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7年前、僕らは名誉オークだった  作者: ▲■▲
第3.3章:過去は影なり【新暦190-242年】
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過去:真の異物



■title:

■from:使徒・バフォメット


 私とシシンはネウロンに戻った。


 疲弊している遠征組の安全を最低限確保した後、ネウロンに戻ろうとした。


 だが、ネウロン近海では我々の行く手を阻むように、防衛装置が起動していた。


 エデンがネウロン防衛のために設置されたそれが、我々(エデン)の行く手を阻んできた。私達はネウロンにいる者達に対し、連絡したが――。


『よう、お前ら。随分ピリピリしてるようだが、何やってんだ? 敵でも来たか? 丘崎先生が帰ってきてやったんだから、通してくれねえか? 急いで帰ってきたから土産はねえんだが――』


『ここは我らの土地。我らの世界だ。部外者を入れるつもりはない』


『…………なに言ってやがる。いまなら怒らねえから、さっさと――』


『ヴィンスキーを出せ。ネウロン人部隊の指揮は彼に任せていたはずだ』


 当時、ネウロン人の部隊はヴィンスキーに任せていた。


 彼は優れた指揮官だった。経験はまだ十分と言えなかったが、防衛ぐらいならヴィンスキーに任せておけば問題ないはずだった。


 ネウロン近海から行った通信に出たのは、明らかにヴィンスキーではなかった。だから責任者(ヴィンスキー)を出せと要求したのだが――。


『彼は、お前達と話したくないそうだ』


『なんだと?』


『我々は、もう真白の魔神には従わない。エデンの奴隷にもならない!』


『…………』


『ネウロンは、我々のものだ! 侵略者は出ていけっ!』


『何を、言っている。我らは侵略者ではなく、協力者――』


『<エデン>は、我々を利用しようとしているだけだ。プレーローマという存在を使って、我々に危機感を植え付け……戦争に行かせようとしている! 自分達の手駒として、巫術師を軍事利用しようとしているだけだろ!?』


『プレーローマは確かに存在する。奴らは、我々(じんるい)の敵だ』


 それはお前達もわかっていたはずだ。


 ……少なくとも、ヴィンスキー達は認識していたはずだ。


 真白の魔神が言うような「同じ過去(キズ)」を共有出来ていなくても、プレーローマの脅威を理解できる知識が備われば……我々は手を組める。


 実際に、手を組めていたはずだった。


『お前ら<エデン>は、人類連盟という組織とも敵対しているんだろう? 人類文明最大の組織と敵対しているのに、本当に人類のために動いているのか?』


『人類連盟は、大局を見ていない。奴らは目先の目標に――』


『我々を辺境の田舎者だと侮って、利用しようとしていただけだろう!? 人類のためと言いながら、人類と手を取り合えていないという事は……エデンは結局、真白の魔神の研究欲求を満たすために我々を利用していただけだろう!?』


『馬鹿を言うな。真白の魔神(マスター)は、お前達のことを――』


 信用していたわけではない。


 だが、それでも、お前達の事も気遣って…………。


 気遣っていたかはともかく、搾取していたわけでは――。


お前達(エデン)がネウロンにいたら、ネウロンの主権はお前達が握ったままだ! 結局、お前達の都合で動かされるだけだ……!』


『お前らが使っている機械は、誰がもたらしたもんだと思ってる』


 絶句していた私に代わり、シシンがネウロン人に語りかけた。


 <永遠の冬>を取り除き、ネウロンに春を取り戻したのは誰だ。


 今の繁栄は、誰あってのものだと思っている。


 シシンはそう語った。


『ネウロン人だけで、滅び行く世界(ネウロン)を守れたのか? お前達だけで今の繁栄が実現したのか? 恩を感じろとは言わねえが、不満あるなら実力行使じゃなくて話し合いを申し込んでくれ』


『…………』


『どうしても気に入らねえなら、エデンはネウロンから出て行くから――』


『貴様らは武力(ちから)を持っている! その力で、ネウロンの部族を消していっただろう!?』


『あれは、アイツらが勝手に自滅していっただけだ。ただの自然消滅――』


異世界人(きさまら)の存在がなければ、消えてなかったはずだ!』


 部族の長達は、自分達の指示に従わないネウロン人を疎ましく思っていた。


 当時の彼らは、ネウロン人の中では一番力を持っていた。武力や弾圧で他のネウロン人を虐げるだけの力があった。いずれ破綻するとしても、ネウロン人だけなら力で押さえつける力があった。


