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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.5章:バッドカンパニー【新暦1225年】
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過去:みんななかよし泥縄商事



■title:<泥縄商事>本社艦隊にて

■from:泥縄商事の平社員


 よう、新人。ウチの会社にはもう慣れたか?


「いえ、まったく……。一緒に入った同期も本社艦隊内で行方不明になって……」


 それは泥縄商事名物、「消える社員」だな。


 どうせ一時的な行方不明だ。そのうちケロリと帰ってくるよ。


「はあ……」


 お前も行方不明になりたくないなら、いまは大人しく隠れておけ。


 ここはしばらく危険だ。どこかで身を潜めておかないと……。


「ここって泥縄商事の本社艦隊ですよね? ここのどこが危険なんですか?」


 雰囲気でわかるだろ。人の気配がしない。


 本社艦隊は常時移動する巨大海中拠点(アイランド)みたいなもんだ。かなりの社員と関係者が暮らしているから、大抵の場所は活気がある。


 けど、今みたいに人の気配がしない時は……絶対に何かが起きている。いまSNSで情報集めてやってるから、少し待て。


「は、はあ……。ありがとうございます……?」


 ……ああ、どうも新商品が暴走したらしい。これも泥縄商事名物だ。


 既に何人も殺されているらしい。


 ウチの会社、死亡しても労災下りないから何とか生き残るしかねえぞ……!


「ちょっと意味がわからないです。こういう事、よくあるんですか?」


 あるなぁ。恒例行事だ。


 この間は本社艦隊内でゾンビが大量発生してな。けど、まあ、何とかなるさ。死んだと思った奴も、あとでフラリと帰ってきたりするし……。


 あっ、やばい。隠れろ。……多分、アレが噂の「新商品」だ。


「きょ、巨大なナメクジ……? いや、肉塊に見えますけど……」


 アレが社員を襲っているらしい。


 新人、顔色が悪いぞ。吐いてもいいが、静かに吐けよ。


 アレに気づかれたらオレ達も、壁の染みになるぞ。


 警備部の小型機兵が止めに走ったらしいが、流体装甲ごと溶かされたらしい。


 生身の凡人が勝つのは不可能だな。


「警備部の人達は……? 警備部は壊滅してしまったんですか……!?」


 体勢を立て直すって名目で逃げたんじゃねえかなぁ。よくある事だ。


 まあ、そんな悲観的になるな。


 このままだと仕事にならないから、そのうち誰かが解決してくれるさ。庶務二課とか商品企画部か、夜行(ナイトシフト)が……。


「今からでも逃げ――」


 やめとけ。あそこでペチャンコになった社員が見えないのか?


 オレ達は……逃げ遅れた。新商品(ヤツ)が遠くに行くまで、ここに隠れてやり過ごすしかない。あの巨体なら、ここには入ってこれないだろ。多分。


「警察……。いや、軍隊に助けを……!」


 いや、バカかよ。オレ達が捕まるぞ。


 泥縄商事は反社会勢力……犯罪組織なんだぞ。


「えっ?」


 えっ。じゃねーよ。扱っている商品が明らかに違法な品だろうが……!


 武器とか薬物とか、奴隷まで扱ってるのは知ってるだろ?


「で、でも、ウチの課長、武器は『みんなもってる』って言ってましたし……薬物も『副作用ない』とか言ってて……。奴隷っぽく見える人達も、『職業斡旋してるだけ』って……」


 ハァ……。今年も何も知らず、騙された社員が入ってきたのか。


 あるいは、お前が異常に察しが悪いのか……。


「す、すみませんっ……!」


 隠れている間、暇だし……良い機会だ。授業をしてやろう。


 ウチの会社について教えてやる。


 泥縄商事は闇商社だ。誰とでも取引する犯罪組織だ。


 社長の方針で異世界侵略事業者との取引に力を入れているが、それ専門ってわけじゃない。取引相手は色々いる。


 犯罪組織やテロ組織、時には国家とも取引を行う。泥縄商事は違法な品を扱う違法組織だから、まともな国家は直接取引したがらないが……界外進出している国家は大抵、一度や二度は泥縄商事と絡んだ事があるな。


「国家が犯罪組織から何を買うんですか……?」


 そりゃあ兵器全般だよ。


 泥縄商事は金さえ貰えれば、機兵や混沌機関も調達する。


 混沌機関を自力で作成できる国家は限られるから、調達先が限られるから……闇ルートだろうと手に入れたがる奴は大勢いるんだよ。


 横暴な強国相手から無理をして混沌機関を買うより、後ろ暗かろうと犯罪組織経由で手に入れてしまおう……って国家もいるんだよ。まあ、おおっぴらに出来る取引じゃないけどな。


