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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第1.0章:奴隷の輪
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過去:人造魔神



■title:

■from:


 誰かが走っている。


 息せき切って走っている。


 低い視点で――子供の視点で走っている。


 その子の視点で、ボンヤリとした景色を眺める。


 その子は……あるいは、「私」はどこかの研究所にいるようだった。


「んしょっ! んしょ……!」


 その子は抱えていたものを床に起き、扉の横にある操作盤に触れた。


 扉を開き、床に置いたものを抱え直して室内に飛び込んでいった。


「ましゅた~! おとうしゃま~~~~!」


 舌っ足らずな声で叫び、部屋の中にいた人達に声をかけた。


 嬉しそうに。ドキドキワクワクしながら。


 その胸の高鳴りを覚えている。いや、思い出した。


 でも……どうにも他人事のように感じる。


 これは……本当に、「私」の記憶なの?


「■■■。どうしたのかな、そんなに急いで」


 白衣の女性が私を見て、微笑しながら話しかけてくれた。


 名前を呼んでくれた。でも、その名を思い出せない。


「えへへっ……。ましゅた~達に、見てほしーのあって……」


「ほほう? それはキミが背中に隠したものかな?」


「にゃっ?! ま、まだ、見ちゃダメぇ~……!」


 白衣の女性はその子の背後に回り込もうとしたけど、その子は頬を膨らませて走り回り、回り込まれるのを拒否した。


 だめだめ、まだ見ちゃダメと言いながらトテトテと走る。しばし、その人と戯れた後、観念して持ってきたモノを見せた。


「これぇ~……。■■■が作ってみたの!」


「へぇ……。まだここまで教えてないのに、自力で作ったの?」


「んーん? 丘崎センセーにね? 手伝ってもらったよぉ」


「意外な人選。彼が術式工学を理解しているとは思えないけど……」


「ネジしめるのとか、手伝ってもらった~」


 その子がそう言うと、白衣の女性は「なるほど」と言いながら苦笑した。


 その子が頑張って持っている制作物を代わりに持ってくれた。


「ねっ、ねっ! さっそく、使ってもらっていーい? いーでしょっ?」


「もちろん。試してみようか。……ねえ、いいよね?」


 白衣の女性が部屋の一角に視線を向け、問いかける。


 女性が視線を向けた方向に向け、その子がキャイキャイ鳴きながら近寄っていく。嬉しそうに駆け寄っていく。


『あぁ、構わん』


 返事が返ってくる。それは電子音のように聞こえた。


『私も気になる。■■■が作ってくれたのだな』


「うんっ! ■■■、がんばったよぉ。おとうしゃま、ほめてぇ~!」


 その子がワンちゃんだったら、尻尾を振ってそうな声色。


 電子音を響かせている人に対し、とても嬉しそうに接している。


 ……いや、人なんだろうか?


