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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.4章:悪魔の落とし子
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ため息を飲み干して 後編



■title:犬塚隊旗艦<瑕好(かこう)>にて

■from:親知らずのカペル


「…………。すまんな、カペル」


「ん……?」


 特佐に頭をナデナデしてもらっていると、特佐が急に謝ってきた。


 お前のような子供を人類(おれたち)の戦いに巻き込んでスマン、と謝ってきた。


「カペル、子供じゃないよ。生まれたのはずっと昔だし……」


「お前が生まれたのは、俺達と出会った頃みたいなもんだ。それまでずっと機械に繋がれて……。あの時、やっと生まれたようなもんだ」


 そうなのかな。


 でも、確かに「生きている」と感じるようになったのは、あの頃からだったかも。それまでずっと……生きているという実感も、ぜんぜんなかったし……。


「本来、お前は戦場に来るべき存在じゃない。それなのに……俺達の都合で戦争の手伝いをさせて、本当にすまん……」


「カペル、戦争の手伝い、イヤじゃないよ?」


 怖くなる時も、ある。


 けど、特佐達がいるから大丈夫。


 特佐達と離ればなれになる方が、ずっと怖いよ……。


 カペルだけになる方が、ずっと怖いよ。


「それに、カペルは……特佐達と一緒にいないと危ないんだよね?」


「……ああ。玉帝の所為でな」


 玉帝さんは、カペルを手元に置きたがっているみたい。


 カペルの神器が「便利」だから。


 でも、犬塚特佐が玉帝さんを説得してくれたおかげで、特佐についていく<特別行動兵>になれた。特佐達と一緒にいれる事になった。


「今回、玉帝の茶番に付き合ってやる対価として、オークの待遇改善だけじゃなくて、お前の待遇改善も求めた」


「カペルの?」


「ああ。だがハッキリ言って、玉帝はまったく信用できん。人類を救おうとする執念は本物だが……勝つためなら手段を選ばない女だからな」


 玉帝さんと犬塚特佐は親子のはずだけど、仲が悪い。


 犬塚特佐は玉帝さんの事を信じていないから、カペルに傍にいてほしいみたい。そうじゃないと守れないから、と言ってくれた。


「お前には悪いが――」


「ぜんぜん悪くないよっ! カペル、ずっと特佐のそばにいるっ!」


 特佐は困った顔を浮かべた。


 カペルを戦場に連れて行くこと、特佐はとてもイヤなことみたい。


 でも、それはカペルを守るために必要なことだし……。カペルも特佐達と一緒にいたいから、いいんだもん。


「カペルは、特佐達に守ってもらってるけど……。でも、特佐達についていくことは、自分で望んだことなの」


 ただ守ってもらうだけじゃ、なんか……イヤなの。


 カペルの神器(ちから)が役立つなら、いっぱい使ってほしい。特佐達の役に立てること、カペルも嬉しいから。


「特佐達のそばにいた方が、安全なんでしょ? 特佐達がいいなら……カペル、いっしょにいたいよ……」


「だが、もし俺が死ぬような出来事があったら――」


「特佐は死なないよ? カペル、がんばって特佐のこと守るよっ」


 頼りないかもだけど……がんばるのはホント!


 今よりもっと神器を使いこなして、もっと「便利」になって……特佐達の役に立つの。そしたら……胸を張って一緒にいられるはずだから――。


「お前が俺なんかのために、命を張る必要はない」


 特佐はそう言って、「俺は、お前のために命を張るけどな」と言った。


 カペルはダメなのに、特佐はムチャするの……ちょっとズルい。


 ズルいと思ったから「ダメだよ」と言おうとしたけど――。


「改めて誓う。カペル、誰にもお前を傷つけさせたりしない」


「特佐……」


「必ず守る。プレーローマからも、玉帝からも……必ず」


「……うんっ」


 胸がきゅ~っとなった。とっても嬉しかった。


 特佐にギュッと抱きつく。犬塚特佐、大好き。


 あ、でも……特佐を元気づけに来たのに、逆に元気づけてもらっちゃった……。カペル、やっぱりまだダメダメかも……。


「そろそろ、子供は寝る時間だ。歯を磨いて部屋に戻って寝なさい」


「ん……。えっと……」


 今日はちょっと、1人で寝るの怖いかも……。


 機械に繋がれる夢、見ちゃうかも……。


 だから特佐と一緒に寝たいなぁ……。寝るまで一緒にいてほしいなぁ……と思ったけど、それ言うのってワガママだよね……?


