と思ったが、喧嘩を売るのは得策ではない。社長に責任転嫁しつつ、事情を説明して謝罪する。


「社長だけの所為じゃないでしょ。人事部の怠慢よ」


 実は最近、訓練済みの人材が枯渇しつつあるんです。


「訓練済みの人材って……キャンプの?」


 そう。訓練キャンプの人材です。


 泥縄商事は後進世界の人材を使って人件費を削減しているが、右から左に人間を流すだけではなく、人材育成も行っている。


 人材育成(それ)を担っているのが「訓練キャンプ」だ。


 人類連盟には「テロリスト養成キャンプ」と言われているが、あながち間違いではない。テロ屋への出荷も行っているからな。


 ろくな訓練を受けていない人間は、大した活躍は出来ない。役に立たない人材ばかり出荷していると取引先に愛想を尽かされる。


 だから、キャンプで機兵乗り等を育成し、派遣する事もある。機兵が1機あれば後進世界の軍隊ぐらい、楽に蹴散らせる。


「キャンプに何かあったの?」


 はい。実はモナクとテローラの訓練キャンプが壊滅しました。


「えっ! あの2つって、現地国家の協力も取り付けていたキャンプでしょ? 規模は大きいけど、人連にもバレてなかったはず……」


 泥縄商事は犯罪組織だが、取引のある国家は少なくない。


 こちらが色々と商品を渡す代わりに、人や土地を密かに提供してくれる国家も存在する。中には外貨獲得のためにせっせと人身売買に協力してくれる国家もある。


 モナクとテローラは、現地国家が自国民を捕まえ、参加させてくれていたキャンプだった。かなりの数の兵士を出荷できていたのだが……それが潰された。


 実は最近、訓練キャンプがよく潰されているのです。


 そう説明し、人事部も困っている――と話す。


 人手が足りていないのです。事業に大きな支障が出ています。


「じゃあ、<夜行(ナイトシフト)>を使ったら?」


 夜行。泥縄商事の直営部隊。


 正確には社長直属部隊だ。彼らの質は泥縄商事所属とは思えないほど高い。機兵の操縦技能を持つ者もおり、足りない人材の補填が出来る兵士達だ。


 ただ、彼らに対する命令権限は僕にはない。


 夜行は社長の命令しか聞かない。だから、社長に「夜行を貸してください」と依頼したのだが――。


「貸してくれなかったの?」


 はい。


 社長曰く、「夜行は安売りして良い戦力じゃない」「兵士が足りないからといって、夜行で補填するなんて許さない」とのことです。


「それは殺したくなりそうねぇ~」


 実際、一度殺しました。


 人材不足で泥縄商事全体が苦労し、何の罪もない社員が代わりの兵士として戦場に送り込まれても……あの社長は心を痛めないのです。


「何の罪もない社員を派遣しているのは人事部長(あなた)じゃないの……?」


 ともかく、どう頼んでも社長は動いてくれなかった。


 せめて問題解決のために動いて欲しかったのですが、それすら断られた。


 補填用の人材を手に入れるため、人事部は連日残業中です。


 今のところ、営業部に協力してもらって取引先の余っている人材を貸してもらっています。ただ……その分、人件費は割高になっています。


 他にも普段以上に傭兵を雇い、人手不足を補填しています。


「採算取れてるの?」


 取れてません。


 あくまで一時凌ぎですが、これが続くと会社が傾きますね。


