表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.5章:バッドカンパニー【新暦1225年】
477/875

過去:先住民と仲良く



■title:<泥縄商事>の輸送船にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


 アッハ~! 久しぶりの船旅は楽しいねぇ。


 お菓子、もう1袋開けちゃお!


「社長、船旅ならいつもしてるでしょ。ウチの本社は艦隊っスよ?」


 本社艦隊はデカ過ぎて、船旅って感じがしないんだよね~。


 こういう狭くてガタガタ揺れる輸送船で移動している方が、船旅~って感じがするんだよ。昔はこういう船で混沌の海を渡って、色んな世界に行ったもんだよ。


「昔はどんなもの売ってたんですか? 棍棒?」


 そういうのも売ってたけど、主力商品はやっぱ銃火器だね。


 多次元世界の大半は、未だに銃火器のない後進世界。


 シンプルな構造の銃火器なら、簡単に手に入るし~。自社工場での量産も容易いし~。整備や弾丸の提供でサブスクも出来るからねん。


「昔も今も、そんな大差ないですね。あっ、届け先の世界の外殻に到達しました。もう少し移動して海門(ゲート)を――うおっ?!!!」


 うひっ! なになにっ!? いまの爆発音!?


「海門開いて、界内に逃げ込みます! 『岩の中にいる』とかならないように祈っててください! 多分、さっきの爆発は機雷です!!」


 どわああああ~~~~!! ゆ、揺れる~っ! 潰れる~!!


「っ…………!! ふぅっ……!! なんとか地面とキスせずに済んだ。社長、生きてますか? まあ死んでてもいいんですけど」


 誰だよ~!! こんなとこに機雷を仕掛けたの~!


 混沌の海の中じゃ、マッチ1本つけただけで死にかねないのに!


「どこかの戦場から流れてきたんですかね? 迷惑な……」


 ウチの商品だったりして~。


「それで死んだら笑えないっスね。おっ……さっきはツイてなかったですけど、侵入事故を起こさなかったうえに目的地近くに出たみたいですよ」


 日頃の行いが良いからね!


「……いや、ホントにツイてんのかな? 届け先の拠点、吹っ飛んでますけど」


 吹っ飛んでるって何さ。飛んでどっか行ったってこと?


 ギエエエエエ! 一帯が爆発したみたいに吹っ飛んでる!!


「ね?」


 この世界は騎乗用の(あぶみ)が開発されて間もない程度で、常理を曲げる術式の類いもなかったはずだけど……。


「届け先の客が、ウチの売った兵器で自爆したのでは? 彼ら、泥縄商事の兵器を使ってこの世界で仕事してたでしょ?」


 彼らに売ったのは銃火器と当面の物資と偵察用のドローンと、機兵3機。それと方舟を2隻だけだよ。方舟を自爆させたら……これぐらいになるかもだけど。


 虎の子の方舟をわざわざ自爆させるとは思えないなぁ。


「仲間割れでもしたのでは?」


 自殺願望ある奴が行動を起こしたんじゃないなら、違うと思うけどなぁ。


「仲間割れじゃない。現住民に出来る芸当じゃない。って事は……第三者?」


 他所の侵略事業者と戦ったってこと?


 だとしても、ここまでの破壊が起きるかなぁ……。


「どっかの正規軍なら有り得る話でしょう。交国軍に襲われたとか……」


 それは確かに。


 さっきの機雷も、そいつらが設置したものかも?


「帰りますか~。輸送船(ウチ)の火器で太刀打ち出来そうにないですし」


 まあまあ待ちな! 我が社員!


 ウチは取引先に夢と希望と現住民を蹂躙する兵器を届けに来たんだ! ここで顧客を見捨てたら信用問題に繋がるよ。信用問題!


「闇商社に信用もクソもないでしょ。客はもうやられてますよ。多分」


 連絡取るわ、一応。


 死んでたらさっさと帰るけど、生きていたら商品を届けに行く。で、代金もらってさっさと撤収でいいっしょ?


「届け先、絶対にボロクソにやられてますよ。支払いに期待できないのでは?」


 その時は魂一括払いで!


 ぴ、ぽ、ぱ……っと……。


 もしもーし! <ゴレオン人材派遣>の皆、生きてるぅ~?


 お、生きてる? いまどこ~?


「生きてんのかよ。面倒事に巻き込まれなきゃいいけど……」




■title:とある後進世界の一角にて

■from:泥縄商事社長のドーラ


 おーい! ゴレオン社長~!


 ゴレオン人材派遣のゴレオン社長~! 注文の品、届に来たよん。


「あぁ……。すまんな、泥縄商事。社長自ら届けに来てくれたのか」


 本社艦隊にいたら、大掃除の邪魔だから出て行けって言われてさ。


 無事なようで何より。けど、酷い有様だね? ちゃんと食事してる? 半年ぐらい、野山に潜んで逃亡生活している指名手配犯みたいに見えるよ。


「実際、俺は指名手配犯だからな。……アンタと同じで」


 あは。そうだったね。


 けど、一体どうしたの?