 迷いながらモジモジしていると、特佐は笑って「一緒に寝るか?」と言ってくれた。恥ずかしいけど、コクコク頷いていっしょにいてもらう事にした。


「ごめんねぇ……。カペル、迷惑かけて……」


「迷惑じゃない。俺も仮眠を取ろうと思ってたんだ」


 特佐は笑顔で「子供らしく甘えていいんだぞ」と言ってくれた。


 カペル、子供じゃないもんっ。


 でも……犬塚特佐の前だと、子供になりたい時は……いっぱいあるかも……。


「けど、俺でいいのか?」


「特佐が一番好き~……! 特佐と一緒にねんねすると、すごく落ち着く」


 特佐にギュッと抱きついて、匂いを嗅ぐ。


 この匂いが落ち着くの。


「特佐はね。ちょっぴりだけど、お父さんと同じ匂いがするの……」


「えっ……。俺も加齢臭が漂うようになったのか……?」


 特佐が自分の匂いをクンクン嗅ぎ始めたから、くすくす笑っちゃう。


 そういうのとは違うかも。


 特佐の匂い、落ち着くの。お父さんみたいなの。


 機械に繋がれて眠り続けていた時から知っている匂い。


 特佐はカペルのお父さんじゃないけど……でも、落ち着く。


「…………特佐は、いなくならないよね?」


 お父さんとお母さんみたいに、いなくなったりしないよね?


 特佐は「もちろんだ」と言って、笑ってくれた。


「お前を特別行動兵の任から解いて、安全な生活を用意しないと……安心して死ねないからな。それに、見たいものもある」


「見たいもの?」


「お前の結婚式だよ。ウチの嫁と隊の皆で参列して……お前の晴れ姿を見るんだ。多分、皆が泣くだろうなぁ……」


「特佐も泣いちゃうの?」


 ビックリして聞くと、特佐は「泣くといっても、嬉し泣きだよ」「涙にも良い涙があるんだ」と教えてくれた。


「うれし泣きなら……特佐もできる? 皆の前で、泣ける?」


「あー…………。まあ、嬉し泣きなら、いいかな? ちと恥ずかしいが……お前の晴れ姿と引き換えなら、悪くないな」


「そっか。そうなんだ……」


 カペル、いつか結婚する!


 特佐、泣かせるために結婚するっ!


