過去:泥縄商事の社会貢献
■title:<泥縄商事>本社艦隊にて
■from:泥縄商事・第二営業部・部長
「やあやあやあ! 第二営業部長! 社長様が帰ってきたよ!!」
チッ……。お帰りなさい。今回は寄り道せずに帰ってきたのですね。
「いやぁ、<エデン>と遭遇したから死に戻りしてきた」
それはそれは……大変でしたねぇ。
「うっかり捕まるところだったよ。何とか死ねたけど、エデンはあたしを誘拐するつもりだったのかも。キミ、裏で手を回してない?」
今回は知りませんよ。今回は。
でも最近、エデンがよく邪魔をしてきますね。エデンを何とかするために対策会議を開くべきだと思うのですよ。早速、会議室に向かいましょうか。
「それは後でね。……そこ通してくれない? 通せんぼしないで」
泥縄商事は闇商事であり、様々な組織・国家と敵対している。
エデンは規模は弱小ながら、神器使いを複数人擁している厄介な相手。フットワークの軽さから対策が難しいため、いいようにやられている。
目先のことしか考えていない正義馬鹿達には、実際に手を焼かされている。だから、そろそろ対策会議を開くべきなんだけど――。
「ねえねえ、なんで通せんぼしてくるの? そっち行きたいんだけど」
会議室はこっちじゃないですよ。
迷子でちゅか~? 会議室に連れてってあげまちょうねぇ~?
「いやいや、会議室行きたいわけじゃないから」
エデン対策会議、やりましょう。
「会議は後でいいって……。それより、キミが通せんぼしている先に行かせて?」
今回、納品に向かった社員達はどうなりましたか?
「死んだよ? まあ、些細なことだよ。社員なんていくらでも生えてくる」
確かに、末端の社員と社長がいくら死んでも泥縄商事は小揺るぎもしません。
しかし、エデンはいい加減対処しておかないと……。
彼らは交渉の通じない狂犬なのですから――。
「対策はするって。それより、そこ通して?」
申し訳ありません。本社艦隊16番艦は現在、工事中です。
なので立ち入り禁止――。
「単なる工事じゃないでしょ!? あたしの留守中に、勝手に本社艦隊の増築工事してんでしょ!? あたしが死に戻りして来てなかったら増築終わらせて、『出来ちゃったもんは仕方がないです』で押し切ろうとしてんでしょ!?」
工事中なのはホントですし……。
先日、商品企画部から脱走した生物兵器が大暴れしていたでしょう?
「そんな事件あったっけ?」
ありましたよ。
人事部長が生物兵器に挑みかかって死んだでしょう?
「いや、人事部長はフツーに生きてるし。その人事部長が教えてくれたんだよ! 『第二営業部長が16番艦で勝手をやってる』って教えてくれたの!!」
いいじゃないですか、別に……。
確かに16番艦を増築中ですが、艦隊全体を見たらほんの少しの工事ですよ。
泥縄商事の本社は艦隊。無数の方舟や、方舟が牽引する居住区で出来ている。
1番艦・ドゥヴィンⅡを中心に複数の方舟が連結・合体した超大型方舟であり、約10万人の社員及び関係者が本社艦隊内で暮らしている。
我々は犯罪組織なので、捕まらないために放浪し続ける必要がある。本社以外にも移動しない拠点や生産施設を持っていますが……それらはやっぱり、ちょくちょく潰されちゃってる。
だから、時には増築も必要なんですよ。
「本社をこれ以上、勝手にデカくするのヤメテよ~! ここは混沌の海だから、何とか航行出来てるけど……ここだけで何万人も暮らしているから、物資の手配とか大変なんだよ~! 特に食料! あと水資源も!」
社長が社員の住環境を気にするとは珍しい。
「いや、自分の住環境を気にしてるんだよ。社長室までの通路、深夜以外はいっつも渋滞してるし……雑踏の中で刺殺されることあるし。食料事情も厳しいし」
そうでしたっけ?
社員食堂ではキッチリ三食出てきますし、それで足りなければ売店で各種惣菜やパン、スイーツも買えます。品薄になっているのは稀な話じゃないですか。
「でも、あたしが注文しても流動食かカレー味のウンコしか出てこないよ」
それは食料管理部の嫌がらせです。
社長が彼らのボーナスカットした影響ですよ。
「マジかよ……」
今からでも「私が悪かった」と頭を下げてくるべきかと。
私もついていってあげますから。ねっ?