 その子の視点では、「それ」は人型だけど人じゃなかった。


 機兵に似ている。人型のロボットのように見える。


 長い手足に鈍色の肌。人間らしい部位はどこにもない。


 それでもその子は、それを「お父様(とうしゃま)」と呼び、強い親愛の念を寄せているようだった。その人も――機械の腕を伸ばし――その子の頭を優しく撫でていた。


 頭を撫でられたその子は、目を細めている。


 安堵の感情を漏らしている。でも、それすら私には他人事のように感じる。


『お前がつけてくれ。■■■』


「うんっ」


 鈍色のロボットが身をかがめる。


 女の子が持ってきた「制作物」を取り付けやすいように。


 近づいてきた白衣の女性から制作物を受け取った女の子は、ロボットの頭に制作物をつけた。冠でも被せるような仕草で。


 その制作物は、機械製の山羊の角のようだった。


「おとうしゃま、つけた! つけたよ~! やってみて~」


『ああ』


 ロボットが頷き、部屋の隅にあったモノに向けて手をかざす。


 そこにあったのは、機兵だった。


 手をかざされた機兵は瞬時に起動し、流体装甲を纏い始めた。


 それを見た女の子は「すごいすごいっ!」と言って飛び跳ね、ロボットに向かって飛びついた。ロボットは女の子を優しく受け止め、肩に乗せた。


「できた!? ■■■でも作れたっ!」


『見事だ、■■■。お前は、とても優秀な子だ』


 女の子が黄色い声をあげて騒ぐ中、白衣の女性は黙って機兵を見つめていた。女の子がひとしきり喜んだ後、白衣の女性が口を開いた。


「ズルしてぬか喜びさせちゃ駄目でしょ。■■■が作ってきた<ヤドリギ>、ちゃんと機能してないでしょ~?」


「えっ! そーなの!?」


「彼が巫術と神器の力で、強引に動かしただけだよ」


 白衣の女性の言葉を聞き、女の子はロボットを見た。


 ロボットに表情筋はない。けど、雰囲気はバツが悪そうだった。


『いや……惜しかった。このヤドリギは十分に機能している。私が少し後押しするだけで役目を果たした。十分な出来栄えだと私は判断した』


「ぅー…………!」


『…………!? ■、■■■? なぜ泣く?』


 女の子はポロポロと涙を流し始めた。


 ロボットは明らかに狼狽え、大きな身体を動かし、女の子を抱っこした。抱っこし、あやし始めた。


「キミが我が子可愛さにズルするからだよ? 甘やかしてもいいけど、■■■本人はキチンと評価してほしがってたんだ。そこを汲み取ってあげないと」


『うるさい。私は、本当にこれでいいと――』


「わぁ~~~~んっ!!」


『あぁ……! す、すまない。■■■、愚かな私を許してくれ』


 女の子は泣いた。


 たくさん泣いた。


 ロボットは狼狽えながらも女の子をあやし続けた。白衣の女性は動じずゆっくりとお茶を淹れ、甘いミルクティーを女の子に振る舞った。


 女の子はミルクティーを飲みながらメソメソしてたけど、コクコクと飲み終わると、目を輝かせて「おいちぃ!」と言った。


「ましゅたーのお茶、おいちぃ!」


「でしょう? でもこのお茶も、美味しく淹れられるようになるまで沢山練習したんだよ。最初は失敗した。■■■がヤドリギ作成に失敗したのも、初めてだから仕方のないことだったんだよ」


「んに……」


「ただ、キミの場合は私より凄いかな。よく独学でここまで組み上げたよ。少し手直しをすれば、使えるようになる」


「ホント!?」


「例えば、ここの回路が繋がっていない。こっちはヒンズが違うね。■■■が取り付けたのは機兵用のヒンズだ。代用も不可能ではないけど、専用のヒンズが無いなら少し加工しなきゃダメだね――」


 白衣の女性は、女の子が作ってきたものを解体しつつ、失敗している点を丁寧に解説し始めた。


 女の子は真剣な表情で解説を聞き、「自分でやってごらん」と言われると「バッ!」と工具を手にし、おぼつかない手付きで制作物をイジり始めた。


 ロボットは女の子の後ろでまだ狼狽え、ノシノシと歩いていた。女の子の手元を心配そうに見ていたけど、白衣の女性が「落ち着いて」と言いたげに手で制すると――女の子の隣に跪いて静かに待ち始めた。


「この十三箇所を修正したら、何とか使えるようになるかな」


「じゅうさん……。うぅ~! ■■■、じぇんじぇんダメだぁ~……。ましゅたぁみたいに、うまくできにゃい……」


「じゃあ諦める?」


「にゃい! あきらめ……にゃい!」


 女の子は工具を手にふんぞり返り、ふんすふんすと鼻息荒く宣言した。


 それを見た白衣の女性は微笑み、「良い子だ」と言って頭を撫でてくれた。


 その感触を覚えている。


 覚えているのに、なんの……何の実感もない。


「■■■、キミはとても優秀な子だ」


「ほんちょ?」


「うん。キミなら『私』のようになれる」


 そう言われた女の子は――さっきまで泣いていたのが嘘のように――笑った。


 楽しそうに、嬉しそうに、誇らしそうに笑った。


 私のようになれる。


 そう言われるのが、どんな褒め言葉より嬉しかった。


 嬉しいはずだった。


 嬉しいからこそロボットに飛びつき、「ましゅたーみたいになれるって!」と報告した。ロボットは女の子の頭を撫でた。無骨な手で、優しく。


「独学でこれだけ出来るんだから、私が教えれば実用品が直ぐに作れるよ」


「…………! ■■■、ましゅたーにおしえてほちぃ~……!」


 女の子はその場でドコドコと足踏みしながらやる気を見せると、白衣の女性もその子の頭を撫でてくれた。


「いいよ。キミのパパのメンテナンス中だから、それ終わったら授業を始めよう。今日はヤドリギの作り方を教えよう」


「おとうしゃまのメンテ! ■■■も見てていーい?」


「大人しく見れるならいいよ。ここに座って」


 女の子は白衣の女性が用意してくれた椅子に「んしょ、んしょ」と言いながら座り、メンテンスの様子を見守った。


 その後、アレの作り方を教えてもらった。


 よく覚えておかないと。


 アレを……ヤドリギの作り方を理解したら「武器」が手に入る。


 ……ヤドリギが何か、理解できない。


 理解できないけど、理解できている。


 私が見ている光景は何?


 ()って、一体、誰なの?