 特佐もたまには泣くべきだって、思うから……。


「変な奴との結婚なら、さすがに反対するぞ~?」


「変なやつって?」


「うーん…………。それは……難しい質問だなぁ~……」


「特佐が決めた人なら、心配ない?」


 特佐が決めて――と言うと「それはダメだ」って言われた。


結婚相手(パートナー)は自分で決めるんだ。お前の意志で決めなきゃダメだ」


「んー……?」


「お前なら、きっと最高の相手を見つけられるさ」


「特佐みたいに?」


「そう。俺にとっての千歌音(ヨメ)のような相手を見つけられる」




■title:犬塚隊旗艦<瑕好>にて

■from:英雄・犬塚


「すみません、特佐。お休みのところ……」


「いいさ。ベッドに寝転がってボンヤリしてただけだよ」


 艦橋に呼ばれたので、急ぎの報告を聞き、判断を下す。


 急ぎといっても敵が近海にいるわけじゃない。襲撃でもない。……カペルを起こすような事にならなくて良かった。


 必要な判断を下した後、部下共は「休んでください」と言ってきたが、もう少し情勢を見極めたい。「珈琲をくれ」と頼み、艦橋に居座る。


「追加の判断が必要かもしれんしな」


「カペルに添い寝してあげてたんでしょう? あの子、起きた時に特佐がいないと寂しがりますよ。ひょっとしたら悪夢を見ちゃうかも……」


「おいおい、カペルを子供扱いしすぎだ。大丈夫だよ」


 自分の事は棚上げしつつ、珈琲を受け取る。


 珈琲すすりつつボンヤリしていると、暇な部下共が話しかけてきた。


「そういえば特佐、カペルにあの話はしたんですか?」


「あの話?」


「養子縁組の話ですよ」


「あ~……。あぁ、うん……。まだ、言ってねえけどぉ……?」


 少し言いづらい事だったので、そう返す。


 すると部下共はガッカリした表情を浮かべやがった。


「交国の英雄・犬塚特佐ともあろう御方が……養子縁組の話も切り出せないんですか。戦場ではいつも真っ先に斬り込んでいくくせに……」


「戦場では鬼神の如き活躍をする特佐も、家庭ではヘタレっすか」


「うっ、うるせえなぁ……! 戦場と家庭は別物なんだよっ……!」


 カペルは俺に懐いてくれている。……多分、そうだ。


 けど、養子縁組を切り出していい距離感なのかは、迷っているんだ。


 カペルに「いやです」とか、愛想笑いを浮かべられながら「特佐の命令なら……」って言われたら、俺はしばらく立ち直れないんだよ。多分、寝込む。


 単に話を持ちかけるだけじゃなくて、カペルに対してずっと責任を持つ話なんだ。責任を持つ覚悟はあるが、さすがに……ちょっと、勇気がいるんだよ!


 あの子の幸せは、当然願っている。


 けど、本物の家族になるって話は……やっぱ、切り出すのに勇気いるんだよ。


「そうだ! お前らの方から、それとなく探ってもらえないか?」


「いいんですか? いいならもちろん協力しますが」


「…………いや、待て待て待て……! カペルは賢い子だから、お前らが探りを入れた時点で色々察するかもしれん! 俺が部下を使って探りを入れるキモい男だと思われたら立ち直れんぞ……!?」


「「「…………」」」


「おいっ! 上官相手に『めんどくせえ……』って言いたげな顔はやめろよっ!」


「だって事実ですし……」


「特佐って変なとこヘタレですよね」


「この人は絶対、親バカになるんだろうなぁ……」


「いやもう、そこは手遅れだよ……。カペルに対して既に親バカだもん」


 くそっ! こいつら、他人事だと思って!!


 俺は既に、カペルのことは娘みたいに想ってるよ!!


 想っているからこそ、どう思われるか心配なんだよ。


「カペルはきっと喜びますよ。特佐だけじゃなくて、奥方様にも懐いているんですから……そんな悲観的にならなくていいと思いますけどねぇ」


「おっ、俺は機を見計らっているんだ。兵は拙速を尊ぶべきだが、闇雲に突撃すればいいわけじゃない。勢いだけじゃ、戦には勝てねえんだよ」


「さっすが交国の英雄サマっスねぇ~~~~!」


「ハハッ。勉強になりますわ」


 半笑いの部下共を小突くフリをする。


 コイツら!! マジで!! 人の気持ちも知らないで!!


 俺は色々、考えてんだよっ!


 最初は「特別行動兵の任を解いた後がいいか」とか「カペルが俺達のところ以外に落ち着ける場所を見つけてからにするべきか」とか考えていたんだ。


 けど、俺達のところ以外に安全な場所を用意出来ていないから……それならせめて、親代わりになってやりたいと考えて――。


「特佐が色々悩んでいるのはわかってます。けど……」


お嬢(カペル)のためにも、早めに言ってあげてください。あの子の立場が危ういものだってことは……犬塚特佐が一番よくご存知でしょうけど……」


「うん……。そうなんだよなぁ……」


 努力するよ、と約束し、少し1人にしてもらう。


 カペルは良い子だが、天使だから色眼鏡で見られがちだ。


 玉帝は「打倒プレーローマ」には心強い味方だが、手段を選ばないところは恐ろしい。


 カペルに「普通の子」の暮らしを用意しようにも、目を離すと玉帝が何をやらかすかわからんから……なかなか離れられない。


 カペルには当分、俺の傍にいてもらわないと。


 戦場は戦場で危ないんだが、玉帝が信用ならん以上……こうするしかない。


「…………」


 竹も……カペルのように扱うべきだったのかもしれない。


 竹に嫌われようと、憎まれようと、特佐としての立場を振りかざし……無理矢理でもアイツを手元に置いておくべきだったのかもしれない。


 俺はあと、何度後悔すればいいんだろうか?


 そんな考えを抱くと、口から余計なものが出そうになった。


 それを珈琲で飲み干し、前を向く。


 久常竹(おとうと)は死んだ。


 報告によると……ブロセリアンド解放軍に殺されていたらしい。


 これ以上の後悔をしないためにも、やるべき事をやろう。




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