「うん……。……いやいやいや! 本社艦隊増築の件、誤魔化さないでね!?」
プリプリとお怒りの社長は、私を押しのけて16番艦の中に入っていった。
ああ、こうなるのが嫌で社長がいないうちに既成事実を作ろうと思ってたのに。
社長の後を追うと、彼女は私が隠したかったものを見つけてしまった。
増築中の区画だけではなく、16番艦に匿っている子供達を見つけてしまった。
「おい、なに? 何でこんなにガキがいるの?」
…………。
「第二営業部長……。また難民のガキを拾ってきたな!?」
難民だけではありません。飢饉で子供を養う余裕がなくなった後進世界の村々から引き取ってきた子供達もいます。あと、ゆ……保護してきた流民の子供も少々。
戦災孤児や、親に虐待されていた子や、志願してきた子も――。
「経歴はどうでもいいよ! 何人いる!? 100は超えてるっしょ!?」
今回は329人です。
「ボケカスぅ~~~~!!!! 社長の許可なく300人のタダ飯食らいを拾ってくんなーーーーっ!! 拾ったとこに捨ててきなさい!!!」
プリプリとお怒りの社長をなだめ、説得する。
泥縄商事は世界的な大企業です。
しっかり稼いでいる以上、社会貢献も必要かと。恵まれない子供達を保護し、世界に羽ばたく人材として育成していくべきなのです……!
「犯罪組織に社会貢献求めないでよ」
犯罪組織だからこそ、です。
日頃から悪事を働いているからこそ、慈善事業をして徳を積んでおくべきなのですよ。じゃないと困った時に誰も助けてくれなくなりますし、あまり儲けすぎていると貧者達に僻まれてしまいますよ?
「でも、慈善事業したとこで税金とかで優遇措置受けられるわけでもないし……」
企業イメージの問題です。
数十人の人生を壊してきた畜生ヤクザでも、捨て猫を拾って育てていたら「キュン! 実は良い人かも……」って思ってもらえるものでしょう?
「その程度で騙されるのはバカだけだよ」
では、そのヤクザが黒髪ロリ巨乳だったら……?
「う~ん……」
さらに可哀想な過去があって、味方になったら超有能だったら?
「昔、メッフィーが似たようなこと言ってたな……。ま、まあスマホゲーなら人気キャラになれるかもだけど……現実じゃあ……」
現実でも通用しますよ! 顔も性格も経歴も悪い輩より、顔は良い犯罪者の方が受け入れられやすいんですよ。
「比較対象が悪いよね。それは」
いくら悪い事をしていても、良い事もあれば騙さ…………受け入れてくれる人もいるのですよ。顔面は大事! 企業もイメージ大事!
泥縄商事は確かに犯罪組織です。
犯罪を働いている以上、敵意を向けられるのは仕方在りません。
ですが、全てを敵に回したら破滅します。戦場に投入する人材を調達しようにも、「泥縄商事はちょっと……」と言われたら困るでしょう?
兵器を調達しようにも、自社工場だけでは限度があるので……取引先と良好な関係を築いておかなければ、棍棒ぐらいしか売り物なくなっちゃいますよ。
一部の人達でいいですから、良いイメージを抱かせる努力をしましょう!
「その一貫として、ガキ共を保護するって?」
そうそう、そうです。その通りです。
子がつくものは、引き取って大事にするだけでバカウケなんですよ。
雨に打たれる子猫や子犬を保護する動画とか、「かわいい~!」「やさしい~!」と視聴者にバカウケでしょう? 社長もそういう動画お好きでは?
「動画撮ってる暇があるなら、さっさと保護したら? とは思う」
ハァ……。社長の感性はちょっとひねくれすぎですね。
「えっ……。キミに言われたくないよ……」
でもそういう動画の方が再生数増えるんですよ!! 再生数は正義!!
「その理屈なら炎上しても再生数伴えば正義じゃん。いや、そもそも、そういう動画の話とウチは無関係でしょ」
彼らには、学ぶべきところが多いのですよ!
子がつくものはイメージが良いのです!