 ゴレオン人材派遣は最近、イケイケだったじゃ~ん。


 この世界での仕事、かなり上手く行ってたでしょ?


 あれほどいた部下と奴隷はどこに消えたの?


「奴らにやられたり、逃げたり……寝返ったり、色々だ。クソッ……!」


 奴らって誰?


「<エデン>だよ」


 あっらぁ~! これはこれは、ガチでツイてないね!


 <真白の魔神>が立ち上げたとされる対プレーローマ組織<エデン>は、組織の長の死によって一度滅びた。


 しかし、エデンの遺志は形を変えて生き続けている。現在は対プレーローマに限らず、弱者救済を掲げて戦う「正義の組織」になっている。


 人類連盟に睨まれているから、テロリスト扱いだけどねん。彼らは「弱者の味方」だけど、人類連盟にとっては鬱陶しい正義マン集団なのだ。


 あたし達のような犯罪者よりは、マシかもだけど~。


「なんで……なんでこんな後進世界にエデンが来るんだよ……」


 エデンは弱者救済を掲げているからねん。


 キミ達に蹂躙されている後進世界の住人も、彼らの救済対象だよ。


「蹂躙? バカ言うな! 俺達は現住民とキチンと交渉してんだぞ!? たまに武器で脅すけど、それは現住民が襲ってこないよう威圧しているだけだ!」


 でも、キミらって「人材派遣」と言いながら「奴隷売買」してんじゃん。


 現住民をさらってさぁ。


「俺達はさらってねえし! 現住民に『良い人を紹介してくれたら、紹介料出すよ』って商取引を持ちかけただけだっつーの!!」


 でも、その現住民が別の現住民を誘拐してきてるでしょ?


「俺達は直接誘拐してないですぅ~!」


 とかなんとか言って、後進世界の住人を何人も異世界に売り飛ばしてきたから人連から追われる身になったんでしょ?


「でもさぁ……! 俺達が異世界に売り飛ばした人材は、この世界では口減らしとして捨てられる奴らも多かったんだよ!? 1人さみしく飢えて死んでいくより、異世界で衣食住と職を保証された方がいいだろぉ!?」


 衣食住を保証されてつく職が、過酷な労働なんだよね。


 エルフの女の子とか、高~く売れたでしょう?


「エルフのショタも高く売れた!!」


 そう……。


「顔が良いと一層高く売れるから、俺ら必死に化粧の勉強してガキや女共の顔をキレ~に整えて売ってたんだぜ? 涙ぐましい企業努力してたのに……」


 どうでもいいよ。


 それより、エデンはいつ来たの?


「3日前だ。ウチの方舟(ふね)も、全部やられた……」


 あらら。


「くそっ、俺達は町を潤す優しい人材(ドレイ)派遣会社なのに……! そこらの村を襲撃して村民を奴隷にしていたのは最初期だけだったのに!!」


 やっぱ襲ってんじゃん。


「直ぐに現住民の方から取引を持ちかけてきたんだよ! 奴隷を捕まえてくるから、分け前くれって!! 自分の子供を連れてきた親もいたんだぞ!? さすがの俺らもドン引き! 銃を突きつけて値引きさせたよ!!」


 最近のゴレオン人材派遣はさぁ……熱心に奴隷売買してたよね。


 販路拡大までやってたよね?


 けど、あたしは忠告したよね~?


 大した武力(ちから)がないうちから、手広くやり過ぎるなって。


「仕方ねえじゃん。大口の顧客が見つかったんだ。ガンガン寄越せって……」


 多分、キミ達はやり過ぎたんだよ。


 やり過ぎたから目立って、エデンみたいのがやってきたの。


 エデンはキミ達が売り飛ばした奴隷に話を聞いて、キミ達の存在を掴んで……いつもの弱者救済をしに来たの。


「この世界の奴らだって、俺達の商売にたかって甘い蜜を吸ってたくせに……」


 昔は奴隷売買やってた先進国みたいなことを言う~。


 それ、今じゃ別に何の言い訳にもならないからね?


 エデンみたいな狂犬が来なくても、人連が介入してくる事もあるんだから、手広くやり過ぎたら危ないよ~って言ったじゃぁ~ん。


「でもでもだって、奴隷は未だに需要あるからさぁ……」


 ハァ。まあ、いいや! キミ達がどうなっても泥縄商事はそこまで痛くないし。


 払うものを払ってくれれば、抵抗のための武器ぐらい渡すよん。


 今日は注文のあった機兵5機を納品しにきたから――。


「たった5機の機兵で、エデンとやりあえるわけねーだろ!?」


 末端の構成員相手なら、何とかなるでしょ。


「相手はファイアスターターだぞ!?」


 うげ~。エデン実働部隊のナンバー2が、こんなド田舎世界に来てんの?


