過去:名付け親
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ボクは自分の名前が大嫌いだった。今でも大嫌いだ。
銀兄さんは立派な名前をもらっているのに、ボクはありふれた植物の名前。
久常竹。
竹なんて、カッコ良くない。
こんな名前をつけたのが、よりにもよって銀兄さんだから……余計に嫌だった。銀兄さんは強くてカッコいいけど、名付けのセンスは皆無なんだ。
ボクもカッコイイ名前が良かった。例えば、白銀とか……。
『こんな名前、嫌だ。大嫌いだ』
小さな頃、兄さん相手にそう愚痴った事があった。
兄さんは困り顔を浮かべつつ、「カッコイイと思うけどなぁ」と言った。
『俺は、竹の生き様はカッコイイと思うけどなぁ~……』
『銀の方がカッコいい! キラキラしてるもんっ』
『だが、銀の輝きは黒ずみやすい。そして……脆い。大したものじゃない』
兄さんは笑って、「だが、竹は違うぞ?」と言った。
『竹は銀よりずっと強いぞ。そう簡単には死なん。強風を受け流し、折れても折れても地中から生えてくる不屈の植物だ!』
俺はお前に、竹のように強い人間になってほしい。
そういう願いを込めてつけたんだ――と兄さんは言った。
『強くなれたら、兄さんと……同じ戦場に立てるの?』
『ああ、もちろん』
兄さんはボクを肯定してくれた。
あの時は、肯定してくれた。
『俺より強く、俺より賢く……そして、俺より不屈になれ。竹』
『…………』
『俺より偉くなって、俺を指揮してみせろ! 俺は前線で戦う方が向いているから、指揮は優秀で信頼できる奴に任せたい』
『ボクが、兄さんを指揮……』
『がんばれ、竹。期待しているからな!』
『……うんっ!』
期待しているって言った。
同じ戦場に立てるって言った。
でも、全部、ウソだった。
『竹。軍人なんて辞めて、小説家になれ』
なんでそんなこと言うの?
『お前の天職は、小説家なんだ! わかってくれ……!』
それはボクのやりたいことじゃない。
兄さんの理想を、ボクに押しつけないでよ!!
兄さんの理想は、ボクの理想じゃない!
『…………。戦場は、お前には危険すぎる』
兄さんはそう言った。
哀れむような目つきで、そう言っていた。
期待しているって言ったのに。
うそつきうそつきうそつき。
信じてたのに。
信じてたのにっ!
信じてたのに……!!
ボクは弱くない。ボクは強いんだ。
ボクを見下すな。
ボクを、ボクを……! ちゃんと、見てよ。
信じてよ…………。
兄さんまでボクを信じなくなったら、誰も、ボクを…………。