「確かに。うんこも小学生界隈では覇権コンテンツだからネ」
我々はその辺の配信者には出来ない「人間の子供」の保護を行うのです! 泥縄商事のためにも必要な保護活動なんです!
全人類に「泥縄商事、キライ!」と不買運動されたらどうします? 色んな仕入れ先から取引停止されたらどうするんですか?
「そんなことされないし。何だかんだで泥縄商事の商品は需要あるもん。犯罪という危険を冒さないと手に入らないモノはたくさんあるしね」
でも、企業イメージは良いに越したことはないでしょう?
「最悪、商品を全部プレーローマから買えばいいし……」
その手もありますが、仕入れ先の選択肢が1つしかない場合、足下見られますよ? 取引の見返りに天使共の要求を全て飲まされますよ?
「犯罪組織の一員のくせに正論を投げないでよ……」
犯罪組織もブランドイメージには配慮すべきなのです。
具体的には大義なき侵略行為を良しとする第一営業部長と社長を殺害し、泥縄商事の膿を全て出し切り、新生・泥縄商事として日の当たる道を歩いていくのです。
「結局、キミのワガママを通したいだけじゃん……。さらっと私も殺すなっ」
第二営業部部長の正直な気持ちです。
この曇り無き眼を見てください!
「クソ濁ってハイライト消えてる~!」
社長達の生死はともかく、企業イメージ回復は重要な話です。
ご理解いただけましたか?
「あんまり……。200人もクソガキを勝手に拾ってくるなよ~」
329人です。
そもそも……社長だってよく子供を拾ってくるじゃないですか!
「あたしは数日で出荷してるし。キミは年単位かけて養育するつもりじゃん」
平気な顔をして少年兵を流通させるクズ……!
社長は外見が美少女ではなく、脂ぎった中年男性だったらオタク君達も「カスがよぉ!!」と殺しにかかってきますよ。
「殺されても問題ないもん。ともかく、このガキ共を元の場所に戻してこい!」
…………。
「それか、いま直ぐ出荷しろ! 人事部長と相談して出荷先探しな!?」
そんなに怒鳴らないでください。子供達が怯えているでしょう?
ボク達っ! 安心してくださいねっ! そんなことしませんからね~!
「おウチ帰して……」
「ママーーーーッ!」
「お前が安心から遠ざけてるじゃん」
皆さんは泥縄商事本社艦隊で育ち、学び、成人したら自分達の生まれ故郷に凱旋するのです。そして泥縄商事が用意した兵器で戦争を起こし、ゆくゆくは覇権国家を作り上げるのです……!
「そっちも少年兵育成してるじゃねーか!!」
フゥ……。全然違いますよ?
社長はろくな教育・訓練も施さずに子供達を戦場に投げ込む。
私はキチンとした教育・訓練を施したうえで、手厚い支援を与えて故郷に帰す。
そして愚かな支配者を打倒させ、新世界を作らせるのです。
さすれば、この子達は英雄になります!
泥縄商事のビジネスパートナーになります。
「いやいや、ただの少年兵。ただの尖兵だよ」
英雄達が新たな秩序を作り上げ、数多の後進世界を次のステージに進ませる。
力をつけた世界で手を取り合い、人類の敵に一致団結して挑んでいく! 泥縄商事はそれを支援し、「人類救済の立役者」となって犯罪組織から真っ当な企業になるのです!
勝てば皆が我々を認めてくれるでしょう!
勝利は全てを肯定してくれます!
泥縄商事あってこその英雄達! 泥縄商事あってこその新世界秩序! 聞こえませんか!? 正義の来訪を知らせる靴の音が……!
「軍靴の音が聞こえるぅ~!」
この子達を次代の英雄として育てて新世界秩序を作り上げるのです。
交国の躍進を思い出してください。新興国の交国が人類連盟の常任理事国を手玉に取り、強者側に回った時のことを!
交国は結局腐敗しましたが、アレは玉帝が俗物だった所為でしょう。ええ、それは仕方がありません。人間である以上、我が身は可愛いでしょうからね。
「…………」
だから、我々のような泥縄商事が子供達を教え導くのです。
一国だけに任せず、大人が見守る中で子供達を英雄にする。子供達は皆で手を取り合って人類連盟を滅ぼし、プレーローマをも滅ぼす。
そこまでいけばもう、泥縄商事を犯罪組織と呼ぶ輩は現れなくなるでしょう。歴史を作るのは常に勝者です。我々勝者側に回れるよう、努力しましょう!