 エデンという桁外れの武力が争いを監視しなければ、奴らは好き勝手に争いを起こしていただろう。


 我らは、ネウロン人が一致団結するために見守っていたのに……。


『エデンは、危険だ! 我らを利用するだけの力がある! 我らを暴力で押さえつけるだけの実力がある!』


 差異は差別を生む。


 巫術師と、非巫術師の間には越えられない力の差がある。


『これが最初で最後の好機! ネウロンから、エデンの主力がいなくなった!』


 だが、差異は巫術師が増える前から(・・・)存在していた。


 ネウロン人と<エデン>は別物だった。


 まったくの別物。エデンはネウロン人にとって、異物だった。


 エデンがネウロンを救い、繁栄させたとしても……異物の事実は変わらない。


 強力な武力を持つ異世界人の集団(エデン)が、そもそもの――。


『プレーローマの力で、真白の魔神を殺してしまえば(・・・・・・・)、エデンは瓦解する! 今が貴様らを締め出す絶好の機会――』


『おい、待て。テメエら。まさか……遠征組の情報を売ったのか!?』


 プレーローマの軍勢。


 しかも、<武司天>傘下の軍勢。


 真白の魔神が直接指揮している遠征組が、そんなものと遭遇したのは「運が悪かった」と思っていた。だが、違った。


 ネウロンの文明は進化した。


 エデンの助力で、界外に出られるほどの力を持っていた。エデン側で界外の渡航を制限していたとはいえ、我々の目を盗めばプレーローマに情報を漏らす事も不可能ではなく――。


『ネウロンに知恵をもたらした事は、感謝してやってもいい。だから、出来るだけ事を荒立てず、ネウロンからの追放処分で済ませてやったんだ。大人しく――』


『ハ? 済ませてやった? お前、喧嘩売るなら相手を選――』


『良いことを教えてやる、ネウロン人』


 真白の魔神は健在。


 遠征組にも死傷者は出たが、エデンは未だ健在。


『貴様らの目論見は破綻している。貴様らの恐れたエデンの武力は未だ健在だ』


『っ…………』


『また、プレーローマに頼るか? その場合、お前達は見逃してもらえるかな? ネウロン近海まで奴らを招けば、貴様らも無事では済まないだろうな』


『…………』


『……頭を冷やしてくれ。話し合いで解決しよう』


 不満があるのだな。


 お前達が、我々を信用しない理由も……理解はできる。


 納得したくないが、「強力な武力」を持つエデンがネウロンに居座っている状況に恐れを抱くのもわかる。


 手を取り合えていると思っていたのは、幻想だったのだ。


 私の勘違い…………いや、違う。


 思い上がりだった。


 ネウロン人が我らを拒否するなら仕方ない。出て行くしかない。


 そう考え、話し合いで解決する事を望んだが――。


『我々が争ったところで、得をするのはプレーローマだ。話し合いで解決しよう』


『我々の要求は1つ。真白の魔神及び<エデン>の永久追放だ』


『わかった。要求を飲む』


 シシンを見つつ、そう言ったが……シシンも頷いてくれた。それしかないと理解してくれている様子だった。


 ひとまず、ネウロン側の要求を飲めばいい。


 後で「どの程度の人間が蜂起に参加しているか」を見定め、少数ならネウロンを武力で制圧する。親エデン派の人間保護を口実に踏み込めばいい。


 全てのネウロン人が逆らったとしたら、ネウロンは放棄せざるを得ない。これまでの努力が水の泡になるが、もうそれは「仕方ない」と割り切るしかない。


 我らは同じ人類陣営。


 殺し合いや、不当な支配でいがみ合う必要はない。


 ネウロンでの事は1つの「失敗(キズ)」として、別の方法を探せばいい。お互いに距離を取って……また、別の道を探せばいい。


 裏切られたとはいえ、彼らがエデンを信じきれなかったのも……理解できる。そもそも、真白の魔神がネウロン人を信じていなかったのだ。


 信じた私が、馬鹿だったのだ。


 そう思っていた。


 距離を取るしかない。お互いに傷つけ合わないために。


 ただ、その前に――。


『こちらが要求を飲む代わりに、ネウロン内にいるエデン構成員を解放してほしい。……エデンに出て行って欲しいなら、彼らも不要だろう?』


 スミレやエーディン達を救う必要がある。


 あの子達が無事なら、ネウロンから穏便に距離を取れる。


 真白の魔神も無事である以上、エデンも再起できる。


 そのためなら、ネウロンを放棄する事など大した問題ではない。


 今までの苦労が水の泡と化しても、真白の魔神とエデンの同志達がいれば何度でも再起できる。別の道を模索していけばいい。


 そう思っていたが――。


駄目だ(・・・)。彼女達には、このままネウロンに留まってもらう』


『エデンに出て行ってほしいのだろう?』


『人質がいなければ、お前達はまた攻め込んでくるだろう?』


『…………』


『プレーローマと戦争がしたいなら、お前達だけでやってろ! 我らを巻き込むな! そして喜べ! お前達のくだらん戦争ゴッコから、スミレ様達を遠ざけてやる。守ってやる! 大人しくここから去って――』