 国家との取引もあるとはいえ、泥縄商事は人類連盟に犯罪組織として睨まれている。オレ達のような社員が正規軍と遭遇したら、裁判無しでその場で処刑される。


 社長は不死身だから、しぶとく生き残るだろうが……。


「そんな……! 社長は、泥縄商事は『正義の商社』って言ってましたよ?」


 んなわけねえだろ。見事に騙されてるなコイツ……。


「泥縄商事は『後進世界の発展を促している』って言ってましたよ? 商取引によって人類全体の力を底上げしているって……」


 あー…………完全な嘘ってわけじゃない。


 多次元世界には色んな文明がある。


 世界が異なれば技術水準は大きく異なる。方舟を当たり前に運用している世界もあれば、未だに弓や槍で戦っている世界もある。


 後者みたいな後進世界に銃火器や機兵を持ち込んで侵略を行えば、結果的にその世界の技術水準は上がるんだよ。


 侵略で異世界の兵器や技術が広まっていくんだ。


 だから、結果的に(・・・・)後進世界は発展する。


 異世界の兵器を持ち込んで大きな戦争が起きることで、人が大量に死んで……現地の文化は「不都合」ってことでジェノサイドされていく。力を持った侵略者側の都合の良い歴史が作られていく。


 侵略された側にとっては大迷惑な事が起きる。


 だがその代わり、異世界の技術による産業革命や農業革命で一気に進化していく世界も少なくない。異世界の医療技術により、不治の病も消えていく。


 まあ、本来は交わることがなかった世界が絡み合った結果、ヤバイ疫病が生まれる事もあるけどなぁ。長い目で見れば豊かになるよ。


 逆に一気に滅びる事もあるけど。


「功罪両方があるって事ですか。でも……その世界の人間が望まなかったことをしている時点で、それは悪いことなんじゃ……」


 そうだよ?


 人類連盟も「異世界の技術をみだりに後進世界に持ち込むのは禁止」と言っている。違法行為をやっているから泥縄商事も犯罪組織として追われているんだ。


 人類連盟は人類連盟で好き勝手やってるけどな。


 奴らと泥縄商事、本質的にやってることは変わらないと思うがね。


 追われる泥縄商事(おれたち)と違って、奴らを裁く者がいないからやりたい放題ってだけ。プレーローマも人類文明荒らしまくってるし……。


 それはともかく、泥縄商事は犯罪組織だ。闇商社だ。


 けど、社内にも正義の心(・・・・)を持って仕事している奴らもいるんだぜ?


「本当ですか……? 功罪があっても、悪事には変わりないんですよね……?」


 まあな。


 正義の心といっても、本当の「正義」かは怪しいもんだ。


 だが、泥縄商事の中にも色んな考えがあるんだよ。


 異世界の技術を持ち込めば、後進世界を急速に発展させるのも不可能じゃない。発展することで、本来は死ぬ運命にあった人達を救う事も不可能じゃない。


「その世界にとっての死病を、異世界の技術で風邪程度のものにするとか?」


 そうそう。


 あるいは、異世界から来る驚異に自力で対抗できるほど強くするとかな。


 強くなれば、そんじょそこらの侵略者なんてはね除ける事ができる。


 泥縄商事の仕事は「世界の予防接種」とも言える。


「病気を持ち込んで、無理矢理抗体を作っているだけでは……?」


 そうとも言う。


「その新しく来る侵略者を、泥縄商事がけしかけている事は……」


 そりゃもちろんある! 仕事だからな!


 泥縄商事の介入で結果的に発展した世界を、「発展の手間が少ない世界ですよ」と言って異世界侵略事業者に紹介するのはよくあることさぁ。


 そういう事を平気でやるクズも多いが、自分達なりの「正義」に従って異世界に介入する奴らも確かにいる。


 代表例は……第一営業部と第二営業部だな。


 あそこの部長2人は、それぞれの正義に従って動いてるぜ。多分。


「あれ……? 昨日見た時は、お二人とも廊下で口論してたんですけど……」


 それぞれ信じる「正義」が違うのさ。


 第一営業部長は「効率」を重視し、第二営業部長は「現地人」を重視している。


 第一営業部長は世界の発展のためには、既に技術を持っている者……異世界人による侵略や統治を行った方が「効率的」だと考えている。


 原始人に銃の使い方を教えるより、銃の使い方を知っている異世界人に侵略と統治させた方が早い! って考え方だな。


「でも、それってその世界で暮らしている人達を踏みにじる行為では……」


 踏みにじるよ。


 けど、その痛みもいずれ薄れていく――というのが第一営業部長(あのひと)の持論だ。50年、100年と立てば侵略の記憶も薄れていく。


 支配されているのが当たり前になっていく、って事らしい。


「…………」


 納得しづらいか?