我々の手で、人類の敵……プレーローマを滅ぼすのです!
「あんまりプレーローマ批判しないでよ~。ウチ、プレーローマも取引先なんだからサァ。彼らに金をもらって人類文明への破壊工作もやってんだからさぁ」
それがそもそも馬鹿馬鹿しいんですよ。
プレーローマは人類の敵!!!
彼らは泥縄商事に仕事を振ったり、仕入れ先として協力してきていますが……人類を抹殺し切ったら、我々など必要とされませんよ?
もはや走狗は不要として、滅ぼされますよ!?
「まあ、それはそうだろうね」
人類と天使は相容れないのです!!
その点、私達と子供達は同じ人類!! 仲良くできます!!
「それはどうかなぁ~?」
子供達は未来の希望。子供達は泥縄商事の希望でもあるのです。
ただ流れに身を任せて、目先の利益に釣られていると……泥縄商事は滅ぶ事になります。それなら今からでも子供達に投資するべきなんですよ!
それが人類のためにもなりますっ!
「ガキ共への投資って、具体的に何をするのん?」
泥縄商事・本社艦隊内に「学園」を作ります。
「げっ……! そ、そこまですんの!?」
英雄学園を作るのです!
この子達は学園生活を通じて立派な知識・社交性・戦闘技術を身につけます! 本人達の適性も見て、個別指導も行っていきますよっ!
「誰が指導すんだよ~……!」
キチンとした教師達を拉致…………もとい、用意するのでご安心を。
教育に必要な物資に関しても、関係部署の承認はあらかた取れています。社長は黙って資金を出してくださるだけで結構。迷惑はかけません。
「そうやって投資したところで、ガキ共が金を生み出すようになるのは当分先でしょ~……! つーか、回収できるかすら怪しいじゃん!」
採算に関しては、社長に言われたくないですよっ!
社長が詐欺セミナーで捕まえてくる廃人材共より、子供達の方が未来あります!
これは平和への投資! 泥縄商事を犯罪組織ではなく、真っ当な大企業に戻すための投資でもあるんですよ!?
想像してください。
泥縄商事で学び、育った子供達が故郷に戻って英雄になっていく姿を……。方舟や機兵で現住民を蹂躙し、世界を掌握していく若人達の姿を……。
「…………」
その後ろで暗躍し、世界の覇権を握っていく我々の姿を……。
「…………」
それはそれで「面白そうだ」と思いませんか?
「まあ…………確かに、そういう育成するのも楽しそうかも……?」
でしょ!?
今なら社長を、英雄学園の理事長に据えてあげますよ!
「え~! マジ~! 超魅力的――――なわけねーだろっ! とにかくダメ~! ガキへの投資は許しませ~ん! あたしが不在の間に既成事実を作ろうって根性も気に入らないからダメッ! ダメッ!」
…………。
「ガキ共を元いた場所に帰さないなら、この場で殺しブぇッ?!!!」
では、実力行使します。
「ぐえッ?! げッ!! ゲっ!! つぶぇッ?! ェ!! …………?!!」
死ね! 死ねッ! 死ねッ!!
「…………!! …………っ!? …………、――――」
ふぅ……。
社長の説得完了。
わかっていただけたようで、良かったです……!
もし、まだ理解していただけないのであれば、毎日説得しますからねっ!?
復活位置が固定だと助かるのですが~……まあ、清掃部を動かすしかないですね。やれやれ、社長の所為で余計な出費が…………。
「わあああああ~っ……!!」
「もうやだぁっ! おウチ帰るぅっ!!」
「ママーーーーっ!!」
あっ……。子供達、泣かないでください。
可愛い皆さんには、こんな酷い事しませんからっ……!
私が貴方達に幸福を与えます。
私だけが、貴方達を英雄にできるのです。
さあ、怖がらないで。こっちに来てください。
社長は……。そう、人体破壊講座用の教材なのです。
皆さんは、息をするようにコレぐらい出来る英雄になっていただかないと!
さあ、コレを使ってお勉強しましょうか。