「あらら……」


 モナクとテローラのキャンプが潰されたのが、致命的でした。


 元々危うい状態だったのですが、あの2つが潰された事で人材不足に拍車がかかっています。キャンプの立て直しは……数年がかりになるでしょう。


「どっちも人類連盟加盟国の支配圏から離れていたはずでしょ? そう簡単にやられるところではないと思うけど……」


 ええ、その通りです。


「人連にやられたわけじゃないの?」


 キャンプを潰したのは<エデン>です。


「ええっ……? あなた達もエデンにやられたの? 奴ら、最近活発ね」


 そういえば、商品企画部長が管理していた工場もエデンにやられたそうですね。


「そうなのよ! プレーローマの支配圏に作っていた工場が4つもやられて……輸送船もやられているの!」


 ああ、輸送船も……。


「奴らの所為で、<みなぎるくんβ>と<二人三脚無尽君>の製造ラインが止まっちゃったのよ!! エデンの奴ら、最近やり過ぎよ!」


 エデンに困っているのは、人事部だけではない。


 泥縄商事全体がエデンの「安っぽい正義」の犠牲になっているようだ。


 エデンに対して怒る商品企画部長の言葉に乗り、さらにエデンを糾弾しておく。


 悪いのは全てエデンです。人事部は何も悪くないのです――と誘導しておく。


 馬鹿な商品企画部長なら、これで誤魔化せるだろう。


「さっさとエデンを何とかしないと!」


 仰る通りです。


「なんで、エデン如きがウチの秘密工場やキャンプをポンポン襲えてるの……? エデンって所詮、弱小組織じゃない」


 ただ、少数精鋭だからフットワークは軽い。


 小さな組織なので大した情報網は持っていないが、戦力としては侮れない。神器使いを擁するエデンが動き出すと、泥縄商事の部隊では抗えない。


 夜行が奇襲をかければ……1人2人は暗殺できそうだが――。


「何かおかしくない?」


 おかしい、とは?


「エデンの情報網で、なんでこう連日のように……泥縄商事の秘密施設を襲えているの? これって、誰かがエデンに情報漏洩してない?」


 商品企画部長の読み通り、情報漏洩は行われている。


 まず間違いなく行われている。


 だから、人事部の方でも調査中なのですよ。今は調査結果を待ってください。今のところ、一番怪しいのは社長ですが――。


「社長が泥縄商事の不利益になることなんて……するかしら~?」


 あの人が一番、何をやらかすかわかりませんから。


「それは確かにそうかも……」


 最近、エデンのせいで泥縄商事は大損害を受けている。


 何とか対処しないと、泥縄商事がメチャクチャになってしまう。


 最悪、滅びてしまうだろう。……僕が手に入れる前に。


 何度死んでも蘇る社長と違って、工場やキャンプは立て直しに時間がかかる。


 エデンのような小組織は、動きが読みづらくて困る。


 交国などの巨大軍事国家なら、まだ動きは予想しやすい。


 大国には自分達の支配地域があり、大っぴらに動くと泥縄商事のような犯罪組織と衝突する前に、他所の国と衝突してしまう。


 それを回避するために国家間に色々と交渉しているので、我々はその交渉が長引いているうちに撤収すればいい。今まではそうやって、可能な限り被害を減らしてきた。……しかし、エデン相手にはそうもいかない。