 お前は第二営業部長の考えの方が、賛同しやすいかもな。


「第二営業部長は『現地人』を重視しているんですよね」


 そうだ。


 あの人は第一営業部長とは逆の考えを持っている。


 異世界人による侵略行為を良しとしていない。


 ただし、後進世界に「異世界の技術」を渡している。


 現地人に異世界の超技術を渡して、現地人による覇権国家を作らせる。そうすることでその世界をあくまで現地人の手で発展させる。


「ええっと……?」


 これは実例を話した方がいいか。


 例えば、騎馬兵が最強の世界があったとしよう。


 その程度の文明しかない世界に、機兵を渡したらどうなると思う?


「機兵を手にした勢力が、その世界で最強の勢力になる……」


 そうだ。で、渡すのは機兵だけじゃない。


 様々な異世界の技術を渡して、その世界を強制的に進化させる。


 もちろん、必要に応じて指導員は派遣するけどな。


 けど、その世界を異世界の技術で耕し、発展させるのはあくまで現地人だ。


「それって……第一営業部長がやっている事と、大差ないのでは……?」


 当事者が違う。


 第一営業部長は「異世界人(よそもの)」を使う。


 第二営業部長は「現地人」を使う。


 前者の方が効率的かもしれないが、統治関係に不安がある。力を持っていようと余所者である以上、現地人は反発する。


 現地人を使った方が、異世界人よりは反発が生まれにくいんだ。まあ……同じ世界の住人だろうと、離れた場所に暮らす奴らならどっちにしろ余所者だが……異世界人よりは受け入れられやすい時もある。


 第二営業部長は「その方が現地人に寄り添った発展になる」と言い張って、後進世界に直接営業をかけに行く事が多いな。


「どちらかというと、第二営業部長のお考えの方が……納得しやすいです」


 そうかい?


 どっちにしろ悪事なんだがね。


「異世界人による侵略より、現地人による侵略の方が大義があるかなぁ、と……」


 どっちもどっちさ。


 大義なんて、ただの言い訳に過ぎない。


 正しいから殺していい。


 相手を選べば、義賊として盗みを働いていい。


 そんな理論武装したところで、悪事は悪事さ。


 でも、やってる本人達は大真面目に気にするんだよなぁ。大義名分。


 悪党より、正義の味方ぶる方が気持ちいいもんなぁ……。


「楽しい……ではなく?」


 楽しいが、それ以上に気持ちいいんだよ~。


 異世界侵略に対する考え方も、様々な「正義」がある。


 第一営業部は効率派。第二営業部は尊重派。


 人類連盟は基本的に干渉自体を否定し、「発展は各世界の自然な成り行きに任せるべき」と言っているが……実質は第一営業部に近い考えだよ。


 人類連盟の常任理事国なんて、どこもかしこもハリボテの大義名分を掲げて異世界侵略しまくってるからな。交国とか特に第一営業部に近い考えだ。


 ともかく、皆それぞれ色んな考えを持っているんだよ。


 第一と第二営業部は方針の違いでよく喧嘩しているが――。


「先輩は何派なんですか?」


 オレ? オレは営利派よ。


 金さえ入ってくれれば、取引相手なんて誰でもいい。


 社長なんかはもっとヤバい愉快犯だが――。


「プイプイプイ~~~~っ!!」


「あぁっ! ば、ばけもの! ばけものがこっちに……!」


 気づかれたか! えいっ。


「あっ! せ、先輩!? なんでボクを突き飛ばして……! 先輩!? どこ行くんですか!? センパーーーーイッ! あああああああああああああ!!」


 悪い! 娘の養育費を払わなきゃならねえんだ。


 こんなところで死んでられねえ!


 けど、これ……逃げ切れるかなぁ!?


「そこの平社員。社内で暴れている化け物を知りませんか?」


 人事部長! いいところに!


 そこの廊下を曲がった先に――いやもうそこに! ギャッ!!


「ブイブイブイ~~~~ッ!!」


「醜くなりましたね、社長。黙っていれば美少女に見えるのが、貴女の唯一の取り柄だったのに……。ですがご安心を、直ぐに楽にして差し上げます。どうせまた生き返るんだろうけどウオオオオオ死ねえぇーーーーッ!! ぐえッ!!」


 あ、あぁっ……人事部長……。くそっ……死にたくねえ……。


 死にたく…………あれ? あぁ、そうか、思い出した。


 これも、泥縄商事名物――――。


「プイプイプイ~」



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