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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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ヴィオラの異常



■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 巫術をどう活用するか。


 平和利用にしろ、軍事利用にしろ、妙案はなかなか思い浮かばない。


 かといって、ずっと考え続けるわけにもいかない。


 今日も索敵補助任務をする。これはこれで巫術師の力を示す役に立つ……はずだ。途中で放り出すのも勿体ないし、他にやることもないからなー。


 ロッカは相変わらず部屋にこもっていることが多いが、ここ最近はグローニャがよく来てくれている。


 今日もフェルグスがスアルタウとグローニャを連れ、やってきたが――。


「オレ、今日は不参加ってことで。アンタがグローニャとスアルタウの面倒見てくれ。んじゃ、よろしく――」


「おぉい、待て待て。ちょっと待て」


 去っていこうとするフェルグスの肩を掴み、呼び止めると、「んだよ、オレはオレで忙しいんだよ」と言われた。


 フェルグスは相変わらずそっけないし、俺のこと「クソオーク」って呼んでくる。でも、最初の頃より仲良くなれたと思ってたんだが――。


「フェルグス、俺、またお前の癇に障ることやったか……?」


「はぁ?」


「いや、俺が嫌いだから任務手伝ってくれねえのかと……」


「お前は嫌いだけど、今日サボるのは別の理由だよ」


 フェルグスはそう言いつつ、理由を話すのをためらっているようだったが……「アンタには聞いとくか」と言って俺の顔を見つめてきた。


「アンタ、ヴィオラ姉になんかした? 様子おかしいんだよ、ヴィオラ姉」


「えー……?」


 一応、俺はヴィオラと仲直りできたはずだ。


「まだ怪我が治りきってないから、調子悪いんじゃねえのか? キャスター先生は問題なく回復しつつあるって言ってたんだがなー……」


「ん~……。なんか、そういうのじゃないんだよ」


 アンタは見たことねえか、と言いつつ、フェルグスは手を広げた。


「ヴィオラ姉、暇さえあれば何か描いてるじゃん。紙に」


「そうなのか? 俺が見舞い行った時は、そういう様子なかったが……」


 フェルグス曰く、ヴィオラは何かを一心不乱に描いているらしい。


 まるで何かに取り憑かれたように手を動かして描いていたかと思えば、難しい顔をして唸って考え込んでいるそうだ。


「ガリガリと手を動かしてるなら、元気で良かったじゃねえか。ヴィオラもずっとベッドの上じゃ暇なんだろ。さすがに」


「いや、単なるお絵かきとかじゃねえんだよ……」


「何を描いてんだ?」


「それがよくわっかんねーんだよ……。絵というか、図形? を描いていたかと思えば……よくわかんねー字をズラズラと書き始めたりさぁ」


 その様子が心配だから、あまり傍を離れたくないらしい。


 まあ、まだ怪我が治りきってないんだし、何かやることあったとしても無理させると完治まで長引いちまうな。


 フェルグスには看病に行ってもらい、アルとグローニャを預かる事にした。


「ね~、今日は何して遊ぶのん?」


「堂々と『遊ぶ』って言うな。これ一応、仕事なんだからな~?」


「グローニャ、おままごとしたぁ~い」


「んも~。マイペースなお姫様だなぁ~」


「ぷんっ! グローニャ、どこかのおひめさまみたいに逃げたりしないも~ん」


「はいはい……」




■title:星屑隊母艦<隕鉄>にて

■from:死にたがりのラート


 グローニャはたっぷり遊んだ後、勝手にお昼寝を始めた。


 ご機嫌ですぴすぴ寝ているグローニャに毛布をかけてやってると、申し訳無さそうな顔したアルが謝ってきた。


「ごめんなさい、ラートさん……遊んでばっかりで……」


「まあいいさ。いや、良くないけど……息抜きも必要だ」


「この任務って、ヴィオラ姉ちゃんとラートさんがボクらのために用意してくれたお仕事なんですよね? ボクらが戦わずに済む道を見つけるための……」