 エデンは支配地域を持たない弱小組織だ。


 だから、どこに現れるかわからない。


 神出鬼没の神器使いというのは、とても対処しづらい。エデンはくだらない正義感で動いているため、金で動かすのも難しい。


 我々のような犯罪組織と交渉する気は無いらしい。そこが困る。


 各施設の警備を強化したところで、エデンの神器使いに対抗するのは難しい。対抗出来たとしても、警備に金をかけすぎると採算が取れなくなる。


 採算度外視で動く「正義の味方(エデン)」は、本当に厄介だ。


 いつもなら、ここまで被害を受ける事はないのだが――。


「エデンの襲撃が立て続けに成功している以上、誰かが情報を漏洩しているのは確か。……社内に裏切り者がいる。それは誰なの?」


 商品企画部長の問いに、「現在調査中です」と返す。


「泥縄商事が大損害を受けて得する人間なんて、社内にいるのかしら……?」


 それは数え切れないほどいますよ。


 泥縄商事(ウチ)の労働環境は、それほど良くない。労働時間は長く、危険も多い。そのくせ給料も別に高くない。


 社内でそれなりに稼いでいる人間の多くは、上手く横領しているだけ。甘い蜜を吸えている人間は限られている。


 そして何より、皆が社長を嫌っている。好き勝手やって皆の邪魔をして、ヘラヘラと笑っている社長を嫌っている人間は多い。


 腹いせに情報を漏らす社員が出てきてもおかしくない。


 情報を漏らす事で、直接的な利益を得る者も多くいるでしょう。情報漏洩問題は人事部も常に戦ってきた問題だ。そこまで珍しくない。


 社長以外への嫌がらせという可能性もある。例えば第一営業部と第二営業部は方針の違いから犬猿の仲であり、お互いを潰すために暗闘しているのが現状だ。


 泥縄商事内部には「裏切り者」と呼べる人物は数え切れないほど存在する。


 だからこそ、今回の件について絞り込むのは難しいのだが――。


「誰が情報を漏らしているのかしら……」


 社長以外だと……商品企画部長(あなた)も疑っています。


「は!? 私!? なっ……なんでぇ~!?」


 あなたは人間ではなく、天使ですからね。


 出向先の泥縄商事が潰れてしまえば、プレーローマに戻れる。そう考えて泥縄商事の情報を漏らしている。……その可能性はありますよね?


「私じゃない! そんなことしない!」


 ええ、信じていますよ。


 いや、信じたかった……と言うべきでしょうか?


 商品企画部長の注意を引いているうちに、周辺は人事部の人間で固めておいた。


 ここから逃げられる心配はない。


 では、拘束(・・)させていただきます。


「なんで!? 単なる推測で私を捕まえるってこと!?」


 違いますよ。


 あなた、社長を殺したでしょう?


「それは……いつもの事でしょう!?」


 ですが、いま社長殺害(それ)をやるという事は……社の利益を損ねるんです。


 エデンは弱小組織ながらも、泥縄商事に被害を与えています。それも内部情報が漏れているとしか考えない被害が発生しています。


 だから、私も「エデン対策会議」を開こうと思ったんです。


「それと社長の殺害に何の関係が――」


 社長はあんな輩でも、泥縄商事の代表ですからね。


 泥縄商事にとって重要な対策会議を行う以上、代表者の出席は必要でしょう?


 しかし、あなたはそんな重要人物を殺害した。社長なので明日には復活するでしょうけど……明日まで正式な対策会議を行えない。これは妨害行動ですよね?


「えっ……。あっ……」


 あなたのせいで、対策会議に遅れが発生します。


 人事部は皆に文句を言われながら、真面目に犯人捜しをしているというのに……。「ケーキを食べられた」というくだらない理由で、あなたは社長を殺してしまった! いや、その理由すら適当な言い訳なのでは?


「ち、ちがっ……!」


 あなたは私の大事な泥縄商事(かいしゃ)に損害を与えた。


 あなたの所為で、泥縄商事は滅びに一歩近づいた!!


「や、やだっ……。怒鳴らないでぇ~……!!」


 この女を拘束し、連れて行け。


「はっ」


「やだっ! やだっ!! やめて!! 触るな下等生物如きが!!」


 商品企画部長、状況をよく考えて行動してほしい。


 我々は社会人。会社の歯車なのです。


 泥縄商事は犯罪組織ですが、和を乱す行動は困ります。


 まったく……。


「人事部長~。商品企画部長の私室から盗んだケーキはどうしましょう?」


 混沌の海に捨てておけ。


 それは、社長が盗んだ事に(・・・・・)なっているんだ。


「オレが食べていいですか?」


 は?


「いや、へへっ……。小腹がすいたもんで……」


 ハァ……。好きにしろ。


 …………。


 まったく、人事部(ウチ)にもろくな人材がいないな。


 だがそれはそれで都合がいい。もう少しの辛抱だ。





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