『スミレはニイヤドに軟禁されている! 早くあの子を助け――』


『貴様……!!』


 エーディンの声と、争う音と共に通信が切れた。


 向こうが通信を切った。


 エーディンは捕まっていたようだが、それでも抵抗して我らに情報を伝えてくれた。……エーディンだけではなく、スミレも捕まっている。


『交渉の余地なし。オマケに仲間を人質に取られた。踏み込むしかねえな』


『ああ、急ごう』


 スミレの居場所はわかった。


 急げば、別の場所に移される事もない。


 出来れば、ネウロンに残っていた全てのエデン構成員を救いたかったが……私とシシンは、まずはニイヤドに向かう事に決めた。


 踏み込んでスミレ達を救出し、「敵軍」を蹴散らす事に決めた。


 奴らは私達をネウロンの外に……混沌の海に締め出しただけで安堵していた。戦力で劣っているなら、混沌の海を活用するのは良い手だ。防衛側が有利だろう。


 だが、我々2人なら突破できる。


 スミレ達を救える。


 その自信があった。


『……マスターの懸念通りになったな』


『だな……。ネウロン人を信用しすぎた。……所詮、俺達は余所者ってわけだ』


『ネウロン人は、ここまで……私達を信用していなかったのだな』


 エデン側にも、ネウロンへの不信はあった。


 ネウロン側にも、エデンへの不信があった。


 遠征に乗じて奴らは真白の魔神をプレーローマに売り、殺害させようとした。真白の魔神が死ねばエデンが瓦解し、ネウロンに戻ってくる事もなくなると期待していたのだろう。その目論見は失敗したが――。


『蜂起軍の長は、ヴィンスキーかねぇ……』


『……有り得ん。奴は、エデンにも……理解を示してくれていた』


 だが、ヴィンスキーならネウロンの部隊を動かせる。


 それだけの権限を与えていた。


 他の巫術師達と共謀すれば、我々がいないネウロンの乗っ取りは可能だった。それぐらいの事が出来る実力はあった。


 乗っ取ったところで未来などないとわかっていたはずだ。エデンが瓦解していようが、していまいが、ネウロン人だけでネウロンの繁栄は維持できない。


 いずれ破綻する。


 それこそ、プレーローマの支援を失ったブロセリアンド帝国のように――。


 それは、ヴィンスキーだってわかっていたはずだ。


 …………。


 わかっていたはずなんだ……。


 手を取り合えていた、はずなんだ……。


 あの子は…………それぐらい、ちゃんと……。


『私の判断が誤っていた。マスターの指示を、厳守するべきだった』


『お前1人の所為じゃねえ。むしろ俺の…………クソッ! 奴らめ……!』


『ひとまず、エデンの仲間達を助けよう。スミレやエーディンを救助したら、ネウロンの状況も一気に把握できるはずだ』


『おう。……スミレも、きっと無事だ』


『……ああ』


 そうであってくれ、と祈っていた。


 スミレを失う可能性など、考えたくなかった。


 あの子を危険から遠ざけるために、戦闘訓練もろくに積ませていなかった。


 そのツケを支払う可能性なんて、考えたくなかった。


『スミレ達は、俺達に対する人質だ。……だが、界内に入りさえすれば――』


『人質は、意味が(・・・)なくなる(・・・・)。こちらには丘崎獅真(おまえ)がいる』


『そしてお前もいる。海の防衛装置を巫術で黙らせてくれ』


『承知』


 我々は2人、ネウロンに向かった。


 ネウロン近海の防衛装置は私が巫術で対処した。


 そして、界内に入ると直ぐに――。


『敵はもう、こちらに気づいたようだ』


『だがもう、界内に入った。こっちが一手早い』


 丘崎獅真は神器使いである。


 丘崎獅真はエデン最強の戦士である。


 彼は神器無しでもプレーローマと戦えるほど、優れた剣士だった。


 それだけの実力者が、神器まで抜けば――。


神器解放(アストレア)絶命(ぜつめい)法度(はっと)


 戦の法度(ルール)そのものが、根底から覆る。




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