 あの破壊跡を見た時、「神器使いが来てそ~」とは思ったけど、よりにもよってファイアスターターかぁ……。そりゃキミらも軽く蹴散らされるわけだ。


「奴は俺達の方舟を消し炭にして、その後方にあった山も消し飛ばしたんだ。多分、ウチの人間で生き残っているのはここにいる奴だけ……」


 そっかー。


「現住民も裏切ってきた。つーか、奴らはファイアスターターを神か何かだと勘違いしている。正義ゴッコが好きなだけのバカなのに……!」


 まあ、この世界の人達には神器使いがカミサマに見えてもおかしくないね。


「でも、アンタが来てくれて良かった! アンタらの方舟で脱出しよう!」


 いいけど、支払いは?


 ゴレオン社長はロリコン悪党強姦魔だけど、支払いだけはキッチリしてたじゃん? いつものニコニコ現金払いしてくれてたじゃん? たまに奴隷くれたけど。


 今回も耳を揃えて払ってくれるよね? ここに持って来た機兵と、キミ達の逃亡幇助代を現金払いしてくれるよねぇ?


「エデンに襲われた俺達に、まともな支払い能力があると思うか?」


 自分達を奴隷として売るしかなさそ~。


「この借りは、いつか必ず返す! 出世払いさせてくれ! 今度は上手くやる。それどころか、エデンや人連やプレーローマも来ない世界を紹介してくれたら、俺達はやるぜ! 今度も大儲けしてやるからよぅ!」


 …………。


「アンタらだって、奴隷は欲しいだろ? 戦争用の奴隷とか欲しいだろ? 俺達が基礎訓練をつけたうえで出荷してやってもいいぞ! アンタのとこの社員が『質の良い戦闘員が欲しい~』って嘆いてたの知ってんだぞ」


 訓練済み奴隷(それ)も悪くないね。


 けど、キミ達にそこまでの教育が出来るのかな?


 落ち目のキミ達に貸しを作ってもさぁ……。


「…………。俺達を裏切るつもりか?」


 キミ達を置いて逃げちゃダメ、って契約書に書かれてる? 書かれてないでしょ? キミ達が金無しの敗北者なのが悪いだけじゃ~ん。


 一度死ねば終わる脆弱な人間のくせに、慎重さを欠いて無駄に事業拡大して、エデンを呼び寄せて壊滅状態。そんな敗北者が再起できるのかな~?


「……まだ立場がわかってないようだな?」


 ハァ?


「この距離なら外さん! おい! 泥縄商事の社員共! 貴様らの社長がノコノコと俺に近づいてきたから、人質に取りやすくなったぞ! 社長を殺されたくなかったら、テメエらの方舟を寄越せ!!」


『社長! 先に帰りま~す!』


『お先で~~~~す!!』


 ウチの社員、社長(あたし)見捨てるの早すぎ!!


 ゴレオン社長が必死に脅迫してんだから、もう少し話を聞いてあげて!?


『いや、エデンが来てるんでしょ? 俺達も逃げないと』


『ファイアスターター相手なら、見つかったら終わりです。カトーよりマシだとしても……奴の艦隊の砲撃でブッ飛ばされて終わりですよ』


 まあ、確かに……。


「おいっ! お、お前らっ! ホントにお前らのとこの社長殺すぞ!?」


『『『どうぞどうぞ』』』


「テメーの社員、どんな教育してんだよ!?」


 親の背を見て子は育つ。


 社長(おや)がウンコだと、皆もウンコになるんだよ。


「自分で言ってて悲しくならないか?」


 少し……。まあでも、あたしは死んでも何とかなるし~。


 仮にあたしが滅びたら、社員共もまとめて地獄行きなのさ~。


 というわけで、人質を取るのが無駄だってわかったカナ~?


「くそっ! くそっ……! このままファイアスターターに見つかって消し炭にされて死ねって言うのかよ……!?」


 それは可哀想だから逃がしてあげるよ~。


「ほ、ホントか!?」


 支払いさえキッチリしてくれたらね。


「いや、だから金も奴隷もねえんだよっ……! 今直ぐには――」


 いや、あるでしょ。


 ゴレオン社長と、生き残った社員の「魂」があるでしょ。


 この契約書に「魂一括払いします」と書くだけで、救ってあげるよ。


 書けば絶対に逃がしてあげるよ。ほれほれ~。


「どうやって魂で支払うんだよ……。まったく……。ほら、書いたぞ!」


 血判もよろしく。


「くっ…………。さあ、これでいいか!? これで逃がしてくれるのか!?」


 は~い、契約成立ぅ! これでキミ達も私の大事な社員だよ~ん! 早速、皆で一緒に逃げるゾっ! クソみてえなド田舎世界にサヨナラー!


 あぁ、もしもし~? ゴレオン社長を説得できたから、戻ってきて~。


「あっ、ファイアスターターだ」


 あっ。


 うわーーーー!


「なぁ……お前らのとこの輸送船、一瞬で消し飛んだんだが?」


 あ~あ。


「ファイアスターターの艦隊が、こっちに砲塔向けてるんだが?」


 しゃーない。死んで帰るか。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