「■■■もましゅたーみたいなヤドリギ、作れるかなぁ?」


 私の疑問を置き去りにして、女の子は――「私」は別の疑問を口にする。


 それに答えてくれたのはロボットだった。「できる。必ず」と言い、白衣の女性も「努力すれば簡単に作れるようになるよ」と言ってくれた。


「キミもヤドリギを作れるようになれば、巫術師達はさらなる力を手に入れる」


「みんなつよくなったら、みんな、ドードー鳥みたいにならない?」


「もちろん。彼らは翼を手に入れる。キミも翼を授ける1人になるんだ」


 そう言ってもらえたのが嬉しくて、女の子は笑った。


 白衣の女性は対照的に表情を失っていった。空虚な目つきになっていく。


「私は必ず、あの天使(ハト)共を撃ち落とす。キミ達も力を貸してくれ」


 女の子は白衣の女性の変化に気づかず、元気よく「がんばるっ!」と答えた。


 ロボットは何も答えなかった。


 黙ったまま、女の子の背を撫でていた。


 何か言いたげにしていたけど、何も言わなかった。


『……■■■。エーディンとアップルパイを焼く約束をしていなかったか?』


「それは明日だよぉ。エーディンねえさま、おしごといそがしいからぁ~……」


『では、差し入れでも持っていこう』


「うんっ」


 ロボットが「私」を抱き上げ、肩に乗せた。


 バタバタと暴れる「私」が落ちないよう、そっと手を添えてくれている。


 白衣の女性はもう「私」を見ていなかった。


 真白の紙に向かい、手を印刷機のように動かしている。


 人間らしさを失い、機械のようになっている。


 機械(ロボット)でありながら人間らしいお父様。


 人間でありながら人間らしさを失ったマスター。


 対照的な2人がそこにいた。


 女の子は幸せだった。


 皆に愛されていると信じていた。


 大事にされていると思っていた。


 アレを見つけるまでは。


「あぁ……なるほど……」


 真白の紙が黒く染まるほど、ビッシリと文字が書き連ねられている紙。


「私は、このために作られたんだ」


 彼女は理解した。


「私が生まれた意味は……私の役目は、これだったんだ」


 この紙束は計画書。


 人類救済のための計画書。


 それはわかる。読まなくてもわかった。


 けど、内容が読み取れない。


 脳が理解を拒んでいる。




【TIPS:神器】

■概要

 神造兵器の略。<最初の神器>の破片を材料に源の魔神が作成した傑作兵器、あるいは欠陥兵器のこと。個人の兵装として破格の力を持つバランスブレイカー。


 歩兵用のサイズながらも非常に強力な力を持っており、1本で万軍と渡り合うことができる。物によっては世界の1つや2つは軽く滅ぼせる力も持っている。


 プレーローマで保管されていたが、源の魔神が持ち出し使用していた。その源の魔神が死んで以降は所在不明となっていた。


 人類国家は神器を手に入れたことでプレーローマに抗う力を手に入れ、何とか滅びずにいる。


 所有する神器の数は国力に大きな影響を与えるため、人類国家間でも神器奪取を目的とした戦争が発生している。



■交国の神器

 交国も多数の神器を保有しており、その数は100を超える。


 ただ、交国は神器無しでも十分な力を持っているため、機兵や方舟の物量で敵と対峙し、要所に神器使いを投入する戦法を取っている。



■神器使い

 神器は誰でも使用できるわけではない。適合者でなければ触れただけで大怪我、最悪の場合は即死する「使い手を選ぶ兵器」である。


 神器だけを持っていても調度品にしかならないどころか、暴走して周辺の環境や世界を一変させるだけの危険性を持っている。


 そのため神器と神器使いはセットで運用されている。



■神器を求める勢力

 多くの国家、組織が神器を欲している。その中には当然、犯罪組織も含まれる。


 例えば<ロレンス>という海賊行為を主な生業とする犯罪組織は1人の神器使いを擁した事で一気に頭角を現していった。


 人類連盟加盟国相手でも喧嘩を売れる武力を手に入れ、他組織を傘下に入れて組織を強大なものとし、多次元世界最大最悪の海賊達として悪名を高めた。


 ロレンスを躍進させた神器使いは後にロレンスの首領となり、「伯鯨(はくげい)ロロ」あるいは「大海賊ロロ」の通り名で知られていった。


 伯鯨ロロ率いる海賊組織ロレンスには交国ですら手を焼いていたが、伯鯨ロロが組織の内部抗争の最中に死亡した事で、ロレンスは大きく弱体化し始めた。


 交国はこの内部抗争に直接関与していないが、ロロ殺しの下手人として組織に狙われている神器使い「加藤睦月」がロロの遺体と神器を交国に持ち込み、玉帝に取り入ったことで間接的に関与する事となった。


 ロレンス構成員らは加藤睦月を強く憎んでおり、加藤睦月の暗殺と、加藤を保護している交国に対しても報復を行うべきと主張している。


 しかし、現ロレンスを取り仕切っている伯鯨ロロの娘は報復を止め、組織の立て直しを優先している。



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