 それなのに成果を出せてなくてごめんなさい、と謝られた。


 お前らが気にすることじゃないよ、と言って頭を撫でる。


 グローニャとほぼ同年代なのにアルはしっかり者だよ~……! えらすぎてこれだけで「成果があった!」と言ってやりたくなる。


「俺達が妙案をパッと思いつけばいいだけなんだ。それが出来てないから、ごまかすためにも索敵補助任務やってるのさ」


「ボクにできること、他にありませんか? なんでもしますっ」


「いま直ぐには無いかな? とりあえず索敵補助しよう」


 といっても、ここ最近、タルタリカの群れと全然出くわさねえ。


 対タルタリカ戦線の最前線にいないし、陸地をガッツリ探索してるわけじゃないから、出くわさなくても不思議ではないんだが――。


「そうだ。アルは何か妙案思いつかないか? 巫術の新しい使い方!」


「うーん……」


「お前達を戦いから遠ざける案じゃないんだが……最近、俺が思いついた案だと『お前達を機兵に乗せる』って案があってだな」


 そう言うと、アルは目をまんまるにし、「機兵に乗っていいんですかっ?」と言ってきた。興味津々の様子だ。


 俺の考えたワイヤーを使った遠隔操縦案について話す。


 どういう意図のものか、どういう問題があるかについて話す。


「――と、まあ……機兵の動きが大きく制限される欠陥案なんだが……お前達に流体甲冑を使わせるより遥かに安全だと思うんだよ」


「ボクらが機兵を操作……」


「また操作してみたいか?」


 聞いてみると、アルはコクコク頷いた。


「機兵動かすの、楽しかったです……! 自分が巨人になったみたいで……」


「わかる。あの視点楽しいよなっ! 俺達はディスプレイ越しに外を見るが、アル達の場合はカメラから直に外が見えるんだろ?」


 それは臨場感マシマシになるだろう。


 フツーに機兵乗ってても楽しいんだ。


 巫術で機兵に憑依したら、もっと楽しそうだなー。


「でも、特別行動兵(ぼくら)が機兵に乗っていいんでしょうか……?」


「勝手に乗ったら怒られるけど、許可取れば問題ないさ。今度、実験の一環ってことで搭乗許可取り付けてみるかな。戦闘しなきゃ直に乗っても大丈夫だろう」


「いっ、いいんですかっ!?」


「隊長に聞いてみるよ。許可が下りなかった時はゴメンな」


 そう言うと、アルはとても嬉しそうに「やった!」と言ったが――直ぐに身を強張らせて上目遣いで見てきた。


「ご、ごめんなさい。機兵をオモチャみたいに……」


「いやいや、気持ちはわかるぜ。機兵乗るの楽しいもん」


 隊長にダメ元で聞いてみよう。


 何とかなると思うが……確約はしないでおこう。


 出来ない約束を考えなしにして、ガッカリさせたら悪い。フェルグスがケナフで言っていたように……。俺も俺の発言に責任持たなきゃ……。


 隊長の許可は取れそうな気がする。


 問題は技術少尉かな?


 あの人、ケナフ以降、少し大人しくなったけど……子供達や星屑隊(おれたち)のこと睨んでくるんだよな。隊長いるとそそくさと逃げ出すけど。


 アル達が家族にメール送る権利は、技術少尉が握っている。


 おかげでアル達はしばらく家族と連絡取れないでいるらしい。家族は交国の保護下にある都市や開拓街にいるはずだから、無事だろうけど……。


 家族と会えないどころか、連絡取れないのはキツいよなー……。技術少尉と交渉できればいいんだが、交渉するカードなんかねえし……。


「ラートさん……? どうかしましたか? 悩み事ですか?」


「ああ、いや……。無い知恵を絞って妙案を考えようとしてただけだ」


 アルが心配そうに話しかけてきたので、笑ってごまかす。


 下手の考えナントヤラだ。妙案思いつく材料も無いし、気分転換しよう。


「アル。ケナフに寄る前にエッチ神の話をしただろ?」


「え、叡智(えいち)神様です……」


「そうそれ! 叡智神」


 シオン教の神、叡智神。


 あの話は少し気になったけど、聞き損なっていたんだ。


「叡智神について教えてくれないか? 興味があるんだ」


 そう言うと、アルは笑って「ボクでよければ」と請け負ってくれた。




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